艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file42:任務ノ披露

 

4月14日夕方 ソロル本島

 

「皆、大本営が帰ったからって気が抜け過ぎだ」

長門は溜息を吐いた。

非常に良い感触で終わったという噂は島中を駆け巡り、大本営の艦隊が水平線に消えるまで見送ったのである。

そして朝からの緊張が解けた一同は、垂れ下がる横断幕のようにだらーんと気が抜けていた。

「長門」

「提督、すまない。今は大目に見てやってほしい」

「構わないのだが、蒼龍と飛龍のお披露目をしたいのだよ・・・」

「そうか、そうだった。よし。提督!耳を塞いで口を開けろ!」

「主砲は止めとけよっ!」

提督が言った通りの姿勢をしたのを見届けると。

ドン!

長門の副砲が1発火を噴いた。

勿論空砲ではあるが音は十分であり、艦娘達はシャキッと立ち上がった。

「な、なんだなんだ?!敵襲?!」

「皆!集会場に集まれ!急ぎ話がある!」

長門の良く通る掛け声とともに、艦娘達はぞろぞろと集会場に入った。

 

「と、いう訳で、我々は3つの任務を拝命する事になった」

「従って、今後は定期的な補給が行われると思うが、実情を見ながら緊縮策の程度を変えていきたい」

提督は慎重に言葉を選んだ。元通りになるかどうかはまだ不透明ゆえだ。

「そして、この場を借りて新たな仲間を紹介したい。入ってくれ!」

長門が響と蒼龍と飛龍を連れてくると、会場にどよめきが起きた。

「ここに居る蒼龍は、元々蒼龍であったが、深海棲艦に売られてヲ級になり、再び帰ってきてくれた」

「そして、元々の蒼龍時代に戦友だった飛龍は、他の鎮守府所属だったがここに譲り受けた」

「深海棲艦の頃の記憶も持つ蒼龍は非常に力強い味方になるだろう。皆と力を合わせてもらいたい」

「響は壊滅させられた鎮守府の生き残りであり、加賀の命の恩人だ。仲間として迎えてほしい。」

艦娘達は拍手喝采で応じた。提督はほっと一息ついた。

「ところで、蒼龍、飛龍、響」

「はい?」

「君達のLvはどれ位なんだ?」

蒼龍が答えた。

「今は40。兵装や艦載機は持ってこれなかったのですけど」

飛龍が言葉を継いだ

「私は45です。元々蒼龍と同じだったのですが、駆り出された時に連日戦闘してたのでLVが上がりました」

響はぽつりといった。

「ごめん。私はLV3位だ。」

「何も謝る事は無いよ。古鷹!」

「はい」

「部隊はどちらにした方が良いかな?」

「まずは3人とも、スコーピオンの方に来て頂けませんか?教育をする側は厳しいと思います」

「なるほど」

「飛龍さんと蒼龍さんはある程度ここに馴染んだ後、深海棲艦の専従班に移って頂くのが良いと思います」

「なるほど。飛龍、蒼龍、それでいいかな?」

「もちろんです!」

「古鷹、響はどうする?」

「LV3であればまだ方向性も決められないと思います。まずは新入生の皆と一緒にLVを上げましょう」

「それで良いかな、響?」

「うん、頑張るよ」

「よし、偉いぞ」

「えへへ」

「では解散する。古鷹!3人の案内を頼む」

「解りました」

艦娘達がざわざわと動き始める中、響は提督を目で追っていた。不安が顔に出る。

すると、手を掴まれた。

振り向くと、雷が居た。

「響っ!あなたが来るのをずっと楽しみにしてたわ!古鷹の所に行くんでしょ!一緒に行きましょ!」

「あ、ああ、うん」

繋がれた手の暖かさに響は少し照れながら、艦娘達の輪の中に入っていった。

 

 

4月17日夕刻 ソロル本島(提督室)

 

「補給される資源量が現在の規模に見合ったものになって良かったですね」

「そうだなあ」

事務方から3日間の資源補給量リポートを貰った提督は、今日の秘書艦である赤城と読んでいた。

異動前の倍以上の規模になっている以上、同じ資源補給では飢えてしまう。

赤城が真剣にリポートを読むのに付き合っているのはそういう事である。

御見通しの提督は苦笑しつつ、赤城がストライキを起こすような報告でなくて良かったと安堵した。

「それにしても、色々と勝手が違うね。ちょっと落ち着いて来たけれど」

提督がそういったのも無理はない。

ソロル本島での運営は、今までの鎮守府と全く勝手が違った。

まず、平屋になった事や、ドックを鎮守府の下、島の洞窟に作った事で格段に移動距離が増えた。

今まで10分で済んでいた用事が15分20分とかかる。

ゆえに当番運用も含めて全ての所要時間を実績値で見直す事にしたのである。

その他、2部隊の食事時間帯をずらしたり、新設の教育時間等、あらゆる事で変更がかかった。

変化を見越していた提督は鎮守府完成の翌日に最優先で事務方を専従化した。

そして、従来からやっていた事務方に、こう告げた。

「今までやっていたからと言って強制はしない。業務量に見合った人数にするがあくまで希望だ」

それに対し、

「これが、お父さんの為に一番役立てると思うのです」

「好きでやってますから」

「結構捌くの楽しいのよ?」

「まぁ、別に断る理由ないしね」

という事で、従来からあたっていた文月、不知火、叢雲、敷波は続投となった。

これに、時雨、初雪、霰、黒潮が加わった。

別に駆逐艦限定という事は無い、他に居ないかと提督は聞いたが、球磨が鉤爪を研ぎながら

「早く腐敗野郎をぶちのめす部隊を新設するクマ」

と一言で言われ、納得して帰ってきたのである。

そういうわけで飛躍的に事務方の仕事量は増えたが、増員したおかげで何とか回せていた。

文月には手に余ったら早めに申し出ろと何度も言い含めておいた。

無茶はして欲しくない。

そういう最初のドタバタが少し落ち着いてきたのが、今日という訳である。

「あ、そうだ。忘れていた」

「どうしたのですか、提督」

「すまないが夕張を呼んでくれないか?」

「解りました」

 

