艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(25)

 

長門と提督がデートから帰ってきた夜。

定期船の出航が積荷の関係で予定より遅れた為、鎮守府に着いたのは夜遅くだった。

しかし。

自室に戻ってきた長門を待ち構えていたのは目をキラキラ輝かせた陸奥だった。

「提督、服の事何か言った?手つないだ?どこに行ったの?誰かからナンパされた?」

機関銃のように質問を浴びせられた長門は、

「ま、待て。話は風呂の後にしてくれ」

と、部屋着にお風呂セットという格好で部屋を飛び出したのである。

「・・・・」

長門は目を瞑って湯船に浸かった。

何となく予想はついていたが、さて、一体どこからどこまで話したものか。

 

昨日の夕食後、陸奥に提督と骨休めに出かけると言った途端、陸奥は

「あらあら、デートならおめかししないとね!任せて!」

と目を輝かせ、慌てて工房に取って返していった。

そして長門が本を読み終わり、早めに寝ようかと思っていた時に戻ってきた陸奥は、

「お待たせ姉さん!どれが良いか決めて!」

といって、長門のベッドの上に3セットの服装を並べて見せたのである。

長門は硬直した。

左のセットは・・なんというか、布がとても少ないな。ちょっとどころではなく恥ずかしい。

右のセットは布は多いんだが・・きっ、切れこみが深すぎないか?そこまでか!?

どちらにしても街を歩けない。いや、恥ずかしくて部屋を出られない。

長門は真ん中のセットを見た。

帽子、ワンピース、靴もバッグも真っ白に統一されたセット。

とても普通だ。素直に良いと思う。これなら着たい。

だが・・

長門はジト目になった。

左右のセットを組み合わせた陸奥の事だ、何かおかしな細工がされてるんじゃないか?

服を手に取り、目を皿のようにして服を調べる長門に陸奥は眉をひそめて訊ねた。

「何よ?」

「何か・・何かないんだろうな」

「胸元ががばっと開いてるとか?実はスケスケとか?」

「や、やや、やっぱりそうなのか!」

「なってないわよ。生地もレースじゃないから透けないし」

「突然服が短くなるとか、水着に変わるとか、無いな?」

「ないったら。それどんな仕組みよ?」

「・・・本当に、普通の服だな?」

陸奥は肩をすくめた。

「逆効果だったかしら」

「どういう事だ?」

「最初からそれが良いと思ったんだけど、そのまま勧めても着ないかなって思ったの」

「・・」

「だからわざと派手な服を左右に置いてみたんだけど」

長門はふっと息を吐いた。

「気にし過ぎたようだ。すまない」

「姉さん、昔より疑り深くなったわよね。それって提督のせい?」

長門はうっという表情をした後、重い溜息を吐いた。

「否定出来ないな。だが、このセットはなかなか良いぞ」

「うん、似合うと思う。あと、姉さんはあまり付けないけど、こんなアクセサリはどう?」

陸奥がそう言いながら出してきたのは、サファイアのブローチだった。

「・・白の装いに深い青が良く似合うな」

「大き目のブローチだけど、肩口に1点だけなら派手ではないと思うの」

長門はブローチを手に取ってゆっくり眺めた。

「世間がどう見るかは解らないが、私は綺麗だと思う。これは陸奥の作か?」

「そうよ」

「・・そうか」

「じゃあ明日付けて行かない?」

「そうだな。貸してくれるか?」

「ええ。この辺りに着けると良いと思うわ!」

 

長門は目を開け、湯の中でゆっくりと腕を伸ばした。

そう言えば陸奥はブローチを付けると言った時、いつになく嬉しそうな顔をしていたな。

ちゃんと、陸奥のおかげで楽しめたという事は伝えたいな。

長門は周囲を見回したが、広い風呂場は長門一人だけだった。

修理ではない入浴は艦娘達の娯楽の1つゆえ、時間を問わず居るかと思ったのだが。

(修理の入渠は長時間過ぎて飽きてしまうらしい)

もうすぐ日を超えるからか?

