艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file36:ヲ級ノ最後

4月11日午後 海原

 

「ハ?」

ヲ級が呆れ返った声を出した。

「イクラナンデモ、勢イデ言イ過ギダ」

「だって」

「ダッテ、ジャナイ」

たしなめられた相手は勿論提督である。

ヲ級といつまでも鎮守府の前で話すのも危ないという事で、ひとまず皆でソロルに帰る事にしたのである。

「飛龍ヲ、助ケテクレタ事ハ、礼ヲ言ウケド、モウ少シ、思慮ヲシテダナ」

「考えてる間に近代化改修されちゃうじゃないか」

「デハ、加賀ヤ長門ニ何ト言ウンダ」

「うっ」

 

飛龍は小声で響に聞いた。

「あのね、響ちゃん」

「何?」

「蒼龍ちゃ・・ヲ級ちゃんと提督って、どういう関係なの?」

 

響は少し沈黙した。ある結論が頭にあったが答えたくなかった。

 

「ヲ級はね」

「うん」

「・・・・ファンクラブ会員です」

「は?」

「提督ファンクラブの会員です」

「・・・えっと?」

「提督は神経毒です」

「へ?」

「触れてると徐々に麻痺してきます」

「・・・えっと」

「気が付くと会員です」

「なにそれ怖い」

「年会費1296コインです」

「払わないわよ!?」

「・・・私も、そう思ってた時があったんだ」

「何で遠い目してるの響ちゃん」

「オジサン趣味は無いと思ってたのに。クールキャラで売ってたのに」

「響ちゃん?どうしたの?」

「いつの間にか夫婦漫才だの夫を尻に敷いたロリ妻だの言われて」

「帰ってきて!そっちはダメな気がするわ!」

虚ろな目をする響を必死に揺さぶる飛龍。

赤城はにこにこ見ていた。

きっと、飛龍さんも仲良くなれます。

それに、会員が増えれば事務方に年度予算折衝で増額要求できます!

両手でぐっとこぶしを握った。

目指せ!厚切りステーキランチ食べ放題!

 

 

4月11日夕方 ソロル本島近海

 

「オー帰ってきたヨー」

「何で提督カタコトなんです?ヲ級のマネ?」

「シナクテイイ」

「提督、お腹がすきました。今夜は大盛りでお願いします!」

「提督、今日の動画保存して良いですよね!」

「羊羹と、なでなで成分が不足してる」

「ラーメン!ラーメン!」

「カレー!カレー!」

 

飛龍はごしごしと目をこすった。

木組みのログハウスが並んでる島しか見えないわ・・景色は良いけど。

リゾート地?鎮守府どこ?

あと、イ級とかヲ級とかと艦娘が馴染みすぎだ。

更に、皆が島をぐるりとまわりこみ、小さな岩礁の小さな小屋に皆が上がっていく。

飛龍の目は点になった。

あの小屋が鎮守府なの?あれなの?

 

「いやー、疲れただろう。皆よくやった。遠征お疲れっ!」

「提督、お茶が飲みたいです!」

「淹れてやろう。茶葉を入れて煮込めば良いんだよな?」

「止めてください死んでしまいます。私がやりますから」

「羊羹!」

「ここにはありません」

「えー」

「なっ、ないよ?無いですよ?」

「ジトー」

「響。疑いの目で見るのは良くないなあ。それに口でジトーとか言うな」

「ねえ赤城さん」

「なんでしょう?」

「どこにあるか解る?間宮羊羹」

「答えていいですか提督?」

「何で解るの!?」

「だ、そうです。あるみたいですよ」

「ぐっ!謀ったな!」

「お茶と羊羹、早く」

「私のお楽しみが」

「いいからはよ」

「こっ、こら赤城!一本丸ごと食べようとするな!」

「え?これ、一口羊羹ではないのですか?」

「そんなレンガブロックのような一口羊羹があるか!皆で分けるの!」

「はい、解りました!」

「あ、全部切り分けた・・・未開封だったのに」

 

「んー、羊羹美味しい!」

「(もぐもぐもぐ)」

「あら?提督、どうしてそんなに急いで召し上がってるんです?」

「(もぐもぐもぐ)」

「響ちゃん、凄い形相で食べてるわね。ハンターの目よね」

キラリン!

