艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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少々ダークな展開に入ります。



エピソード17

翌朝。

「ふわーぁ・・」

大きな口を開けてあくびをしたのは天龍である。

なぜなら、つい明け方までかかって資源輸送任務をこなしてきた為であり、誰からも文句は言われない。

そう、言われないだけの理由があり、皆も承知しているから。

誰が直前、今、そして次に何をするかという予実表が食堂の近くに掲げられている。

実に小さな事だが、こんな事さえも提督の代になってから実現したのである。

 

では、過去はどうだったかというと。

 

「たるんどる!この馬鹿者め!」

 

あくびしている所を廊下でうっかり司令官に見つかろうものなら大目玉を食らってしまう。

特に2人目の司令官は連帯責任という言葉が大好きで、自分だけではなく、妹の龍田まで罰せられた。

だから天龍はずっと顔をしかめていた。

眠気を隠す為でもあり、理不尽な連帯責任への腹立たしさもあったからである。

そして、その日は訪れた。

 

「ふざけんじゃねぇよ!てめぇが大破した俺達に進撃命令出したからあいつは沈んだんじゃねぇか!」

 

ついに、天龍の堪忍袋の緒が切れたのである。

司令官が平静を装いつつ、ピクピクと眉を動かしながら応じた。

 

「わしのミスだと言うのか天龍?それに、その口のきき方は何だ。随分偉くなったものだな」

「違うってのか!テメェは司令官だろ!」

「そうだ。わしが司令官だ。だからわしの指示に無い被弾を勝手にするお前らが悪いのだ!」

「はぁ!?どんな理屈だよ!戦えって命令したのはテメェだろうが!」

「上官に対する口のきき方すら弁えられない程度の能力だから轟沈事故になる。お前は営倉行きだ」

「だったらテメェも営倉行くんだろうな?進撃命令を出した責任取って!」

「わしは進撃しろと指示しただけだ。沈めとは言っとらん。あぁ、龍田も連帯責任だな」

「なっ!」

 

それまで、叢雲はじっと司令官の隣で控えていたが、

 

「あんた、本気でそう思ってんの?」

 

と、静かに口を開いた。

 

「何か間違ってるかね叢雲?司令官が指令を発する事が間違っとるとでも?」

「詭弁は止めなさい。あの子が轟沈したのはあんたの進撃命令が原因よ」

「進撃を判断する際の情報伝達に問題があったのだろう。轟沈の危険があるとは知らなかった」

「・・私はあんたに状況を全て伝えたわよ。半数以上大破しているし皆の残弾も少ないと」

「知らんね。まったく、折角LV30まで上げてやったのに勝手に沈みおって」

叢雲のこめかみに青筋が浮き上がる。

「・・あげてやった?」

「そうだとも。連日演習部隊に編制して最優先でLVをあげてやったというのに、恩知らずが」

「・・LVをあげる努力をしたのはあの子で、上がったのもあの子。あんたは口先だけで、しかも間違えた」

「わしが指令を発しなければお前らは何一つ出来まい?立場を弁えろ、犬ども」

 

バキッ。

 

叢雲が握りしめていた鉛筆が折れた。

叢雲は今にも司令官に飛びかかろうという天龍の手を取ると、

「じゃ、あんたが招いた成果をあんたが受け取りなさい」

そう言うと、天龍を引きずるようにして司令室を出て行こうとした。

「おい。夜間演習の指令はまだ発しておらんぞ。お前も営倉行きになりたいか!」

司令官はそう言ったが、叢雲は足を止める事無く出て行った。

そして、そのまま通信室に行き、大本営の五十鈴に連絡を取った。

 

