艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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エピソード61

「鳳翔さんの講座、とっても面白いのね!提督、ありがとうなのね!」

「そうかそうか。良かったなぁイクさん」

うんうんと頷く提督に、鳳翔は言った。

「ただ、訓練をより楽しんでもらう為には、2人でやるより3人でやる方が良いのです」

「んー、私がやってるのは拳銃だから方向が違うんだよなぁ」

「提督も教えた通り練習なさってますか?」

「もちろんですよ。毎朝45発、欠かさず」

「そうですかそうですか。じゃあ今度拝見しましょうか」

「うはっ、よろしくお願いします」

「うふふ」

「それはそれとして、もう1人か。じゃあ聞いてみようかね。比叡さん」

「はい」

「えっと、インカムの回線貸してくれる?全体放送するから」

「はい。こちらでよろしいでしょうか?」

「ありがと」

比叡から受け取ったイヤホンマイクを装着した提督は、比叡に合図してコールサインを送った後、

「えー、毎度おなじみ提督でございます。さて!今回はお得な情報をいち早く貴方にお届け!」

がくっとつんのめる鳳翔、くすくす笑う伊19と比叡をよそに、提督は続けた。

「今提督室に来ると一流の狙撃講座の受講資格が貴方の物に!先着1名様限定!さぁ早い者勝ちですよ!」

ジト目になった鳳翔が口を開いた。

「バーゲンセールのTVショッピングじゃないんですから・・」

だが提督は拳を握り、さらに熱を込めた。

「さぁまたとないチャンス!只今なんと無料!コーチの実力は折り紙つき!さぁ誰がこの超お得な・・」

 

ガチャッ!

 

「すっ、鈴谷だよ・・おっ、応募、間に合った?」

 

