艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(16)

「ジャーネ!」

「こちらの準備が整ったらまた連絡する。それほど待たせるつもりはない」

「ウン、解ッタ!楽シミニシテルヨ!」

「また来てください」

「ハイ、アリガトウゴザイマシタ!」

ル級を見送った長門達は、ふぅと息を吐いた。

「長門、礼が出来て良かったね」

「あぁ。良い形に持って行けた。感謝するぞ、提督」

「文月も潮も、長い事つき合わせて悪かったね。ありがとうね」

潮が頷いた。

「工場用のレシピ、しっかり皆さんに伝えられるよう練習しておきますね!」

「頼んだよ」

文月が言った。

「お父さんも相変わらず、大変なお仕事ですね・・」

「そう?」

「なんというか、普通の鎮守府なら起こりえない事ばかり起きてますから・・」

長門が頷いた。

「そうだな。今日の午後の事は1つ1つ、他所ではありえない物ばかりだった」

文月はにこっと笑った。

「お父さんだからこそ、この鎮守府は回せるんですよ」

「褒め過ぎです」

提督は顔を赤らめながら、くしゃくしゃと文月の頭を撫でた。

「えへへへへー」

長門はそんな二人の様子を見て目を細めて微笑んだ。

文月も交渉の時は恐ろしいが、それも提督の為を思っての事だからな。

だが、長門は文月と交渉した時を思い出してブルッと震えた。

・・・本当に、文月を向こうに回すと恐ろしいのだ。

 

「へぇー、屋台の出店みたいなもんかーい?」

「面白そう!」

「戦わないしお役にたてるので嬉しいのです!」

 

夕食後。

食堂に集まった艦娘達を前に、提督と長門は構想を説明した。

艦娘達は最初、班当番の休みが減る事にウエッという表情をしていた。

まぁまぁと提督はなだめようとしたが、長門がすいっと提督を制すると、

 

「班当番は今後、遠征・哨戒・調理・休み・遠征・演習・出撃・休みでどうだ?」

 

そう提案したので、

「賛成!じゃあ料理の後は休みなんだね!」

「料理当番が楽しみだね!」

「・・班当番が4日単位で2種類あるって感じだな。悪くない」

と、すぐに採用されたので、提督はなるほどと頷いた。

「事後相談になってしまったが、休みを増やして良かったか?」

「班当番は鎮守府で任意に決めて良い事だから構わない。ナイスフォローだ長門」

提督と長門はそう囁きあった。

この指示で一番変化のある研究班、それもカレーチームのリーダーだった摩耶は

「あの小屋には愛着もあるけど、ま、こういう形なら悪くないか!」

と頷いていた。

こうして艦娘達への説明も終わり、来週金曜から小浜で料理を振舞う事になった。

一方、摩耶達の工場について話が及んだ時、

「あの、ちょっとお願いが」

そう切り出したのは間宮だった。

「うん、どうした?間宮さん」

「その工場、出来れば艦娘向けのお菓子も作れるようにしてほしいのです」

提督は頷いた。

「そうか。潮専用のキッチンてことだね?」

「ええ。潮さんが毎日調理場の片隅できゅうきゅうとしてるのが可哀想で」

潮は間宮を見た。

「間宮さん・・」

「潮さん、貴方はもう充分に成長しました。そろそろ一人で回しても良いと思います」

「だ、大丈夫でしょうか」

「大丈夫です。お菓子作りで困ったらいつでも相談に来てくださいね」

「あ、あの、食事時間のお手伝いは続けます!」

「負荷状況と相談しながらで良いですよ」

提督が手を挙げた。

「一応、大本営には間宮の部下となってるから、視察の時はそれらしく、ね」

潮が笑った。

「ここまで教えて頂いたのですから、今後もずっとお手伝いさせてください!」

間宮はくすっと笑った。

「ほんと、潮さんは良い子ですね。解りました。でも無理は禁物ですからね」

「はい!」

長門が言った

「それならば提督、調理場は食堂の地下としてはどうだ?」

提督も頷いた。

「そうだね。広さ的にもそれ位ないと困るしね」

そっと高雄が手を挙げた。

「あの、大量のお菓子を小浜まで運ぶ手段は・・」

「食堂の地下の工場から、そのまま地下経由で工廠前まで運べるようにする」

「はい」

「工廠から浜まではもう1本直通トンネルを引く。1回積み替える事になるけどね」

「それ位なら大丈夫ですね」

「地下の移動手段はコンベアよりはレールと電動トロッコの方が安心かな?工廠長」

「そうじゃの。大量といっても24時間運び続ける訳ではないし、トロッコなら人も乗れるしの」

夕張が目を輝かせた。

「私達も乗って良いですよね?」

「良いよ」

「やった!工廠から食堂への直通列車確保!」

「そうか。工廠と食堂は結構離れてるからね」

「雨の日とかうんざりしてたんですよー」

「よしよし、じゃあ人荷両用のトロッコ列車としよう。工廠長、頼めるかな?」

「出来れば工場の図面も一緒に貰いたいんじゃがのう」

「そうか。ええと、潮、高雄、あと間宮さん」

「はい」

「工場と小浜に何が必要か、工廠長と決めてくれるかな」

「解りました!」

「ええと、工廠長。まとめると」

「菓子工場、地下鉄、販売店舗、連絡トンネル、じゃな」

「はい」

「やれやれ、ほんとに改築の多い鎮守府じゃよ」

提督と長門は頷きあった。工廠長は嫌そうに言っているが、表情は嬉しそうなのだ。

「では各班、当番で何を作るか決めておいてくれ」

「はい!」

「さっきも言ったけど、カレーとオムライスは全班作れるようになってくれ!頼むぞ!」

「解りました!」

こうして計画は動き出した。

 

その日の夜。長門の自室。

「なにしてるの?」

そろそろ寝ようかとベッドに入りかけた陸奥は、机に向かって腕組みをする長門に声を掛けた。

「うん・・・大した事では・・ない」

「ふーん」

明らかに上の空の返事だと思った陸奥は、そっと長門の後ろから手元を覗き込んだ。

だが、そこにあったノートの書き込みを見た途端、眉をしかめて言った。

「なにそれ?」

耳元で声がした長門はびくっと振り返ると

「むっ陸奥、傍に居たのか。すまない」

「やっぱり上の空だったのね。それなに?」

「提督の暗号だ」

陸奥はホッと胸をなでおろした。

長門がついに異星人の言語でも習い始めたのかと心配したのだ。

「うん?何でホッとしてるんだ?」

「別に良いのよ。で、解けそうなの?」

「いや、それがサッパリなんだ」

「見せてもらって良い?」

「あぁ。とはいえ、これで全部だ」

 

  たおそ、あすめわらあてを。んりさせり つりてう

 =(1行分の空白)

  はきの、うぬやかるさなく。いしすねれ としなす

   ゛       ゛

  (↑この点はゴミか?)

 

「この、()内の文字も暗号なの?」

「いや、これは私が書いた追記だ」

「このイコールは?」

「元から書いてあった」

陸奥はしばらく見ていたが、

「これ、濁点じゃない?」

「うん?」

「ゴミかって書いてある奴よ。ほら、が、とか、ぎ、とかの右上にある点々」

「私は同じを現す「〃」かと思っていた」

「そうかもしれないけど」

「いや、妙に小さい事を考えればそうかもしれぬな」

「あと、同じ所で区切ってあるわね」

「ああ、この2カ所だろう?」

「そうそう。」

陸奥は眉間に皺を寄せて穴が開く程見ていたが、

「・・・規則性が・・無いわね」

「どういうことだ?」

 

 

 


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