艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(5)

 

龍田達は中将の答えを待っていた。

目を開けた中将は、かすれ声で、神にすがるような口調で話し始めた。

「龍田君・・その、本当にその作戦は成功するのかね?」

龍田がたっぷり10秒沈黙を取った後に答えた。しっかり仕上げるのが龍田流である。

「・・我々の全精力を賭して、最大限尽力致します」

文月はそう告げる龍田の横顔を見ながら感心していた。

もはや役者として食っていける程の見事な演技だ、と。

五十鈴の声も悲痛なそれに代わっていた。

「解ったわ。臨時便を出してでも食材を供給するからね!遠慮しちゃダメよ!」

「お願い致します」

「さ、作戦状況の報告は・・」

「本作戦はとても長い期間を必要とします。大きな変動があった時でよろしいですか?」

「う、うむ。そうだな。下手に相手を刺激しても良くないな」

「通常通りの通信を行いつつ、いざという時は緊急通信をさせて頂きますね」

「わ、解った。それで良い。全部任せる」

 

提督達はジト目で龍田達の背中を見つめていた。

大淀が長門の耳元で囁いた。

「龍田さんも文月さんも、嘘は・・言って・・ない・・ですね」

長門が答えた。

「意味深な沈黙や、極めて紛らわしい言い回しは星の数ほどあったがな」

「ええ。要するに指定通り追加食材を送れ、特別な報告はしないって事なんですけどね」

「あぁ。我々の負担は全く変わらないが、これで食材はオーダーし放題になった」

提督は頬杖をついて呟いた。

「大本営ではこれから、我々が地獄のような防衛戦争をするって信じてるんだろうなあ」

長門が頷いた。

「うむ、大和は既に今生の別れのような声だ」

「まぁ嘘偽りなく数だけで言えば1万対100だからなあ」

大淀が肩をすくめた。

「数だけで言えば、それぞれ1対100の絶望的な戦況ですからね」

長門が溜息を吐いた。

「相手が準備や片付けを手伝う程カレーを心待ちにしていて、極めて牧歌的な点を除けばな」

「そういえば、一切その辺は説明してないな。聞かれてもいないし」

「ここの深海棲艦は出撃で出会う子達と違うって事を、大本営は知らないでしょうからね」

「まぁそんな状況の鎮守府なんてここ以外で聞いた事無いよね」

長門は顔を曇らせた。

「だが、一歩間違えば本当に争いになりかねなかった」

「うん?」

「今朝その話をした時、もう少しで私は赤城エクレアを奢ると言う所だった」

「ま、長門は礼儀を重んじるから言いそうだね」

「うむ。私は軽い気持ちだった。たまたま時計のアラームが鳴ったから言わなかった」

「それが運30って事だよ。良かったじゃないか」

「提督に言われて肝が冷えた。もう少し熟慮せねばならないな。気付いた提督はさすがだ」

「おいおい、褒められる程の事はしてないぞ?」

「いや、提督が居て良かった」

提督は長門の肩を叩いた。

「そんなに落ち込むな、長門」

だが、予想に反し、長門はがばりと顔を上げた。

「ああっ!」

「ど、どうした?」

「思い出した事がある。ちょっと失礼する!」

「長門?」

通信棟を出て行く長門を見送った提督と大淀は、不思議そうに顔を見合わせた。

丁度その時、龍田と文月は大本営の説得を終えた。

文月は提督の傍までやって来た。

「お父さん、これで大本営から食材を間違いなく調達出来ます」

提督は文月を膝の上に乗せながら頭を撫でた。

「いつもありがとうな文月。龍田も良くやってくれた。ありがとう」

「鳳翔さんのランチ食べたいな~」

「天龍と二人で、か?」

「大正解~」

「・・はい、2枚」

「やった」

「文月は何が良い?」

文月は首を傾げ、提督の手をきゅっと握った。

「もう貰ってますよ?」

「これで良いの?」

「はいっ」

「そうか。じゃあもうしばらくこうしていよう」

「えへへへへ~」

龍田はチケットを仕舞いつつ思った。

あの子は提督が引退する時には間違いなくついて行くでしょうし、提督も良いと言うでしょう。

ちびっこ特権か。ちょっぴり羨ましい。

 

ガラッ!

