艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(70)

加賀の質問の意図を計りかねた雷は眉をひそめた。

正確には、解っていたが解りたくなかった。

「・・・ええと?」

加賀はゆっくり説明し始めた。

「提督は、私達数名に指輪をくださいましたが、同時に、艦娘からの求婚も受けました」

雷と五十鈴が眉をひそめた。

「・・・は?」

「ですから提督は、ご覧の通り、2種類の指輪をされてらっしゃいます」

「どういう・・こと?」

「1種類は私達に下さった指輪。もう1種類は求婚してきた艦娘達とお揃いの指輪」

「・・・」

「まだ求婚の実例はありませんが」

「・・加賀さん」

「はい」

「どれくらい・・可能性があるのかしら?そこまでは解らないわよね」

ドン。

五十鈴が一気に嫌そうな目になった。

「聞きたくないんだけど・・そのファイルは?」

「LV99になったら求婚すると決めている艦娘リストです。他の鎮守府の子も含みます」

「なんで!?」

「深海棲艦の子が艦娘に戻る際に登録したケースです。特に制限しておりませんし」

五十鈴がため息をつきながら続けた。

「・・聞き方を変えるわ。この鎮守府で登録してない子は何人?」

「20人も居ないかと」

「ざっくり言って100名が奥さん希望なの?!」

「そういう事になりますね」

ゴゴゴゴゴ・・・

雷が再び立ち上がる。怒りの気配がまるで青白い炎のようだ。

「提督・・」

「いっ!?」

「100名も・・重婚なんて・・認められる訳・・無いでしょ・・」

「で、でででででしょうね」

だが、加賀は立ち向かった。

「では、指輪を貰った子は良いのですね?」

「・・何人よ?」

「長門さんを入れて6人です」

「・・・・」

龍田でさえ寒気を感じる程の凄まじい気配を漂わせた雷はゆらりと加賀に訊ねた。

「妥協点をそこと言ったら、加賀は残りを抑えてくれるんでしょうね?」

加賀はすっと表情を消して答えた。

「無理ですが、それも認められないなら・・」

「・・どうするというの?」

「提督と心中します」

長門が加賀を見た。

「さっ・・させぬ!絶対させぬ!」

加賀はにやっと薄く微笑んだ。

「人間の長門さんなんて、物の数ではありません」

「ぐっ」

雷は息をのんだ。

加賀の目は真剣で、狂気に満ちている。

加賀が素晴らしく有能である事はこの2日間で良く解ってる。

もし加賀が愛に狂えば・・・本当にやってしまうかもしれない。

提督が死んだらすべてこの計画はパアになる。

雷は殺気立った雰囲気を消すと、溜息を吐いた。

「運用に支障が無いように後任を作りなさい。これは最低条件よ」

「解りました」

五十鈴はへぇと驚いた。

「雷が妥協するなんてね」

雷は苦り切った顔をした。

「不意打ちの上に余りにも人質が多すぎるわよ」

そしてジト目で提督を見ると

「881研究班が実用化したら真っ先に放り込んじゃお~っと」

と、提督にだけ聞こえる位の小声でぽそりと呟いた。

提督は恐る恐る雷を見た。

雷はちらっと見返すと、にやりと笑った。

提督はアイスの最後の一口をごくりと飲み込んだ。

 

 

雷達が帰る日がやってきた。

 

雷は長門と加賀に言った。

「じゃ、知らせを待ってね!先走って変な事しないでよ?」

「待っている。案ずるな」

「あまり長いと実行してしまうかもしれません」

「なっ・・なるべく早く頑張るわよ」

五十鈴は赤城達と会話していた。

「今回の協力に感謝するわ。本当にありがとね!」

「このケースは白星食品の基本契約書を運んだ実績がありますから」

「あー、あの契約書ね・・読むの大変だったわ」

「今度のも大変でしょうけど・・」

「どちらも貴方達のせいじゃないけどね!」

そして中将は、最後に提督から渡された包みの中を見て喜んだ。

「カレー弁当じゃないか!ありがとう!ありがとう提督!」

「一度お昼に召し上がって頂きましたが、あれだけでしたので」

「うむ!うむ!ありがとう!大事に食べる!」

「中将、色々ご負担をおかけしましてすみませんでした」

「いやいや、色々な事が解決出来た。それで良いと思うよ」

「そうでしょうか」

中将はにこりと笑った。

「大将の言う未来がこんなに楽しそうなら、わしも全力で支援する事にするよ」

「ええ。うちの艦娘達は・・本当に良い子に育ちましたよ」

「わしも色々考えを改めねばならん。また相談に乗ってくれ」

「ええ。もちろんです!」

提督と中将は固い握手を交わした。

 

ポーッ!

