艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(53)

全滅させるケースが少ないことを指摘された長門は、渋々答えた。

「まぁ・・大規模作戦となれば守備部隊はかわして本隊攻略の為に温存するな」

「それが正しいし、潜水艦隊なんかは100%無視する事もあるよね?」

「うむ。夜の方が怖いからな」

「だから1戦闘での平均轟沈数は約3体という統計が出ている」

長門が硬直した。

「さ・・3体・・だと・・」

「大破もノーカンだし、純粋な轟沈数ね。あと、うちの艦隊だけじゃないよ、全体の統計」

長門は胸をなでおろした。そこまで取り逃している覚えは無かったからだ。

「あ、あぁ。そ、そうか・・」

「さて長門さん」

展開を読んだ長門はますます渋い顔をした。

「・・うむ」

「大体こういう作戦って、1海域当たり、ボスまで入れて大体3回位戦うよね」

「・・あぁ」

「1回出撃すると、大体はボス前で怪我するから、1回で一気になんて行けないよね」

「よほどの運がないとダメだな」

「怪我の回復も補給も無制限とはいかないでしょ?」

「高速修復剤や資材を湯水の如く消費するからな」

「例えばこの間の姫の島事案では溜めていたバケツは全滅したし、旧鎮守府の建物も消滅した」

「あれは島の特攻で押し潰されたからではないか」

「うん。でも、直接攻撃だからこそ起きた損害だよね」

「ぐ」

長門は旗色の悪さを感じていた。

提督は理詰めで攻めてくる。草木一本残さない。

「話を戻すと、修理もあるから1日で10出撃位が上限でしょ」

「そうだな。それ以上無理すれば資源補給が間に合わず、バケツも尽きるな」

「つまり大規模作戦といいつつ、毎回ボスまで行ったとしてもね」

「う、うむ」

「1日1鎮守府で、3体×3回戦×10出撃で平均90隻しか轟沈させてないんだ」

長門が目を見開いた。

「・・な・・に?」

提督は静かに続けた。

「もう1度言うよ。我々は現在、毎日350体の深海棲艦を消滅させている」

「・・・」

「大規模侵攻作戦で全力出撃する4倍近い事を毎日ずっとし続けてるんだよ」

「・・・」

「第1から第4艦隊まで精鋭で固め、全艦隊を10出撃させてようやく同じなんだ」

「・・・」

「これを超大規模作戦と言わないでなんというんだい?」

「・・」

「さらに言えば、長門達は更にその上で出撃任務までこなしてるんだよ?」

「近い海域だけ、だが・・」

「遠くまで行ってる時に大規模な暴動が発生したら呼び戻せなくなるからね」

「あ・・」

提督は長門から「秋の大規模出撃作戦参加要項」を静かに受け取ると、

「だから、今更、我々が、こんな小規模作戦に関わる理由は全く無い」

そう言いながら、再び却下のカゴに戻すと、

「無いんだよ、長門。良いね?」

と、続けた。

長門は提督の放つ殺気にごくりと唾を飲んだ。

今まで、提督は大規模作戦になぜ出ないのかと聞いても

「ちょっと今回は方角が悪いよ、きっと」

「箸の割れ方が悪かったんだ。止めとくよ」

「あー、何となくね」

等とはぐらかして、その理由を答えてくれた事は無かった。

この変化は、つまり・・

「やっと本当の事を教えてくれたな、提督」

「まぁね」

「喜んで、良いのかな?」

提督は肩をすくめると

「デートしてくれたし、そろそろ本音で話しても良いかと思ったんだけど、嫌かな?」

長門は目を細めた。

「いいや、やっと信用を取り戻せたと思うと、嬉しい」

「やっと?・・何度も言うけど長門、あの事で君を信用しなくなったなんて事は無いぞ」

「では何故、今まではぐらかし続けた?重要かつ重大な判断程、後に知る事が多かった」

提督は眉をひそめた。