勢いよく開いた扉の音に、中に居た青葉はびくりと飛び上って振り向いた。

「なっ!だっ、誰ですか・・あ、長門さん」

長門は息を切らせながら言った。

「あ、青葉!一面トップを差替えろ!」

青葉は目を剥いた。

「ええええっ!?な、中身ご存じなんですか!?」

「1万体の深海棲艦の話!お菓子部隊大増員の話!」

「げげっ!」

「いずれ折を見て提督と私から全艦娘に話す!深海棲艦に変に漏れ聞こえてはならぬ!」

「う、うう・・大スクープが・・・もう印刷始めてるのに・・」

そこに隣の部屋から衣笠が入ってきた。

「あ、長門さん。どうしたの?」

「衣笠!これは扱いを間違えると本当に戦争になりかねん。1面を差し替えてくれ。頼む!」

衣笠はしばらく苦り切った顔で考えていたが、

「・・青葉、記事差替え」

青葉が目を剥いた。

「しょ、正気ですか衣笠!?」

「差し替え」

「・・はー、しょうがないですねー」

長門はそこでおやっと思った。いつもならなんだかんだ言ってごねるのに。

「そうか。二人とも重大さを解ってくれたのか。ありがたい」

だが、やはりと言うか、青葉が上目遣いに切り出した。

「あの・・その代わりですねー」

「なんだ?」

衣笠が両手の人差し指をちょんちょんと合せながら言う。

「ちょっとだけ買い換えたい物が・・えへへ」

長門がジト目になった。

「コピー機なら先日買っただろう?」

「それが、パソコンがかなり調子悪いのです」

長門は腕組みをして少し目を瞑った後、インカムをつまんだ。

「夕張、青葉達の印刷部屋に来てくれ」

 

夕張はパソコンをしばらく操作していたが、やがてげっそりした表情になった。

「こんな酷いSMART情報初めて・・毎日電源切ってます?」

「ちゃんとこうしてるよ?」

「それ画面の電源切ってるだけじゃないですか・・」

「こっちの電源落としたら、使いたい時になかなか使えないんだもん」

「あーあ、HDD温度ワースト75度・・Threshold以下がザラザラ・・ひっどいわー」

調査結果に信じられないという顔をする夕張だったが、衣笠と青葉は肩をすくめた。

「何言ってるかさっぱり解んないですよ?」

「ごめん、あたしも解んない」

埒が明かないと判断した夕張は、訴える先を長門に変えた。

「長門さん」

「なんだ?」

「HDD取り換えないといつ飛んでもおかしくないですよ、これ」

「飛ぶ?」

「えーと、HDDが壊れるって事です」

「そこだけ変えれば良いのか?」

「パソコンの性能自体は問題無いと思います。あ、電源とファンは替えた方が良いかな」

「夕張はそれらの交換作業は出来るのか?」

「ええっと、そうね。手持ちのパーツで行けちゃいます」

「部品代は提督室付で払う。作業費は赤城エクレア1本という事で手を打ってくれないか?」

夕張の目が輝いた。

「やった!打ちます打ちます!」

「よし、早速だが頼めるか?」

「はーい、じゃ部品と工具取って来まーす」

「青葉、衣笠、これで良いか?」

衣笠が頷いた。

「ま、新しいパソコン買ってきても設定で夕張にアルバイト頼まないといけないしね」

青葉は腕組みして思い出しながら言った。

「買った当初はサクサク動いてたので、あれに戻るなら良いですよ」

「よし、差し替えの件をくれぐれも頼む。問題が起きたら呼んでくれ。ではな!」

長門は売店に歩いていった。

 

 


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