長門が見守る中、神通は説明を続けていた。
「目標は、第2回戦まで行き、A勝利を飾る事とします!」
長門は頷いた。それならちょっと背伸びした位の目標だ。運が悪くなければ大丈夫だろう。
「神通、行きます!」
そして。
神通は重巡2、軽巡2、駆逐2を見つけたと龍驤が告げた後も最大戦速で航行した。
このため、敵がのけぞる程の至近距離で遭遇、なかば強引に同航戦に突入したのである。
長門は距離を取って神通達の攻撃を支援しながら、その動きをメモしていた。
神通は旗艦を意識し過ぎているのか、少し動きが固いな。
もう少し龍驤が知らせた後で減速していれば接敵もスムーズになる筈だ。
龍驤の艦載機捌きは安定しているな。
さすがに一航戦には劣るが、祥鳳や瑞鳳等と一緒に配備すれば十分主力を担えるだろう。
それにしても。
長門は敵弾をさらりとかわしつつ思った。
驚いたのは菊月、皐月、三日月だ。
遠征の為に球磨多摩に弟子入りしたのは知っていたが、あの動きは何だ?
戦闘開始前に三日月が小島に潜み、島の中から催涙弾で砲撃。
砲弾が着弾し、敵が咳き込んでいる間に菊月と皐月が狙い澄まして致命傷を与えている。
全くの無傷で戦闘を終えているし、攻撃の合間に神通達をアシストしている。
Lv以上に実力があるな。これなら出撃でも充分頼もしい働きをするだろう。
昼の戦いで敵を撃退した為、神通は皆を集め、ダメージを確認した。
神通と龍驤が小破手前、他は無傷という状況だった。
神通は頷いて言った。
「予定通り、更に進撃したいと思います!」
長門はすすっと近づき、艦載機発見後の航行速度の事だけアドバイスした。
神通はハッとしたように目を見開くと、
「すみません。突撃するのは昔の癖です。直し切れてないのですね。改めます」
と言った。
そして迎えた第2回戦。
「ちょ・・ちょーっち、奥まで来すぎてないかな・・あはははは」
龍驤が神通にそっと振り返った。
神通は両手で顔を覆っていた。
長門は静かに兵装を点検し、水上機の発射準備を進めていた。
手帳に物を書いている余裕はなさそうだ。
神通はボスから逸れるルートを進んでると思っていたらしい。
途中、それにしては多い弾薬と燃料が漂流していたのを皐月と三日月が回収したのだが、
「今日は運が良いんですかね・・?」
そう言って神通は最後まで自らの判断を疑わなかった。
だが、実際はボスに向かって真っ直ぐ向かっていたのである。
長門は気づいていたが、あえて言わなかった。
直前で逸れる可能性もあった。
逸れなくても突然かつ予想外の事態にどう応じるかを見ておくのも良いと思ったからだ。
菊月達は3人で海図を見ている。
神通がショックを受けている理由に気付いたようだった。
空母2、戦艦、重巡2、そして駆逐ニ級。
間違いなく、オリョール海のボスに接敵してしまったのである。
神通はぎゅっと両手で拳を作り、キリッとした顔になると、
「菊月さん!皐月さん!三日月さん!」
「はい!」
「複縦陣形式としますが、貴方達を第2分隊として一任します!分隊長は菊月!良い?」
菊月はすっと目を細めた。
「その期待に応えて見せよう」
神通は長門を見た。
「長門さん!eliteのヲ級をお願いします」
「解った」
「龍驤さんは左の重巡への爆撃を!」
「よ、よっしゃ、頑張るでぇ!」
「私は戦艦と戦います!」
だが、長門が止めた。
「神通、待て」
神通が振り返ったのを見て、長門はニッと笑った。
「戦艦が、居るんだぞ?」
神通は刹那の間考え、ハッとした。
「すみません!私は左の空母に行きます!龍驤さん、2回目は戦艦への空爆を!」
