艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(19)

長門達の視線の先には、摩耶とル級が立っていた。

 

「まだ!店が出来るまで!時間かかるぜっ!」

「何度モ言ッテルガ、出来タラ本当ニ呼ブ!呼ブカラ!」

 

浜でこちらを向きつつ、しきりにメガホンで叫んでいる。

奥では建造妖精達ががヘルメットを被って基礎工事を進めていた。

「ど、どういう事なんだ?」

長門の呟きに、ふいっと振り返ったタ級が言った。

「長門、ココデ料理屋ト甘味処ガ出来ルノハ本当?」

「あぁ、間違いないぞ。今までのカレー小屋の代わりだ」

「マ、毎日トイウノモ本当カ?」

「あぁ、毎日だ」

タ級をグイと押しのけてチ級が尋ねてきた。

「ヤ、ヤッパリココカラ25km圏内デ争イガ起キタラ・・」

長門は頷いた。

「今まで通り、1週間営業停止だな」

近辺に居た深海棲艦達が「ヤッパリソウカ」とどよめいた。

しかし、数が余りにも多過ぎるので、

「エッ、ナニナニ?」

と聞いてくる深海棲艦と、その答えを聞いた後の

「ヤッ!ヤッパリ!」

という反応とが重なりあい、大きなざわめきとなった。

最初のタ級が再び長門に尋ねた。

「ア、アノ、イツ開店予定デスカ?」

「昨日の時点では来週と聞いてたんだが・・待ってくれ」

長門はインカムをつまんだ。

深海棲艦達もしんと静まり返った。

「摩耶」

「あ、長門さん!演習から帰って来たのか?ちょっと来て欲しいんだ!」

「目の前に居るぞ」

「え!?」

「ほら、ここだ」

長門がぶんぶんと手を振ると

「あ、手が見えた!」

「聞かれたので確認したいのだが」

「なんだ?」

「開店予定は来週金曜で良いのか?」

「群衆を見て工廠長が頑張ってるから1日位早まるかもしれないけど・・」

「解った。予定通り来週金曜の昼から、だな?」

「あぁ、今はそう伝えておいてくれ。変わったらル級に伝えるから」

インカムを離しながら長門は答えた。

「今は予定通り来週金曜、昼食時から開く」

静かに話を聞いていた浮砲台が長門に尋ねた。

「ツマリ、次ノカレー曜日カラ変ワルンダナ?」

「そうだ」

浮砲台は頷くと、くるりと背を向けた。

「解ッタ。デハ皆、今ココニ居テモ邪魔ナダケダ。迷惑ニナラナイヨウ引キ上ゲヨウ」

「エー、来週カラカー」

「誰ダヨ、今日カラ先着順デアイスガ貰エルナンテ言ッタ奴ハ」

「長門サーン、マタ来週ー」

 

こうして深海棲艦達は引き上げていき、浜には摩耶とル級、それに妖精達だけが残った。

ル級は疲れたのか浜にへちゃりと座り込んでいた。

 

「サンキュー長門さん、助かったぜ」

「ゴ迷惑ヲオカケシテ、スミマセン」

「いや、別に構わない。何でも今日並べばアイスが貰えるといった噂が流れたらしい」

「なるほどね。だから先を争ってたのか、アイツら」

「一体誰ガ・・私ソンナ事言ッテナイヨー」

「だろうな。私も言ってないしな」

「デモネ、1万体モ居ルトネ、突飛ナ噂ガ出来チャウ事、結構多イノヨー」

「とにかく、収まって良かった」

「長門ガ来テクレタオカゲヨー、アリガトネー」

長門は苦笑した。ル級も日々大変なようだ。

「そうだ、お茶でも飲まないか?」

長門の言葉にル級は喜んだが、摩耶はピクリと固まった。

鎮守府内では長門の不器用さは広く知れ渡っている。

疲れた所に異次元のお茶なんか飲んだらル級が永久の眠りについてしまう!

