艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(81)

提督はキョロキョロと見回し、見つけると声をかけた。

「日向!」

「うむ!」

「日向が旗艦となって即応態勢を取ってくれ。編成は一任する」

日向がざっと会場を見渡して叫んだ。

「夜戦だ。第1分隊は伊勢、金剛、比叡、青葉、衣笠!正面から行くぞ!」

「はい!」

「第2分隊は霧島を旗艦とし、榛名、妙高、羽黒、北上、大井とする」

「はい!」

「第2分隊は浜を見通せる高台についたら連絡をチャネル5で送れ!準備完了後出発!」

霧島はメンバーを見回しながら言った。

「皆良いかしら?では第2分隊、出発します!」

提督は眉をひそめた。

「事故、侵略、誤攻撃、あらゆる事態を想定せよ。日向、行くぞ」

だが、立ち上がった提督を日向が押しとどめた。

「待て提督。先に私達で状況を調べてくる」

提督は反論しようとしたが、日向の目を見て言葉を飲み込んだ。

「・・よし、充分、気を付けるんだぞ」

日向は頷いた。

「解っている。残る者は皆、提督の警護を頼む」

いつの間にか会場に居た艦娘達も深海棲艦達も兵装を展開し、提督の周りを固めていた。

先程までの陽気とは打って変わった、静かで冷たい意思。

ル級はそっとセンサーを起動したが、島の外は警備している仲間以外の反応はない。

一体何があったのだろう。

日向は頷いた。

「では行ってくる」

 

「・・ケホッ。龍田、睦月、東雲、瑞鳳、不知火、返事をしろ!」

長門はもうもうと立ちこめる煙に向かって呼びかけた。

少し時は遡る。

瑞鳳は1回目こそ失敗ペンギンが出たものの、2回目に本当に整備ドックを引き当てた。

これには瑞鳳本人が目を丸くしたが、睦月達は目を輝かせた。

「さすが瑞鳳さん!じゃあちょっと改造してきますにゃーん」

睦月と東雲はドックの機械室の中にひょいひょいと入っていった。

程なく、鋼材を叩く音や溶接の火花が散り始めた。

「もう作ってしまうのか?そもそも図面も無しに作れるのか?」

長門は眉をひそめたが、龍田は

「あの子達に頭の中に図面が入ってるんでしょうね~」

と言ってその様子を眺めていた。

「ええと、私はもう用済みなのかな?」

瑞鳳は長門に訊ねた。

「戻っても良いと思うのだが・・龍田、どうする?」

「えっとねー、一応あの子達が帰ってくるまで居てくれるかしら?」

「じゃあ料理だけ持ってきても良いですか?食べたいのがあるんです」

「いいわよー、不知火ちゃーん」

「はい」

「瑞鳳さんと一緒に料理持ってきてくれる?ここで皆で食べましょう」

「解りました」

会場に戻った不知火と瑞鳳は、6人分の各種料理と飲み物を調達。

瑞鳳は格納庫に食料を満載し、不知火は両手に飲み物を持って帰ってきた。

二人を見つけた龍田はドックに向かって声をあげた。

「瑞鳳ちゃん達が料理持って来たわよー、ちょっと戻ってらっしゃいなー」

その直後、浜に居た面々は爆発音と共に煙に包まれたのである。

 

「うん?長門の声がしないか?」

日向は傍らに居る伊勢に話しかけた。

「そうね。会話からすると龍田さん達も居たようね」

「すると、先程のは何らかの事故か?」

その時、通信が入った。

「霧島です。島の高台に到着しました」

「日向だ。浜の状況はどうだ?」

「日向さん達と森を挟んだ反対側で、大きな煙が上がってます」

「浜に煙が立つような物があったか?」

「ええと・・何か大きな建物らしき物が見えます」

「建物?!」

「なんというか・・鎮守府の工廠みたいです」

日向は伊勢と顔を見合わせて首をひねった。

そんな大きな物は無かった筈だ。

日向はインカムをつまんだ。

「文月、ル級は傍にいるか?確認したい事がある」

「はい。隣にいらっしゃいますよ。何を聞けば良いですか?」

「浜に建物が出来てるらしい。深海棲艦は建物を作って襲撃するか?と」

ややあってから文月が答えた。

「ル級さんは周囲の深海棲艦数は変わってないし、そんな襲撃方法は無いと言ってます」

「解った。ありがとう」

日向は再び霧島との回線を開いた。

「霧島、攻撃の可能性は低い。また、長門の声がした。事故の可能性が高い」

「解りました。それでは私達も急行します」

「足場に十分注意するんだぞ」

「お任せください」

通信を終えた日向が立ち上がった。

「長門達が事故に遭った可能性がある。これより被害状況の確認と救出に入る!」

「はい!」

日向は浜に向かいながら、残った面々にインカムで説明を始めた。

 

