艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file05:教育者ノ適性(後編)

6月2日昼 提督室

 

「・・・みょ、妙高、一体何があった?お父さんが相談に乗るぞ?」

提督が2回つばを飲み込んでから、やっとの思いで口を開いた。

足柄もさすがに心配そうな面持ちで姉を見つめている。

「何もありませんよ。おかしなことを仰いますね」

「おかしなことは私が聞いたような気がするのだが」

「あら、龍田さんにお話ししましょうか?」

「止めてください死刑確定です」

「うふふ、そういう事ですよ」

「なんだって?」

妙高は人差し指を立てながら説明を始めた。

「まず、天龍さんが怖いか~とか言いつつ駆逐艦の面倒をこまめに見てるのは御存知ですね」

「ああ、あれは照れ隠しだね。見抜かれているし実に微笑ましい」

「そして、龍田さんは非常に頭の回転が速く、場の制圧に長けています」

「世紀末の如き恐怖感があるのだが」

「でも、実際に暴力を振るわれた事は無いですよね」

「眼球2cm手前まで刃が迫った事はあるよ」

「それは余程の事をしたんじゃないですか提督?」

「ノックしてドアを開けたら天龍が部屋のど真ん中で下着姿で寝てた。そこに龍田が帰ってきた。」

「バラバラにされても文句言えない状況でしたね」

「完全に事故だよ事故。」

「まぁそれは提督が悪いとして」

「え?うそ?ひどい!バタビア地方裁判所に訴えて良い?」

「と・に・か・く!」

「はい」

「龍田さんが居れば、相当強力な子が来ても立ち向かえます」

「なるほど、誰がどんな状態で来るか解らないからな」

「そういう事です。天龍さんは基礎トレーニングにも長けてますしね」

「なるほどな」

「はい。それに、教師は6人居た方が良いと思います」

「艦種別か」

「そうです。出来れば8人から10人が理想ですけど」

「交代を考えるとそうだよな。でも、あと2人か4人・・・」

「ええ・・・」

「い、いや、あの二人は向いてない。というか学生を預けるのは危険すぎる」

「ですよね。数時間で百合の道に導きそうです」

「かといってあの二人はなあ」

「二人?三人ではなく?」

「あぁ、いや、あの子は真面目だから。残りの2人」

「そうですね。学生がうっかり私語でもしようものなら・・・」

「鉤爪でヘッドロックしそうだよな」

「容易に想像がつきますよね・・」

青葉は思った。明日のエンタメ欄は「妙高と提督は阿吽の呼吸!もはや夫婦!」で決まりです!

衣笠は思った。あーあ、今夜から早速ブレーキ踏んづけないとダメだ。いつも通りだけど。

足柄は思った。ちっくしょう、妙高姉さんてばいつの間に!巻き返さないと!

那智は思った。さっきから何の事だ?新しい暗号か?この解読表はどこだ?

羽黒は思った。砲撃しないお仕事って素敵よね。このまま戦いがなくなれば良いのに。

皆一様に考えているが、中身はこんな感じである。

「とにかく、まずは天龍と龍田に聞いてみるか」

 

「あらぁ、提督が呼ぶなんて珍しいわねぇ」

「天龍参上。提督、何の用だ?」

提督が一生懸命悪いイメージをもたれないように配慮して説明したが、

「要するに、保母さんと用心棒ね」

と、龍田は一言でまとめた。

「ハイ、ソウデス」

「なんで涙流してカタコトで喋ってるのかなぁ」

「ナンデモアリマセン」

「その顎、落ちても知らないですよ~?」

「止めてくださいごめんなさい」

龍田がふぅと一息つくと、

「天龍ちゃんはどうしたい?」

と、水を向けた。

「お、俺は・・俺が先生なんて出来るのか?」

「恐らく、この鎮守府で1、2を争うくらい向いてますよ」

妙高が言うと、天龍は真っ赤になって

「たっ、龍田はやりたいか?」

と、照れたままそっぽを向いてしまった。

「そうねぇ、正直軽巡はLV上げても戦力的に難しいからねえ」

「まぁ、遠征の方が主任務だったよな」

「五十鈴とか由良とか北上とか大井みたいにキャラが立ってると良いのだけど」

「あ」

「なあに提督?」

「長良と鬼怒はどうだろう?」

「何が?」

「いや、あと2人居た方がシフトが楽かなと」

「長良ちゃんも鬼怒ちゃんも頑張り屋さんだけど、傷つきやすい所があるからね~」

「う。そうか」

「まあストレス溜まったら提督の後ろ頭を坊主にして楽しめば良いのだけど」

「なにそれ怖い」

「何だったら今すぐ坊主にしてあげましょうか~?」

「勘弁してください」

 

妙高は思った。そう。この優位的立場を確実に取る制圧力。これが絶対に必要だわ。

 