 

こうして雷達は大本営に帰って行った。

 

「本当に、毎回大本営の人が来ると大騒ぎだね」

提督が肩をすくめると、長門が継いだ。

「究極の普通と究極の異端児だからな。騒ぎにもなる」

「でも、うちが将来の普通と聞いて、ちょっと嬉しかったよ」

「うん?」

「艦娘達には、皆、笑っていてほしいからね」

「・・そうか」

長門はそっと、提督の手を握った。

提督は長門の手を握り返した。

 

数日後。

提督は大本営から届いた作戦中止通知を回覧の籠に入れた後、厚い書類をめくっていた。

赤城が調査した、リストに載っている専従先と、実際従事している役割の一覧である。

今日は赤城が秘書艦の日であり、それにあわせて持参してきたのである。

「はぁー、随分違ってたんだねえ」

「物によって現状を優先するか、リストを優先するか選んでも良いと思いますが」

「現状に合わせて良いよ。それにしても、よくまとめたね赤城。本当にお疲れ様」

「久しぶりにやりがいのある仕事でした」

「現状に不満を抱えてる子は居たのかな?」

「そうですね。調理当番が追加された時に休みが増えたので、その辺で鎮火したようです」

「そうか。怪我の功名だね」

「強いて言えば大鳳組がちょっと忙しすぎるのではという指摘がありますね」

「大鳳や山城は何て言ってるの?」

「新しい戦略を考える時間が少ないとは言ってました」

「ふむ。ちょっと二人を呼んでくれる?」

 

「お呼びですか?」

「どうしたの?」

 

程なくやってきた二人に、提督は切り出した。

「最上と三隈が抜ける件、急な事ですまなかったね」

大鳳は苦笑した。

「夕張さんもセットで特命事項対応と聞いたので、新兵器関連は穴が開きましたね」

「ところで、ちゃんと楽しんでやってる?忙しくてネタも考えられないって聞いたんだけど」

大鳳は肩をすくめた。

「以前はアイデアも良く出ましたし、試してない事も沢山ありましたし」

山城が継いだ。

「皆が古いセオリーに縛られてたんで楽しめたんだけど・・」

大鳳がわたわたと手を振った。

「た、楽しむというか、試せたんです。でも、最近は忙しいというのと・・」

「皆が応用力が付いてきちゃって、辛勝や負ける事も多くなってきたのよねぇ」

提督は山城に苦笑した。

「皆が強くなるのはとても素晴らしい事だけどね」

「でも・・こう、圧倒的な勝ちってのを久しくやってないんで」

「ストレスが溜まって来ちゃったのか」

「ちょっとね」

「今は何日おきに休んでるの?」

山城はすいっと提督から目線を逸らした。

「・・山城さん?」

「・・」

提督は大鳳に視線を向けた。

「・・何日おき?」

大鳳がつんつんと両手の人差し指を合せながら

「・・リクエストが多いので、前に休んだのは・・何か月前だっけ山城さん」

「わっ、私に振らないでください!」

一気に提督の目がジト目になった。

「なんちゅうブラック運用してるの君達は!」

「でっ!でも希望が多いんです!」

「体調を維持出来る範囲で応じなさいっての!それじゃ疲労で倒れちゃうでしょ!」

「でもっ」

大鳳が更なる反論を言いかけた時、赤城がぽつりと言った。

「大鳳さん、最近Lv80超えましたものね」

提督がピタリと沈黙し、山城があーあという表情で額に手を当てた。

 

提督室がしんと静まり返った。

「あ、あの、提督?」

赤城は声をかけるも提督が無反応なので、自分が言った意味に気が付いた。

「あー、ええと、お手柔らかに」

赤城が苦笑いしつつ後ずさった後。

 

「・・大鳳」

「ひゃいっ!」

低い低い提督の声に、大鳳は背を伸ばしながら返事をしたので変な声が出てしまった。

「まさか・・お前・・自分のLv上げの為に・・」

大鳳はぶるぶるぶると全力で首を振った。

「わっ、わたたっ、私だけじゃないですよ、他にもLvあげたいって子が」

「・・山城」

山城は諦めたように溜息を吐きながら答えた。

「・・はい」

「大鳳以外にもLvあげたい子、居るのか?」

山城はこくんと頷いた。

「対戦相手は全員そうですよ。まぁ私達も上がって損は無いですし」

提督は再び沈黙したが、やがて苦り切った顔を上げると

「とりあえず、週1回は休みを取る事。それと、運用を是正します」

大鳳は首を傾げた。

「はい?」

「保護観察役を入れ、現在の体制を監査してもらい、必要な修正を入れます」

「え?あの、お話が見えないのですけど」

「すぐに解る。赤城」

「はい」

「扶桑を呼んでくれ」

大鳳はゲッという顔をした。

大鳳は昔から扶桑には頭が上がらないのである。

だが、山城は目を輝かせた。

姉様と仕事出来るの!?

 

「お呼びでしょうか、提督」

「扶桑。悪いんだけど、私は大鳳組の皆にきちんと体調管理をして欲しいと思うんだよ」

扶桑は一瞬、ちらりと山城を見た後、こくりと頷いた。

「そうですね」

「だから大鳳組の現状を監査して、目処がつくまで是正指導を頼めないかな」

「構いませんが、秘書艦のお仕事は?」

「扶桑はどうしたい?私は扶桑の希望に合わせたい」

扶桑は嬉しそうに微笑んだ。

「では、当番の日は監査せず、秘書艦を務めさせて頂きますわ」

「ん。解った。扶桑もきちんと休みは取るようにね」

「承知致しました。それでは監査のお役目、お引き受けいたします」

山城は扶桑の様子をみて苦笑していた。

明らかに仕事が増えるのに秘書艦は外さないんだな、と。

 


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