「どうしました提督?」

「今忙しかったかな?」

「いえ、明日の朝までオフです」

「丁度良かった。夕張に1つ相談したい事があるんだ」

「なんでしょう?」

「深海棲艦の調査で、必要に応じてデータ照合をして欲しいのだが、どうすれば回るかな?」

「1人だと厳しいですね。臨時の仕事なら良いのですけど」

「迎えるなら誰と組みたい?」

「そうだなあ。島風ちゃんかなあ」

「島風?」

「カンが鋭いのよあの子。後は愛宕さん」

「愛宕?」

「凄く真面目で、データの整理とか片付けをきちんとしてくれるの」

「へぇ。知らなかったなあ」

「そんな感じかなあ」

「そのメンバーとなら楽しくやれるか?」

「うん、大丈夫」

「あと、場所なんだがな」

「あ、ごめんなさい。データ類は仮の家から今日中には移すから、もうちょっと待って」

「いや、場所を作ったんだ」

「へ?」

 

「ひゃっほーひゃっほー!私の城だあああ!」

夕張が何度も飛び跳ねているのは、提督が追加で作ってもらった研究室だった。

「うわーうわー、余裕ありまくりの電源だわー、通信システムも最新!給湯室や仮眠室まである!」

「気に入ったかな?」

「物凄く!」

「ここで誰と作業するかは別として、照合班を引き受けてくれないかな?」

「やっぱり、1つお願いがあるの」

「何だい?」

「私、リーダーシップって苦手なの。だから誰かリーダーを作って欲しい。私は解析に打ち込みたいの」

「ふむ、じゃあ愛宕に聞いてみるか」

「ごめんね」

「いや、いい。愛宕と島風と夕張の3人で良いかな?」

「ベストね!」

「よし、提督室で話そう」

 

「夕張ちゃんと仕事!楽しそう!」

島風は二つ返事で引き受けた。

「ちょっと重責ですね~、心細いなあ」

愛宕は少し心配そうだ。

「島風、愛宕。他に呼びたいメンバーはいるか?」

「高雄姉さんかなあ」

「島風は夕張ちゃんが居ればいい!」

「夕張、高雄を加えるのはどうだ?」

「良いよ」

「じゃあ、高雄にも来てもらおう」

 

「分析班ですか。興味はありますけど、機械操作できるかなあ」

「実作業は夕張と島風がやる。愛宕か高雄でリーダーと実務を務めてくれないか?」

「愛宕ちゃんはどうしたい?」

「私は高雄姉さんをリーダーで、実務をやりたいかな」

「あとは、あれだ」

「なんですか?」

「夕張と島風が研究室を散らかし過ぎないように、それと、夕張が怠惰な生活に落ちないよう指導してくれ・・・」

愛宕と高雄は顔を見合わせて頷いた。

「ごもっともです提督。私達が力を合わせて暗黒面に落とさないよう頑張ります」

「頼む。お前達が頼りだ」

「むしろ高雄型全員で当たりたいですが」

「そうだな。摩耶と鳥海も居ないと厳しいかもな」

「ちょっとー!本人を目の前にしてさっきから酷くないですか?片付けくらいしてますよ?」

「島風だってダメな子じゃないよ?」

「今から二人の部屋を見に行って良いかしら?」

「やめてください。ちょっと、いやかなり嘘つきました」

「ごめんなさいごめんなさい。お願い。火炎放射器で燃やすのは勘弁して」

提督は肩を落とした。新しい生物が生まれてそうだ。早急に摩耶と鳥海を呼ぼう。

摩耶の世話好きは有名である。口調は荒いが頼りになる。

「夕張の世話?まっかせな!毎朝5時起きでランニングだ!」

「やめてよぉ。5時なんてそこから寝る時間だよぉ~」

鳥海の綺麗好きも結構なものだ。潔癖症の榛名とまでは行かないが。

「はい!喜んで。片付けは楽しいから、一緒にやりましょうね島風さん!」

「嫌ぴょんとか言っても・・」

「一緒に、やりましょう、ね?」

「ひぃぃぃぃぃぃ」

更正して真人間になってこい二人とも。いや、この場合は真艦娘か?

研究所というより刑務・・げふんげふん。

この重巡4姉妹は真面目で戦闘力も高い。機転も利く。

提督は口を開いた。

「あと、これは可能性だが、データを破壊しようとする勢力が来るかもしれん。その時は」

「もちろん我々で迎撃します!防衛戦は任せてください!」

「お前達なら緊急時は攻撃を自己判断で開始して良い。よろしく頼む。」

提督は赤城とうなづきあった。また1つ、クリアだ。

 





さて問題です。
作者は何で悩んでいるでしょう?
1:液晶への入り方
2:先輩後輩艦娘の呼び方
3:この後のストーリーの矛盾

作者「正解は」
榛名「消毒して差し上げますね」

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