艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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文月と白雪(3)

着任当初こそ頭に巨大な?マークを付けていた暁だったが、数日経った時、

「ねぇ、この書類とこの書類が別々に保管されてるのって後で使いにくくない?」

と言い出した。

その指摘は適切であり、そうですねと白雪が応じると、

「じゃ、まとめといてあげる。この書類は月1?」

「はい、月1です」

「関連するのはこの書類で、こっちも月1って言ってたわよね?」

「ええ、そうですね。同時に発生します」

「他に関連する物は無いわね?」

「無いですね」

「解ったわ!探しやすくしてあげる。見てなさい!」

そういって書類の保管方法から再整理を始めた。

一方で電と陽炎は手際良く書類の捌き方を覚えて行った。ただし電は

「お姉ちゃんが心配なので、ちょっと手を貸してくるのです」

と言って、時折書庫で書類の山に囲まれる暁を手伝ってもいたのである。

 

こうして過ぎた2週間だったが、今では暁は書類の管理人と化している。

響が書庫に行った時の様子を見てみよう。

「姉さん、昨年度5月のバランスシートを見たいんだけど」

「・・はいこれ。同月の収支報告明細は?」

「あ、そうか。貸してくれるかな」

「良いわよ!はい!」

といった具合で素早く書類を出し、関連書類も要らないかと提案してくれる。

暁が書類の管理役に徹してくれるので、経理方の面々は書類探しという作業から解放された。

そしてそうなってみて解ったのだが、書類探しはかなり時間を食っていたのである。

 

陽炎はというと、普段からちょいちょい大本営の規約や指示書を調べている。

なぜかという説明をするより、実例を見てみよう。

ある時、陽炎は白雪に大本営の指示書と書類を見せつつ言った。

「ねぇ白雪、この提出物ってこれだけで良いの?」

「といいますと?」

「これも出さないといけないようだけど、これは事務方が作るの?」

「えっ!?どうでしょう、聞いてないですね・・」

白雪は眉をひそめた。今までなら不知火に訊ねれば

「あ、それもよろしくです」

その一言で返されていたからだ。ゆえに陽炎が

「じゃ、聞いてくるわね!」

と言った時、白雪は言って良いものか迷いながら

「あ、あの」

と返すと、

「無きゃ不知火によろしくねって言っとくわ!」

パチンと白雪に軽いウインクを返しつつ、颯爽と事務方に向かって歩いていった。

そして程なく、

「んなっ!・・くっ、し、不知火が、落ち度など・・」

「だよね!」

といったやりとりが何回か聞こえた後、

「後はやってくれるって!」

そう言いつつ、ニカッと笑いながら戻ってきたのである。

がくりと肩を落とし、青い縦線が入る不知火の背中を遠目に見ながら、白雪は思った。

今までは事務方からあれこれオーダーされる一方で、押し返す余地はゼロだった。

正確には自分は文月に、川内や響は不知火に丸め込まれてしまうのである。

自分が初雪や叢雲に訴えても同じく文月達に丸め込まれてしまい、差し戻しとはいかなかった。

だが、不知火のあしらい方を知り尽くした陽炎がこちら側に着いた事で流れが変わった。

押し戻すというか、分担領域を交渉出来るようになったのである。

陽炎はさらっと頼む一方で、時折見慣れない書類を手に

「悪いわね。例の件頼む代わりにこれ引き受けちゃった」

と、ペロッと舌を出しながら帰ってくる事もある。

しかしそれは経理方で作った方が簡単に済む物であり、無闇に引き受けてはいない。

どうしてそれが解るかと言うと、大本営の規約や指示を熟知しているからである。

こうやって引き受ける分があるからか、不知火が青色吐息になっても文月は何も言って来ない。

さすが長女。ギリギリの塩梅は心得てるという事だ。

 

一方、電にはあえて、特定の担当を持たせてはいない。

それは彼女が常に経理方全体へ目を配っており、困っているメンバーの所に歩いていっては

「電がお手伝いするのです」

と、にこっと微笑んで手を貸しているのである。

経理方の誰がいつ忙しくなるか、そして全員の仕事を覚えていないとこうは動けない。

更には手隙の時は皆にお茶を淹れてくれたり、備品類をいつの間にか片付けてくれたりする。

こういう所を見ると暁型なんだなあと思う。

 

こうして。

 

