艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file39:窮地ノ克服

4月12日昼前 ソロル本島

 

「ほ、本当、か・・・」

木曾は直前で死刑執行を免れた冤罪人のような顔で提督を見た。

「よく頑張った木曾。そして苦労をかけてすまない。後は私が全部引き受ける」

「て、提督・・・助かっ・・た・・・」

バタンと机に突っ伏す木曾。

「本当にごめんなさい。まさか返り討ちにあうとは思わなかったんです」

文月が頭を下げる。

「いや、引き受けたのは私だし、予想以上に手こずったのは事実だ。上手く出来ず申し訳ない・・」

少し前、外をとぼとぼ歩いていた木曾を見つけ、そのまま集会場に招いたのである。

長門は不知火に頼んで呼びに行かせた。

「話した子達から何と返されたか、教えてくれるか?」

「要約すれば練度が下がる事や怠惰な雰囲気の蔓延を心配する声。後は単純に楽しみが減る不満だ」

「なるほど」

そこに長門と不知火が入ってきた。

「待たせてすまない。もうだいぶ進んでしまったか?」

「いや、大丈夫だ。そっちは説得した子達からどういう事を言われた?」

「基本的には待機が増える不満と、いつまで続くか解らないという不透明さだ」

「もっともだな」

「長門さん、ごめんなさいです。もっと連携出来たらこんな事には」

「いや、こちらも借りを返せず、すまないと思っている」

「長門」

「なんだ?」

「後輩達の教育は何か計画しているか?部隊名だけは決めたが」

「あ!」

「どうした」

「すっかり忘れていた!」

「ふむ。解った。午後一番で皆を集めてくれ」

「だ、大丈夫か?」

「温めていた案を正直に話してみよう。長門、木曾、文月、不知火」

「はい!」

「まずい方向になったら助けてくれ」

「頑張ります!」

 

 

4月12日午後 ソロル本島

 

空気が重く刺々しいな。予想以上だ。

集会場に集まった全艦娘は、不安げな目、怒っている目、諦め顔など、誰もがネガティブな状態だった。

これは確かに二人を紹介してはダメだ。提督は文月の進言に感謝した。

咳払いをすると、提督は切り出した。

「皆、解っていると思うが、鎮守府の資材は現在消費する一方で補充されていない状況だ」

「・・・・」

「かといって私は練度を下げるような真似をしたくないし、より良い形で解決したい」

「・・・・」

「事務方は事実から考えて緊縮策をまとめ、一部の者に説明した。」

「・・・・」

「補給策を確保するまで緊縮策で乗り越えなければならないのは事実だが、まずは謝りたい」

すっと、提督が立ち上がると、頭を下げた。

「我慢を強いる事になり、そして、先の見えない不安を与えた事を詫びる。すまなかった」

艦娘達はざわめいた。

今まで褒めてくれたりする事はあれど、頭を下げられた事は数える位しか無かったからだ。

「な、なあ、提督。頭上げてくれ」

声を上げたのは天龍だった。

「俺達も薄々解っちゃいたんだ。鎮守府に来てた物資補給の定期船もこねぇしさ」

「・・・・。」

「だからその、木曾を責めちまった。」

「・・・・。」

「た、頼む。提督のせいじゃない。皆も解ってる。こっちも悪かった。だから頭は上げてくれ。」

「提督~、天龍ちゃんを困らせないであげて~」

龍田が溜息を吐きながら言う。

「誰かが事実の責めを負っても変わらない。それより今後どうするかが問題。だから呼んだんでしょ~」

「すまない、皆」

「いいかげん頭を上げないと切り落としますよ~」

「上げます」

「さっさと座ってくださいね~」

「座ります」

「それで、当然策はあるのでしょうね~?」

「聞いてくれるかな?」

「とりあえず聞くだけ~」

 

