艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(80)

浜辺がやけに盛り上がり始めた頃。

「ヘイ提督ゥ!ちゃんと楽しんでますカー?」

背後からかかった声に提督は振り向いた。

「おかげさまでね。金剛、本当に君はこういうパーティにピッタリだね」

「ありがとうございマース!ピザ持ってきたけどどうですカー?」

「おっ、良いね。頂こう。ル級は要るかい?」

「提督ガ食ベルナラ食ベルヨー」

ル級の反応を見た金剛が一気にジト目になった。

「提督ゥ~?」

「はい?」

「またコナかけてますネー?時間と場所をわきまえなヨー!」

「・・え?何が?」

金剛はがくりと頭を垂れた。本当にこの提督は・・この提督は!

「もう良いデース。ピザあげマース」

「変なの・・おっ!こりゃ美味い!ソースが絶品だ!」

「そ、そう?それ、私が作ったんデース」

「お店に出せる味だよこれ!旨い旨い!」

「ふっふーん、私の実力、見せてあげるネー!このトッピングもどうですカー?」

「うん!イケる!シンプルだけどベーコンの塩味がチーズと合うね!」

「頑張って試行錯誤重ねましたデース!」

「金剛はちゃんと努力する子だよね」

「What!?」

「大胆なように振舞うけど、細かい所まで気を配ってるよね。お姉ちゃんらしいというか」

「ウー、提督ちゃんと見てくれてるんですカー?」

「全部見えてるわけじゃないけどね、報告書とか、こうして会った時とかね」

「あ、ありがとうございマース」

「こちらこそ、班当番の子達を上手にまとめてくれてありがとうね」

提督は金剛の頭をぽんぽんと撫でた。

「あ・・」

「ピザ美味しかったよ。良かったらもう少し貰っても良いかな」

「は、はい。全部あげマース」

「良いの?ありがとう。ほらル級も食べてごらんよ。これ美味しいよ」

「じゃあミーは次行きマース」

「足元気をつけてね」

「ハーイ」

ふらふら歩く金剛の少し後ろをついていきながら、比叡は思った。

作った料理を褒めて貰うのは嬉しい事です。

あんなに顔を真っ赤にしちゃって・・金剛姉様はやはり、提督の事が好きなんですね。

Lv99まではまだだいぶありますけど、頑張ってくださいね。

私も応援しますからね!

 

