艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file40:響ノ涙

4月12日夜 ソロル本島

「嫌だ」

提督は溜息を吐いた。一体どうしたというのだ響よ。

難題だった緊縮策への同意をとりつけ、明後日の大本営対策会議から帰ってきた提督は、響達に言った。

まず、蒼龍と飛龍は明後日の鎮守府完成式の時に紹介する事。それまでこの家に隠れてる事。

食事は文月達が運んでくれる事。

そして、紹介時に併せて、今まで外れていた響も含め、3人を班編成に入れて集団生活に戻る事。

ところが響は集団生活と聞いた途端に頬を膨らませて反対しだしたのである。

「響、艦娘は集団行動が普通で、今までの方が変だったんだ。艦娘同士生活する方が楽しいぞ?」

「ヤダっ!」

「じゃあどうしたいんだ?」

「提督とずっと一緒に居る」

「それは出来ないよ。今の生活を続けたら一人ぼっちになってしまうよ」

「提督が居るもん!」

「響、聞き分けのない事を言わないでくれ・・・」

「ヤ・ダ!ヤダヤダヤダ!」

提督はすっかり弱ってしまった。タイミングとして今回を逃すと本当に孤立してしまう。

しかし、正論を言っても受け付ける雰囲気ではない。一体どうしてしまったのだ?