「よっしゃ!」
そう。
先程は1回で済んでしまったが、双方いずれかに戦艦が居る場合、攻撃は2回行える。
更に艦載機からの攻撃は大ダメージを受けやすいので、敵空母は出来るだけ早く潰す方が良い。
神通は自身が軽巡である為、「2回目」の攻撃を組み立てる経験が少なかったのである。
長門は頷いた。
強いプレッシャーのかかる状況下でも軽いヒントを与えれば神通は気付く。
もう少しで旗艦を張れるだろう、と。
龍驤の流星改が奇跡的に敵の戦闘機をすり抜けた。
まさに砲撃体制にあった重巡に急降下爆撃を敢行。誘爆を誘い、一発轟沈に追い込んだ。
「や、や、やったでー!う、うち大活躍やー!」
喜び飛び跳ねる龍驤。
弾着観測射撃でeliteヲ級を沈めた長門が、その様子を見て諌めた。
「龍驤!喜ぶのはまだだ!敵攻撃に注意しろ!」
「そ、そうやったー!」
仲間を沈められ、怒り狂ったもう1体のヲ級は艦載機を一斉に発射。
喜んでいて逃げ遅れた龍驤に雨あられと爆弾を降らせた。
「あっかーん!ちょっちピンチすぎやー!」
懸命に逃げる龍驤に山のような至近弾が降り注ぐ。
ついにその一発が艦橋に突き刺さる・・・が。
「ふ、不発?不発弾やね?ソロモン海のようには行かないよ、っと!へっへーん!」
つまんで敵の方に放り投げる龍驤。いわゆる攻撃ミスだ。
ホッとする龍驤に長門の言葉が飛んで来る。
「龍驤!運に頼るな!戦闘終了までしっかり対応しろ!」
「すんませーん!」
長門はハッとした。
しまった。そろそろ敵戦艦が捕捉に入る。
龍驤が狙われたら、あの装甲では戦艦の主砲弾には耐えられない!
だが、観測していた水上機からの報告を聞いた長門は呆気に取られた。
まさにその戦艦が沈みつつあるという内容だったからである。
何故だ?
敵の方も一体何があったのかと呆然としている。
その時、長門の視線の先で、もう1隻の重巡が攻撃を受けて沈んだ。
背後からの攻撃で。
長門は神通を探した。
神通はヲ級の前で、艦載機攻撃を猛スピードと急回頭でかわしながら魚雷を発射していた。
魚雷が良いコースでヲ級に迫る。ダメージは確実と思われた、その時。
ドドドーン!
「!?」
今度はそのヲ級が、背後からの猛攻を受けて大破した。
追い打ちをかけるように正面から神通の魚雷が命中し、轟沈して行った。
長門は煙を避けながら、敵の数を数えた。
おかしい。駆逐艦が1体居た筈・・・
そうだ。菊月達は?
その時。
ザバァアァ。
「!?」
長門の目の前に、駆逐ニ級が海の中から浮き上がって来た。
長門がとっさに砲を構える。
だが。
「案ずるな。我々だ」
駆逐ニ級の下から声がしたかと思うと、菊月達が現れた。
良く見ると駆逐ニ級は動けないよう縛られていた。
長門はハッとして、菊月に尋ねた。
「ま、まさか、こいつを囮に使ったのか?」
皐月がシュノーケルを外しながら、にこっと笑って答えた。
「深海棲艦は味方の真下に艦娘が居ても気づかないんだよ。遠征中に偶然見つけたの!」
神通が龍驤を連れ、そっと近づいて来た。
「皆さん、無事ですか?」
三日月が頷いた。
「3人とも無傷です」
その間、菊月がそっと駆逐ニ級の縄を解くと、真っ直ぐに見つめながら、
「我々と共に、艦娘に戻るか?逃げるか?・・それとも、散るか?」
と言った。
「・・・艦娘ニ、戻ル?」
「あぁ」
「・・・」
菊月は神通に振り向き、軽く頷いた。
つられて長門が神通の方に向いたとき、
「馬鹿ニスルアァアア!」
駆逐二級がそう言いながら、菊月に襲い掛かったのである。
ドン!
ニ級の叫びと一発の砲撃音が重なった。