艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(76)

「・・・おや?」

下る小道の最後の曲がり角に差し掛かったとき、提督は耳をそばだてた。

「どうしました?」

妙高が提督に振り返る。

「なぁ妙高、人の気配がする。ここは無人島じゃなかったのか?」

「無人島ですが、今夜は沢山居ますよ」

「どういう事だい?」

「ご心配なく。ご自身の目でお確かめを」

「おいおい、押さないでくれって」

ぐいぐいと妙高と長門に押し出された提督が曲がりきった途端。

パーン!パパーン!

クラッカーが何発も盛大に鳴り響いた後、提督に眩しい光が向けられた。

「うわっ!なんだなんだ!?」

手を顔の前にかざしつつ身構える提督に届いたのは、金剛の明るい声だった。

「イェース!テートクゥ!お腹空かせてきましたカー!?」

「・・へ?あ、あぁ」

「皆さーン!せーの!」

 

 「メリークリスマース!!」

 

大歓声と共に光が消え、提督がようやく見えた先には、

 

「提督と祝い隊!クリスマス会!」

 

という横断幕がかかり、それぞれのテーブルには沢山の料理やお菓子が並んでいた。

そして各テーブルには艦娘や深海棲艦達が並んで座り、割れんばかりの拍手をしていたのである。

提督はぽかんとした後、ふぅと小さく溜息をついた。

「見事にやられた・・妙高、長門、演技が上手くなったじゃないか」

「視察自体は本当の用事でしたからね」

そう言ってくすくす笑う妙高。

長門がしてやったりという満足気な顔で

「さ、旦那様の席はこっちだぞ」

というと、テーブルの1つに案内した。

 

