艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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エピソード32

一通り話を聞いた日向は、深く頷いた。

「・・そうか。それで合点が行った」

「どの辺が?」

「艦娘数の割に、龍田達一部の艦娘のLVが異様に高いと思っていた」

「・・そうか」

「ハイペースの遠征でLVを上げたにしては資源量はそれほどだし、説明がつかなかったのだ」

「なるほどね」

「龍田の目から見て、提督はどう映っているんだ?」

「そうねぇ・・」

龍田はちらりと期待の目で見る提督を見返した後、

「艦隊指揮官としては全く頼れないわ。戦術は辛うじて及第点だけど~」

「そうですか・・」

提督はがくりと肩を落としてお手洗いに歩いていった。

日向は提督を目で追いながら答えた。

「ず、随分辛辣だな・・提督は大丈夫なのか?」

「でも~」

「でも?」

「私達の面倒見は良くて、親切で、思慮深くて、優しい。この鎮守府に不可欠で、護るべき人よ~」

日向は龍田を見た。

龍田はにこりと笑った。

日向は溜息を吐きながら言った。

「その辺りも言ってやらないと、提督が立ち直れなくなるぞ」

「そうでもないわよ~」

「・・どういう事だ?」

「そうねぇ・・叢雲ちゃん」

「何?」

「明日1日、日向さんを秘書艦付添いって事にしない~?」

「えっ・・ま、まぁ、いいけど」

「秘書艦付添いって・・何だ?」

「早い話、提督室で1日過ごしてみるって事~」

「そ、そんな事して良いのか?」

「提督は私達が決めた事を、余程の理由が無い限りは拒否しないわよ」

「そもそも、秘書艦は提督が決めるんじゃないのか?」

「私達で決めてるわよ~」

「えっ?」

「えって言われても事実だから~」

絶句した日向に、叢雲が声をかけた。

「じゃあ明日、0900時になったら提督室に来て頂戴」

「う、うむ、解った。ところで片付けを手伝おうか?」

「今日は日向さんが主賓だから気にしなくて良いわよ~、疲れてると思うからゆっくり休んでね~」

こうして日向は、戸惑いながらも最初の日を終えたのである。

 

翌朝。

「今日は判断に関するおさらいよ。講義は無し。1日勤務する中で意識して動きなさい」

「ん。解った」

「じゃ、始めるわよ。まずは溜まってる書類から捌いて頂戴」

日向は借りた応接椅子の1つに腰かけ、秘書艦机の隅を借りた。

冊子を開いて読み進めるが、聞こえてくる提督と叢雲の会話がイチイチ突っ込みたくてたまらない。

「これ、承認しても良いんじゃないの?」

「天龍が予定使用弾数記載しないで実弾演習申し込んできてるのよ?」

「わざとじゃないかもよ?」

「専用の申請用紙があるのにわざわざ手書きしてくる時点で確信犯でしょ!」

「んー、じゃあ面白いから申請の3倍位演習時間許可してみようか」

「15時間も実弾撃たせたら在庫無くなっちゃうわよ!」

「15時間も連続で撃てば満足して、次回以降無茶な事言わないんじゃない?」

「はー、解ったわよ。じゃあ申請通り5時間、撃たせてみましょ」

「どうせ3時間も撃てば疲れちゃうだろうけどね・・」

笑いをこらえるのに必死でなかなか冊子が読み進められないなと思っていた所。

 

コンコン・・ガチャ!

 

