艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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さて。
ここからはネガティブになります。
当然ポジ的な場面はありますが、そこだけ読んでも訳が解らないと思います。
なので、ネガ成分が無理な方はここで読み止めてください。




エピソード64

「うーん・・」

「どうかなさいましたか?」

 

気の早い鈴虫が夏の終りを告げ始めた、ある夕暮れの事。

 

今日の仕事はとうに終わってるというのに、提督はずっと目を瞑って考え込んでいた。

秘書艦当番だった扶桑はそんな提督の様子に気づき、そっと近寄ってきた。

やがて、提督は扶桑に今気付いたかのようにハッとすると

「あ、あぁごめんごめん。仕事終わったね。秘書艦のお役目お疲れ様」

「いえ、夕食がまだですし。それはそうと、ずっとお悩みのご様子なのが心配で」

「先日、取り寄せた資料見せたでしょ。今後の海域で必要とされる艦種と敵艦についてって奴」

扶桑は表情を曇らせた。

「駆逐艦だけであんなに強い敵の居る海域に行かせるなんて、とても心配です・・」

「そうだよね。LVを十分上げてから行くにせよ、なんだって駆逐艦以外の艦隊は迷うんだろう」

「羅針盤が役に立たず、気付かないうちに逸れてしまうとの事でしたが・・」

「理由が解らん。後は・・今後ますます敵艦が強くなっていくって記述もあった」

「たとえ駆逐艦でもFlagship級ともなれば侮れないでしょうね」

「その為には君達のように重装甲の艦をもう少し手厚くしたいんだけど」

「より訓練を強化いたしましょうか?」

「いや、君達は良くやってる。考えてたのは空母の事なんだよ」

「空母・・ですか?」

「うん。正規空母だろうと軽空母だろうと、中破で艦載機発着が不可能になるでしょ」

「それは仕方がないですよ。私達航空戦艦も同じですし」

「ただ、艦載機は先制攻撃の要だから出来るだけ使いたい。それこそ敵陣の奥に潜る程にね」

「それはそうですが・・」

「という話を昨日117研にしたらね、こういう艦種があるよって資料を送ってくれたんだ」

「・・装甲、空母?」

「そう。さすがに大破すると無理みたいだけど、中破までなら離着陸出来るそうなんだ」

「重装甲の空母という事ですね」

「そう。ただ、装甲空母に該当する艦娘は1人しか居ない」

「大鳳さんと仰るんですね」

「うん。正規空母並の積載数86機を誇るけど、1人だとなぁ・・安定運用が出来ない」

「私達の場合なら私と山城が交互に出撃し、残る方が補給や入渠をしていますからね」

「そういう事。休む時間も考えると、出来れば同型艦は2人居て欲しいんだよね」

「大鳳さんをお二人迎えてはどうですか?」

「そこで問題になるのがね、扶桑さん」

「はい」

「大鳳を入手する為の建造レシピなんだよ・・」

提督から手渡された紙を見て、扶桑は目を見開いた。

「け・・桁、間違えていませんか?」

「私もそう思って117研に確認したんだけど、間違ってないんだってさ・・」

「4000、2000、5000、5200ですか・・長門さんでも最大600でしたのに」

「しかも成功率は9%未満らしい」

「・・えっと、たとえ10回行うのでも物凄い物量が要りますよ?」

「そもそも今のクラスでは備蓄庫に溜められる上限がそれぞれ15600だからね」

「さ、3回でボーキサイトが枯渇しますね・・」

「うん。あまりに傾注し続けた為に破滅した鎮守府もあると聞いてる」

「恐ろしいですね」

「大鳳が居たら全艦重装甲の艦隊が作れる。強行偵察の航空隊が航空戦艦のみじゃ辛いでしょ?」

「私達が持てるのは水上機限定ですからね。積載数も正規空母さんにはかないませんし」

「全ての兵装を瑞雲にしても40機前後だもんね」

「加賀さんがいかに凄まじいかよく解りますわ」

「一人で98機だもんね。赤城も82機だし」

「特に加賀さんは第3兵装スロットだけで46機ですから・・」

「まぁ強いよね。ただ、それゆえに」

「はい」

「赤城と加賀は高LVだからと指名頻度が高い。引っ張りだこ過ぎて可哀想なんだ・・」

「だから大鳳さんに強行偵察を担って頂く、という事ですね」

「うん。それに、赤城、加賀、大鳳でローテーションすればだいぶ休めると思う」

「5航戦のお二人は搭載機数が少ないですしね・・あと、翔鶴さんのツキのなさは・・」

「真面目に頑張ってるのに気の毒なほど不運なんだよね。どうしてああ流れ弾に当たるのか・・」

「あれでは強行偵察を頼んだら轟沈しかねませんものね・・」