提督はぜいぜいと息を切らせる鈴谷ににこりと頷きつつ、マイクに話しかけた。

「早いね鈴谷さん。え~、定員に達しましたので募集終わり~、各自作業に戻ってくださ~い」

鳳翔は呆気に取られた。こんなに早く応募者が来るとは。

伊19は肩をすくめた。提督は変な所で女の子の心を掴むのが上手いのね。

鈴谷は提督に手招きされたので机の前まで歩いて来た。

「じゃあ紹介するね。狙撃のコーチをしてくれる鳳翔さんと、同じ受講生の伊19さん」

「すっ、鈴谷です!よろしくお願いします!」

「鳳翔です。こちらこそよろしくお願いします。えっと、何故応募したのか聞いても良いですか?」

鈴谷は表情をこわばらせると言った。

「鈴谷は航空巡洋艦までなったんだけど、どうしてもイマイチなんだよね」

「イマイチ?」

「えっとね、最上姉ちゃんも言ってたんだけど、潜水艦への攻撃能力は弱いし、砲火力は戦艦に劣るじゃん?」

「・・」

「艦載機積載能力では空母に勝てないし、魚雷の命中度なら軽巡の方が良いし」

「・・」

「マルチパーパスなんて言えば聞こえはいいけど、要はどれもハンパで燃費は悪いじゃん」

「・・」

「鈴谷だって提督から大事にされてるのは解ってる。だから鈴谷に任せてもらえる分野を作りたいじゃん」

「・・」

「鈴谷は狙撃が楽しいし、しっかり練度を上げればちょっとは提督の役に立つと思ったの」

「・・」

「・・それじゃ・・ダメかな?」

鳳翔はくすくす笑いながら提督を見た。

「提督から何か先に仰いますか?」

提督は困った顔をしながら鈴谷に向いた。

「うーん・・えっとね、鈴谷」

「うん」

「潜水艦がうようよいる海域では、君は航空戦艦より低燃費で軽巡より高い防御力がある」

「・・」

「副砲をきちんと組み合わせれば高い連撃能力があり、魚雷を積めば夜戦での一撃も頼りになる」

「・・」

「だから攻略目標に応じた装備変更が要るだけで、決してハンパなんじゃない」

「・・」

「けどね」

「?」

「鈴谷が鈴谷である為に、自信をもって前へ進む為に狙撃能力を身につけたいなら、私は喜んで了承する」

「・・」

「ただし今後、自分をイマイチだなんて言っちゃダメだ。守れるかな?」

鈴谷は無言でぽたぽたと涙をこぼした後、ぐいっと手の甲で涙を拭い、

「うん!解った。もう言わないよっ!」

と、ニカッと笑って答えたのである。

「よし。じゃあ鳳翔さん、鈴谷をよろしくお願いします」

鳳翔は鈴谷と握手しながら、相変わらず提督は犯罪級の天然ですねと苦笑した。

あんな事を面と向かってさらっと言うなんて・・

鈴谷さんの手が熱い位ですし、頬を染めちゃって。初々しいですね。

よし、しっかり教えてあげましょう!

 

こうして。

 

班当番のある日を除き、伊19と鈴谷は鳳翔の下で訓練を続けた。

1ヶ月が経ったある日、鳳翔は一人で提督室を訪ねたのである。

 

コンコンコン。

 

「開いているぞ」

長門の声に呼応するかのようにそっと開いたドアから、鳳翔が顔を覗かせた。

「長門さん、お邪魔します。提督はいらっしゃいますか?」

「ああ。居るぞ。提督、鳳翔殿がお見えだ」

「応接席にかけてもらって。この書類を見てから行くよ」

「うむ。鳳翔殿、こちらへ」

長門に促されて応接セットの席に腰かけた鳳翔は、そっと長門と提督を見た。

・・しっかり心の通い合う関係になったようですね。そしてスッキリした雰囲気。

理想的な司令官と秘書艦の関係ですね。

「やぁお待たせしました。すいません書類が多くて」

「大丈夫です。提督も大変ですね」

「さてさて、どうされました?」

「伊19さんは、そろそろ基礎訓練を卒業として良いと思います」

提督が驚愕の表情で固まったので、長門が怪訝な顔になった。

「・・提督、どうした?なぜそんなに驚いている?」

「あ、あの、伊19が、基礎を卒業・・認定・・ですか?」

「ええ」

長門はますます怪訝な顔になった。

「どういう事だ、良かったら、私にも解るように説明してくれないか?」

「あぁごめんね長門。えっと、本人を前に言い辛い事でもあるんだけど」

「う、うむ」

「鳳翔さんが最終的に要求するレベルは、それはそれは高い所にあるんだよ」

長門は脳裏にやつれた金剛達の顔が思い浮かんだ。

キャベツの千切りやシチューを作るのでさえあれだ。

そういえば誰も卒業とは言って貰えなかったような・・

「ふむ。それで?」

鳳翔は笑顔の裏で思った。長門さん、あっさり納得するほうが酷いですよ?

「鳳翔さんの軍事訓練は対象者に極めて親切で的確だし、叱らないし素晴らしい内容なんだが」

「う、うむ」

「最終的に卒業と認めてもらえる課題まで到達出来る割合は5%もない」

「・・なに?」

提督の言葉に対し、鳳翔がすこし拗ねたように口を尖らせた。

「5%は酷いですよ提督。今までのトータルで7.81%です」

長門はごくりと唾を飲んだ。それ、あまりにも低い割合じゃないか?

「すみません。じゃあえっと、8%もないんだよ」

「そ、その一人に、伊19が到達したというのか?」

「うん。だから凄まじい事なんだよ」

鳳翔は苦笑しながら言った。

「で、応用課程をどうしましょうかと聞きに来たんですけどね」

「伊19は何と?」

「受けたいが、提督次第だと」

「鳳翔さんは、どう思います?」

部屋の中に一瞬の沈黙があった後、

「・・応用課程は諸刃の剣ですし、伊19さんは到達出来るかもしれないし、出来ないかもしれない」

「うん」

「ただ・・」

鳳翔は寂しげに笑った後、言った。

「出来れば伊19さんには、屈託のないあの笑顔で居て欲しいですね。私の我儘ですけど」

「単独に近い隠密行動を取らせようとする場合、追加で必要な講義はありませんか?」

「・・どの海域でも、ですか?」

「いや、せいぜい大本営近海程度までで」

長門はドキリとした。

 

 


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