艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file41:晴レノ日

4月14日朝 ソロル本島

 

「ひゃー!祭りって感じがしてきたねえ!」

涼風は港から続く道沿いに飾り付けを進めながら、傍らの五月雨に話しかけた。

「そうだねえ。なんかウキウキしてくるよね!」

「今の時点で基礎工事しか終わってなくて、まだ建物が無いってのが信じられないけどな!」

「どんな建物になるんだろうねえ」

 

集会場では、工廠長と提督が話をしていた。

「提督よ、何だかこれじゃ怪しげな祈祷師みたいではないか」

「よ、よく似合ってますよ工廠長。その恰好」

「笑いをかみ殺しながら言ってるのが丸解りだ。提督室だけ屋根無しにするぞ」

「止めてください死んでしまいます」

「まったく。で、中将達を丸め込む作戦は整ったのか?」

「耳が早いですね。まとまってますよ。金剛がはしゃぎ過ぎなのが心配ですが」

 

「ヘーイ霧島!ライスシャワー用意しまショウ!」

「結婚式じゃないんですから。それよりまっすぐか見てくださいよ」

「いっそテートクと結婚しちゃいますカー?」

「だ、だめですお姉様!比叡は、比叡は許しません!」

「冗談デスヨー比叡。泣かない泣かない」

「ふぅ。横断幕、吊りましたよ」

「霧島!GoodJobデス!」

「ありがとうございます」

どんと構える金剛が見上げたその先にある横断幕には

 

 「大歓迎!大本営御一行様!」

 

と、書いてある。

「しかし、鎮守府完成式典って事が書いてないのは・・」

「良いのデス!解りやすいのが一番デス!」

「意図が解りやす過ぎませんかね・・・」

「霧島は・・NOなのですカー・・寂しいデス・・」

「あ、いや、そういう訳では」

「霧島ぁ・・姉様を泣かせたわね・・」

「ひっ!比叡姉さん!ちっ、違います!誤解です!」

「そこになおりたまえ。41cm砲をかまして遣わす」

「日本語が変です!解りました解りました。これでOKです!GOODですぅ!」

「霧島!アリガトネー!」

「・・・金剛姉様が許されるのなら仕方ありません」

一人だけ、他の作業を進めつつ離れた所から見ている者が居た。

・・・榛名、心配です。

 

集会場の中も、飾り付けや食事の用意が進んでいた。

不知火が「こういう時にきちんと用意するのが事務方の手腕の見せ所です」というだけあった。

鳳翔と間宮の店に頼み、立食でつまめる美味しそうな品々と各種甘味が揃えられた。

酒については酒癖の悪い面々が居るという事で、清めの酒だけになった。

隼鷹達がそれを聞いてがっくりと肩を落としたが、鳳翔がくすくす笑いながら

「夜になったら御店に来てくださいね。提督からお金とお許しを頂いてますから」

と耳打ちしたところ、嬉々として準備に戻っていった。

 

提督は加賀達と話していた。

「予定では、午後にはお戻りになるんだったな」

「はい。工廠長の建設後、全員で内部を一回りします。」

「うん」

「その後、他の艦娘達は外で宴を、私と長門と提督は中将達と鎮守府内で打ち合わせます」

「長門」

「なんだ?」

「中将は、我々の行動を聞いて許してくれるだろうか。提案を聞いてくれるだろうか?」

「あ、そうか。提督」

「ん?」

「大和達には根回しは済ませているし、深海棲艦の件も大規模攻撃からの脱出の話も説明してある」

「え、そうなの?」

「うむ。2日に大和を呼んで、すっかり話した。五十鈴にも中将にも伝えてもらっている」

「そう、か」

「大和は救出劇に驚いていたがな」

「あれは災い転じて福となすだったが、お前達だからこそやってのけたのだろうよ」

「ありがとう。ただ」

「ただ?」

「それらに対する中将の反応を聞く時間が無かったのだ」

「充分だ。よくやってくれた、ありがとう長門。」

「直前の報告になってすまない」

「有能な子が居ると助かるよ」

そういうと長門の頭を撫でた。

「あ・・・ありが・・・とう」

加賀は思った。長門さんも提督にかかると借りてきた猫みたいですね。

猫耳・・似合うかも。違う。

「ところで、加賀」

「はい」

「私は出来るだけ中将との和解に全力を尽くす。加賀は逸れそうになったら導いてくれ」

「お任せください。なでなで成分の補給もよろしくお願いします」

「前から不思議に思ってるのだが、それで本当に良いのか?」

「良いのです」

長門はチラッと加賀を見た。

羨ましい。自分はそういう事を言えないのだ。

 

ポーッ!

