艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

433 / 526
長門の場合(78)

提督は一息つくと、続きを話始めた。

「ええと、どこまで行ったっけ」

「制御装置ヲドウニカシテクレト頼マレタ」

「ああそうだ。その少し前に、ある鎮守府で虐待を受けてた艦娘を保護したんだよ」

ル級の顔が僅かに歪んだ。

「虐待・・」

「そう。その子は苦手だった装備開発を克服したくて、うちでずっと特訓を続けたんだ」

「フウン・・」

「そして開発装置の妖精と話が出来るまで鍛え上げたんだよ」

「ン?開発装置ニ妖精ナンテ居ルンデスカ?」

ル級は一段と頭痛が酷くなった気がした。

もう自分の中の大概の常識は通じなくなっている。

「うん。開発装置の妖精と話せるなら、もしかしてって事で、その子を会わせたのさ」

「ハイ」

「そしたら元建造妖精さんが発生装置から出てきたから、一緒に保護したってわけ」

「・・」

ル級はごくりとつばを飲み込み、ふと目に入った自分の太ももをつねった。

・・うん、痛い。

残念だけど夢じゃない。

「その妖精は艦娘を深海棲艦にするレシピを持っていた」

「ウン」

「その子は妖精と会話する事が出来るから、厳密に処置を指示する事が出来た」

「ハイ」

「だからその二人で、深海棲艦を艦娘に戻す方法をあみだしたって訳」

「!」

「ついでに、その妖精が居るから、傷ついた深海棲艦を治す事も出来るってわけだよ」

ル級は二日酔いのようにズキズキ痛む頭で必死に理解しようとした。

結論から考えるに、提督の言ってる事は本当の事なのだろう。

その経緯が無ければその結論に至る事はありえない。

だが、イチイチ全ての事象が普通の鎮守府ではありえない。

なぜならそんな案件にかまう司令官など居ないからだ。

更に言えば深海棲艦の間に伝わる常識に照らしてもかなりの部分で相違がある。

「エ、エト、ソノ子トソノ妖精サンハ・・」

提督は辺りを見回した後指差し、

「ほら、あそこにいる睦月と、その隣の妖精。東雲ちゃんて言うんだよ」

ル級はハッとしたように

「東雲組!」

「そう。信頼と実績のスペシャリストだよ」

「ダ、ダカラ、コノ鎮守府デシカ艦娘化出来ナインデスネ・・」

「今はそうだけど、将来的には広がるよ。いや、広げてみせる」

「ドウイウ事デスカ?」

「睦月や東雲が居なくても、無人で艦娘に戻せる装置を開発する事にしたんだよ」

「エ・・」

「うちの研究部隊を総動員して当たらせてる。何としてでも実用化するつもりだよ」

「ソ、ソレハ、ドウシテデス?」

「私だっていつか寿命を迎えるし、引退する日が来る」

「ハイ」

「そうなっても、君達が艦娘に戻れる道を絶対に残したいんだよ」

「・・ナゼ?」

提督はふふっと笑った。

「だって、艦娘に戻れるなら、君達は絶望しないでしょ?」

ル級は提督を見た。

提督はニコニコしていた。

ル級はずっとモヤモヤしていた事を訊ねてみる事にした。

「ドウシテ・・深海棲艦ノ行ク末ニソンナニ気ヲ配ルノデスカ?」

「深海棲艦になりたくてなった子は少ない。でも戻る術がないのが現状だよね」

「ハイ」

「だからこそ深海棲艦になった事にショックを受け、希望を失って自棄になる」

「・・」

「深海棲艦が人間や艦娘に襲い掛かってくるのは、そういう気持ちが根底にあると思う」

「・・」

「望みをつなぐ事が出来れば、牙を剥き合うだけの関係から進められる気がする」

「・・」

「あくまで私の推定でしかないけどね」

ル級は目を瞑った。

この人は嘘をついてない。今言った通りに思ってる。

それなら。

「・・キット」

「うん?」

「キット、提督ノ言ウ事ハ、思イハ、深海棲艦達ヲ動カスト思ウヨー」

「そうかなあ。そうだと良いなあ」

