艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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エピソード33

そして、夕食後。

「1日提督室はどうでしたか~?」

洗い物を終えた龍田が日向の隣にちょこんと座った。

提督は早々に引き上げてしまったが、艦娘達は幾つかのグループに固まってめいめいお喋りしている。

ここだと大きいテーブルがあるので、食後の団欒にはもってこいなのだ。

日向は苦笑しながら答えた。

「まぁその、叢雲がストレスフルだという事はよく解った」

「奥さんの前で泥棒猫が旦那様と堂々といちゃついてるような感じ~?」

「・・その表現は生々し過ぎないか?」

「合ってるでしょ~?」

「合い過ぎだ。だが」

「なにかしら~?」

「提督は、ちゃんと信頼されているのだな」

「んー・・」

龍田は自分の顎に指をかけ、しばらく考えた後、

「そうね~、しょうがないから提督の願いを叶えてあげようかなとは思うわね~」

「お前も素直じゃないな」

「日向ちゃんはどう思うの~?」

「まだ出撃も遠征も演習もしていないから何とも言えないが・・」

日向はふっと笑った。

「まぁ、面白そうな鎮守府だな」

龍田は日向をじっと見た後、

「じゃあ早速だけど、日向ちゃんの明日からの編成先決めちゃいましょ~」

といって手を叩いた。

皆が話を止めて一斉に龍田達を見た。

 

「ほー!球磨!頑張ったね!よくやった!偉いぞ!」

球磨が手を引いて提督室に現れたのは、

「扶桑型戦艦の1番艦、扶桑です。宜しくお願い致します」

提督は扶桑を見て目を丸くした後、

「おぉ、立派な船だねぇ。ようこそ我が鎮守府へ。歓迎するよ」

そういってにこっと笑ったのである。

扶桑は小首を傾げた後、そっと提督に訊ねた。

「あ、あの、こちらに山城は着任しておりますか?」

「いや、まだお迎え出来て無いけれど、どうせなら姉妹仲良く過ごして欲しいね」

「ですが・・私達でよろしいのですか?」

「え?どういう事だい?」

「私達は、その、あまりよくない評判もありますから、着任を喜ばれない司令官もおられます」

「へぇ・・」

扶桑は伏し目がちに言った。

「わ、私は、こちらに来るまでに8つの鎮守府で建造されましたけど、結局解体されてしまいました」

「・・」

「で、ですから、解体されたとしても気にしませんし、あの、お気に召さないようなら早めに・・」

ガタリ。

提督が立ち上がったので、扶桑はびくりとして目を瞑った。

 

 「あー、運の無い戦艦なんて縁起でもねぇなぁ」

 「こんだけ鍛えてもこの程度かよ。もう解体だ!」

 「鎮守府のドックは君の部屋じゃないんだがねぇ」

 

解体される寸前に放たれた言葉を思い出す。

また言われるのかしら。

だが。

 

ふわりと手に温かみを感じて目を開けた扶桑は、自分の右手を提督が両手で包んでいるのだと知った。

そして。

「元の艦の経緯は知っているけれど、君が何か悪い事をした訳じゃない」

「あの・・」

「艦に宿った船魂、そして乗組員の思いを胸に具現化してくれた大切な存在だ」

「・・」

「まだ間宮さんも迎えていない小規模な鎮守府で申し訳ないが、私達は精一杯歓迎するよ」

扶桑は提督の目をじっと見ていた。

「扶桑さん。いつかあなたの妹の山城さんも必ず迎えると約束するよ。嫌でなければ、仲間になってくれないかな?」

扶桑はきゅっと目を瞑り、ぎゅっと提督の手を握った。

そして、

「よろしくお願いいたします」

と言った。

だが、8回の解体を経験していた扶桑は、どうしてもすぐには信じられなかった。

いつ裏切られても諦められるようにしておかないとね。

そんな扶桑を他所に、提督は笑顔でこう言った。

「うん、よろしくね。じゃあ叢雲さん、パッケージを渡してあげて。あと部屋割りも頼む」

叢雲が首を傾げた。

「そろそろ棟毎に分ける?」

「でも重巡がなぁ・・摩耶一人じゃ寂しかろう」

「じゃあ軽巡と重巡はセットにしたら?」

「なるほどな。それなら良いか。天龍と摩耶は仲良しだしな」

おや、と扶桑は思った。

 一人だと可哀想?

 仲良しだから同じ棟?

提督は何を言っているのだろう。私達を兵器として扱っていないというの?

