艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(73)

長門の言葉に島風はきょとんとして答えた。

「今はご飯以外も、掃除とか、洗濯物を出すのとかも全部島風がやってるよ?」

三隈が目を見開いた。

「ぜ、全部ですか?最上さんは片付けてくれたりお掃除は手伝ってくれますよ?」

夕張はえへへと笑った後、長門が放つ殺気にびくりとなった。

「夕張・・・」

「ひっ!」

「島風に任せたのはブレーキ役であって、メイド役ではないぞ」

「あ、あのその」

「完璧な真艦娘になれとは言わぬが、あまりに怠惰なようであれば・・・」

夕張はごくりと唾を飲み込んで、長門の次の言葉を待った。

「・・摩耶と島風を交代させるぞ」

夕張がしゃきんと立ち上がった。

「以後迷惑をかけないよう気をつけます!」

だが、時既に遅しだった。

摩耶が長門以上の殺気を放ちつつ、ゆらりと立ち上がった。

「専従になって大変だっつーから朝のマラソン解除した途端にその体たらくかよ・・」

「ひいいいいっ!?」

「・・0530時」

「はい?」

「朝食直前までマラソンやる。0530時に運動場集合」

ショックで言葉も無い夕張を横目に、摩耶は島風にも言った。

「島風も集合な」

「巻き添えなの!?」

「いや。島風は見学で良いけどよ。朝起こして引っ張って来てくれ」

ほっとしつつ島風は答えた。

「それなら大丈夫!」

あっという間に包囲網が敷かれた夕張は

「天国が・・あたしの天国が・・」

と、机にのの字を描いていた。

「残念だったね夕張ちゃん!」

「良い事は続かないわー」

長門は溜息を吐きながら摩耶を見た。

「摩耶、すまないが必要なようだ。頼めるか?」

「おう。ちょっとまともになったと思ったらこれだよ、まったく!」

「三隈の方は支援は要らぬか?」

三隈は頷いた。

「ええ。最上さんは平常運航ですし、ハンドリング出来てます」

「困ったら相談するんだぞ」

「かしこまりました」

「うむ、それでは続けるぞ。事務方はどうだ?」

不知火が答えた。

「いつも通りの忙しさですね。新たな案件も一通り軌道に乗りましたし」

「仕事量は増えてないか?」

「経理方に仕事を渡した分だけ新しいのを受け取ったという感じでしょうか」

「破綻はしてないな?提督は特に文月と不知火を気にかけているが」

「ご安心ください」

「よし。では経理方はどうだ?」

白雪が頬杖をついた。

「事務方から引き継いだ仕事が追加されましたけど、まぁ3人で回せますよ」

「そうか。祥鳳が抜けたままなのだな」

白雪は祥鳳を見てにこりと笑った。

「抜けたままというか、大鳳組に異動したと認識してますよ」

祥鳳は申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた。

「すみません。ちょっと行って帰ってくる予定だったのですが」

「あれだけ人気なら仕方ありません。無理は禁物ですよ」

「ふむ。広報はどうだ?」

青葉が目を輝かせた。

「記者が全く足りません!ぜひ増員をお願いします!」

長門が反論する前に衣笠が手を振った。

「広報班は可もなく不可も無く。今後も二人で充分です」

「そうか。解った」

青葉はさっさと話を終わらせた衣笠に噛みついた。

「衣笠!せっかくのチャンスだというのに!」

「長門さんはソロル新報はどうだとは聞いてないでしょ」

「そこをうまく丸め込んでですね」

「そもそも、広報の仕事に穴開けるようだったらソロル新報休めば良いでしょ」

「逆じゃないんですか!?」

「逆な訳無いでしょ!つまらない冗談言うなら、あの原稿没にするからね!」

「それは勘弁してください」

長門はうんうんと頷いた。青葉のブレーキは衣笠しかいないな。

「よし、では大鳳組は・・・あぁ」

青くなって震えている大鳳と隣ににこやかに座る扶桑を見て思い出した。

提督から保護観察処分を受けていたっけ。

「じゃあ扶桑、状況を教えてくれるか?」

扶桑はこくりと頷いた。

「まずは実施時間を0900時から1200時と、1300時から1830時としました」

長門が訊ねた。

「普通だと思うのだが・・今までは?」

「朝食開始直後からきりの良い所まで、昼食後から夕食終了ギリギリまで、でしたわね」

大鳳が頷いたのを見て、長門は手を額に当てた。

「・・昼食時間以外ぶっ続けで15時間だと・・無茶苦茶だな・・」

大鳳が弱々しく補足した。

