艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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叢雲さんは近代化改修等において「悪くないわ、私の魅力が増すのね」と言う場合があります。
なので、前回のような場面では「実力」ではなく「魅力」と言うだろうと判断したわけですが、これを誤字扱いする方々のコメントを見ると、ゲームに実装された台詞をアレンジして盛り込む事の難しさを感じます。
とはいえ、こういう所で解る人だけニヤリと出来るのもSSの楽しみの1つだと思うので、直さずに置いとこうと思います。



エピソード51

数日後。

「これからお世話になります。よろしくお願いいたしますね」

「こちらこそ。早速間宮さんと会ったんですね」

「はい。つい頼ってしまいまして。間宮さん、すみませんでした」

「いっ、いいいいえ、とんでもないです。総料理長の御役に立てるのでしたら」

「私は、もう総料理長ではありませんよ」

「はっ、はい!」

提督は間宮の様子を見て、気持ちは解らなくもないなと苦笑した。

 

大討伐の詫びとして中将が送ってきた艦娘は、鳳翔であった。

通常の着任と違うのは、新人ではなく、大本営の総料理長として長年勤めた鳳翔、という事である。

 

大本営には、非常に多くの人間と艦娘が勤務している。

普通の鎮守府では最大でも一人の間宮と鳳翔が配下の妖精達と食事を賄うが、大本営では食事専門の部署がある。

通常の食事については複数の間宮と人間達が所属する第1課が取り扱う。

そして宴席や来賓との会食等、重要な場面は複数の鳳翔と間宮が所属する第2課が仕切っている。

どちらかに所属する事も大変な栄誉だが、特に第2課は間宮と鳳翔達の憧れの的であった。

その第2課を束ねる総料理長を務めていたのがこの鳳翔なのである。

 

鎮守府の港に音も無く接岸した鳳翔は、そのまま食堂を目指した。

そしてそっと食堂に入ると、きょろきょろと中を見回した。

丁度艦娘達は居らず、居たのは朝食の後片付けをしていた間宮だけであった。

間宮は見覚えがあったので、水道の水を止め、恐る恐る訊ねた。

「あの・・失礼ですが、大本営の鳳翔総料理長殿ですか?」

「ええ。でも今日からこちらで勤める事になりました。だからただの鳳翔です。お世話になります」

間宮は目を丸くし、慌てて鳳翔の前まで飛んで来た。

「い、いつかお目通りが叶えばと思っておりましたが、まさかこんな所でお会い出来るとは思いませんでした!」

「とんでもありません。それに、自らの仕事場を貶めてはいけませんよ」

「はっ、はい!申し訳ありません!」

柔和に微笑む鳳翔とガチガチに緊張する間宮。

それはたまたま食堂の外を通りがかった青葉が20枚もシャッターを切る程の異様な光景だった。

そして撮影結果をプレビューしながら青葉はぞっとした。

何回かカメラ目線になってる!

物陰から撮影したのに気づかれてました!

大本営の大和さえ黙らせた間宮さんが緊張する相手・・一体何者!?

 

鳳翔は青葉をちらりと見た後、ゆっくりと食堂を見回し、にこりと微笑んだ。

「清潔で美しい秩序を感じます。素晴らしい状態を維持されてますね。貴方が管理を?」

「はい!私が管理しております。こっ!光栄です!ありがとうございます!」

「そうですか。では私は安心して店を構えられそうですね」

間宮はぽかんと口を開けた。

「・・へっ?あの・・」

鳳翔は悪戯っ子のように微笑むと

「大本営に居ては夢は叶えられそうにありませんからね」

と言ったのである。

 

さて。

間宮の案内で提督室を訪れた鳳翔は、挨拶を済ませると早速提督に書類を差し出した。

「こちらが大本営の事務方から預かって来た書類です」

「そういえば中将の手紙にも書いてましたね。どんな書類ですか?」

「出店申請書、土地購入報告書、什器類他購入報告書、資材手配申請書、です」

提督は数秒考えた後、鳳翔を見た。

「なるほど。外でお店を開くんですね」

「はい」

「あーでも、ここは本当に辺鄙な所ですからね・・お客さんが来るかどうか」

 

そう。

 

提督が着任した時はひなびた町と呼べる程度には人が居たが、時間が経つにつれ人口が減っていった。

それは不便な地の利だったり、戦況の長期化に伴う不景気だったり、高齢化だったりと理由は様々だ。

だが、人口が減っているという事は、当然客足も期待出来ないという事だ。

 