「あのねぇ、私はこの鎮守府の重要事項を決めて責任を取る為にここに居るんだよ?」

コツコツと床を鳴らしながら、長門はそっと提督の背後に回り、

「解っているが、旦那様が悩み苦しんでいるのなら、せめて一緒に悩みたい」

そういうと、ぎゅっと抱き付いた。

ややあってから、提督は溜息を吐いた。

「私は長門の素直な所が好きだ。だから正妻に君を選んだんだ」

「・・」

「だけど、私は搦め手を使うし、君達を護る為なら誹謗も甘んじるし泥でも飲む覚悟だ」

「・・」

「さらに言えば、長門が私のようにひねくれ色に染まるのは嫌だ。これは譲れない」

「提督・・」

提督は長門の腕にそっと手を重ねた。

「これからも、私が護りたい長門であってくれ。それが私が長門に望む唯一の願いだ」

長門は提督の後頭部に自分の額をコツンと付けて、しばらく動かなかったが、

「・・やれやれ、私の旦那様はワガママだ」

そっと離れて再び提督の前に戻ると、参加要項の書類を見ながら

「では、その作戦には我々は参加しない、そうだな?」

「あぁ。工作は私から文月に頼む。文月を呼んでくれ」

「解った」

提督と長門は見つめ合って微笑んだ。

 

「あー、また来ましたか。なになに・・・うわ、無駄が多いですねぇ」

「だろ?大鳳とかに見せたら一瞥して捨てるよね、きっと」

「どうしてこうセンスの無い作戦しか思いつかないんですかね、ここから回れば良いのに」

「単に直線距離だけで決めてるよね、これ」

「だから重巡までしか使えないんじゃないですか。回り込んで戦艦投入する方が良いです!」

「大体さ、このエリアを殲滅させるなら最上のICBM叩き込んだ方が早いよね」

「はい。お父さん達の新兵装提案をゴチャゴチャ言って断るからこういう時困るんですよ」

「派閥争いばっかりでちっとも融通効かないのは本当に変わらないねえ」

「もー却下却下です!」

「悪いけど頼んで良い?」

「任せてくださいお父さん!」

「文月は話が早くて助かるよー」

「えへへへへー」

作戦指示内容を前に、悪口で盛り上がる文月と提督を見ると、

「まさか・・単に作戦内容が気に入らないから断るのでは・・ないだろうな?」

と、先程のやり取りに少し疑いを持った長門であった。

そういえば、提督は断る時には全然関係ない理由をもっともらしく並べる癖があるが・・・

いや、考えすぎか。

 

「アー、提督サーン、長門サーン」

「やぁル級さん、こんにちは。間宮さん、摩耶、忙しい所ありがとうね」

「大丈夫ですよ」

「まぁアタシが居た方が話早いだろ?」

「翻訳して頂いて助かります」

山田シュークリーム工場の中で、間宮が機材の説明をする。

ル級達深海棲艦側が理解出来ないそぶりを見せると、

「あー、それはつまり、焦げちまうならコンベアの速度を上げろって事」

という感じで摩耶が噛み砕いて説明しているのである。

提督はル級に訊ねた。

「操作方法は解って来ましたか?」

ル級は調理用の帽子を取り、汗を拭うと

「解ッテ来タケド、マダマダ、マニュアルヲ見ナイト解ラナイヨー」

「そりゃそうだろうね」

「摩耶サンガ解リヤスク言ッテクレルカラ、頑張ッテ追記シテルノヨー」

 

そう。

 

ここにカレー小屋があった時、摩耶はひたすらに深海棲艦達からオーダーを取っていた。

その数万とも数十万とも言える会話を通じて、

「こういう言い方をすると伝わらない」

「こう言うとすぐ解る」

といった事を摩耶は経験的に会得していたのである。

 

 




本作品はフィクションです。
バケツ300杯以上使っても作者の鎮守府に明石さんが来ないとか、明日から始まるイベントとか、ま、全く関係ないですよ?

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