ル級はカ級と互いにコーラを注ぎあいながら、更に提督に訊ねた。
「ソウイエバ提督ハ、ドウヤッテ深海棲艦達ト話スヨウニナッタノ?」
「ん?聞きたい?」
「スッゴク」
「まぁ別に隠すような事じゃないけど」
「フンフン・・ア、コーラ美味シイ」
「ええとね、何年か前に島流しになってね」
ブフッ!
ル級が飲みかけのコーラを盛大に拭き出した。
「うわっ!ル級さんにティッシュ!それから雑巾!」
「はい!」
ル級は激しくむせ込みながら聞き返した。
「ゲホ!ゲッホゲッホゲホ・・ナンナンダソノ幕開ケハ」
「いや、本当の事だからさ」
「色々ナ意味デ、ハチャメチャダナ提督ハ」
「照れるなあ」
ル級はジト目になった。
「褒メテナイ。チットモ褒メテナイ。何デ島流シニサレタンダ?」
「艦娘を4人も沈ませちゃったって、言ったでしょ」
「アァ」
「その海域に二度と行きたくありませんて、ずっと進撃命令を拒否してたわけですよ」
ル級は更に眉をひそめた。
「ハ?」
「そしたら島流し~って言われた」
ル級は深く頷いた。
「・・妥当ダナ」
「え?うそ?酷くない!?」
「酷クナイ。デ?」
「それが丁度山田シュークリームの下にある岩場だったのさ」
「ウワー、何モ無イジャナイ。事実上ノ死刑宣告ダネー」
「でね、そこに黄昏てるヲ級が居たのよ」
「黄昏テルッテ何?」
「その子は兵装も艦載機も持たずに、岩場に座ってずっと海面を見ていたんだよ」
ル級は首を振った。
「ナニソノ状況。理解出来ナイ」
「話を聞いたら可哀想でねえ」
「ン?チョット待ッテ。ドウヤッテ話ヲ聞イタンダヨー?」
「どうやってって・・隣に座ってだよ?」
「1人デ近ヅイテイッタノ!?」
「だって武器持ってないって解ったし」
「持ッテナキャ行クノカ?!」
「だってもう周囲に縦線入りまくりの落ち込んだ雰囲気で体育座りしてるんだよ?」
ル級は突っ込み疲れて手を額に当てた。
なんか自分がおかしいみたいな話の流れになってるけど、あれ、そうだっけ?おかしいの私かなあ?
もうコーラ飲もう。そうしよう。
ル級は肩をすくめた。
「モウ良イヨ、解ッタヨー、ソレデ?」
「しばらく話を聞いてたら冷えてきたから、お茶でもどうって言ったのさ」
ブフッ!
ル級は涙ぐみながら鼻を手で押さえた。
「ハッ、鼻ニ入ッタヨー!」
「文月!ティッシュ!」
「はいお父さん!!」
「ほらル級、チーン!」
「良イヨ、自分デカメルヨ」
提督からティッシュを受け取った時、ル級は思った。
きっとそのヲ級も、こうやって激しく戸惑ったんだろうな、と。
それに・・
「文月、私はもう手持ちが無い。ティッシュまだあるかな?」
「探してきます!」
「すまんな文月!」
「任せてくださいお父さん!」
ル級は二人のやり取りを見ながら思った。
自分達で言った通り、この二人はまるで親子のようだ。
温かくて、楽しそうで、そして艦娘も深海棲艦も人間と全く区別しない提督。
だからこそ懐柔された・・
いや、自分から打ち明ける気になったのだろう。
落ちついたル級は提督に続きを促した。
「ソレデ、ソノヲ級ト茶ヲ飲ンデ、仲良クナッタノカ?」
「正確には、聞いた話を元に、元々居た鎮守府を一目見たいというから探したんだよ」
「ホウホウ。見ツケラレタノカ?」
「うん。そしたらそこでヲ級の元の同僚が解体されかかっててね」
「ナンデ?」
「ヲ級になった艦娘の帰りを待ち続けて出撃しなかったから」
ル級は頷いた。
そりゃ命令無視なんだから、解体されても仕方ない。
「ウンウン」
「酷いよね、その位で解体するなんてさ」
「ダヨネ・・エ?」
「えって何?」
「ソ、ソレ、解体サレテ当タリ前・・」
「あ、文月ありがと。仲間が行方不明になったら心配するじゃない」
「ハ、ハァ・・」
「だから私がその子を引き取ったのよ」
「今モ居ルノ?」
「ええとね、元ヲ級さんがあの蒼龍、同僚がその隣に居る飛龍だね」
ル級は目を見張った。
「毎日オ世話ニナッテル、甘味処ノ、オ二人ジャナイデスカ!?」
「そうだよ。蒼龍さんは料理も出来るし、気配りも出来る良い子だよ」
なんて変な人と艦娘が揃ってるんだろうとル級は一人思った。
類は友を呼ぶ。そう言いかけてル級は口を閉じた。
それでは自分までこの人達の同類って事になってしまうじゃないか。
いや、断じて違う。断じて私は染まってない!
