艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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物語の途中ですから・・感想、書き辛いですかね。
ただ、どれくらいのネタを長門編に盛り込んで良いかそろそろ迷ってます。
好評なら拡張路線、それ以外なら集約路線に入ります。



長門の場合(37)

長門が地下に続く階段を降り始めると、ふわりと良い香りが鼻をくすぐった。

「バターの香り、だな」

長門は自然と笑顔になった。恐らく潮であろう。

果たして潮は自分の厨房で忙しく働いていたが、長門が驚いたのは

「高雄達・・もう始めているのか」

そう。

広い工場の中で、ゴウンゴウンと大小様々な機械が動いている。

高雄達は白衣やマスク、ゴム手袋といった完全装備で機械の間を歩いている。

長門の姿に気付いたのか、愛宕が長門の居る通路まで出てきた。

「おはようございまーす」

「この時間から始めないといけないのか?」

「いえ、2時間もあれば良いんですけど・・」

「うん?」

「調理班の万が一に備えて、我々は早めに済ませておきましょうって姉さんが」

「・・・比叡、か?」

愛宕は頷いた。

「先日、お好み焼きを成功させたのは存じてるんですけど、それでも万一はありますから」

長門と愛宕は顔を見合わせて苦笑した。

やはり過去を考えると、にわかには信じられないのである。

「調理場から一番近いのはここだ。最悪の事態の時には助けてやってくれ」

「短時間で作れるように、ラーメンのセットは備蓄してあります」

「準備万端だな」

「賞味期限は1ヶ月ありますから、その間のどこかで誰かが失敗した時の予備なんですけどね」

「まぁ、可能性は十分あるだろうな」

「折角心待ちにして頂いてるのなら、美味しいのを届けたいですものね」

「うむ。愛宕達が居ると安心だ。すまないが頼む」

「はーい、じゃあすみませんが、作業に戻りますねー」

「ありがとう」

長門は線路に並行して続く地下通路を歩いていた。

調理場前の駅の前で、調理場に続く通路を見て立ち止まった。

「・・予想以上にものものしい感じだな」

まだ誰も居ない調理場の入り口は、鈍く光る鋼鉄製の扉で閉ざされていた。

入口の脇には何やら操作する為のパネルが小さく見えている。

なんとなく近寄ってはいけない予感がした長門は、そのまま踵を返そうとした。

「おはようございます」

長門は背後からかかった声にびくっとした。

「た、龍田か・・おはよう」

「どうかしましたかー?」

「今日から開始ゆえ、様子を見に来たのだ。そうだ、セキュリティはどうだ?」

龍田は静かに微笑むと

「昨夜、赤城さんがかかりました~」

長門は手を額に当てた。もう挑んだのか。

「・・一応聞くが、被害は?」

「ありませんよ~?」

「設備等の破損、ならびに赤城のダメージは?」

「設備は無事ですし、赤城さんの艤装も特段問題無いですよ~?」

長門は龍田の言い方に引っ掛かった。

「・・どういう事だ?」

「うふふふふ~」

「・・まぁ、いずれにせよ、いよいよ開始だな」

「そういえば、なかなか良い看板になりましたね~」

「うん?」

「小浜の勧誘看板、ご覧になってないんですか~?」

長門はハッとした。花輪に気を取られていた。

「すまん、どの辺りにあった?」

「トンネルの小浜出口側の真上ですよ~」

「ありがとう!確認してくる!」

長門が去った後、龍田はリモコンのスイッチを押した。

鈍く光る鋼鉄製の扉の手前の床がぱかっと開き、金属の檻がせり上がってきた。

檻には赤城が入っていて、眩しそうに手をかざしている。

龍田は溜息を吐きながら近づいて行った。

「開始前日夜に忍び込もうとは良い度胸ですね~」

「・・・」

「今日から皆さんが成功させようと一生懸命練習を重ねてるというのに・・」

「・・・」

「というわけで、赤城さんには専用の罰をご用意しました~」

「・・?」

「そろそろ、皆さんが調理をしにやって来ます~」

「・・・」

「赤城さんにはこのまま居て頂きます」

「・・・」

「今、赤城さんの居る所は、換気扇の導風路です~」

「・・?!」

「檻越しに美味しそうな匂いを満喫してくださいね。あ、ご飯は夕方まで抜きです~」

「んなっ!」

「もうやらないと約束するなら晩御飯だけは食べさせてあげます~」

「まっ、まだ朝食前ですよ!?」

「3日位放置しましょうか~?」

「止めてください死んでしまいます」

「お手洗いは檻の中にありますので、それで脱獄という手は通じませんよ~」

「あっ!ほんとにある!」

「ちなみにこの檻を知ってるのは私だけだから、大声あげても誰も来ませんよ~」

「ひっ!」

「じゃ、そういう事でー」

 

パタン。

赤城は暗闇の中で溜息を吐いた。

龍田の防衛システムはやはり工廠長のそれとは比較にならなかった。

 

赤城は昨夜、高雄達が引き上げたのを見計らって地下に入った。

調理室の通路に入る手前で小さな手鏡を通路にかざし、防犯カメラが無い事を入念に点検する。

明らかに手慣れた動作だった。

だが。

いつもの工廠長の作りなら、いかにもという防犯カメラがあるのに今回は何度見ても無い。

「困りましたね・・」

索敵をきちんとして敵状を押さえなければ作戦を始めるのは危険です。

しかし、何度見ても通路には何も無いとしか言いようがありません。

単に部屋の中だけのシステムという可能性もあります。

でも、システム設計者はあの龍田さんです。

そんな甘い事をするでしょうか?。

赤城はしばし考えたが、それでも欲が勝った。

虎穴に入らずんば虎児を得ず!全力で参りましょう!

そう言って赤城は操作パネルまで忍び足で歩み寄ったのだが、

「・・・あれ!?」

操作パネルにあと1歩という所で床が抜け、どさりと落ちたのが檻の中だったのである。

「あいたたた・・・」

腰をさすっている間に素早く蓋が閉まり、周囲は真っ暗になってしまった。

「うえー、ここどこですかー?」

しばらくは手探りで檻を揺さぶったりしていた赤城だったが、やがて諦めた。

金属の厚みや重量感が半端ではない。こんな堅牢な檻では勝ち目はない。

この狭いスペースでは艦載機も発艦出来ないし、砲撃すれば自分にも被害が及ぶだろう。

「しょうがないですね・・」

そう言って、諦めて檻の中で寝ていたのである。

 

「はー、朝昼と続けてご飯抜きなんて・・」

赤城は再び暗くなった檻の中で肩をすくめると、懐から袋を取り出した。

忍び込む前に資材庫で失敬したボーキサイトである。

「隠し味にするつもりが非常食とは・・慢心してはダメですね」

小さな欠片をポリポリと齧ると、赤城は溜息を吐いた。

 

「おおぉ・・・」

トンネルから出て振り向いた長門は思わずうなり声をあげた。

これだけ離れているのにしっかり字が読める。

派手過ぎず、堅苦しさも感じないオシャレなデザインで、文字も読み易い。

艦娘化とはどんな事をするのか、鎮守府で何が学べるのか、異動先の不安にどう答えているのか。

短い文章を重ねて端的に説明しているが、

「気持ちがよく籠っていて良い文章だ。胸が熱いな」

長門は苦笑した。

こういうセンスを青葉は持ち合わせているのに、どうしてソロル新報はああなんだろう?

 

 


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