艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(72)

 

赤城と提督がかけあい漫才をしている時。

提督室のドアの前では文月と長門が肩をすくめて立っていた。

「どうやら、お父さんの良からぬ虫は動かなさそうですね」

「あぁ。非常線を張らずに済みそうだ」

何故二人がここに居たか。

提督室には青葉達がコンクリマイクを仕掛けているが、その電波を事務方でも傍受している。

理由はただ一つ。提督が脱出を企てないか監視しているのである。

そういう話が出ると文月を通じて長門に緊急通報が入る。

実行に移される可能性が出てくれば艦娘達に非常線を張るよう長門から命令が下される。

その時、報酬付きの捕縛命令も出せるよう、文月は日頃から懸賞金を積み立てている。

提督の脱走に辟易していた文月と長門の思惑が合致した結果の対策といえる。

安堵の溜息を吐きつつ、長門は目線を下げてぽつりと言った。

「ただ、提督自身が休暇を取っていないのは確かだな・・」

文月も頷いた。

「大鳳さん達に休めと言ってましたけど、一番休んでないのはお父さんです」

「骨休め、させてやるか」

「えっ?」

「もうだいぶ、小浜関連も落ち着いて来ただろう?」

「そうですね。大体変動データも揃いましたし、順調です」

「トラブルの類は?」

「一切無いですね」

「小さい物も?」

「本当に無いです。拍子抜けする位」

「ふーむ」

提督ならどう判断するか。聞いてみるのも手か。

「よし、文月。本人に聞いてみるか」

「お父さんに、何を聞くんですか?」

「状況を振り返ってもらい、そろそろ休まないかと水を向けてはどうだろう?」

文月は首を振った。

「心配だから止めとくよって言うと思います。言い回しは別として」

「うーん、いかにもだな・・」

「とりあえず、引き上げましょうか」

「そうだな。皆に聞いてみるか」

 

翌日。

 