「お父さ・・違った、提・・あれれ?日向さん?」

入口から顔を覗かせているのは文月だった。

「ん、昨日は歓迎会をありがとう、文月。どうした?」

「えっと、提督は居ますか?」

「うむ、叢雲とじゃれてるぞ」

文月はすっと目を細め、とてててと入って来ると日向の脇をすり抜け、

「お父さん、今朝届いたお手紙です~」

と言いつつ、一瞬の会話の切れ間を見て当然のようにちょこんと提督の膝の上に座った。

目で追っていた日向は2つの意味でぎょっとした。

傍までまっすぐ行くのでも怒られるだろうと思ったのに、提督は席を下げて座りやすいようにしたのである。

さらにごく自然に頭まで撫でている。

「おはよう文月、早速状況を教えてくれるかな」

「えっとですね、トピックスとしては大型攻略作戦の概要が発表されました。それに・・」

ふと叢雲を見るとありえないくらいジト目で文月を見ているが、文月は涼しい顔である。

な、なんだろう。ちびっこ同士がやるお父さん争奪戦より腹黒い感じがするな・・・

「じゃあお父・・提督、失礼しまーす」

名残惜しそうに去っていく文月をドアの外に押しやった叢雲は

「さ、続けましょ提督」

と言ったのである。

そして、まもなく昼になろうかという時。

コンコンコン。

「どうぞ!」

叢雲が声をかけると、そっとドアが開く。

「あ、あの、提督さん、いらっしゃいますか?」

「あら神通、また味見?」

日向はこの時、叢雲の「また」という一言にトゲのような物を感じた。

神通は縮こまりながらも

「は、はい。昼ご飯の新メニューに挑戦してみたんですけど・・」

提督は叢雲にひらひらと手を振りながら

「私の好みを気にかけてくれるのは嬉しいよ。じゃあ少し早いけど休憩にしようか」

「あっ、あのっ、ありがとうございます」

嬉々として応接コーナーを布巾で拭き始める神通を見ながら、日向は叢雲に訊ねた。

「よくあるのか、こういう事」

叢雲は肩をすくめた。

「そうね。週2回はあるわ」

「そんなに新メニュー作ってるのか!?」

ふと日向が目を向けると、神通は提督が座る際に椅子を動かし、腰かける所から手伝っている。

「きょ、今日はホワイトオムライスを作ってみたんです」

提督の傍に控えた神通は、そう言いながら持参したケースの蓋をパカリと開ける。

いかにも出来立て作り立てというほわりとした香りが部屋に漂う。

「これは美味しそうだね。・・へぇ、中身も白いんだねぇ」

「ホワイトソースとチーズで味つけしてみました。あ、熱いうちにお召し上がりください」

「ありがとう。じゃあ頂きます」

スプーンを手に、そっとすくって食べる。

その一挙一動を心配そうに見つめる神通は、

「ん!これは美味しい!良いね!」

という一言にホッとした様子で

「安心しました。お気に召さなければどうしようかと」

「うんうん、これはメニューに入れたら皆喜ぶだろう」

「では早速、龍田さんに提案してみますね」

「おっと、神通の昼休みが無くなってしまうね。早く食べるよ」

「あ、いえ、気にしないでください。舌を火傷されては大変です」

日向はそこでふと気づいた。

「な、なぁ叢雲」

対する叢雲はむすっとしたまま答えた。

「何?」

「今日の昼食のメニューではないのか?」

叢雲は首を振った。

「いいえ。だって、今日の昼食はきつねうどんとおむすびですもの」

「ええと、随分落差があるような気がするのだが」

「な・ぜ・か、神通はそういう質素な昼食の日に新メニューを持って来る事が多いわね」

日向はにこにこ笑って提督と会話する神通を見て、ポリポリと頬を掻いた。

要するに、味見というのは口実で、提督に手料理を振舞いたいという事か。

自分が昼食を食べられなくなるかもしれないのに、笑顔が天使の如く晴れやかだ。

まったく、健気なものだな・・

提督は神通に笑いかけた。

「それなら今度から、神通の分も作ったら良い。一緒に昼食としようよ」

「ええっ?宜しいんですか?」

「御昼抜きで働くのは可哀想だからね」

「あっ、ありがとうございます!」

そこでふと、日向はある事に気が付いた。

「なぁ叢雲・・叢雲?」

返事が無いので叢雲に目を向けると、叢雲は神通と提督を凝視してハンカチを噛んでいる。

日向は苦笑するしかなかった。

あぁ・・えっと、なんだこの昼メロ的展開。

午後もこうなのだろうか。

日向の予感は当たった。

不知火が1500時にコーヒーとクッキーを持って来たり。

遠征の報告をしに来た摩耶と長々お喋りしてたり。

連れ戻しに来た天龍までその輪に加わったり。

夕食の席では広い食堂なのに、わざわざ提督を囲むようにまとまってご飯を食べてたり。

なるほどなと日向は一人納得していた。

 


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