艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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30話超えたのに、まだ長門さんの欠片も見えてこない件。



エピソード31

「・・・それで、軍隊として機能するのか?」

日向の戸惑い混じりの質問に、提督は肩をすくめながら叢雲に話しかけた。

「機能してると思うけどね、その辺叢雲さんはどう思ってる?」

「機能してるというか、させてるのよ」

日向は違和感を感じて叢雲に訊ねた。

「させてる?どういう意味だ」

「神通は、提督に任せられない以上、自分達がしっかりしなきゃダメだっていつも言ってるわ」

日向はぎょっとした。そんな司令官失格のような事を言ったらどんなに怒られるか・・・

だが、提督はあっさり頷いた。

「良かった。神通達にもちゃんと浸透してきたようだね」

日向は提督を2度見したが、叢雲はジトリと提督を見返した。

「あんたがバカのふりをしてるのは、私と龍田は解ってるけどね、それも狙いなんでしょ?」

「盲目的にアテにしちゃダメだって思って欲しいんでね」

日向は絞り出すように話し始めた。

「て、提督をアテにしないって・・皆で戦略から考えるっていうのは、本当なのか?」

「本当よ」

「目標とか理念じゃなくて・・現実・・なのか?」

「目標は轟沈させない鎮守府、現実としては皆で考える力を付けつつあるって所かな」

「スタートもゴールも現在位置も全て他の鎮守府と違うな」

「深海棲艦を減らして優秀な艦娘を増やすって大命題をどうクリアするかは一緒。ルートが違うだけだよ」

「・・」

「日向さん」

「なんだ?」

「だから私は、日向さんが何の為に深海棲艦が攻めてくるか考える事を一切制限しない」

「あ・・」

「ついでに言えば、電も似た方向性だから、協力出来る事があるなら協力して欲しいな」

「・・」

「何が目的への最短ルートか解らない以上、思いつく事は試しておきたいからね」

「解らないから、直接あいつらに聞く方法を考えよ、か」

「その通り。まずは深海棲艦の文化に対する興味を持ち続けてくれれば、それで良いよ」

「それで良いのか?」

「何か発見があれば報告してくれればいい。もし日向なりの答えを見つけられたら教えて欲しい」

「・・そうか」

「私からはこれくらいしか言えない。答えになってなくて悪いけど」

「前の司令官には、何を弱気になっているんだと叱られたから、あとは黙っていたんだ」

「そうか・・」

「うむ。叢雲、寄り添うという意味、よく解った。その通りだな」

「飲み込みが早いわね」

「答えは見つかってないが、随分と気が晴れた。ありがとう、提督」

「疑問を解消する為に何か試してみたい事とか思いついたら、私なり皆なりに相談してくれば良いよ」

「そうだな。ここは確かに、そういう空気があるな」

「おっと、もう1600時を過ぎたね。お使いを頼めるのは・・4班か」

日向はふと、球磨との会話を思い出した。

「買い放題って、なんだ?」

「え?あぁ、歓迎会の時にはね、御馳走を用意するからいつもより買い物が増えるんだよ」

「うむ」

「いつもは龍田が買い出しに出るんだけど、歓迎会の時とか、買い物が多い時は手の空いてる子にお使いを頼むんだ」

「そうか」

「で、御駄賃として、好きなお菓子を買って来て良いよって言うんだよ」

「菓子を・・食べるのか?」

「美味しいよ?」

「・・あ、その、前の鎮守府では大型討伐で連続出撃する時に、間宮アイスにありつくぐらいだったからな」

「間宮さん居たのか。羨ましいな」

「100人を超える艦娘達に食事を提供し続けられるのは能力特化した間宮だけだろう」

「んー、そうだよねえ。今も龍田+当番の1班で回してるけど、毎回22人前も作るの大変そうだもんなぁ」

「早く間宮さんを迎えたいわね」

「どうして迎えないんだ?」

「維持費が結構かかると聞いたんでね、今頑張って貯めてるんだよ」