 まぁ忙しいけど、コンスタントに定時をちょい過ぎた頃には終わる

 

という所まで改善していたのである。

 

金曜日の夜。

「お疲れ様ですよぅ、ふわーあ」

欠伸をしつつ引き戸を開けて入ってきた白雪を見た初雪は、ぽそっと言った。

「顔色、悪くないね」

「え?」

「いつもだと、木曜には、明らかな疲れが、顔に、出てた」

「あー・・」

「だから土曜日寝てても、皆で起こさないように、静かにしてた」

「そうだったんですね・・」

「でも、今週は、平気そう」

「んー・・」

週を振り返れば、2週前とは明らかに違う。

暁が元気良く走り回るので雰囲気が明るくなった。

電が全体をサポートしてくれるので、効率よく仕事出来る。

陽炎が不知火と調整してくれるので、仕事の質が改善されている。

そう。

3人が来てくれたから、仕事がしやすくなったのだ。

それはつまり・・

白雪は初雪に微笑んだ。

「そうですね。私もだいぶ、心配事が減りました」

初雪は白雪をじっと見た後、

「ん。良かった」

そう言って、にこっと笑い返したのである。

明日、もし元気に起きられたら土日両方バンジー行っちゃおうかな!?

 

数日後。

「そっか。不知火が負けたか」

「ちょっと予想外でした~」

「困ってるのかな?」

「いいえ。受け取ってくれる分もあるので、丁度分担範囲の再整理が出来てます~」

月例報告に来た文月から、提督は話を聞いていた。

「文月としてはどう思う?」

「さすがお父さんの采配だなって思いました~」

「いやぁ、今回はそこまで考えてないよ。ただそれぞれの希望を通しただけだ」

「希望を聞いてくれるから、頑張れるんですよ~」

「まぁ、事務方と経理方が回ってくれないと鎮守府の息の根が止まるからね」

「お父さんはそうやって、評価してくれるから嬉しいです~」

「いつもありがとう、文月。よし、それじゃ今月も頼むよ」

「は~い!」

 

パタンと閉じたドアから窓に目を向けつつ、提督は思った。

本当に、一人一人が頑張ってくれるから、この鎮守府は回っているのだと。

「・・よし、じゃあ次の子が報告に来る前に1枚でも書類を片付けるかな」

そう言いつつ書類を手に取った時。

 

コンコンコン。

 

どうぞと応じる秘書艦の比叡の背中を見つつ、提督は苦笑いした。

うちの子達はほんと時間に正確だね。事務方の次は経理方の月例報告か。

果たして扉を開けたのは白雪だった。

「ん。時間ピッタリだね」

「正確さは経理方の必須事項ですから」

「お、先日に比べると顔色が良くなったね」

「ええ。初雪にも言われました」

「自分ではどう?」

「土日ともバンジーを楽しめてます!」

「そりゃ良かった。じゃあ今度は水曜日の夜も楽しめるようになると良いね」

「え?水曜日の夜ですか?」

「うん。週の真ん中に楽しみがあれば1週間は早いよ」

白雪はポリポリと頬を掻いた。

「積極的に遊ぶ事を推奨される司令官なんて聞いた事無いですよ?」

「頑張る子には楽しんで生きて欲しいだけだよ」

白雪は目を瞑った。

こんな人だからこそ、忙しくても私はここを離れたくない。

大本営の雷からは毎月のようにお誘いの手紙が届くけど、大本営は横槍が多過ぎる。

なにより、バンジー出来る場所が遠いし高いし外出手続きが面倒臭い。

ふふっと笑った白雪は、すっと目を開けると

「では、月例報告に入りますね」

と言った。

 

 




はい。
昨日から全部読み直してるのですけどね、間違いの多さに辟易してます。
司令官というのは提督以外の司令官で、提督ってのはソロル鎮守府の司令官1人だけというルールが徹底されてなかったり、鎮守府内で通用する通貨は「コイン」で、外で通じるのが円等の各国通貨というルールが徹底されてなかったり、木曾を木曽と書いてたり、工廠長の口調がだいぶ違ったりと、改めて読んでみると違和感を感じるところがちらほら。
なので全編読み直しての大訂正キャンペーン中です。
シナリオに影響するような訂正はしませんのでご安心ください。

ちなみに、ご指摘のあったあの3文字は誤字では無いんです。
お疲れかと言われるくらいクオリティが下がってますかね…

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