蒼龍が提督の袖を引っ張った。

「ん?なんだ、蒼龍」

「ちょっと、女の子同士で話をしたいんですけど」

「頼んで良いか?私はどうすればいい?カレーでもつくろうか?」

「お部屋に居てください。明日の朝呼びます」

「そんな長い話なのか!?」

「ええ。それと、何が聞こえても絶対出てこないでくださいね」

「鶴の恩返しみたいだな」

「ふふっ、開けたら居なくなっちゃうかもしれませんよ」

「・・・頼む」

「ご希望に沿うかは解りませんけどね」

「それは凄く困るのだが」

「まぁまぁ、お部屋に行ってくださいな」

「わ、解ったから押すな。お、おい」

パタン。

「提督、内鍵を」

「えっ、そこまで」

「必要です」

ガチャ。

鍵の閉まる音を聞いて頷いた蒼龍は、響を振り返った。

響は窓の外を見ながら、バツの悪そうな顔をしている。

飛龍はお茶を入れる為に、台所に向かった。

「・・・・・。」

響も蒼龍も一言も話さぬまま、時間が過ぎていく。

やがて、シュンシュンというヤカンから湯気が立つ音が聞こえてきた。

急須を用意しながら飛龍は思い出した。蒼龍はよく、後輩の相談に乗っていた事を。

やがて飛龍はお茶を運んできたが、蒼龍と目でコンタクトを取り、やや離れた所に座った。

蒼龍はお茶を啜りながら、優しい顔で静かに響と海を見ていた。

響は一瞬ちらっと蒼龍を見て、帽子を深くかぶり直すと、再び海を睨んだ。

「・・・・わ、解ってる、さ」

お茶がすっかり冷たくなった後、響はついに口を開いた。

「そう?」

「これでも前の鎮守府ではちゃんと働いてたんだ。解ってるさ!」

「アタマとココロは違うんじゃないかな?」

「ぐっ」

蒼龍は響の方を向いて、にこりと笑った。

「ずーっと提督と一緒に居て、それが当たり前だったんでしょ?」

響はコクリと頷いた。蒼龍は続けた。

「それが急に、班に行け~、集団生活しろ~じゃ、びっくりするよね」

コクリ。

「アタマでは解ってる。けれど、びっくりして、寂しかったんだよね」

コクリ。

「実はね、私も寂しいの」

響がそっと蒼龍を見た。響の瞳には涙が一杯溜まっていた。

「蒼龍・・も?」

「そうよ。ヲ級の頃は小屋で楽しく話をして、いつでもぎゅーって抱き付けたもの」

「・・意地悪してごめん」

「そうだっけ?でも皆でカレー食べたり出かけたり、家族みたいで行く度に楽しかった」

コクリ。

「だから私も、本当はイヤなの」

「・・そうか」

「でも、響も困ってるのでしょう?」

「うん。提督が私のせいで困るのは嫌」

「嫌われたくないものね」

「うん」

「私もそう。だから、良い子のふりをして、命令に従うの」

「ふりをして?」

「当たり前じゃない。本当は1日中べったり引っ付いていたいもの」

「そっか」

「そうよ。でもチャンスは狙う」

「チャンス?」

「きっと皆そうよ。頭撫でて貰う為に頑張ったりしてないかしら?」

「あ」

「寂しいから、ファンクラブがあったりするんだと思うしね」

「・・そうか」

「だから、私も提督の言う事は聞いて、ファンクラブに入って、チャンスを狙うの」

「提督は許してくれるかな」

「明日の朝、謝ってさらっと言えば良いと思う。ニブチンさんに少し考えてもらうのも良いじゃない」

響はぐっと身を乗り出した。

「だよね!提督はニブチンだよね!」

「そうよ。とってもニブチンさん。」

「いい加減気付いてよっていうんだ、まったく」

「そうね。同じ男でも、もう少し気付く人だって居ると思うんけどね」

「うん。で、でも、嫌いじゃ、ない」

「私は大好きよ?」

「うっ・・ズルい・・」

「チャンスは逃しません」

「なるほど。そういうことか。勉強になる」

「班編成でどうなるか解らないけど、戦友とか仲間も出来るんじゃないかな」

「電とか雷とか暁を見かけた」

「あ、良いなあ。私は飛龍だけだよ」

飛龍がひょいと顔を向けた。

「ちょっと。飛龍「だけ」ってなによ~」

「ごめんごめん!大切な戦友さん」

「もう、昔からそうやって調子良いんだから」

「ね?響ちゃん。戦友って気持ちを汲んでくれたり、心が通って良いものよ」

「くっ、うまくかわしたわね・・・」

「・・・。解った。ちょっと怖いけど、頑張ってみるよ」

「響ちゃんならきっと大丈夫。頑張って輪の中に入ってみて」

「あ、あの、もしも困ったら」

「いつでも相談に来て。一緒に羊羹食べましょう」

「本当か?」

「ええ、飛龍のおごりで」

がくっと飛龍がコケる様を見て、蒼龍と響はくすくす笑った。

「さ、そろそろ寝ましょうか。一緒に寝る?」

「あ、あの、お願いして良いかな」

「良いわよ。手をつないで寝ましょう!」

「なんだか、恥ずかしい・・な」

 

提督は布団の中で悶々としていた。

響は一体どうしたんだろう?もし部隊編入を嫌がったら何と言えば良い?

私が何かしたのかな。甘やかしすぎたのだろうか。でも一人ぼっちは可哀相だし。

反抗期の娘を持った父親のように悩みながら、いつしか疲れて眠りに落ちていた。

 

 

4月13日夕刻 大本営

 

「中将、出航準備が整いました。」

「五十鈴も大丈夫かな?」

「いつでも準備万全よ!」

「では、出航だ」

「はいっ!」

中将も乗るという事もあり、前回同様「要塞」重巡四隻に囲まれながら大和と五十鈴が出航した。

重巡達は溜息を吐いた。今度は部屋の外で待機しよう。見ざる言わざる聞かざる、だ。

 

「大和、相談があるのだが」

「何でしょう?」

中将にあてがわれた船内の一室で、大和と中将が応接席に腰かけていた。

「その、なんだ。提督との会話の仕方なのだ・・」

「と仰いますと?」

「提督とは通信で会話したのが最後であるが、ソロル送りという極刑を指示した事に変わりは無い」

「もはや極刑ではなくなりましたけどね」

「それは向こうの艦娘達が頑張ったからだ。わしは何もしなかった」

「いいえ、中将は護衛を付けた五十鈴を送りました」

「それはそうだが」

「五十鈴が行ったからこそ長門が口を開き、私も耳にしたから中将に調査隊の一件を提案出来た」

「・・・。」

「提督の潔白は判明してますし、元の鎮守府の大規模攻撃からも避けられました」

「それは結果論だ」

「結果論でも、事実です。」

「では、どうしたらいい?」

「まずはわだかまりを解きましょう。」

「頭を下げるのは何年振りだ?上手く出来るか自信が無い」

「ふふっ。私を提督と思って練習台になさいますか?」

「ううむ」

「それはお任せしますが、その後は中将自ら提示された任務案を示せばよろしいかと思います」

「受け入れてくれるだろうか?」

「提督は艦娘達の今後の処遇について相当気を揉んでいると思います」

「今なら解る気もする」

「中将の任務は艦娘達を最大限活用出来ますし、艦娘達がソロルに異動していた事が役に立ちます」

「・・・。」

「今回は鎮守府の完成祝いという表向きの要件がありますが、次回以降の訪問は難しいです」

「それはそうだ」

「ですから今回、提督との和解、任務の提案と了解を取り付ける事は必須要件です」

「う、うむ」

「わだかまりさえ解けば大丈夫です。今まで中将と提督の間には信頼があったのですから」

「そうだな。怖気づいても得になる事は無いか。よし、大和」

「はい」

「す、すまんが、謝る練習に付き合ってくれんか」

「畏まりました」

 

6隻は静かに夜の海原を進んでいた。

 




いよいよ異動シナリオの大詰めが来ました。
続いていきましょう。


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