艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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エピソード03

提督は口を開きかけて止め、真剣に腕組みして考え出した。

龍田は会話を思い返し、そんなに真剣に考える事があったかなと首を傾げていた。

やがて提督はうむと頷くと、

「解った!じゃあちょっと買い出しに行ってくるよ!」

「・・は?」

「確か市役所の近くにスーパーあったよね。あ、外で物買った場合は領収書があれば良いの?」

「あ、あの、鎮守府名義のクレジットカードがあるけど・・」

「あのスーパーで使えるかな?」

「普通に食事の買い出しとかで使えてるけど・・えっ?」

「えっ?」

「・・どなたが買い出しに行かれるんですか?」

「私が」

「何を・・お求めに?」

「えっと、牛乳とバニラエッセンスと・・あぁプリンのセット買う方が失敗しないかな」

「は?」

「え?」

龍田は眉をひそめながら聞いた。

「あ、の・・司令官が、プリンのセットを、スーパーに買いに行かれるんですか?」

「そのつもりだよ?あ、ホットケーキの方が好き?」

龍田は目を瞑って一呼吸置いた後、こう言った。

「死にたい司令官はどこかしら~?」

提督はジト目になった。

「えー、ダメですかぁ?」

「さっきの話を聞いてなかったんですか~?」

「反対勢力が危ないって話かい?」

「そうですよ~」

「じゃあ定期船で届く以外の食材調達はどうしてるの?調味料とかさ」

「私達は武装してるから、普通に地元のスーパーで買ってますよ~」

「あ、じゃあ一緒に来てくれるかい?それなら良いんでしょ」

「ええと、あの」

「ん?」

「メモ頂けば買ってきますけど・・」

「んー、牛乳とかあるから重くなるよ?」

「・・一応、艦娘ですし」

「んー」

そういうと提督はメモをカリカリと書いて手渡した。

「それで解るかい?」

龍田はふんふんと頷くと、メモをポケットに仕舞った。

「良いですよ~」

「ありがとう。あ、これ、振舞うまで皆には内緒ね。器あるよね?」

「一応揃ってるとは思いますよ~」

「良かった」

龍田は窓の外を見ながら言った。

「じゃあそろそろ、鎮守府内を御案内しますね~」

「お願いします」

龍田はドアを開けつつ思った。

ここに居て話をするから訳の解らない事になるんだろう。

外に出れば大丈夫だ、きっと。

 

「ここが工廠で・・あ!工廠長さぁん」

龍田が声をかけると、工廠長が振り向いた。

「龍田か。ん、おや、見ない顔だの。どちらさんかな?」

「本日付でこちらに着任しました。以後よろしくお願いいたします」

工廠長はぎょっとした顔で頭を下げた提督を凝視した後、

「あ、あんたは新しい司令官なんだろ?」

「え?はい」

「司令官がそんなに簡単に頭を下げる物ではないぞ?」

「ここでは皆さんが私より先輩ですから、色々教わる立場としては当然です」

工廠長は困惑した顔で龍田を見た。

龍田が頷きながら肩をすくめたので、工廠長は苦笑を返した。

「言っとる事は・・まぁ・・間違いではないがの・・」

「はい」

「ただ、上には上の態度というのがある」

龍田は提督の背後で何度も頷いた。違和感はそれか!