 

汽笛が鳴り、大和達が入港してきた。

中将達は驚いた。

艦娘達が勢揃いで、浜辺で手を振っていたからだ。

大和は中将に耳打ちした。

「きっと、思いは通じますよ」

「うむ。信じよう、か」

 

島の中央部で始まった鎮守府建設の儀式。

それは凄い光景だった。

大勢の熟練妖精を従えると、自らキリッとした表情で杖をかざす工廠長。

「ムオオオオオオオ!」

掛け声とともに杖を振りおろすと、眩しくも暖かな光に島全体が包まれ、見る間に建物が出来上がっていく。

提督棟、宿泊棟、工廠、資材倉庫、食堂、ドック、売店、果ては妖精達の建物や鳳翔や間宮の店まで。

数分間の出来事だったが、皆の目にしっかりと焼きついていた。

 

「ふぅ、これで良い。完成じゃ」

じわりと汗をかいた工廠長が振り向くと、皆が盛大な拍手を送った。

工廠長は鳴り止まない拍手に真っ赤になって手を振りながら、

「や、その、仕事をしただけだ。よせ、照れる、よせというに」

と、そそくさと集会場に帰っていった。もちろん青葉が後に続いて突入していった。

 

「うわー!うわー!うわああああ!」

「雷、さっきからうわーしか言ってないわよ?」

「凄いのです!凄いのです!凄いのです!」

「電まで・・レディはちっとやそっとじゃ大声をあげ・・・海が見えるベッドおおおお!」

 

「建物は全て平屋なのですね」

大和は五十鈴や中将と共に、提督達について歩いていた。

「ええ、この辺りはハリケーンが通りますから、被害を避けるにはこれが最も簡単なのです」

「実用的な意味だったのね。私はてっきり」

「てっきり?」

「高級ホテルを模したのかと」

「いや、ここ、鎮守府ですから」

「噴水とか置けば良かったのに」

「それじゃまるっきりリゾートホテルじゃないですか」

「迎賓棟はあるのかしら?」

「宿泊棟の一角がそうなっています。もちろんオーシャンビューですよ」

「大和!」

「はい、五十鈴さん」

「今年の夏は決まりね!」

「そうですね!」

「お前、ワシには次に来るのは難しいとか言ったじゃないか・・・」

「中将はお仕事あるでしょ。残念ねー」

「五十鈴、そんな意地悪を言わんでくれ」

「だ、大丈夫です。喫煙可の部屋も用意してあります」

「本当か!いや、誠に重畳!五十鈴!」

「なに?」

「ワシも夏に来るぞ」

「その前に、今日の仕事も含めてちゃんと終わらせなさいよ」

「うっ」

提督と加賀は目線を交わした。向こうも何か話があるようだ。

 

「焼き鳥頂きぃー!」

「あー!涼風ちゃん待ってよー」

窓の外から明るく賑やかな声が漏れ聞こえる。

ここは提督室内にある応接席。

真新しい湯のみでお茶を出すと、加賀は提督の隣に立った。

「中将、本日は少しご相談をさせて頂きたく、加賀と長門の同席と、着席をお許しいただきたい」

「うむ、わしらも話したい事がある。同じく大和と五十鈴に居てもらいたいのでな、構わぬ」

こうして6人が向い合せて座ったのであるが。

中将も提督も切り出しかねていた。

「その」

間の悪い事に二人同時に話しだしては

「あ、いや、中将どうぞ」

「い、いや、提督構わぬ」

(沈黙)

となる事3回。ついに五十鈴がぷちんと切れた。

「あーもう!中将!いい加減観念なさい!」

「う」

「うもえも無いの!ほらっ!」

「ぬぐぐぐ」

しかしその時。

 