「・・あっきれた。轟沈は間違いなく司令官の責任よ。何も間違ってないわ」

「このまま行くと私達は報復としてわざと沈められかねません。だから」

「ええ」

「命令をボイコットする事を許可してください」

「そっ、それ・・は・・」

五十鈴はしばらく返事をしなかった。

通信機のジーという音が空間を支配して、いい加減聞き飽きた頃。

天龍はそっと、マイクをONにした。

「五十鈴、天龍だ」

「・・えぇ」

「俺は水雷戦隊の旗艦として、この責を取って解体でも雷撃処分でも受ける」

「・・・」

「最初の司令官があれだけ増やしてくれたのに、もう5人まで減っちまった。全員轟沈だ」

「・・・」

「幾らなんでも間違いで済ます限度は越えた。司令官の裁量って言っても無駄死には御免だ」

「・・・」

「頼む。頼むから、こいつら4人だけは、見捨てないで・・くれ・・」

数秒の後、五十鈴は

「解りました。貴方達のボイコットの件、許可します。私から中将と大将に説明します」

「!」

「ただし、扱いは極秘にさせてもらいます。それと、1つだけ約束して」

「何を?」

「司令官を殺したら本当に手に負えない問題になるから、絶対にやっちゃダメよ。解ったわね?」

「・・解った」

「司令官の処分は出来るだけ早く決める。だから、それまでボイコットしておいて」

「じゃあ俺達は全命令をボイコットするぜ」

「寮に立てこもって、正面入り口に施錠してなさい。食糧とか忘れずにね」

「そりゃ良いや。あいつのツラなんて見たくねぇからな・・でも、餓死する前に頼むぜ」

 

それから3日後。

 

「司令官、所属艦娘20名を轟沈させた件について上層部会でご説明願います。御同行を」

憲兵10名を従えた憲兵隊長が船でやってきて、ぐだぐだ言い訳を並べる司令官を連行して行った後。

天龍は自室で筆で字をしたためた。

 

「皆すまねぇ、俺が責任を取るぜ」

 

そう書いた紙を、遺書と書いた封筒に入れた。

そっと寮を抜け出した天龍は、司令官の机に叩きつけた。

司令官の机を睨みつけるように見下ろす。

初代司令官は良い奴だったが、この机に突っ伏して死んじまった。

2人目は俺が今葬り去ったようなもんだし、俺もここでこれから自決する。

なぁ、机だか部屋だかに取りついてる悪霊よ、頼むからこれで矛を収めてくれよ。

俺はお前を成仏させる方法なんて知らねェけど、龍田は俺の大切な妹なんだよ。

もう誰も、その手にかけねぇでくれよ。

 

天龍はどっかりと床に胡坐をかいて座ると目を瞑り、刀を首に当てた。

悪ぃな摩耶、帰ってくるまで待つって言った約束は反故にさせてもらうぜ。

だが天龍は、そこで長い事硬直してしまった。

 

・・くそ。

この刀で指先を間違えてちょっと切っただけで超痛かった。

首なんか切ったらどんだけ痛ぇんだろうなぁ・・死ぬ程痛ぇんだろうなぁ。

でも。

仲間を、妹を、守る為に死ぬんだ。犬死よりマシだ。

・・・あーでも、痛ぇんだろうなぁ・・・

もう2度と艦娘にはならねーぞ。

えっと、こう言う時は振りかぶった方が良いのか?それとも刃を押し込む方が良いのか?

やった事ねェから作法なんて知らねぇよ。

やったら死んじまうしよ。

あーもうどうしたら良いんだよ。誰か一番痛くない方法を教えてくれよ!

その時。

 

「あんた何やってるの?」

 

びくりとしつつ、そっと目を開けると、叢雲、龍田、電、文月、そして五十鈴が立っていた。

しまった。真剣に悩み過ぎて入ってきた事にも気づかなかった。

 

「・・あんた、何、やってるの?」

 

刀の柄を握りつつ、叢雲が聞いた事無い程低い声で繰り返す。

「い・・いや、その」

「まさか、自決とか、馬鹿な事、考えて、ないでしょう、ね?」

ゆっくりと、圧力を加えるように1単語ずつ叢雲は言いながら、恐ろしい力で天龍から刀をもぎとる。

刀を奪われた天龍は気まずそうに床を睨みながら言った。

「・・・だ、だってよ、誰か責任取らなきゃこんな大事収まらねぇだろ」

天龍を見下ろしながら五十鈴は言った。

「あなたが自害する方が更に大事になって大本営としては迷惑なんですけど」

 

 





前書きに警告を入れてみました。
え?雑?私は元々雑ですよ?

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