「戦ワズニ済ムコノ海域ニ、ドンドン深海棲艦達ガ集マッテイルノガ何ヨリノ証拠ヨー」

「・・へ?」

提督の顔色が悪くなったので、ル級は手を振った。

「・・アァ、安心シテ。1万体ハ超エテナイデスヨ。艦娘ニナルヨウ説得シテマス」

「そ、そうか」

「デモ、艦娘ニ戻ッテル子達ト同ジ位、新タニ来テイマス」

「・・そう、か」

「最近ハ日向サンノ基地ニ行クヨウニ案内シテマス」

「ありがとう」

「イエ。サッキモ言イマシタケド、戻リタイ子ハ結構ナ割合デス」

「・・例外的割合でもないのか」

「エエ。怒ッテ興奮シテル子デモ落チ着イテ話セバ、戻リタイト言ッテ泣キマス」

「・・可哀想になぁ」

「ダカラ私達ハ、提督ナラ信ジテ良イヨッテ言ッテ送リ出シテマス」

「そうか」

「モットモ、最近ハ既ニソノ辺ハ解ッテテ、戻ル為ニ来ル子達ガ多イデス」

「ほう」

「ダカラ深海棲艦ノ間ニモ、コノ鎮守府ガ知ラレテキテルッテ事デスヨ」

「なら尚更、私が居なくなる前に艦娘化装置を完成させないとね!」

ル級は首を傾げた。

「居ナクナル・・定年デスカ?」

「それもあるし、懲戒免職もあるかもしれないし、病気で突然死って可能性もあるよね」

ル級が目を剥いた。

「ダッ!ダメデスヨ!提督ガ居ナクナッタラ本当ニ大変ナ事ニナリマス!」

「ダメって言われてもね・・病気ばっかりはね・・」

ル級はソロル鎮守府に新しい司令官が来た後の世界を想像した。

うん、色々終わりますね。色々。しかも根底から。

「オ願イデスカラ、少シデモ長生キシテクダサイ」

「深海棲艦に長生きをお願いされる司令官てのも不思議な絵図だよねぇ」

「モウ今更デス。ナンデモアリデス」

「今更か。まぁそうだね。あれ?長門はどこ行ったんだろう?」

キョロキョロする提督に文月が言った。

「長門さんはさっき、龍田さんの所に行きましたよ」

「へぇ、まぁパーティを楽しんでほしいし、良いか。文月も自由にしてて良いからね」

「はい。もう少ししたら適当に回ってきます」

「楽しんでおいで。そういえばル級さん」

「ハイ」

「なんで深海棲艦になったか、聞いても良い?」

ル級は少し俯いた後、ふぅと溜息をついた。

「マァ、良イカナァ」

提督はル級の横に席を移すと、ル級に新しいコップを差し出した。

「ん。よし、聞かせてよ。何飲みたい?」

 

その頃。

「提督が881研究班に人体実験されたらですか~?」

龍田は長門から耳打ちされた事にそう返した後、さらに続けた。

「万が一、提督を5体満足で返さなかったら皆は黙ってないでしょうし・・それに」

「それに?」

龍田は目を細めた。

「私・・止めないですよ。それらを」

長門がうむと頷いたので、龍田はにこりと笑って続けた。

「長門さんだって止めないでしょ~」

「むしろ先陣を切るな」

「あらぁ、先陣は最上ちゃんのICBMに核弾頭搭載した奴でしょ?」

「無論。ありったけの憎悪をこめて大本営に撃ちこんでやる」

「飛騨山脈の地下にある881研究班本陣の換気口が先ですよ~」

「そんな事をなぜ知っている?」

「龍田会のネットワークから~」

「どれだけネットワークとやらは広がってるんだ?まぁ、それはともかくだな」

「ド変態共に提督を渡すわけには行かないわね~」

「その通りだ。どうすれば良いだろうか?」

「そこまで解ってるなら簡単だと思うわよ~?」

「簡単か?」

「ええ。えっと・・あ、不知火さん」

「会長、お呼びですか?」

「睦月ちゃんと東雲ちゃん、それと瑞鳳ちゃんと一緒に、裏の浜にきて~」

「承知しました。お待ちください」

長門は首を傾げた。

なぜ瑞鳳まで呼ぶんだろう?

まぁ、龍田の事だから理由があるのだろうけれど。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。