 

その日の夕方。

 

「く、球磨・・どうした?絶好調過ぎないか?大丈夫か?運使い果たしてないか?」

「これから遠征なのに不吉な事言わないで欲しいクマ!」

提督が呆然としたのも無理は無い。

4隻建造したうち1隻は重なっていたが、扶桑を除いた残る2隻が、

「作戦会議でしょうか?ご飯の時間でしょうか?」

「貴方が私の提督なの?それなりに期待はしているわ」

単独でも滅多にお目にかかれない、赤城と加賀を続けて引き当てたのである。

だが、叢雲はとても渋い顔をしていた。

日向、扶桑、赤城、加賀。

ボーキサイトを鬼のように消費するメンツが揃ってしまった。

今までは摩耶達がちょこっと水偵を飛ばす位で、ボーキサイトは定期船の補給分だけで充分余っていた。

だが、これからはそうも言っていられない。

遠征対象をボーキサイト寄りにシフトして、燃料や弾薬も集めないといけないわ。

着任手続きを済ませた叢雲は龍田の仕事場を訪ねた。

「そろそろ来るんじゃないかなぁって思ってたよ~」

「遠征のシフトで間に合うかしら?」

「間に合わないと思うから、しばらくは演習でのLV上げに徹して貰って、出撃を控えてもらいましょ~」

「あ、そっか。出撃しなければボーキサイトも減らないわね」

「ただ、それは一時しのぎだから、遠征要員を更に増やしましょうか~」

「神通達を遠征に特化させるとか?」

「それもあるし、当面は開発を遠征向きの子に限定しましょうか~」

「なるほど。開発向け資源の抑制にもなるわね」

「重なりはしょうがないけどね~」

「あと、龍田達にも手伝ってもらって良いかしら?」

「んー、まぁ不足してる間はしょうがないかな~もうちょっとで5億なんだけど・・」

「え?何か言った?」

「何でもないわよ~」

叢雲はちゃちゃっとメモを取ると

「提督にも認識してもらわないとね。ありがと龍田!」

「どういたしまして~」

こうして、燃費の良い軽巡以下は遠征に特化し、戦艦や正規空母は育成目的の運用へと舵を切ったのである。

 

「なるほど、そういう理由だったのか」

「すみません」

「いや、まぁ戦艦や空母は練度がある程度必要だし、上がれば上がったで消費量が、な・・」

「軽巡どころか重巡さえ食堂で呆然としています」

「だろうな」

6ヶ月目の定期報告で、提督は中将から出撃頻度の低下理由を質された。

だが、それが戦艦や空母の育成と資源枯渇が理由と告げると承諾されたので提督と叢雲はホッとした。

実際、LV30を超えた赤城と加賀は目覚ましい成果をあげていた。

「赤城さんか加賀さんが居ると怪我しなくて済みますね~」

「日向さんや扶桑さんの火力は本当に頼もしいですね~」

出撃の度に同行したメンバーは褒め称えたが、報告書を見た提督達は青ざめた。

軽巡、いや、重巡の摩耶と比べても文字通り桁違いの資源を消費していくからである。

それは演習でさえそうであり、補給が追いつかない為にその日の出撃や演習を中止する事もあった。

「そういえば、あの、間宮さんの方は、どなたか応募してくれそうでしょうか?」

申請書はだいぶ前に送っていたが、なしのつぶてだったのである。

食事を作る当番や龍田からは、一気に3倍以上作る事になったと悲鳴が上がっていたのである。

誰のせいとは誰も言わなかったが、積み重なる丼を見て提督はすぐに理解した。

本来、軽巡と駆逐艦中心で成果を示してから中将には催促したかったが、思わぬ恰好で足を取られていた。

予定通りに行かないのが世の中なのである。

「うむ。戦艦や正規空母が着任した以上、優先して対処させるか」

中将の言葉に提督と叢雲が同時に溜息を吐いたので、中将はぷっと吹き出した。

「本当に息があっているな」

「まぁ・・その・・」

「半年も一緒に仕事してれば溜息くらい一緒に吐くわよ」

「そういうものか。まぁ良い。大変なら次回は半年後にするかね?」

「そうですね。そうして頂けると・・痛った!」

提督の靴を踏みつつ、叢雲は

「いえ、とりあえずは3ヶ月おきで!」

と返したのである。

中将の部屋を辞した後、提督は叢雲に訊ねた。

「えっと・・なんで3ヶ月おきで維持したんだい?」

「うっ、うるさいわね!皆お土産楽しみにしてるでしょ!」

叢雲はそう答えたものの、内心では別の答えがあった。

邪魔者がなだれ込んでくる提督室ではなく、二人っきりになれる出張は叢雲の数少ない楽しみなのだ。

 


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