艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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エピソード41

時は流れ、提督がサングラスを披露した日に戻る。

 

龍田は自室で、先程提督から貰ったサングラスを弄っていた。

良く考えてみれば、提督から貰った初めての贈り物らしい贈り物だ。

それがこれかよという微妙な気持ちはあるが、プレゼントには違いない。

 

「色々、あったわねぇ・・・」

 

右も左も解らない司令官と右も左も解らない私達でドタバタした事もあった。

ひたすら姉の連帯責任を取らされては天龍と二人で営倉で小声でお喋りした夜もあった。

なんだか印象すらよく解らないまま居なくなってしまった司令官も居たっけ。

でも。

提督が鎮守府に来てから鎮守府の雰囲気は一変した。

さらに長門が来てからは親しき仲にも礼儀ありという、ピンとした雰囲気になっていった。

誰が強制したものでもなく、長門に憧れる艦娘達が自主的に雰囲気を変えていったのである。

それでも相変わらず軍隊調文化とは程遠い。

しかし、視察に来た少将も総員起こしの件以外は文句を言わなかったから良しという事だろう。

戦果は皆の平均練度向上と共に上がり、大型討伐の補給支援といった役割も回ってくるようになった。

提督がやりたい事も、大本営にほとんど申請する事無く実現出来る所まで裏財源も整って来た。

龍田はサングラスをつついた。

私はすっかり、黒子役に収まっちゃったなぁ。これで良かったのかしら。

 

叢雲と電によってドロップ方法が解明された後、出撃部隊はなるべくドロップするよう命じられた。

ただし提督ではなく、龍田から、である。

ドロップは急増し、鎮守府の歳出や消費資材は減ったが、大本営には一切変わりないと告げている。

そう。

現在、提督が承認した全ての報告書は一旦、提督棟1階に居る龍田の元に集められている。

そして文月と不知火を含めた3人で添付する資料を「調整」してから大本営に伝えている。

3人以外は誰も知らない事だ。

ドロップは実際より少なく報告し、建造を数多く回したと報告する。

そして本来建造に消えた筈の資材は別の地に蓄積している。

この資材こそが裏財源の源なのである。

 

部屋の扉がノックされたので、龍田はサングラスから部屋のドアへと目を移した。

 

「はぁい、どうぞ~」

「失礼します。龍田さん、そろそろ時間ですが、宜しいですか?」

「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事しちゃってたわ」

 

龍田はサングラスをすちゃりとかけると、迎えに来た不知火と文月に頷き、鎮守府を後にした。

海原の日光を遮るには丁度良いかもしれない。

 

午後。

鎮守府からやや離れた小さな島に、古びた木の小屋があった。

龍田達はサクサクと砂浜を踏みしめながら小屋に入って行く。

小屋に向かう砂浜には幾つもの足跡が付いていたが、やがて波に流されて消えていった。

 

小屋の床をココンコンと靴でタップすると、ガラガラという音がして床板が開いた。

龍田達はそこに現れた地下へと通じる階段へと進んでいくと、程なくして重武装の警備艦娘が現れた。

「ボディチェックを行います。艤装はお預かりします」

艤装を外した龍田達に、警備艦娘達は探知機を使って武器を隠し持ってないかチェックしていく。

「御協力ありがとうございました」

すっと身を引いて敬礼し、奥の扉を開ける警備艦娘達に軽く敬礼を返しつつ、龍田は入って行った。

 

「こんにちは~、皆さんお元気かしら~」

「Hey龍田、今月もスゴイねー!」

「いつも通りよ~」

すっかり仲良しになったある鎮守府の秘書艦である金剛とハイタッチした龍田は、いつもの席に座った。

文月と不知火がそっとすぐ後ろの席に浅く腰掛ける。

「あら龍田、そのサングラスどうしたの?」

上座の方から声が飛んで来たので、龍田はふっと緊張した微笑みに変わると、

「はい。提督からの初めてのプレゼントなんです」

と返した。

「あらそう・・って、今頃初めてのプレゼントなの!?」

「はい」

「相変わらず貴方の提督は天然というか・・鈍いわね」

「そうですね。本当に」

龍田がきちんとした返事を返している相手は、大本営の雷である。

昔は容赦ない粛清に次ぐ粛清を行って死神と恐れられ、生きた伝説と呼ばれている。

今は大本営の大将の奥方として、表にも裏にも広く顔が効く。

この会合は「雷会」と呼ばれている。

大本営の公式活動ではどうしてもケア出来ない案件を速やかに処理していく、雷独自の裏組織である。

メンバーは雷自らが声をかけた艦娘達であり、独自に組織を持つものも居る。

 