「ま、まあ龍田、その辺でよしてやれよ」

「天龍ちゃんがいうのなら~」

「とにかく、俺はやっても良いぜ。龍田は?」

「一緒ならいいよ~」

提督は真剣な目で妙高を見た。

「いいか、妙高。最後のチャンスだぞ?」

龍田が笑顔のまま、見る間に真っ黒な雰囲気をまとっていく。

「提督~?どういう意味かしら~」

「本当に良いんだな!俺は命がけで聞いてるぞ?」

「死にたい提督はどこかしら~?」

妙高は少し考えた後、口を開いた。

「これ以上心強いパートナーは居ないと思います!」

「そうなの~?」

「龍田さん、天龍さん、どうか力を貸してください!」

「おう!一緒に頑張ろうぜ!」

「天龍ちゃんがご迷惑かけないように頑張るね~」

妙高達と天龍達はぎゅっと固い握手を交わした。

ほっと息を吐く提督に、龍田が振り向いた。

「提督は~、これからお説教ですよ~?」

「えっ!?」

妙高がくすくす笑いながら言った。

「じゃあ私達は天龍さんとお話してきますね~」

「えっ!?あっ、足柄さん!?」

「もちろん一緒に行くわよ妙高姉さん!」

「那智さん?」

「先程聞いた新しい暗号表を探してこないとな。失礼する」

「羽黒さん!?」

「ご、ごめんなさい!」

パタン。

龍田と二人きりになる提督室のドアが閉まる音を、提督は絞首台の床板が外れた音に感じた。

 

「なあ妙高」

「何です、天龍さん?」

「頃合い見て助けに行こうぜ」

「命は取られないと思うんですけどね」

「逆。龍田は提督に怖がられてるの気にしてんだよ」

「へぇ」

「龍田が傷ついて怒ってるって事に提督が気付けば丸く収まるんだけどなあ」

「そんな事に提督が気づいたら太陽が地球に衝突してしまいます」

 

ふえっくしっ!

 

「お説教されてるのにくしゃみとは余裕ですね~」

「くしゃみは勘弁してください」

「それと、時間割は出来てるんでしょうね~」

「時間割?」

「そう、時間割~」

「・・・なんで?」

「教室が3つ、実技棟1つ、仮想演習棟1つ、グループは6。毎日の配分どうするの~?」

「あ」

「・・・頭挿げ替えた方が良いかしら~」

「ごめんなさいすいません勘弁してくださいすぐやります」

「提督」

「何?」

「もう少し、私達に命じて良いんですよ~」

「え?」

「時間割が必要なら、当事者で考えろ~って言えば良いんです~」

「しかし・・」

「提督は全体を、将来を、ちゃんと見ててくださいね。それがお仕事よ~」

「龍田・・・」

「提督が変な方向に導いたら、鎮守府は終わっちゃいますよ~?」

「・・・そうだな。龍田はいつも、肝心な所で叱ってくれるよな」

「ドMはお断りです~」

「龍田が大事な所で支えてくれるから、乗り越えた危機も多い」

「おだててもダメですよ~」

「1年前、緊縮策の説明会の時もそうだったじゃないか」

「・・・・。」

「あの場で私に頭を上げろと言えたのは龍田だけだった。解ってて被ってくれたんだろ?」

「買い被り過ぎですよ~私は天龍ちゃんを助けただけ~」

「それなら、それでも良いさ。ありがとうな」

「はぁ。ドMにはご褒美になっちゃうから説教の時間終わり~」

「おいおい」

「時間割、考えておくわね~」

「よろしく頼むよ」

「あと、青葉に提督はドMだって」

「言わないでください」

「エンタメ欄に」

「外を歩けなくなってしまいます」

「尾ひれ付けて」

「引きこもり生活にならざるを得ない」

「・・・言わないわよ~」

ひらひらと手を振りながら、龍田は提督室から出て行った。

妙高、本当にこれで良かったのか?なあ?来月から月次報告の時間が怖いんだけど!

 

提督室から続く廊下の真ん中で、龍田はピタリと歩みを止めると、

「青葉さ~ん、そこに居るのは解ってるから、メモ帳のそのページくださいね~」

「ひいっ!?」

「スッパリ落としても良いのよ~」

「書いたページむしり取りました!受け取ってください!」

「良い子ね~」

提督室の外でこんなやり取りがあった事を、提督は知らない。

 

 




作者「うーん、いつから龍田さんはマフィアというかファミリーのドンになったのだろう」
足柄「あんまり悪口言わない方が良いわよ」
作者「これ以外のイメージが全く思いつかないんだよ」
足柄「・・・本当ハ提督想イノ良イ子デスヨ?」
作者「あっはっは、足柄、上手い冗談だなあ」
龍田「言い残したい事はそれだけかしら?」

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