「それは迎える時の条件次第だぞ」

提督と叢雲は一斉に日向を見た。

「・・へ?」

見られた日向は戸惑いながら答えた。

「た、確か、雇用申請書に書いてあったと思うのだが・・」

短距離選手も真っ青のタイムで書類を取ってきた提督は、叢雲と二人で食い入るように申請書を調べ始めた。

やがて。

「あ!ここ!ここよ提督!」

「なになに・・離島、遠隔地への宅配、複数鎮守府での合同契約時の交通費は鎮守府側で実費負担する事」

「料亭料理の所望等、特殊条件を追加する場合、間宮側が所望した調理器具や技能習得の費用を鎮守府側で負担する事」

「その他、間宮として着任する候補者との個別条件調整は鎮守府責任と実費負担にて行う事、か」

提督と叢雲は顔を見合わせた。

「とりあえず、うちの鎮守府だけで、普通の料理でお願いしますって言えば良いのかな?」

「別に離島でもないし、料亭料理なんて所望しないし・・」

「スイーツについては買ってくればいいしね」

「経費節減したいんだけどね」

「そこは私に免じて」

「免じられないわよ!そもそも何であんなに高いのよ!削減する方法考えなさい!」

「じゃあプレッツェルも無くなりますよ?」

「削減って言ってるでしょ!」

「じゃあプレッツェルも削減ね」

「プッ!プレッツェルは高くないじゃない!提督のドーナツが最初でしょ!」

「酷い!スイーツ差別だ!皆のささやかな娯楽なのに!」

「限定ドーナツとケーキをバカスカ買い過ぎだっていってるの!ついでに交換会の間バクバク食べ過ぎよ!」

「プレッツェル出すと皿ごと抱えて食べてるじゃん!」

日向はずずっとコーヒーを啜った。

艦娘と提督がまったく同じ土俵で大喧嘩をしている。

しかも話題が自分の好みのスイーツは減らしたくないって・・子供か?

神通の嘆きが解ってきた。

確かにこの鎮守府では自己鍛錬の能力がかなり要求されそうだ。

自由であるがゆえ、己の欲望に溺れぬよう気を付けねばなるまい。

だが、と日向はぎゃんぎゃん言いあう二人を見て微笑んだ。

こんなに温かくて優しい鎮守府も滅多にあるまい。私の出来る役割を果たすとするか。

「提督」

「ん!?なに!?」

「そろそろ買い出しに行くなら頼んだ方が良いのではないか?」

「おっと・・そうだな。叢雲さん」

「何?」

「プレッツェル減らさないから買い出し頼んでくださいな」

叢雲はポッと頬を染めると、

「しょ、しょうがないわね・・減らさないでよ?」

「減らさないから、ドーナツも減らさないでね?」

「う・・わ、解ったわよ」

ジト目で提督を見つつインカムをつまむ叢雲を見て、日向は頷いた。

仲が良くなければ喧嘩など出来ない。

叢雲は心から提督を信じているのだな。

 

「というわけで日向さん!これからよろしく!」

盛大な拍手で歓迎会が終わりを告げると、日向は少し疲れた顔ですとんと腰かけた。

日向以外の子達は片付けに勤しんでいる。

提督は日向の隣に腰かけると、ウーロン茶を入れたグラスを手渡した。

「皆から質問攻めにあってたね。大丈夫かい?」

「う、うむ。なんというか皆、好奇心旺盛だな」

「しっかり考えて遠慮なく言いたい事を言いなさいって日頃から言ってるからね」

「なるほどな。あ、頂くぞ」

「どうぞどうぞ」

日向がウーロン茶をゴクゴクと飲んでいると、エプロンをかけた龍田が寄って来た。

「お疲れ様。これからよろしくね~」

「よろしく頼む。そうだ。龍田」

「なにかしら?」

「この鎮守府には、赤城は居ないのか?どの鎮守府でも、割と早くから着任すると聞くが」

「・・居たわよ。以前の司令官が沈めてしまったけれど」

「そうだ、それで思い出したのだが、なぜ司令官が変わったのならやり直しにならないのだ?」

「長い話になるわよ~」

「聞いて良いのなら聞く。無理にとは言わない」

「まぁ、皆1度は気になって、全員知ってるから説明するわね~」

 

 


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