「上の、態度ですか」

「うむ。上がふさわしい態度をする事で、部下は安心してついていけるという事だの」

「俺についてこい的な、どっしりした態度という事ですか?」

「要約すればそうだの」

提督は肩をすくめ、自らを指差してこう言った。

「これが何か言った所で安心してついてこられますか?」

工廠長もぎょっとして見返したが、それ以上に龍田は驚いた顔で提督を見た。

「・・なに?」

「私は皆で決めて、やった事の責任を引き受けるつもりです」

「皆で・・決める・・じゃと?」

「ええ。工廠の中の事は工廠長さんが一番よくご存じでしょう?」

「そうじゃが、せ、せめて敬語は止めてくれんかの。上下関係がおかしくなる」

「じゃあもう少し砕けましょうか。そして海の最前線は艦娘の子達が一番知ってるでしょ?」

振り向いた提督に龍田は苦笑を返した。

「まぁ、そうね」

提督は頷きつつ工廠長に向き直った。

「知ってる人が決めるのが、一番しっくりきませんかね?」

「現状を変える決断という物もあるぞ」

「もちろん。そういう決定は私がします。でも、箸の上げ下げまで私は関与しませんよ」

「任せる物は任せる、という事か」

「ええ。例えば資材の発注タイミングとかは工廠長さんに任せます。書類を頂けば判を押しますよ」

工廠長は苦笑した。

「・・ふん。ま、そういう事ならわしはやりやすくて良いがの」

「餅は餅屋ですよ」

「あー、あとな、司令官」

「はい」

「工廠長さんは止めてくれ。工廠長で良い」

提督はくすっと笑った。

「解りました。ではこれからよろしくお願いします、工廠長」

工廠長は差し出された手を握り返した。

提督の笑顔を見ながら工廠長は思った。

こいつ、今までの司令官達とは根本的に違う。

警戒していてもいつの間にか、しょうがないなと言って手を握ってしまう気がする。

工廠長はちらりと龍田を見た。

朝の様子に比べて、龍田は警戒を緩めたか。あと、戸惑いを隠しきれていないな。

5人の中では一番キレ者で慎重だが、それでも戸惑うか。まぁ解るが。

とりあえず警戒は解きつつお手並み拝見、と言った所かの。

龍田は提督に告げた。

「じゃあ帰るついでに食堂もご覧頂きますね」

提督はくるりと龍田に向くと、あとに続きながら聞いた。

「そうか!食堂はあるんだね!良かった。キッチンもそこかな?」

「そうなりますね~」

「じゃあキッチンは一通り見せて欲しいね。後で使うし」

龍田がピタリと止まった。

「・・・はい?」

「え?なんで?だめ?」

「・・だめというか・・前例が無いというか・・」

「禁止事項じゃないんでしょ。ほらほら、時間が押しちゃうよ!」

「司令官、押さないでくださ・・あっち!あっちですよ食堂は~!」

「おおすまんすまん!さっさと行こう!」

工廠長は見送りつつ肩をすくめた。

今までとは違う事になりそうだの。上手く行くかは知らんが。

 

「ほぉー!これは良い!綺麗で片付いてる!うん、良いね!」

キッチンを見て頷く提督を見て、龍田は頬を掻いた。

工廠や弾薬庫よりキッチンを見て興奮する司令官って一体・・

まぁ日頃の手入れを褒めてくれるのは嬉しいけれど・・

「冷蔵庫は業務用だね!中広いな!おっ!良いバター使ってるね!」

言ってる事は当たってるが、本当にこの先やっていけるのかしら・・心配。

 

そして夕食時。

 

鎮守府所属の叢雲、電、文月、天龍が揃ったので提督は簡単な自己紹介を行った後、食事となった。

今晩の食事は龍田が作ったので、

「御馳走様でした!」

という皆の声に、龍田が

「はぁい、お粗末様でした~」

そう返したのである。

だが、その直後、

「ね!皆!待って!ちょっと待っててくれ!」

キッチンに去っていく提督をなんだろうと目で追う4人とは対照的に、やれやれと肩をすくめる龍田。

天龍が龍田に訊ねた。

「おい、何か知ってるのか?」

「一応ね・・ただ口止めされてるからぁ・・」

「あの、龍田さん」

「なぁに、電ちゃん」

「司令官さんと一日居て、その、どんな人だと思いましたか?」

電の質問に叢雲がピクリと聞き耳を立てる。

「・・変わった人よ。とっても」

眉をひそめ、それだけじゃ何も解らないと叢雲が口を尖らしかけた時。

「ほいお待たせ!デザートだよー!」

全員が提督を振り返り、そのまま手元を見た。

 

 


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