「中将、まずはこの度の大騒動をお詫び致します。加えて鎮守府建設をお許し頂いた事を感謝いたします」

提督は深々と頭を下げたまま、言葉を続けた。

「この御恩に報いる為、今後ますます私と艦娘一同、国家の為、海軍の為、励みたいと存じます」

「う、うむ。・・・痛っ!」

中将は五十鈴に脇腹を突っつかれた。中将にこんな事が出来るのは五十鈴と酔った大将位である。

提督はそのまま続ける。

「しかしながら、私は通常の戦闘任務ではご迷惑をおかけしておりましたし、克服は厳しい物があります」

「従いまして、根本から見つめ直し、新たな方角から深海棲艦に戦いを挑みたいと思います」

大和が聞き返した。

「新たな方角、ですか?」

「はい。私達はこれまで、深海棲艦は我々に敵意を抱き、好戦的な者しか居ない集団と認識しておりました」

「しかしながら、私は元艦娘で厭戦的になった深海棲艦と出会い、その者が艦娘に戻るまで立ち会いました」

五十鈴が目を丸くする。

「な、なんですって!」

「その者は今、ここで保護しております。元の頃の記憶を一部失い、深海棲艦の記憶は残しています」

「・・・・・。」

「深海棲艦になった経緯を確認したところ、鎮守府調査隊が転売したとの証言を得ました」

中将の顔が苦痛に歪んだ。私の責任だ。酷い事をしてしまった。

「残念ながら、調査隊に転売された艦娘は一人や二人ではないと思われます。」

「ゆえに、その子達の中から希望するものを艦娘、あるいは成仏させてやれば、敵は確実に減ります」

「・・・・・」

「もし人間への怨念を減らせれば、いつか深海棲艦との和解の道も開けるかもしれません」

「その方法の模索と実践が我々の貢献の1つ目であります」

「もう1つは、他の鎮守府から艦娘達をお預かりし、戦力向上の教育を施したいと思います」

「ほう」

「我が艦娘達は演習では化け物と呼ばれる程の実力を有している、私のかけがえのない宝物です」

「今まで新入生が入った時に施した教育や演習を体系化して教育プログラムとし、これを提供します」

「こちらは直接成果が出る訳ではありませんが、全体強化策として有効であると考えます」

「以上、教育支援と深海棲艦の帰還支援。この2つを私から提案するものであります」

一気に話し終えると、顔を上げて中将達を見た。

ぽかーんとしている。まずい、何かしくじったか?

慌てて加賀を見ると、にこっと頷いた。どういうこと?

「あ、提督」

「中将、なんでしょうか?」

「まずは、すまん・・・痛っ!痛い!五十鈴解った、解った」

「あ、あの」

「提督、わしが調査隊の言葉に惑い、信頼を裏切るような異動措置を指示した事、まずは詫びる」

「中将・・・」

「五十鈴や大和達から幾つか聞いている。艦娘達が力を合わせて今日の日を迎えた事も、そして、鎮守府大規模攻撃の業火から全員逃れられた事も、結果論とはいえ本当に良かったと思う」

「・・・。」

「わしは上層部会で調査隊の腐敗や深海棲艦と内通する存在を報告すると共に、その撲滅を提案し了承された」

「・・・」

「なれど、軍内にも憲兵隊にもその為に回せる優秀な人員が居ない事が解った。」

「・・・」

「提督、君の提案は素晴らしい。大いにやってほしい。必要な資源は責任を持って調達しよう」

「・・・」

「そして、その2つの活動に加えて、内通者の撲滅など、私の願う腐敗撲滅に手を貸してくれないか」

「・・・・」

「非常に危険な任務も考えられるし艦娘を大切に思うのは解る。しかし、頼みを聞いてくれないか」

「中将・・・」

「差し出がましいが、よろしいか、提督」

「なんだ、長門。言ってみなさい」

「これだけ良い話はまたとない。我々艦娘も、鍛え上げて調査だけでは面白くない。」

「長門・・」

長門はすっと席を立つと、つかつかと出入り口のドアの脇に立った。

「?」

「そうだろう?皆!」

「きゃーーーー」

ドアをガチャリと開けると、どどどどっと艦娘達が部屋の中に倒れこんだ。

加賀が立ち上がる。

「貴方達、立ち聞きしていたのですか?」

折り重なるように倒れこんだ面々は、先輩後輩入り混じっているようだ。

「あいたたたた」

「長門さん、気配隠し過ぎですよぅ」

「お、重い~、どいて~、中身が出ちゃう~」

「お前達は少しは気配を隠せ。丸解りだ」

「きゅー」

提督は厳しい目で艦娘達に問うた。

「皆、本当に危険な目にあう可能性があるぞ?遊びではないのだぞ?」

天龍がニッと笑った。

「俺達艦娘を売り飛ばすような悪い奴にぶっ放せるんだろ!サイコーだよ!」

「敵と結託するなんて許せないわ!そんな奴ら逮捕よ逮捕!!」

提督ははっとして中将を見た。

「この子達はあくまで軍隊であり、捜査・逮捕権限はありませんが・・・」

「そこは憲兵隊と話をつけた。この異常な腐敗を撲滅するまでの間という限定はついたがな」

「捜査・逮捕・攻撃の権限を頂いた、という事ですか?」

「そうだ。撲滅までの時間は、多分、長い物になるだろうがな」

「・・・お前達、本当に良いんだな?」

「はい!」

提督は一息つくと、中将に向き直ると再度頭を下げた。

「3つの任務、謹んで拝命いたします」

わあっという喜びの声が廊下に満ち、どたどたと走り去る音が聞こえた。

「まったく、あなたの艦娘達は本当に提督思いなのね。」

五十鈴が腕組みしながら口を開く。

「お騒がせしました。すみません。」

「いいんじゃない?あんなに提督を心配するなんて珍しいけどね」

五十鈴は提督にウィンクしてみせた。

加賀と大和は互いに顔を見合わせ、ほっとした表情を見せた。

 

ソロル泊地の新鎮守府に生命線が確保され、新たな役割が決まった。

 

 




私もリゾート地で新築の家に住みたいです。
もちろん奥様は長門、娘は文月で。

長門「断る」
文月「そういうお店、多分あると思いますよ~」

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