それから30分が過ぎた。

浜には会場に居た全員が揃い、吹き飛んだ物の片付けも済んでいた。

「じゃあ結局、睦月が小破して、東雲の服がススで汚れた以外は被害も無いんだな?」

「・・はい」

被害は二人に加え、ドックの天井が木端微塵に吹っ飛んだ以外は奇跡的に軽微で済んだ。

そして砂浜に到着した提督の前でしょぼんとする龍田達、という構図である。

近年、長門や龍田が下手を打つ事は無かったので実に珍しい絵である。

被害程度が小さかった事もあり、艦娘達は興味津々の目でそっと見守っていた。

提督は面々をゆっくり見まわした。

「なんでまた、こんな夜更けに工事なんてやったんだい?」

長門が目を逸らしながら答えた。

「その・・提督が実験台にされる前にだな、こっちで装置を作ろうとしたんだ」

「実験台って?」

「司令官の不老長寿化装置だ」

提督は睦月の服から埃を払い、膝をついて睦月を正面から見た。

「睦月、そんな物作れるのかい?」

「建造工廠を改造すれば出来ると思って、その改造をしてたんですにゃー」

「うん?建造用の工廠なんてこの浜にあったの?」

瑞鳳がそっと手を挙げた。

「あ、あの、東雲ちゃんと二人で開発しました」

「建造工廠って開発できるの!?」

「あ、あはは・・出来ちゃいました」

「食事の用意は?」

不知火が手を挙げた。

「私と開発が終わった瑞鳳さんの二人で運びました」

提督は手を額に当てた。

「ええと、話を整理すると、早く不老長寿化装置を作りたいという事になった」

「あぁ」

「睦月と東雲がドックを改造すれば出来ると見当をつけて・・」

「にゃー」

「瑞鳳の強運で建造工廠を開発し・・」

「はい」

「瑞鳳と不知火が食事を運んできた時、本当に出来たドックの改造に失敗して・・」

睦月が首を傾げた。

「ええと、改造は成功したんですにゃー」

皆が一斉に睦月を見た。

「えっ?出来てたの?」

「はい。ただ、1度も使ってない工廠だったので、エネルギーが満ち溢れてたんですにゃー」

「・・うん」

「なのに改造後の再起動手順を間違えて通常レベルの場合でやってしまったんですにゃーん」

「・・手順間違えると爆発するの?」

「簡単に言うと電池をショートさせたようなものですにゃーん」

提督はがくりと頭を垂れた後、しばらくわしわしわしと睦月の頭を撫でていた。

そして長門達全員を1度見回した後、話し始めた。

「君達の一人でも沈んだら私は後を追うよと言ったの、覚えてるかな?」

「あれは脅しじゃなく、私はそれくらい君達の命を大事に思ってるんだよ」

「だから君達にも、私の命と同等に、自分達の命を大事にしてほしい」

提督は睦月を撫でる手を止めると、東雲と睦月をぎゅっと抱きしめた。

「怪我の程度が軽くて良かった。まずはそれが何よりだ」

「私の為に動いてくれるのは嬉しいけど、安全はきちんと確保して作業するんだよ」

睦月と東雲は提督にぎゅっと抱き付いた。

「ごめんなさいですにゃー」

「ごめんなさい、提督」

「・・ん。よし。ちゃんと謝れるのは良い事だ」

龍田達がそっと近づいた。

「提督、私も軽率だったわ。ごめんなさい」

「すまぬ。なるべく早く相談したかったのだが、鎮守府に戻ってからするべきだった」

「え、えと、ごめんなさい」

「不知火にも・・落ち度はありました」

提督は顔を上げると、瑞鳳と不知火に向いて言った。

「瑞鳳と不知火に落ち度はないよ。巻き込まれただけだね」

 

 


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