金剛が去った後、提督の背中にドンという衝撃が走った。

「おおう!なんだなんだ!?」

「オ父サーン!」

「おや、北方棲姫じゃないか。じゃあ侍従長さんも一緒かい?」

「ウン!向コウデオ話シテルヨ!」

ル級は提督を父と呼ぶ北方棲姫を見てぽかんとしていた。

「エ・・アノ・・オ父サン?」

提督は北方棲姫を膝の上に乗せると、ル級にパタパタと手を振った。

「本当の親子じゃないんだけどね、そう呼びたいって言うからさ」

「オ父サン、コノ人ダーレ?」

「えっとね、鎮守府の周囲の深海棲艦の皆をまとめてくれる、ル級さんだよ」

「フーン」

北方棲姫は机から顔を半分だけ出してじいっとル級を見た。

「エ、エト、ナンデショウ?」

戸惑うル級を更にしばらく見つめた後、北方棲姫はニヤリと笑うと、

「オ父サンニ、ホノ字デスネ?」

途端に真っ赤になったル級はバタバタと両腕を振って否定した。

「イッ!イヤイヤイヤ、チ、違イマスヨ、何言ッテルノコノ子!」

「こーら、初対面なのに変なこと言わないの」

提督にくしゃくしゃと頭を撫でられた北方棲姫は邪悪な笑みを絶やさぬまま

「私ハ北方棲姫デス。競争相手ダラケダケド、頑張ッテネー」

と言い放ち、ル級は耳まで真っ赤にして俯いた。

「基地の子皆で来たの?」

「ウウン。全員ジャ島ニ入リキラナイカラ、私ト侍従長ダケダヨー?」

「そっか。他の子はどうしてるの?」

「基地デ、クリスマスパーティシテルヨ?出前取リ放題ノ」

「取り放題なの?!」

「他ノ鎮守府ニ海底資源転売シテ、ダイブ稼ゲタカラ、ボーナス!」

「何それ聞いてないよ?」

「人間トシテ帰ル子達ノ路銀稼ギダッテ、侍従長ガ言ッテタ!」

提督はくいくいと北方棲姫の頭を撫でながら思った。

深海棲艦が採掘した資源を買う鎮守府なぁ・・・人の事言えないけど。

まぁ、理由も解るし、聞かなかった事にしようか。

「オ父サンオ父サン」

「どうした?」

「アノサンドイッチ、美味シカッタ?」

「チーズとトマト挟んである奴?美味しかったよ」

「アーン」

「何、食べさせろって?しょうがないなあ・・・ほら」

「ンフフフー、オ父サン大好キー」

「そうかそうか。もう1つ食べるか?」

「ウン!」

「ほれ、あーん」

「アーン」

ル級は北方棲姫と提督のやり取りを苦笑しながら見ていた。

なんだかさっきの文月と提督のやり取りと重なる気がする。

どっちもキレ者っぽいし。自分はどっちにも歯が立ちそうにない。

でも、親としてはきちんと行儀の良い子に育ってほしいし。

・・あれ?何でそんな事を気にしてるんだろう。

その時、北方棲姫がひょいと地面に降り立ちながら言った。

「ジャ、侍従長ノ所行ク!ソロソロ怒ラレチャウカラ!」

「転ぶんじゃないぞー」

「ハーイ!」

 

「あー、本当に賑やかなクリスマスになったなあ」

その後も何人かの艦娘達と話した提督は、お茶を飲みながらル級に言った。

「提督大人気デスネー」

「そうかね。そうだとしたら嬉しいね」

その時、文月が帰ってきた。

「お父さん、ただいまですよ~」

提督は膝の上に文月を乗せつつ言った。

「おかえり文月。ちゃんと食べたかい?」

「近年無いくらい食べました」

「楽しんできた?」

「ビンゴ大会でオモチャ貰いました!」

「そうか。よしよし」

「お父さんは楽しめましたか?」

「そうだね。ル級さんの話も聞けたし、料理は本当に美味しかったし、なにより」

「なにより?」

「この場に居る皆が楽しそうに笑ってる。それが嬉しくてね」

「・・そうですね。皆が笑ってるって、良いですよね」

「あぁ」

文月はダンスを披露する舞風や、声援を送る皆を見て微笑む提督の横顔をじっと見ていた。

もし仮に、お父さんじゃない司令官の居る鎮守府に着任していたら。

私は事務長になる事も無く、1隻の駆逐艦として出撃する日々だったろう。

いや、それならまだ良い。

虐待する司令官や艦娘を売り飛ばす司令官、犯罪の片棒を担がせる司令官だっている。

そんな事をさせられている子達との違いは、どこに着任したかに過ぎない。

「・・お父さん」

「うん?」

「深海棲艦の皆さんを救うのも重要なんですけど」

「うん」

「いつか余裕が出来たら、可哀想な艦娘の子達も救ってあげたいですね」

提督はル級を見た。

「深海棲艦になるような結末になる前に、か」

ル級は寂しそうに頷いた。

「モシ、アノ時、提督ガ助ケニ来テクレタラ、ル級ニハナラナカッタヨー」

「中将殿はそっちを何とかしようとして、腐敗撲滅に取り組んでるんだけどね・・」

「最近は、あまり目立った成果を聞いた事が無いですよね」

「幾つか検挙事例はあるけどね」

「お父さんのように、コンスタントに成果をあげ続けてるわけじゃないので・・」

「それに、深海棲艦を連れ戻すのは海軍の主目的に沿うけどね」

「はい」

「海軍の腐敗を正すのは、まず腐敗がある事を認めなきゃならない」

「はい」

「その上で、それによって甘い蜜を吸ってる人々を粛清しなきゃならない」

「はい」

「・・まぁ、物凄い抵抗に遭うと思うよ」

「そうですね」

「だから沢山の味方を作っておかないといけないね」

「味方・・ですか?」

「例えば深海棲艦から人間に戻った子達に世論を動かしてもらうとかね」

「なるほど」

「大本営内に、中将以外にも味方を増やすとかね」

「そう、ですね」

「・・それをやるなら、それこそ私が不老長寿にでもならないと厳しそうだなあ」

提督が苦笑したその時、浜の方からボンという爆発音がし、一瞬周囲が明るくなった。

艦娘達もピタリと静かになった後、浜の方を指差してざわめいている。

文月は提督を見た。

「お、お父さん・・」

「え、ええと、あれは何かの出し物・・なのかい?」

「全くそういう予定はありません」

「んー・・あれ、長門はどこだ?」

「いらっしゃらないですね・・あれれ?龍田会長も居ないです」

提督は眉をひそめた。

嫌な予感がする。

 


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