ゆっくり入りたい時には良いかもしれないな。

そう思った時、ガラリと扉が開いた。

「ん?鳳翔か?」

「はい。長門さん、珍しい時間にいらっしゃいますね」

「今日は提督と外出して、先程定期船で戻って来たのでな」

鳳翔はくすっと笑うと、体を洗いながら言った。

「逢引きは楽しかったですか?」

長門は苦笑しながら返した。

「鳳翔は鋭いな。この一言だけで解るのか」

「・・そうでも無かったりするのですけどね」

「・・と、いうと?」

鳳翔は少し迷っていたが、

「ええと、提督にはナイショですよ?」

「う、うむ」

「実は半月くらい前、提督からご相談を頂いたんです」

「・・提督から?」

「ええ。長門さんをがっかりさせない為に、どんな風に逢引きしたら良いだろうって」

「んなっ!?」

「どうしました?」

「て、てて、提督・・なんと言う相談をしてるのだ」

「どうしてです?」

「お、男なのだからそれくらい自分で決めれば良いではないか」

鳳翔は髪にタオルを巻きつけて湯船に入ると、長門の隣に落ち着いた。

「私は良い事だと思いますよ」

「なぜだ?」

「男と女は違う生き物です。特に考え方には隔たりがあります」

「・・」

「デートのプランを自分一人で決める人が居ますけど・・」

「うむ」

「それは、自分の好みを押しつけてるって事ですから」

「・・」

「それに、提督はプランは持って来たんですよ」

「そうなのか?」

「ええ。それで、中身で気になる事があれば言ってくれって」

「ならば私に聞けば良かろうに・・」

「随分悩んだそうですよ」

「何をだ?」

「長門さんに相談して楽しみにして貰うか、当日びっくりしてもらうか」

「・・写真館も鳳翔の提案か?」

鳳翔は首を傾げた。

「いえ、私は映画とお食事だけですよ?」

「そうか」

「あ、喫茶店の位置は調べておくように言いました」

「なぜだ?」

「長門さんが泣いた時に隠れる場所として」

「う」

「・・ふふ、御役に立てたようで、嬉しいです」

「あれは助かった。礼を言う」

「といっても、あの映画にするよう進言したのも私なんですけどね」

「映画を見るのは提督のプランではなかったのか?」

「いえ、提督はスカッとするアクション物を選んでたんです」

「私はそちらでも構わなかったのだが・・」

長門と鳳翔は頷きあうと、一緒に湯船を出て脱衣所に戻った。

「提督もそう仰いましたが、長門さんが泣いてる間、提督はどうしてました?」

長門はバスタオルを体に当てたまま、きょとんとした。

「・・・ええと」

「はい」

「あ!」

「・・今までお気づきになってなかったんですね」

「ずっと、頭を撫でてくれていた・・な・・」

「お気に召すかなと思ったのですけど・・」

「本気で泣いてたからあまり覚えていない・・なんという不覚・・」

「予想以上にツボに嵌まっちゃったんですね」

「だ、だってフローレンスが!」

「あ!待ってください!ストップです!」

「!?」

「・・私は明後日のお休みの時にその映画を見に行く予定なのです」

「そ、そうか。すまない」

「それでいえば」

「なんだ?」

「その時、陸奥さんとご一緒する予定なので、陸奥さんにも言わない方が良いんですけど・・」

長門は服を着ると、軽く櫛を当てながら言った。

「ありがたい。これから顛末を説明する所だったのだ」

シュッと最後の紐を結び終えた鳳翔は、にこっと笑った。

「それならご一緒させて頂いて、よろしいですか?」

「え?」

「プランをチェックした者として、結果が気になっていたんです」

「あ、ああ、あの、えーと」

「明日にでも提督に伺おうかと思ってたんですけど、その方が良ければそうしますよ?」

長門は考えた。

いずれにしろバレるなら、自分が話した方が良い。

それに・・

「良いだろう。その代わり、提督の元々のプランを教えてくれるか?」

「解りました」

 

部屋に帰った二人を見て、陸奥が声を掛けた。

「あら?鳳翔さん?」

「お風呂でご一緒になったんですよ」

長門は肩をすくめた。

「ああ。それで、今日の顛末を聞きたいというので、な」

陸奥は頷いた。

「プランナーとしては出来栄えが気になる訳ね」

「そう言う事です」

長門が眉をひそめた。

「うん?何故陸奥が知っている?」

「服のコーディネートを相談した時に聞いたからよ」

長門は溜息を吐いた。情報がダダ漏れだ。

「どこで誰が聞いてるか解らないのだから、これ以上あまり広げてくれるなよ?」

「とっくに皆知ってるよ?」

「なに?」

陸奥は今朝のソロル新報を長門に手渡した。

「ほら」

「んなっ!?」

1面トップのタイトルには大きな字で

 

 提督と長門さんが極秘デート!

 デートコースも入手!全て見せます!

 近親者が語る長門さんの裏話付き!

 

と、書いてあった。

 


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