 「主人にあまり心労をかけるのは可哀想だからねっ」

 

雷はにこっと屈託のない笑顔で設立理由を語る。

だが、活動内容はかなり広範囲。もっと生々しく言えばエグイ案件もあるのだ。

数名の艦娘が入ってきた後、警備艦娘が合図したのを見ると、雷は頷いて口を開いた。

「皆の顔が今回も見られて嬉しいわ。じゃ、今日集まってもらった趣旨を説明するわね」

 

説明する雷の口調は明るかったが、龍田達は真剣な表情に変わった。

 

大本営所属艦娘の中でも、大将や中将が自らの判断で極秘裏に動かせる直属部隊が居る。

そして中将直属の大和が旗艦となり、ある海域に集まった深海棲艦達の討伐が開始された。

それは発見時には即討伐が必要な程に成長しており、鎮守府に連合艦隊要請を行う時間が無かった為だった。

戦いは非常に困難を極めたが、どうにか主な標的は撃破し、その目的を達成したのである。

「でもね、ここからが困り物なのよ」

雷は少し声色を下げた時、列席者の顔は既にこわばっていた。

特に大将直属の部隊は通称「異能者艦隊」と呼ばれている。

異常に強運の雪風、桁違いの強さを誇る武蔵など、大規模鎮守府でさえ太刀打ち出来ないと言われている。

それが束になってかかって辛勝する相手など、一体どれだけの相手だったのだ?

「雪風とか小さな子は上手く逃げたんだけど、大型艦船の子達は軒並み損壊個所があるのよ」

「大和や武蔵は目立つから、大本営のドックで大修理なんかしたらあっという間に発覚しちゃうのよ」

「特に大和の被害は甚大で、正直、大破レベルよ。良く沈まなかったと言っても良いくらい」

「確かに勝利はしたけど、大本営の中でも一部の承認だけで強行した事案だから知られたくないの」

龍田はすいっと手を挙げた。

「ん?どうしたの、龍田」

「私共の鎮守府に大和殿の修復を御命じください。こう言う時の裏資材です」

「あーそっか。頼んでも資材の流れでバレちゃうのか。とにかく、大和を向かわせるからお願いね、龍田」

「はい」

「武蔵は中破なんだけど・・誰か頼まれてくれない?」

「Yes雷!私達に任せてクダサーイ!」

「良かった。じゃあ金剛の所に向かわせるわね。えっと、次は・・・」

こうして龍田達は、雷の命で大本営の大和の修理を引き受ける事になったのである。

 

裏資材に高速修復剤(バケツ)は無い。

ゆえに、一切尻尾を掴ませないようにするには、通常修理で対応するしかない。

 

雷から大将承認済の極秘指令書は発行してもらったので、それを提督と長門に見せたところ、

「・・そうか。解った。資材は足りるかな?」

「ええ。そこは任せて~」

「しかし、高速修復剤が使えないとはもどかしいね」

「しょうがないわ、そういう命令ですもの~」

「解った。長門」

「なんだ?」

「すまないが修理が終わるまで、大和に付き合ってやってくれないか」

「なぜだ?」

「それだけの被害を受けたのなら大和自身だって傷ついてるだろう。ケアが必要な筈だ」

「わ、私が何をすればいいんだ?」

「長門は良い聞き手だ。話を聞けば良い。もし大和が甘味嫌いじゃなければ間宮に頼め。すべて私が払う」

龍田はふうんと思いつつ提督を見た。ちょっとは鎮守府の長らしくなって来たかなぁ。

 

 


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