艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file43:妖精達ノ休暇

 

4月16日昼 ソロル本島浜辺

 

「今日も良く晴れたなあ」

提督は両手に荷物を持ち、砂浜を歩きながら、秘書艦の長門に言った。

長門も手に幾つかの包みを持っている。

長門は全部持てると思ったが、提督は前が見えなくなるから危ないと言って聞かなかった。

「そうだな。毎日日焼け止めがかかせない」

「年頃の女の子だもんな」

「そうだ。提督だけがそう言ってくれる」

「他は何と言うんだ?」

「大番頭とか、ヒーローとか、ボスとか」

「ははははははは」

「わっ、笑い事ではない!」

「い、いや、悪かった。誰がそう呼んでるのかすぐ想像がついてな」

「困っているのだ。提督からも何か言ってやってくれ」

「え?小さくて可愛い物大好きとか、ぬいぐるみ収集してるとか、超甘党だとか・・・」

「わあぁぁ!何故それを知ってる!絶対言うなああああ!」

「はっはっは」

 

「やっとバカンスに入ったというのに、早速騒がしいのが来たわい」

工廠長は横縞のクラシカルな水着を着て、パラソルの付いた寝椅子に寝そべっていた。

時折海ではしゃぐ妖精達を見守る目は優しかった。

大きな体型といい髭面といい、まるで休暇中のサンタクロースのようである。

現在、新しい工廠に掲げてあるのは

 

「妖精一同バカンス中。呼ぶ・ダメ・ゼッタイ!」

 

という横断幕である。妖精達の力強い筆使いが並々ならぬ決意を感じさせる。

最初に工廠を訪ねたのは天龍だったが、その気迫に圧倒されて

「で、出直すか・・・」

と、すごすごと帰ったほどである。

 

鎮守府完成の翌日、工廠長は不具合が無いか見回り、工廠で待ったが、特に問題は起きなかった。

そして夕食を取っていた時に妖精達が寄ってきて、横断幕を見せながら休暇を提案してきたのである。

さすがに横断幕まで掲げるのはやり過ぎではないかと工廠長は妖精達に言ったが、

「艦娘を作り、皆の住まいを作り、沢山沢山貢献した」

「これで休みも取れないのなら全員で出ていく」

「工廠長働き過ぎ。休みも大事」

と、腰に手を当てた妖精達からたしなめられ、まぁ良いかと納得した。

そして翌朝、つまり今朝、妖精全員で横断幕を掲げて浜に来たのである。

「さて、何事かな?」

寝てるふりをしながら工廠長は思った。島を拡張してくれとか言うんじゃあるまいな。

 

