艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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沢山の温かいお気持ちを頂き、心強く思います。
ありがとうございました。

昨日、書き溜めていた分を全て予約投稿分として登録致しました。
少なくとも2月上旬までは毎朝配信出来るようです。
ただし、誤字脱字の訂正対応は遅延するかもしれません。
ご容赦頂きたく、よろしくお願いいたします。




エピソード28

「へ?仕事をくれって・・どういう事ですか?」

「じゃから、暇なんじゃよ」

提督は工廠長からそう言われてもピンと来なかった。

「え、でも、毎日出撃や遠征を3艦隊で行ってるんですから、補給とか修理とか忙しいのでは?」

「いんや、最近は帰って来ても補給のみというケースが多い。補給なんてすぐに済んでしまうからのぅ」

「そんなに被弾率が減りましたか」

「うむ。じゃからその、建造とか、開発とか、オーダーしてくれんかの」

提督のどうしようかという視線を感じた叢雲は、大本営のクエスト一覧を持って来た。

「それなら、この辺りのクエストをやったらどうかしら?」

「・・なるほど、えっと、開発が・・4件、建造が4隻か。報酬も悪くないね」

「この辺りは簡単だから、他の鎮守府では日課としてこなしてる事も多いわね」

「なるほど。工廠長」

「うん?」

「現時点で1日何隻位修理してます?」

「そうさの。大体3隻位かの」

「とすると、このクエストは無理だね。5隻入渠だもんね」

「そうね。ただ、セットしておくのは悪くないわよ」

「なるほどね。建造や開発は練習の効果がある物かな?」

「使い方さえ覚えればそれほど差は無いわよ?」

「それなら毎日叢雲さんがするのも飽きるだろうし、開発や建造は当番制にしよっか」

「そうね。その方が助かるわ。皆の気分転換にもなるでしょうし」

「資源的には毎日実施しても大丈夫かな?」

「それなりに揃って来たから問題無いわよ」

「重なった子は当番の子の近代化改修に当てようか」

「ま、当面はそれで良いでしょうね」

「どういう事?」

「能力的に最大値に達したら改修しても上がらないから勿体ないじゃない」

「そういう事か。じゃあ一番低いLVの子にあげる?」

「それじゃ近代化改修が最低LVだと思い知らされる事になるから止めた方が良いわね」

「なるほど、だから当面は、か」

「そういうこと」

「よし、工廠長、明日から毎日、開発4回、建造4隻をオーダーする事にします」

「操作を行う者は毎日当番で変わり、重なった子は当番者の近代化改修、じゃな」

「その通りです」

「ふむ。それ位のオーダーがあれば育成も出来るのぅ」

「育成・・ですか?」

「うむ。妖精の間でも引退や内部異動はあるからな。技術力の維持向上には適度な実技も必要なのじゃよ」

提督は叢雲がさらさらとペンを走らせて書き上げた指令書に承認印を押しながら答えた。

「なるほど・・ではこれで」

「うむ。確かに。こちらも準備しておくぞい。提督、ありがとう」

「よろしくお願いします。問題があったら相談してください」

「任せておけ・・」

工廠長は去り際、叢雲を見てふふっと笑った。

叢雲はジト目で工廠長を見返した。

「なによ?」

「すっかり一緒に考えるのが当たり前になったな、と思ってのう」

「そうね。それがこの鎮守府のやり方よ」

「・・良かったな、叢雲」

「うっ、うるさいわね。さっさと準備にかかりなさいよ!」

「解った解った。ではの」

工廠長は工廠に向かいながらつらつらと考えていた。

提督と最初に交わした、指示は前日にという事も自然に盛り込まれている。

小さな事じゃが・・約束を覚えてくれているのは嬉しい物じゃの。

叢雲のツンツンぶりは健在だが、不安やイライラした様子は鳴りを潜めとる。

叢雲だけでなく、鎮守府全体の雰囲気が丸くなっている気がするわい。