「あ、アタシ、ジュース買ってくるよ。待ってな!」

長門が答える前に摩耶は走り出していた。

摩耶の後ろ姿を見送りながら、長門は取り出しかけたお茶のペットボトルを艤装に仕舞った。

遠征中に飲もうと思って買っていたのが3本余っているのだが・・・

 

深海棲艦達が大いに期待しているという話は工廠長や摩耶を通じてあっという間に広まった。

その話がだいぶ広まってから耳にした青葉は

「うぬおおお!私が情報戦で後れを取るなんて!小浜周辺も取材範囲に入れねばなりません!」

と、大層悔しがったそうである。

一方で艦娘達は

「頑張ってメニュー考えないとねー」

「アタイは取っておき、江戸風アサリ飯で勝負!」

「おおっ、本当に取っておきだね!でも何と戦うの?」

「私はクリームシチューにフランスパンを添えてみようかしら」

「うちはたこ焼き作るで!」

「おかずにならないよ~」

「何言うてんの!たこ焼きなら10種類は作れるで!」

「それなら焼きそば添えようよ~」

「おっ、タコ焼きそばセット良いね~」

「ラーメンギョーザとか良くね?」

「麻婆豆腐とかニラレバ定食も美味しいよ!」

「サワークリーム入りのボルシチで決まりだね」

などと盛り上がったそうである。

 

そして日曜日。

 

「あ、長門さんがいらっしゃいましたわ!」

食堂で昼食を取っていた長門の背後で声がした。

「うん?どうした?」

振り向くと熊野と鈴谷が立っていた。

そのまま二人は長門の向かいに腰を下ろしつつ答えた。

「ごきげんよう長門さん。少しお話してもよろしいですか?」

「すまないが、冷めてしまうので食べながらで構わないか?」

「もちろんですわ」

鈴谷が話し出した。

「あのね、来週金曜からの調理当番の事なんだけどさ」

「うむ。皆頑張ってるようだな」

「熊野がね、シチューとパンを作りたいって言うんだ」

「ほう。そこまで作れるとは大したものだな」

「ただ、お店のキッチンで作るとなると、どうしても時間が足りないんだよねぇ」

「どれくらい時間が欲しいのだ?」

「少なくとも5時間。出来れば前の日の夜から作りたいんだ」

「ふむ、それを店のキッチンでやるのは確かにしんどいな」

長門が理解を示した事で、鈴谷はぐいっと身を乗り出した。

「でっしょ?それでお願いなんだけど」

「なんだ?」

「お菓子工場の隣に、料理用のキッチンも作ってくれないかなあ」

長門は箸を置いて腕を組んだ。

確かに、シチューに限らずあらかじめ作っておきたい場合はあるだろう。

トロッコの競合が発生するかもしれないが・・うん?

長門は目の端に工廠長を見つけたので手を振った。

「あ!工廠長!」

「おぉ、なんじゃ長門か。熊野、鈴谷と一緒とは珍しい絵だのぅ」

「すまないが教えて欲しい。地下の工場に調理用キッチンを併設出来るだろうか?」

「今からか?なぜじゃ?」

「調理班が時間のかかる料理の仕込みを小浜でやるのはしんどいと言ってな」

工廠長は顎髭を撫でながら難しい顔をした。

「既に地下は菓子工場で目一杯使っておるから、拡張してもトロッコ駅までちと歩くぞい」

それを聞いた熊野と鈴谷はしょぼんとした。

「しまった・・もっと早く相談すれば良かった」

「そうですわね。500人分のシチューとなると、台車を使ってもしんどいですわ」

工廠長は首を傾げた。

「ここの下でないとまずいのかの?」

「いえ、そこにこだわりはございませんけど・・」

「あまり寮から離れてると行くのがしんどいじゃん?」

「いや、全く別の所ではなく、途中に作ればどうじゃ?」

「途中・・ですの?」

「うむ。トロッコのレールはの」

メモ帳に図を書きだす工廠長を、長門達が囲んだ。

 

 


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