「・・と、いう訳なのだが、皆の状況はどうだ?」

夕食前に早めに集まって欲しいと皆に連絡した長門は、経緯を説明していた。

その手には先日赤城が整備したばかりの専従班リストがあった。

「教育班は勧誘船が来なくなった分、実は余裕があるのよね」

口火を切った足柄が肩をすくめた。

「往復船で来る子達にその分手厚く指導出来るけど、余裕なのは確かよ」

那智が頷いた。

「だから、基地からの受け入れ枠を増やすかと相談しようとしていたのだ」

妙高が継いだ。

「新しい訓練内容を検討する程には余裕がありますし、心配はありませんよ」

高雄が苦笑した。

「うちは休日を除いて計画通りの負担量ですね。今は少し忙しいですけど」

長門が訊ねた。

「それは続きそうなのか?可能なら、教育方から支援させようか?」

長良が答えた。

「教育事務方から1人くらい出せるよ?あたし行こうか?」

名取と由良が頷いた。

愛宕が首を傾げた。

「班当番の皆さんの方を手伝う部分でちょっと忙しいだけですからね・・」

摩耶、蒼龍、飛龍と話していた鳥海が継いだ。

「予想よりは負担も少ないです。ただ、班当番の手伝いをしてもらえると助かるかな」

長門が訊ねた。

「班の皆で、高雄達に助力を頼みたい者はどれくらい居る?」

呼びかけに対し、パラパラと手が挙がったので、長門は更に訊ねた。

「それは長良に頼む事でも良さそうか?」

手をあげながら木曾が訊ねた。

「配り方は理解したんだが、メニュー決めや調理法で迷う事がある」

「長良はそういう所はどうだ?」

長門から話を振られた長良はゲッと言う顔になり、

「ごめん。料理に詳しい訳じゃないから相談されても無理」

やり取りを聞いていた蒼龍が応じた。

「それなら私がその対応をして、長良さんに輸送関係を手伝ってもらえます?」

長門が蒼龍に訊ねた。

「今は蒼龍が輸送監督をしているのか?」

「ええ。高雄さん達で調理、配布、それに班当番の支援、私達が輸送と陳列、後は掃除です」

長良がニッと笑った。

「掃除とか物を運ぶのは教育事務方でもやってるから大丈夫!」

飛龍が頷いた。

「陳列はあたしが対応すれば良いから、輸送と掃除手伝ってくれたら嬉しいな」

長門は関係者が頷くのを見てから答えた。

「よし、では班当番支援を蒼龍に頼む」

「解りました。皆、遠慮なく相談してね」

「これで高雄達は調理と配布に専念できるな」

「助かります」

「飛龍と長良が輸送、陳列、清掃だな」

「任せといて!」

「よろしくね、長良ちゃん」

「教育、菓子の方はこれで・・あ、潮と間宮はどうだ?」

潮はニコニコして頷いた。

「忙しいは忙しいですけど、休みはちゃんと取れますし、なにより楽しいんです」

「新しい厨房はどうだ?」

「広くて綺麗で良いですよ。間宮さんの所とも近いですし」

間宮が頷いた。

「潮さんが毎日手伝ってくれるので、こちらも順調です。問題ありません」

「では、困ってる事は無いのか?」

「はい。あ、もうすぐ冬の新作を提供しますので楽しみにしててくださいね!」

潮の一言に、皆からわあっという歓声が上がった。

長門は鳳翔を見た。

「鳳翔の方は困ってる事は無いか?」

「そうですね。材料費が上がってますけど、白星食品さんのおかげで何とかなってます」

「営業時間や客の捌きとかでも困ってる事は無いか?」

鳳翔は高雄や足柄をちらりと見てくすっと笑うと

「最近は酔い潰れる人も居ませんし」

「・・そうか」

長門は頬を染めて俯く高雄や足柄を見た後、その隣にいた最上達を見た。

「今一番忙しいだろうが、最上達は休めているか?」

三隈が苦笑した。

「最上さんが昼夜逆転しないように毎日頑張ってますわ」

最上が頬を染めた。

「どうしても、後ちょっとって思って夜更かししちゃうね。ごめんね三隈」

「いえいえ」

島風はにひひんと笑った。

「その点夕張ちゃんを起こすのは簡単だもんね~」

夕張がジト目になった。

「あの起こし方以外にないの~?」

長門が首を傾げた。

「そんなに変わった方法なのか?」

夕張が口を尖らせた。

「ベッドから落とされるんですよ・・」

島風がにっと笑った。

「幾ら呼んでもくすぐっても起きないんだもん」

長門が眉をひそめた。

「疲れが溜まってるのか?無理に夜更かししていないだろうな?」

夕張がギクリとした様子でへらりと笑った。

「え、えへへへへ・・」

「お前は以前、本当に倒れるまで無理をした事があるからな」

「あー・・ありましたね」

島風がジト目になった。

「ありましたねじゃないよー、もー」

長門が島風の言葉に頷きながら続けた。

「途中で破綻されては希望が途絶える。長丁場だし、すまないが体調管理優先でな」

「そうですね・・解りました」

「僕も気を付けるよ」

三隈がくすくす笑った。

「御夜食で太るといけませんしね」

「ひうっ!?どうして気付いたの三隈!?見た目で解るのかい!?」

「体重計の上で長い事思案されていれば誰でも解りますよ」

「うぅぅ・・あっという間に2kgも太ったんだよ~」

島風が夕張を向いて言った。

「そういえば夕張ちゃんは研究に専念してるのに、まだ太んないね」

夕張が嫌そうな目で見返した。

「まだってどういう事よ・・確かに過去はそういう事あったけど・・」

島風はポンと手を打った。

「そっか、まだ羊羹一気食いしてないからか!」

「なっ!しっ!しーーーっ!」

最上がジト目で聞いた。

「あの煉瓦のような大きさの羊羹を一気に食べたのかい?」

「凄いんだよー、晩御飯食べ損ねたーって言って、ムシャムシャと・・」

「やっ!やめてよバラさないで!」

「夕張、夜に羊羹1本なんて太るに決まってるじゃないか・・」

間宮が両手を腰に当てた。

「栄養バランスも無茶苦茶ですよ。ちゃんとご飯食べに来てください!」

島風が笑いながら答えた。

「今回は大丈夫!島風が夕張ちゃんの分のご飯を部屋に運んでるから!」

長門がジト目になった。

「そこまでしてるのか?」

「だって放っておくとずーっと図面引いてるか調べものしてるし」

「食堂まででも歩いた方が気分転換になるのではないか?」

「呼んだら「良い所だから!良い所だから!」しか言わないんだもん」

夕張は頭を掻いた。

「なんか食事時間になると頭が冴えて色々思いついたりするんだもん」

「だから二人でご飯食べてるんだよー」

「ねー」

仲良く声を揃える二人に、長門は小さく溜息を吐きながら

「ねー、じゃなくてだな、それでは島風が大変ではないか」

と言った。

 

 


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