提督が説明したのは以下の事だった。

まず、最初は既存艦娘と新入生で分けて2部隊編成とすること。

次に、既存艦娘には新入生達に知識や技術を指導する当番を設け、座学形式の授業を行う事とする。

緊縮策の為に実弾演習は月1程度に減らすが、その分は授業で埋めるので待機は増えないこと。

提督は続けた。

「今後についてだが、部隊や班は年1回は紅白戦で実力を見たり、希望に応じて組み直しをしたい」

「次に教育だが、班当番制を1年続けた後、希望や推薦で教育班を専従編成する」

「事務方についても業務量が飛躍的に増えるので専従化する。これは近々希望者を募る」

「そして、これは皆にしか伝えない極秘事項だ。内密ということで聞いてほしい」

艦娘達の顔色はだいぶ良くなり、話をちゃんと聞いている。続けていこう。

「元々艦娘だったが売り飛ばされ、戦いたくないのに深海棲艦にされているケースがある」

艦娘達はどよめいた。

「我々から区別はつかないので通常戦闘においては従来通りの対応だが、意志あるものは助けたい」

艦娘達は頷いた。

「そこで、岩礁にある小屋を元の艦娘に戻りたい深海棲艦との窓口にし、調査対応する組織を設ける」

艦娘達は一様に驚いた顔を見せた。

「1隻深海棲艦を艦娘に戻せれば敵は一人減って仲間が一人増え、艦娘は喜び一石二鳥だ」

「調査は場合によって危険な任務となる可能性があるのでLVをある程度絞るが、これも専従で希望制としたい」

「これら専従職は、やってみて辛ければ戦闘部隊に戻れるようにする」

「要するに、戦闘部隊、教育、事務方、そして深海棲艦調査の中から希望する道を選んでほしい」

艦娘達はじっと聞いている。

「これは現段階ではまだ私の腹案に過ぎない」

「前の鎮守府もユニークと言われていたが今度はケタが違う。大本営への交渉も長期化するだろう」

「まずは明後日14日に大本営から中将、大和、五十鈴が来る。そこを皮切りに説得を進めたい」

「その前に、皆に問いたい」

「この案に賛成出来ない者を巻きこむつもりはない。交渉する前に他の鎮守府に異動出来るよう手配する」

「異動先で不利益を被らないよう全力を尽くす。心配しなくていい」

「さ、全員目を瞑ってくれ」

提督は一旦言葉を切り、艦娘達が目を瞑ったのを見届けて続けた。

「異動を希望する者は挙手してくれ。絶対に口外しない。約束する」

しん、と、集会場が静まり返った。

手を上げる者、いや、手を上げようというそぶりをする者も居なかった。

「あー、目を、開けてくれ」

目を開けた艦娘達はニヤニヤしていた。

「なんだ?お前達」

「提督、まだ私達を解ってないなあ」

摩耶が声を上げた。

「そんな面白そうな事をしようってのに、出ていく馬鹿が居る訳ないだろ?」

山城が続けた。

「大胆な事を言うくせにハトが豆鉄砲食らったような顔してるんじゃないわよ」

電が声を上げた。

「戦わずに助けられる方法があるなんて、素敵なのですっ!」

金剛が立ち上がった。

「無茶するテートクは私達がカバーしないとダメデース!最後まで付き合ってあげまショー!」

艦娘達が一斉に「おー!」と声を上げた。

提督は息を吐いた。なんとか収まったようだ。

「・・・わかった。では、古鷹」

「は、はい!」

「すまないが新入生の班編成を頼めるかな?」

「もう案があります!新入生の子達と相談してました!」

「よし、そのまま進めてくれ。次に赤城」

「はい?」

「既存部隊の当番表に講師役を足してくれ。昼間のみ、2班同時位で良いだろう」

「解りました。すぐやっておきますね」

「妙高、那智、足柄、羽黒」

「なんでしょうか?」

「教育内容策定を任せる。まずは今まで新入生に伝えていた事をまとめてくれれば良い」

「うむ、任せておけ。今までの延長だからな」

「それと」

艦娘達が提督を見た。

「誰か明後日の段取りを手伝ってくれ。何とか好印象で上手く船出したいのだ。」

加賀が口を開いた。

「まったく、しょうがないですね。提督」

「うん?」

「この前の報酬をくれたら、相談を受けましょう」

「ああ、なでなで成分の補給だな」

「上手い事を言いますね。そうです」

「よし」

提督が加賀に近寄ると、頭をなでなでし始めた。

「えっ、ちょっ、い、今?あ、う・・・」

「色々ありがとうな、加賀。頼りにしてる」

「・・・・・。」

「テートク・・・」

「ん?」

「時と場所を弁えなさいって、いつも言ってマース!」

「待て金剛!明後日手伝ってくれたら頭なでなでしてやる!」

「ウッ・・・嘘ではナイデスネー?」

「約束だ」

「わーかりましター!手伝いマース!」

「よし、早速だが加賀、このまま打合せで良いか?」

「は、はい。始めましょう」

「顔真っ赤だが、大丈夫か?」

「だ、大丈夫ダイジョブ」

「ほ、ほら、水でも飲みなさい」

「はい・・・」

その後、平静を取り戻した加賀や長門達秘書艦、事務方、そして提督の打ち合わせは夜まで続いた。

 

 




シナリオを整理しつつ本編の推敲もあるので、公開分の5倍くらいキーを打ってます。
だから指が痛くて動かなくなってきました。
1日1話くらいになるかも。かも。

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