「そうなんだよ。だから文月も重要な役回りを頼みづらいといってる」

「だから更にLV差がついてしまうんですね。加賀さん達と」

「搭載機数でいうと蒼龍飛龍ペアはより厳しいしなぁ」

「改になってやっと着任初期の赤城さんと一緒ですからね・・」

「うん。彼女達はどちらかと言うと強い軽空母として考える方がしっくり来る」

「蒼龍さん達はそこを相当気にしてらして、練習量は物凄いんですけどね」

「うん。出撃させろと迫られるが、ここぞという時の被弾が多い気がするから心配なんだよね・・」

「心配の種はつきませんね・・」

扶桑は大鳳の資料の1点を見て、あっと声をあげた。

「どうしたの扶桑さん?」

「て、提督、大鳳さんの・・運が・・」

「・・・・2!?ご、誤記じゃないの!?2桁目が消えてるとか?」

「い、いえ、消えたようには見えませんが・・」

「おうふ。翔鶴より運の無い子が居るなんて・・」

「陸奥さんでさえ3ですものね」

「おお、そうか。一ケタの子もそう言えば居るね。ん?扶桑さんも最初は・・」

「ええ、私は最初5でしたけど・・今は13ですし・・」

「・・でも扶桑さん、最近被弾しないよね」

「それは・・」

扶桑はぽっと頬を赤らめると

「提督が一生懸命直してくださったから、艤装が扱いやすくなったんですよ」

そう言って真っ直ぐ提督を見て微笑んだのである。

「・・うん。あれは調べるのも直すのも骨が折れたけど、それなら良かったよ」

「感謝していますよ。今も、ずっと」

ずっと、という所にしっかり熱を込めて言ったのだが、提督はいつも通り気付く事は無く、

「だとすると、しっかり演習させてから出せば良いのかな。うーん・・」

というので、

「はぁ・・空はあんなに青いのに」

と、深い溜息を吐く扶桑であった。

 

こうして。

秘書艦全員にヒアリングした結果、居てくれた方が助かるという結論になった。

ゆえに提督は文月を呼び、長い時間をかけて大鳳お迎え作戦を練ったのである。

 

大鳳お迎え作戦。

 

燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト。

これらが開発で消費される割合に応じた資源調達が出来るように遠征を計画。

遠征可能な第2~第4艦隊をフルに使い、提督と文月が交代でその時最適な艦娘を編成して出航させ、4日で1回建造出来るペースを確保した。

その建造も、運の良い子達が建造するとお迎えしやすいというジンクスを信じる事にした。

本作戦での特別秘書艦(建造専任)として隼鷹を指名。

建造する時は第1艦隊を隼鷹、青葉、伊58、瑞鶴、雪風、瑞鳳の強運勢とし、装置を取り囲んだ。

1回、2回・・

この時はまだ、まだ皆に余裕があった。

3回、4回・・5回・・

回を追う毎に隼鷹が装置の周りにラッキーアイテムを並べ、手に数珠を持ち、念仏まで唱えるようになった。

傍で見る工廠長は提督に言った。まるで悪魔召喚儀式じゃよ、と。

誰かが言った。

在籍艦娘総出で出撃し、この資源を補給や修復に使っていたら、もう攻略出来ていたんじゃないか、と。

ついに6回目も失敗した隼鷹は艦娘達からの白い目を感じ、肩身の狭い思いをしていた。

その事に、飛鷹は不満を募らせていたのだが、

「そこでヒソヒソ言うなら貴女が建造して御覧なさい!どれ程のプレッシャーの中でやってると思ってるの!」

隼鷹を指差して喋っていた子達を飛鷹が睨みつけながら言い放った事で、ついに表面化した。

長門は関係者から事情を聞き、次回から隼鷹以外の第1艦隊のメンバーも持ち回りで建造する事とした。

更に、食堂に皆を集め、自ら頭を下げ、非常に成功率が低いが、ここまで来たら迎えようと言った。

だが、その反応は均一ではなく、多少のガス抜きになった程度だったと長門は後に言う。

そして作戦開始から約1ヵ月が過ぎた7回目で失敗した時、長門は提督に告げた。

「提督、駆逐艦や軽巡に疲労の色が濃い。悪いが出航ペースを下げる。開発は6日おきだ」

「そうだね。確率論から考えればまだ想定内だが、1日休みを足して7日ごとにしよう。ありがとう」

「提督も無理をするな。ダメならダメで一旦諦めるのも手だぞ」

「うーん・・」

こうして、ついに作戦開始から1ヶ月半が経過した10回目でも失敗。

軽巡と駆逐艦が勢揃いし、祈られる中で装置を動かした瑞鳳は、明らかに異なる建造時間を見て気を失った。

そこでついに、遠征をとりまとめていた天龍の何かが切れた。

 

 


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