ふと見ると、摩耶と天龍が芝生に寝転がって談笑していた。

予実表をちらと見る。そうか。2班の遠征は午後からじゃったか。あの二人は相変わらず仲良しじゃの。

「工廠長さん、おはようございます」

声に振り向くと神通達3班が出撃の準備を済ませて並んでいた。

「うむ、おはよう。これから出撃かね?」

「はい!新プランを用意しましたので、今度こそ南西諸島のシーレーンを奪還してきます!」

「精一杯やっといで。傷ついたらすぐに治してやるからの」

「はい!その時はよろしくお願いいたします」

「うむ、気を付けての」

「神通、行きます!」

第3班の出撃を見送った工廠長は、うむと頷いた。

「さて、うちも準備に入るとするかの」

良い雰囲気に貢献するのなら、働き甲斐があるわい。

 

翌日。

「いきなり・・おぬしが当番ときたか・・」

「あぁん?何か文句あんのかよ」

「工具や機械を壊さんでくれよ?」

ジト目の工廠長と、溶接用の盾を構えた妖精達がずらりと対峙する。

その先に居るのは摩耶である。

工廠の入り口に立っただけでこんな対応をされるのには訳がある。

摩耶、そして天龍の二人は特に目的というか、作りたい物を強く意識して開発や建造に臨む。

それ自体は悪くないのだが、失敗ペンギンや別の物が出てくると

「だぁ!もーなんでこんなの出て来るんだよ!要らねぇよ!」

と、手近にある物を蹴り飛ばしたり叩き壊す。建造中の大砲を曲げてしまった事もある。

だから新入りの妖精にはいの一番に

「要注意トリオ」

として教えこまれる。

ちなみにトリオの3人目は不機嫌な時に入渠する事になった叢雲である。

摩耶は溜息を吐いた。

「そんなにビビるなって・・壊さねぇよ」

「何故そう言い切れる」

「提督からもこってり念押しされてるし、レシピを教えてもらったんだよ」

「レシピじゃと?」

「あぁ。まぁその、配合率って奴か?」

「まぁ良いがの。じゃ、最初は開発からじゃな」

「あぁ。えっと・・」

そう言いながら摩耶はポケットからメモを取り出した。

「ふんふん・・えっと、鋼材以外は10で・・鋼材だけ20、だなっと」

バチン。

開発装置から溢れる光が収まると、妖精達が一斉に身構えた。

ペンギンが入ってるのが見えたからだ。

摩耶はメモに一瞥をくれると舌打ちをした。

「ちっ・・ま、成功率5%未満だからな・・」

工廠長が訊ねた。

「ん?どういうことじゃ?」

「提督がさ、アタシが狙ってる装備がどれくらいの割合で開発成功するかって統計資料を見せてくれたんだよ」

工廠長は興味深そうに目を細めた。

「ほぅ。で?」

「この配合で回すのが一番割が良いけど、それでも5%未満の確率でしか成功しねぇんだと」

「なるほどのう」

「だから100回やって5回出れば平均以上だぜって教えてくれたんだよ」

工廠長は頷いた。

成功するのが当たり前、あるいは高い確率だと思ってるのに、失敗すればとてもイライラする。

だが、滅多に当たらんと言われれば、失敗してもまぁそんなもんだと納得出来る。

「期待と実際の補正をした、という事か」

「ん?なんか言ったか工廠長」

「何も。じゃあ次は建造1隻だの」

「よっし!回したいレシピがあるんだ!」

そういうと摩耶は次々と燃料と鋼材を放り込んでいく。

「沢山投入すれば成功するという訳でも無いぞい・・」

「闇雲じゃねぇよ。ちゃんと教えてもらったレシピ通りだって・・よし!入った!」

建造装置に資材を詰め終えると、

「戦艦が来ますように!」

と言いながらボタンを押し込んだ。

工廠長は建造班から作業予定時間を聞いて驚きながら答えた。

「ほう!どうやら戦艦の船魂をお招き出来たようじゃよ。良かったのう」

摩耶はガッツポーズを取って笑った。

「やったなぁ!」

「よしよし、じゃあ次は開発が・・3回、だのう」

摩耶は腕まくりしながら答えた。

「よおっし、みなぎってきたぜ!やるぞっ!」

 


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