艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(36)

そして、金曜日の朝を迎えた。

「・・・」

長門はいつも通りの巡回を行っていた。

そして最後に立ち寄った小浜でポリポリと頬を掻いた。

 

ゴミ1つ落ちてない浜は予想していたが、飾り付けまでされている。

どう考えてもこんな時間から高雄達が準備する筈が無い。

浜の両側に大きな花輪がいくつも並び、

 祝料理屋開店!カレー曜日愛好会一同

 祝菓子店開店!深海棲艦ご近所一同

等と書かれている。

長門は傍まで寄って確かめたが、ちゃんとした花輪である。

深海棲艦達は一体どこで用意したのだろう。

・・・地上組、か。

「オハヨウゴザイマス」

振り返るとル級とカ級が立っていた。

「おはよう。立派な花輪だな。ありがとう」

だが、ル級は肩をすくめた。

「オ祝イノ気持チハ確カナンダケド、実ハ苦肉ノ策ナンダヨー」

「何がだ?」

カ級が継いだ。

「モウネ、皆昨夜ノ抽選会カラ超絶ヒートアップシチャッテ」

「あー」

「徹夜デ並ブトカ、1番ハ俺ダトカ、祝イノ品ヲ渡ストカ大騒ギニナッチャッテ」

「・・先日の大群衆の件も考えると、解らなくはないな」

「ダカラ未明マデ掃除シテ、高雄サンニ断ッテテーブルトカ並ベテネ」

「うむ」

「ソレデモ元気ガ有リ余ッテル子達ニ花輪買ッテキテモラッタノ」

「地上組の店か?」

「ソウイウ事。夜中ニ買イニ来ルナッテ怒ラレチャッタヨー」

「他の皆は?」

「サスガニ疲レ果テテ明ケ方ニハ寝チャッタヨー。昼ニハ起キテ来ルヨー」

「我々も準備はすべて済ませた。初日は色々あると思うが、よろしく頼む」

「コチラコソ、ヨロシクダヨー」

その時、カ級が長門に近づいた。

「うん?なんだ?」

「私ネ、私ネ、昨夜ノ抽選会デ生マレテ初メテ当タッタヨ!」

「おー、良かったじゃないか!」

「ホントニ嬉シクテ、マダ眠レソウニナイ!」

「喜び過ぎて寝過ごすなよ?」

「モウ食ベルマデ寝ナイヨ!食ベタラスグ寝ルヨ!」

「頑張れ。昼までもう少しあるが、メニューを楽しみにしてると良い」

「ウン!」

ル級達と別れた後、長門は提督室に向かった。

コン、コン。

「どうぞ」

提督室のドアを開けると、食事を済ませた加賀と提督が居た。

「おはよう、加賀、提督。もう執務に入ってるのか?早いな」

加賀は肩をすくめた。

「今日は昼から小浜で何かあるかもしれないので、それまでに済ませる事にしたのです」

提督はハンコを押し終えて顔を上げた。

「で、どうした?巡回で何かあったか?」

長門は頷いて、顛末を報告した。

 

「予想以上だねえ」

「あぁ。いくら体力を使わせようという目的でも、花輪まで用意するとは思わなかった」

「今日の調理班は誰だっけ?メニューも解るかな?」

加賀はパラパラと資料をめくったのだが、顔がこわばった。

「ど、どうした加賀?」

加賀はゆっくりと提督に顔を向けると、

「そ、それが、お好み焼きランチだそうですが・・」

「なんか変かな?」

「金剛さんの班なのですが、何故か、比叡さんが追加されてます・・・」

「へー」

平然としている提督に対し、長門は目を見開いていた。

「ちょ、ちょっと待て!何故比叡が入っている!」

加賀は提督の机をドンと叩いた。

「よ、よよ、宜しいのですか?」

「良いんじゃない?比叡のお好み焼き、結構おいしかったよ?」

長門と加賀は提督に詰め寄った。

長門はそっと、提督の額に手を当てた。

「・・熱は無いようだな」

「あれ?数日前のソロル新報読んでない?」

「は?」

「何の記事だ?」

提督は棚からソロル新報のバックナンバーを手繰り始めた。

「ええと・・ああ、号外扱いか。青葉達もよっぽど慌てたんだな」

そこには

 

 「祝!比叡さんお好み焼きに成功!」

 