「やぁ妖精の皆!お昼御飯持ってきたよ~」

提督が声をかけると、妖精達は一斉に工廠長を見た。工廠長は片目を開けると

「良いよ、あがっておいで」

と言った。

その声を皮切りに、わっと提督の元に駆け寄る妖精達。実に可愛い。

提督と長門は包みを開けた。中には、お重と取り皿、飲み物や箸が入っていた。

お重に詰められたおかずやおむすびは全て妖精サイズに作られていた。

鳳翔と間宮の力作は、次々と妖精達のお腹に消えていった。

「提督」

「工廠長。横断幕見たよ。バカンスがすっかり遅くなってしまったね。ゆっくり休んでくれ」

「ん?」

「・・なんだい?」

「何か用事ではないのか?」

「バカンス祝いに昼食を持ってきたんだが」

「・・・それだけか?」

「何故そんなに疑いの目で見る?」

「過去の実績上、な」

「やだなあ、何も無いよ。本当に」

「本当か?島を倍に広げろとか、地下要塞作れとか、大陸間弾道ミサイル作れとか」

「どんだけ人でなし提督なのよ私は」

「先月末の事を考えるとな。のう皆?」

妖精達に目を向けるが、おかず争奪戦の真っ最中で全く聞いてない。

可愛いから許す。

「そ、その、工廠長、すまん」

「ん?なぜ大番・・いや、長門が謝る?」

「あ、あの指令は、私達が偽装したのだ」

工廠長が目を見開いた。

「なにっ!?3日間で全艦娘1セット作るという、あの指令か!?」

「そ、そうだ」

「て、提督の承認印が押してあったぞ」

「それは」

提督が長門の声を遮った。

「そうだよ工廠長。経緯はともあれ、私が承認したのだ」

「提督!あの時私達は細工をして見せないように」

「そうであろうと承認したのは私で、理由は私を思っての事だろ?」

「あ、それは、その通り、なんだが・・・で、でも!」

「それなら、私の責任であっているよ。」

「提督・・」

「ただし」

「?」

「次は最初から言いなさい。変に遠慮しなくていい。泥を被る時は一緒だ」

「提督・・すまない」

長門がうつむいた。きらっと涙が落ちるのが見えた。

「良いから、ほら、よしよし、泣かないの」

提督はそっと、長門の頭を撫でた。

工廠長は黙ってやり取りを見ていたが、

「ま、今回は提督に免じて許してやろう。もうやるなよ長門」

と、言った。

提督もちゃんと艦娘を掌握して動かしているな。

うちの妖精達ほど可愛い物はこの世に無いが、2番目位には置いても良い。

「そうだ、工廠長」

「ほら来た。なんだ?」

「違います。いつまでバカンスの予定なの?」

「おぉそうか、書いてなかったな」

妖精達が一斉に工廠長を見て、口々に言い出す。

「3ヶ月!」

「半年!」

「1年!」

「お前達・・・その間何をするつもりだ」

「遊び倒す!」

「・・・・・」

提督はポリポリと頬を掻いた。とりあえず黙っておこう。

「わしも少し疲れたから休暇は欲しいが、腕を鈍らせるつもりはないぞ」

妖精達がじっと工廠長を見る。

「3日位で良いのではないか?」

妖精達はまぁそんなものかと概ね頷いていたが、提督が口を開いた。

「5日位問題ないですよ」

妖精達が目をキラキラとさせて提督を見るが、工廠長は

「そんなに寝そべっていたら干物になってしまう」

と言ったので、提督は軽い気持ちで答えた。

「島の木を使ってボートでも作ったらどう?釣りとか出来るんじゃないかな」

その言葉で工廠長がハッとしたように提督を見た。

「そうじゃ!提督!岩礁の小屋が大変なことになっておる!」

「ん?小屋?」

「わしがの、釣りや海水浴の休憩所として岩礁の所に小屋を建てておいたのだが」

「ああ、あれ、工廠長が建てたのか。そりゃ新しい訳だ。だとすると建物は全く無かったのか?怖いなあ」

「そうだ。恐ろしい怪奇現象が続いていると妖精達が行きたがらないのだ」

「怪奇現象?」

「誰も居ない筈の小屋に夜な夜な明かりがついたり」

「あぁ、まぁ、そうだな」

「深海棲艦がじっと座っていたり」

「あぁ、あれね」

「何か爆発したかのような強烈な光が小屋の中から出たり」

「まあ、そう見えるよね」

「・・・提督」

「ん?」

「何か知っておるようじゃな」

「何かも何も、私が深海棲艦と話す場所として使ってたからね」

「きさまああああ」

「なっ!?なに?」

「わしらがどれだけ怯えてたと思っとるんじゃ!」

「あれ?誰も説明してなかったの?長門さん?」

「・・・あ。そういえば言ってなかった」

「・・・もうよい。あれは提督の仕業なのじゃな」

「仕業というか・・・ええと、うん、話が凄く長くなるから今はそれでいいよ」

「1週間」

「ん?」

「お前達良かったな、提督が1週間のバカンスを許してくれたぞ~」

妖精がわあっと喜びの声を上げる。

「工廠長、あの、5日間・・・」

「1・週・間!遊ぼうな~」

「あ、はい、それで良いです・・・」

「という事は、提督」

「なんでしょう?」

「あの小屋は今後も・・」

「その為に使うので深海棲艦がうようよ来ます」

「・・もう良い。岩礁釣りは諦める」

「すまない、工廠長」

「さあ!1・週・間!何しようかお前達!」

「うぐ」

「岩礁の!反対側で!ボートでも出そうか!」

「すいませんすいません勘弁してください」

「フン!」

長門があわててとりなす。

「こ、工廠長・・あれはやむを得なかっ・・・」

工廠長は提督や妖精達に見えないよう、長門にだけそっとウィンクをする。

そういうことかと長門はうなづいた。

「提督、1週間後にまた来よう」

「そうだな、そろそろ引き上げようか」

帰ろうとする提督達に工廠長が声をかける。

「後でお重を取りに来てくれ」

長門が振り向いてにこっと笑う。

「うむ。空であれば私だけで大丈夫だ。提督。」

「そ、そうか。すまないが頼む」

「任せろ」

 

 

 


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