「2班・・交代制・・なんですけどね・・あ、すいません」

扶桑は大鳳から視線を戻すと軽く溜息を吐き、さらに続けた。

「後、仮想演習を1試合終える毎に15分の休憩を挟むようにしました」

「あまり聞きたくないが、今までは?」

「天龍さんか龍田さんがトイレタイムというまでぶっ通しですわ」

「やっぱりな・・」

伊168が肩をすくめた。

「今は天龍組に来る子が少ないから良いけど、実質半日になっちゃってるわね」

長門が頷いた。

「天龍自身はどうなんだ?」

天龍は龍田と顔を見合わせると苦笑した。

「正直しんどいと思う時は多いけどさ、到底断れる雰囲気じゃねぇしな」

「そうよね~」

「龍田は審判やりながら自分の仕事してるよな」

「午前中だけじゃ終わらないし、夜中にやるのもね~」

長門は扶桑を見た。

「午後は龍田一人でやっているのだろう?もう少し減らせないのか?」

扶桑は頷いた。

「はい。次は開催曜日を1日おきにするつもりです」

場内がざわめいた。

 

長門が手をあげて制し、扶桑に訊ねた。

「月水金のみとか、そういう事か?」

「そうです。午前午後共に3時間ずつにする事も考えたのですが」

途端にざわめきが大きくなったので、扶桑は肩をすくめると

「こういう状況なので、まだ曜日制限の方が良いかと思いまして」

大鳳が複雑な表情をした。

「開催日制になったら、そうじゃない日はどうしようかなあ・・」

赤城が肩をすくめながら口を開いた。

「それこそ、ネタを考える時間にしたら良いんじゃない?」

「・・そうか。戦ってないんですものね」

山城がニコニコして大鳳を見た。

「扶桑姉様はそういう所もちゃんとお考えになってるんですよ」

「1日おきなら振り返る時間に使うのも良いわね」

扶桑が皆を見回しながら言った。

「皆さんも追いつきたいというより、楽しいから演習なさっているのでしょう?」

頷く様子を確認した後、

「それなら大鳳さん達が長く続けられるように、協力して頂けませんか?」

扶桑の声にしょうがないよねという声が占める中、大鳳がぽつりと言った。

「あと19Lvかぁ」

赤城はジト目になった。

「やっぱりLv早く上げたいんじゃないの?」

大鳳は顔を真っ赤にした。

「あ、あうぅ」

長門が諭すような目で言った。

「このまま行けば間違いなくLv99になるのだから、無理して体を壊すな」

「はぃ・・」

「では扶桑、すまないが曜日制限の方も頼む」

「しばらくは様子を見ますが、一応それで対策は完了にするつもりです」

「解った。秘書艦当番の時に提督に報告しておいてくれないか?」

「ええ。そのようにいたします」

「古鷹、加古はどうだ?」

寝入っている加古を揺すりながら古鷹は答えた。

「問題ありませんよ。最上さん達から往復船と避難船のメンテを受注したくらいで」

「それは手に余る事は無いのか?」

加古がむくりと起き上がりながら言った。

「点検のペースは月1回だし、重整備が必要なほど痛む使い方してないからね」

「そうか。いざとなれば助っ人を回すから相談するといい」

「ありがとうございます」

「では睦月、そっちはどうだ?」

「ゆったりペースですし、仕事量も丁度良くて快適ですにゃーん」

「そうか。東雲共々困った事は無いか?」

「はい。夕張さんが導入してくれた電子カルテのおかげで書類の山も消えましたし」

「ふむ、夕張、さすがだな」

夕張がむふんと笑った。

「頑張っちゃいましたからね!」

「よし。では白星食品の方はどうだ?」

浜風が答えた。

「深海棲艦による警護が功を奏しており、危機は脱しました」

ビスマルクが継いだ。

「損失としては問題無い程度の額で収まったし、今はほぼ平常通りよ」

「浮砲台組に不穏な動きは無いか?困っている事は無いか?」

「大丈夫。向こうはうち以上に統制が取れてるし適切に動いてくれてるわ」

「よし。では陸奥の方はどうだ?」

陸奥は頷きながら答えた。

「特に問題無いわ。強いて言えば大粒になる原石が減ってきたわね」

弥生が頷いた。

「大粒のストックは・・来月、オークションに放出します。必要な方は、お早めに」

ざわめきを縫って長門が言った。

「よし、日向達には別途確認するか。専従班はそれで良いとして、他に困ってる者は居ないか?」

長門は見回したが、特に手を挙げる者は居なかった。

 

 


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