「テートクも揃った所で、皆さーン、飲み物は行き渡りましたカー?」

「イェーイ!」

「お腹空きましたカー!?」

「イェース!」

「VeryGoodネー!ではパーティの始まりデース!」

「イェア!」

提督は皆と一緒にコーラのコップを高く掲げた後、長門に話しかけた。

「瞬く間にクリスマスパーティが料理の分捕り合戦になったね」

「まぁそういうものだ。皆も準備で腹ペコだろうしな」

「これは長門の発案なのかい?」

長門は肩をすくめた。

「最初に、提督に休みと気分転換をと提案したのは文月と私だが、後は皆の意思だ」

「そうか・・お、ありがとう文月」

提督に対し、長門と反対側にちょこんと座った文月は、提督に取り分けた料理を渡した。

「今日の料理は皆で作ったんですよ~」

「ほう。間宮さんと鳳翔さんの料理かと思ってたよ」

「今日は間宮さんや鳳翔さんも含めて、普段休んでない人の慰労会も兼ねてるんですよ~」

提督は頭をカリカリと掻いた。

「大鳳の事をとやかく言えないね」

「そうですよお父さん。ちゃんと休んでくださいね。事務方だって休日があるんですから」

「ほう。休みを計画的に取ってるんだ」

「ずっと前からですよ。皆で交代で休んでるんです」

「そっか。部下の健康を考えてるのか。文月は良い上司だね。偉い偉い」

「えへへへへ~」

だが、長門がにやっと笑った。

「とはいえ、文月が本当の意味で休めるようになったのは最近だがな」

「な、長門さん!」

「ありゃりゃ。部下の事ばかりで自分は休んでなかったのかい?」

「どうしても決済とか、判断しなきゃいけない事があると、つい・・」

「解る解る」

長門が頷いた。

「まさに似た者親子だな」

提督が苦笑した。

「違いない。かくいう長門も休日まで朝晩の巡回をしてるしな」

「そっ、それは・・あれだ」

文月もうんうんと頷いた。

「休日に頼まれたら休み返上で頑張っちゃってますし」

「んなっ!?」

提督と文月はニヤリと笑いながら長門を見て

「娘は親に似るからな、長門」

「お母さんと似てて良かったです」

長門が顔を真っ赤にして慌てた。

「おっ・・おおおおおお母さん!?」

その様子を見ていたル級がくすくす笑いながら言った。

「仲睦マジイ親子ガ居ルヨー、微笑マシイヨー」

「おぉル級さん。来てくれたんだね。ありがとう」

「コチラコソ、楽シイ宴ノ席ナンテ物凄ク久シブリダカラ、嬉シイヨー」

「深海棲艦の皆ではこういう事しないの?」

ル級は首を振った。

「ココダカラ辛ウジテ理解出来ルケド、他ノ海域デハ戦時中ダカラネー」

「一応ここもそうなんだよ?」

ル級はケーキを賭けた輪投げに熱狂する金剛達を見ながらジト目になった。

「深海棲艦ノ拠点ハ、モット殺伐トシテルヨー。戦時中ニハ到底見エナイネー」

「まぁ色々なやり方があるって事さね」

ル級は提督を見た。

「マァ確カニ、ウチノ海域ノ子達モ含メ、深海棲艦ノ数ハ減ッテルヨー」

「うん」

「デモ、ソレハ殺サレテ、再ビ恨ミナガラ沈ムノトハ訳ガ違ウカラネ」

「戻りたいと希望する子に、その道を示して、納得したら戻ってもらう、だからね」

ル級は大皿からサンドイッチを取りながら肩をすくめた。

「鎮守府ト、コンナ幸セナ関係デ居ラレル深海棲艦ハ本当ニココダケダヨー」

提督は頷いて言った。

「別に仲が良かろうと、任務をこなしてる以上は文句を言われる筋合いは無いからね」

ル級が笑った。

「艦娘ヤ人間ニ戻リタイ深海棲艦ハ沢山居ルカラネ。ソコニ気ヅイタ提督ノ勝チダヨー」

提督はフライドポテトをつまんだまま、寂しそうに言った。

「そうだね。幾人かから聞いたが、深海棲艦になった理由は聞くに堪えない」

「・・」

「なりたくてなった訳じゃない。周囲が、上が、酷すぎる」

ル級はちらりと提督を見て、ぎょっとなった。

「・・本当に・・可哀想だよ・・」

「提督・・私達ノ為ニ泣イテクレルノ?」

「うん。あ、いや、戻ってきた子達の話を思い出してしまってね。ごめん」

文月がそっとティッシュを提督に差し出した。

「ありがとう、文月」

ル級は肩をすくめた。

「提督ノ部下ナラ深海棲艦ニハナラナサソウダヨネー」

涙を拭いた提督は首を振った。

「いや、私は昔、差配を間違えてな。4人も沈ませてしまった事がある」

「ソウナノ?」

「ああ。その1人は深海棲艦になり、私が居た鎮守府を火の海にしたよ」

ル級が慌ててテーブルの下を覗き込んで、再び戻った。

「なんだい?」

「足、アルヨネ、提督」

「・・ああ、幽霊じゃないよ。その時私達は引っ越していたからね」

「ソウダッタンダ」

「でも、経緯を考えれば私を恨む気持ちは良く解るんだよ」

「ソノ深海棲艦ハドウナッタノ?マタ襲ッテクルノ?」

「いや、許してくれたし、今は艦娘に戻ってる。ほら、あの陸奥だよ」

「エ?アノ宝石工房ノ?」

「うん」

「今見ルトソウトハ思エナイネ・・ソレナラ良イケド」

「心配してくれるのかい?ありがとう」

ル級はにっと笑った。

「私達ニトッテモ大事ナ提督ダカラネ」

「そっか」

「私達ノ為ニ、色々シテクレルノハ世界デココダケデス。レ級達モ言ッテタヨー」

提督は苦笑した。

「食べ物って大事だなぁ。味の好みが合ってて良かったよ」

「違ウヨ。深海棲艦ダカラト差別シナイッテ事ニ、恩義ヲ感ジテルッテ事ダヨー」

「協力してくれるんだから、感謝こそすれど差別する理由が無いじゃない」

「デモ、他ノ鎮守府ハ見ツケタラ撃ッテクルヨ?」

提督は腕を組んだ。

「自戒も込めて言えばね、そこはやっぱり司令官の勉強不足というか、怠慢だと思うんだよね」

「怠慢?」

「軍の教育で、深海棲艦とは話し合いなんて出来ないって言われる訳だけどさ」

「・・ソッカ」

「でもさ、こうして鎮守府の近海にも普通に居るわけじゃない」

「ソウネ」

「だから司令官がその目で見て、5分10分話してみる気があれば解る。かくいう私もこっちに来て解ったわけだけどね」

ル級が苦笑した。

「イヤ、5分トイウカ、一言声ヲカケルノダッテ、大変ナ勇気ガ要ルト思ウヨ?」

「それこそ最初は一緒にご飯食べるとかさ、色々あるでしょ方法は」

「ソコマデ考エルノ・・提督クライダト思ウヨ?」

「そうかなー」

 

 


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