「それならそれで良いのです。海軍のイメージアップとか、そんな高尚な志ではありませんし」

提督は書類からひょいと目を上げた。

鳳翔が目を細めてくすっと笑ったので、提督は頷いてニッと笑った。

「なるほど。例の計画を実行するんですね?」

「ええ」

そこで、やり取りを聞いていた間宮がついに提督に対して口を尖らせた。

「確かに今は提督の所属艦娘ですが、総料理長に向かっていささか砕け過ぎではありませんか?」

すると、鳳翔はくすくす笑った。

「うふふ。ごめんなさい間宮さん。私と提督は特別な秘密を共有した仲なんですよ」

間宮はぎょっとした目で鳳翔を見返したが、提督はジト目になった。

「鳳翔さん、それじゃますます誤解されやしませんかね?」

「大人の関係とかですか?それも良いですね」

「あ、わざとでしょ~?」

「うふふふ、冗談ですよ。ちょっと意地が悪かったですかね~」

頭の上に山のような?マークが出来た間宮に、鳳翔は向き直った。

「ええとですね、私と提督は大本営で甘味お取り寄せ同好会の共同運営者だったんです」

「か、甘味お取り寄せ同好会?」

「ええ。世界で評判の甘味をどうにかしてお取り寄せするという同好会なんですよ」

「・・どうにかして?」

「ええ。各国の軍や非合法な運び屋を使ってでも取り寄せる、という」

間宮はようやく合点が行った。

ここの艦娘達の甘味要求レベルが高いのはお取り寄せの影響だというのは解っていたが、ルーツはここか。

「そうですか・・」

「あら、なぜそんなにげんなりした顔をなさるんです?」

「そのせいでここの艦娘達の甘味要求内容が猛烈に高いんです」

鳳翔がピクリと反応した。

「・・へぇ」

「私も少し甘味には自信があったんですが、供せるようになるまで3ヶ月はかかりました」

「御一人で特訓されたのですか?」

「ええ。折角出すなら美味しいともまずいとも言えないという微妙な顔をされたくないですから」

「あぁ、それは料理人のプライドが許しませんね」

「はい」

「でしたら楽しくなりそうですね」

「・・楽しい、ですか?」

「ええ」

そう言うと鳳翔は提督に向き直ると

「鎮守府の前にお店を開きます。小料理屋の形式で」

と言い、提督は頷いた。

「もちろん応援しますよ。えっと、回せる予算がどれくらいあるか、龍田に聞いてみるか・・」

鳳翔はニッと笑うと

「お金の面は御心配なく」

そう言って1枚の小切手を見せたのだが、提督も間宮も目を見開くような額が記されていたのである。

 

「さ、さすが総料理長。赴任手当も破格ですね」

間宮が思わず呟いたが、鳳翔は首を振った。

「まさか。これは雷さんの餞別兼、契約書代わりなんですよ」

もう少し聞きたいという提督の視線を理解した鳳翔は続けた。

「大将がいつかこちらにいらした時、素敵な料理でもてなしてほしいと仰って」

提督は頷きながら言った。

「大将殿は相変わらずグルメですか?」

「ええ。美味しい物の美味しい部分だけを、ちょっとずつ、沢山召し上がります」

「一番厄介ですね」

「腕の振るい甲斐はありますよ」

「まぁ、鳳翔さんが大衆居酒屋を開く姿なんて想像できないしなぁ」

「あら、低予算なら低予算なりに作れますよ?」

「いやいやいや。それじゃ鳳翔さんの技量があまりにも勿体無い・・・あ」

「なんでしょう?」

「お菓子は作ってくれますか?」

鳳翔は笑った。

「良いですよ。でも、どんな菓子を作るかは任せてもらいますよ」

「もちろん。後、うちに来賓が来る事は余り無いですが、祝い事はあります。その時に・・」

「当然間宮さんをお手伝いします」

「ならば私は他には何も言いませんよ。皆の癒し処計画、応援しますからね」

「ありがとうございます。お店が出来たら間宮さんもぜひお越しくださいね」

間宮が聞き返した。

「わ、私ですか?」

「はい。鎮守府での活動は毎日大変ですし、ずっと敷地内で居ると息抜きしたくなりませんか?」

「そうですね」

「だから少しだけでも鎮守府の外に出て、リフレッシュして帰って欲しいんです」

「鳳翔さんの住まいはどうします?寮でもお店でもお任せしますよ?」

「近所の様子次第ですが、どなたか解りますか?」

「それなら・・ちょっとお待ちください」

提督は受話器を上げた。

 




~イベント関連~
いやはや、皆様も大変なようで。
お疲れ様です。
うちは今日もちょろっとE4掘りに手を出して「ああぅダメだ~」と撤退しました。
矢矧さん、雲龍さん、早霜さん、清霜さん、山雲さん、朝霜さんといった方々にお越し頂きたかったんですけどね・・

とりあえず、燃料と弾薬が5000切ってるんで現在3艦隊で遠征に出てもらってます。
バケツがまだ60杯あるのがせめてもの救い。
始める前は178あったんですけどね。
まぁ、また地道に貯めて、イベント期間中に余裕が出たらもう1回くらい掘りに出てみようかと思います。

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