という1枚物の号外が綴じられていた。

加賀と長門は食い入るように読んでいたが、

「ひ、比叡が・・あの毒薬としか言いようのないカレーを作る比叡が・・・」

「カレーとグラタン以外は普通に作れる・・そんな、馬鹿な・・・」

「二人とも随分だね」

二人はギッと提督を睨んだ。

「比叡がカレーの試食をしてくださいと言って来た時の恐怖感を知らないから言えるんだ!」

「そうです!皮付きのスイカとかが浮いてるルゥにスプーンを刺さないといけないんですよ!」

「そもそもルゥの色が蛍光緑とか訳解らない色なんだぞ!?」

提督は二人をなだめた。

「まぁまぁ、過去に悲惨な体験があるのは良く解ったよ。トラウマを引きずり出して悪かったよ」

「まったく」

「ご理解頂ければそれで」

「でもね、私はそのお好み焼き、食べたんだよ」

二人が目を見開いた。

「ゆ、勇気あるな、提督・・具はなんだ?マンボウか?サンゴか?」

「医療班は待機させていたんですよね?」

提督は肩をすくめた。

「榛名から事前に、カレーとグラタン以外は大丈夫と聞いてたんでな」

「そういう事か」

「では、金剛さん達は御存じだったのですね」

「一緒にお好み焼き練習してたからね」

ようやく二人が安心したと言う顔をした。

「初日から重症者続出で病室が満員なんてシャレにもならないからな」

「文字通り深海棲艦達と全面戦争になってしまうでしょうし」

「あのお好み焼きなら大丈夫だってば」

「解った。それなら良いだろう」

「なんなら、書類が早めに上がったら調理室と工場を見に行こうか?」

加賀が頷いた。

「それでは流れ作業で処理しましょう」

「加賀さん慎重だね」

「万一を心配してるだけです」

「解った。じゃあ加賀さん、頼むよ」

「了解しました。あ、長門さん」

「なんだ?」

「宜しければ、別働隊として」

「うむ。これから金剛の部屋へ様子を見に行ってこようと思う」

「お願いします」

提督は溜息を吐いた。

「本当に酷い目に遭ったんだね」

二人は深く頷いた。

 

トン、トン。

「失礼する・・・ぞ・・・」

ガラリと扉を開けた長門はジト目になった。

「あ、す、すみません。御見苦しい所を」

「早く起きなさ~い!」

「ぎ、GiveUpネ・・霧島・・」

「zzzZzzzZZZ」

金剛の頭を左右から拳骨を当ててグリグリしている霧島。

比叡を両腕で高く持ち上げている榛名、それでも寝ている比叡。

長門は溜息を吐いた。

「毎朝の光景、なんだな」

榛名がドスンと比叡を布団の上に落としながら言う。

「ええ。こんな感じです」

それでも比叡は起きなかったので、長門は頷いて訊ねた。

「榛名、教えて欲しいのだが」

「はい?」

「その、比叡は、お好み焼きを食べ物として作れるのか?」

榛名は霧島と顔を見合わせた後、溜息を吐いた。

「カレーの試食では何度もご迷惑をおかけしてますものね・・」

「い、いや、それを蒸し返すつもりはないのだが・・」

霧島が継いだ。

「今日の当番表をご覧になって、心配で様子を見に来られたのですね?」

「その通りだ」

「比叡姉様は、何故かカレーだけは本当にBC兵器並の物になってしまうのですが」

榛名が頷いた。

「カレーとグラタン以外は本当に大丈夫です」

長門は一段声を潜めた。

「後で提督と加賀が調理室と工場を巡回するのだ」

霧島が頷いた。

「加賀さんが秘書艦なら、提督の身を心配されるのも無理はないですしね」

榛名が継いだ。

「ただ、提督は先日召し上がってるんですけどね」

「そうらしいな。提督は美味しかったよと言っていた」

「ええ、お持ち帰りになったほどで、比叡姉様がとても喜んでました」

「そうなのか」

「後でそれを赤城さんが美味しく召し上がったと聞いて、比叡姉様笑ってました」

長門はなるほどと頷いた。

青葉達はそのやり取りをコンクリマイクで聞いて、慌てて号外として出したのだろう。

「解った。あーその、今日の主役は金剛達だから、寝坊しないようにくれぐれも頼む」

「お任せください!」

「どんな手を使ってでもお姉様達をしっかり起こします!」

「榛名達なら間違いはなかろう。では頼んだぞ!」

 

 




今更ですが、1ヶ所訂正しました。

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