「ル級さん、ちらし寿司食べないか~い?」
声の方を向くと、ル級の真横に寿司桶を持った涼風が立っていた。
「アタイが作った江戸前ちらし、美味しいよ~」
「ア、ジャア1ツクダサイ」
「はいよ毎度あり~♪」
受け取ったちらし寿司を見ながら、ル級は急にハッとすると、がくりと頭を垂れた。
きっと他の海域の深海棲艦が今の光景を見たら変だと言うだろう・・
あぁ、知らない間に毒されていたなんて・・
「ん?どうしたんだ?ル級さん」
同じくちらし寿司を受け取った提督はル級に声をかけた。
「モウ、ホント、参ッタヨー」
「何が?おっ!これ美味しいよ!涼風の寿司!食べてごらんよ!」
涼風が頬を染めた。
「アタイの寿司美味しいかい?」
「これは旨いね!シャリが良いし錦糸卵の切り方も上手。ネタも良い味付けだね!」
「もう1つ持ってけドロボー!」
「貰っとく貰っとく。ありがとー」
鼻歌を歌いながら上機嫌で涼風が去った後、顔を上げたル級は提督を見た。
もう毒喰らわば皿までだ。
「提督サン」
「はいよ」
「・・モシ、提督サンニ、艦娘ダロウガ深海棲艦ダロウガ襲イ掛カッテキタラネ」
「うん」
「私達、近海ノ深海棲艦ガ総出デ応戦スルヨー」
「ん、それは嬉しいけど、どうして?」
ル級はぷいと横を向いた。
「・・優シクシテクレタ、恩返シダヨー」
「そうか。ありがたいけど死んだらダメだよ。あと怪我したらすぐ言いなさい」
ル級はぐいんと提督に向き直った。
「・・エ?ナンデ?」
提督はもぐもぐと寿司を食べつつ言った。
「うちの鎮守府では深海棲艦の怪我も治せるからさ」
ル級は数秒間、ぽかんとしていたが、
「ハァァァアァァアアアアァ!?」
と、思わず声を上げてしまった。
「ん?なんかあった?」
声に驚いた提督はル級を見た。
ル級は中途半端に手を上げながら、おそるおそる聞いた。
「エ、アノ、艦娘化シテ治スッテ事ダヨネ?」
「いんや。深海棲艦のまま治せるよ」
ル級の顎がかくんと下がった。何言ってるのこの人?
「シ、深海・・棲艦・・エ?」
「いや、出来るんだってば。嘘じゃないよ」
ル級はショックが大きすぎて頭痛がしてきた。
この鎮守府と長い事付き合って、もう大概の事では驚かないと思ってたのに。
「ナ、ナンデ?」
「ええと、どこから説明しようかな・・元々建造妖精だった子が居てね」
「ハイ」
「勤め先の鎮守府が戦闘に巻き込まれて、その子は海に沈んじゃった」
「・・」
「でもその子はどんどん沈んでくる艦娘達を助けたかった」
「ハイ」
「どうやったら良いか解らずに途方に暮れてたら、レシピを贈られたそうだ」
「レシピ?」
「轟沈した艦娘を深海棲艦として蘇らせるレシピを、ね」
ル級は絶句した。
「その子はずっと、自分は治療してると信じて疑わなかった」
「・・」
「でも、沈む前の艦娘達の負の思いに左右されて、様々な深海棲艦になってしまう」
「・・」
「時には鬼姫にまでなってしまったそうだ」
「・・」
「私達はヲ級の件以来、深海棲艦から相談を受けるようになっていてね」
「・・」
「暴走する深海棲艦発生装置兼治癒装置があるが、何とか制御出来ないかって言われたんだ」
「ハァ」
そこで提督は、コップに入っていたウーロン茶をぐいと飲み干した。