「こっ!これは私の羊羹よっ!渡さないわっ!」

「イ級、羊羹ヲ死守」

「食ベ終ワッタカラ問題ナイ」

「早イナ」

キラリン!

「ヤ、ヤメロ!私ノ最後ノ一切レ」

ヒュッ!

「フッ(モグモグ)、100年早イワ」

「くっ!」

「響、そろそろ諦めなさい」

「再戦を要求します!」

「もう本当にない!」

「買ってきてください!」

「いい加減にしないと私だって怒るぞ」

「うー」

「そんなあ」

「赤城まで残念そうな声を出さないでくれ。お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」

 

飛龍はこのドタバタを静かに眺めていた。

今までの鎮守府ではありえない光景だ。

なるほど。神経毒、ね。

お財布に幾らあったかな。

 

 

4月11日夜 ソロル岩礁

 

ドタバタの後、夕食も終わり。

小屋の中にはまったりとした気だるい雰囲気が漂っていた。

「そうだ、飛龍さんや」

「なんですか?提督さん」

「提督、で良いよ。えっと、近代化改修のマニュアルはある?」

「え、ああ、持ってきちゃいました」

「貸してくれる?」

「はい」

「提督、どうするの?」

「いや、解らんが、近代化改修しなくても成仏出来んかとな」

「そっか」

「というかヲ級、今の時点でどうしたい?」

「ドウ、トハ?」

「成仏したいか、人間になるか、LV1で戻るか選べるなら」

ヲ級は目を閉じて考え始めた。

「・・・・。」

しばらくして、顔を上げると

「人間ニナッタラ、蒼龍ノ姿ニナルノカナ?」

「解らん」

「コノママ人間ニナルノハ、嫌ダナ」

「まぁ兵装は外れると思うけど」

「肌ガ白スギル」

「否定はしない」

「・・・提督」

「ん?」

「コノママ居タラ、邪魔カ?」

「全然」

「ソウ・・・アレ?」

皆が一斉に、ヲ級を見た。

 

ヲ級が、徐々に強い光に包まれていく。

 

「お、おい!大丈夫か?」

「ナンカ、暖カイ、眠イ」

「ヲ級!ヲ級!返事しろ!突然すぎるぞ!」

「提・・督・・」

「なんだ!」

「アリガ・・とう・・」

 

光が見ていられないほどの強さになった後、ふいに消えた。

提督を始め、皆、目を開けられずにいた。

成仏したんだね、良かったね。皆がそう思った。

「ヲ級・・・」

「蒼龍ちゃん・・・」

「良カッタネ。元気デネ」

「うっうっ、ヲ級ちゃん」

「折角仲良くなれたのに・・残念です・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、えーと、あの」

聞きなれない声がした。

皆が目を開けてみると、もじもじと床にのの字を書いている蒼龍が居た。

「・・・蒼龍?蒼龍ちゃん!」

飛龍が飛びついた。

「蒼龍ちゃん!蒼龍ちゃん!蒼龍ちゃん!」

「ひ、飛龍、苦しい。ほんとに・・・成仏しちゃう・・・・」

 

提督は首を傾げていた。

転属なら兵装が外れる筈だが、背負ったままだ。

帰属ならLV1になるはずだが、どう見ても初期装備ではないから高レベルだ。

昇天してたらここにはいない。

深海棲艦にされた場合は、そのまま戻るっていう選択肢があるのか?

でも、どういう条件で戻ったんだ?

鎮守府に居て良いというのが魔法の言葉なのか?聞いた事ない。

私が魔法使い?それならケッコンカッコガチしたい。

でも、飛龍が本当に優しい顔になってる。

蒼龍もうれしそうだ。

そういえば深海棲艦の頃の記憶をどれくらい持っているのだろう。

まぁ、私の事を忘れてたら好きに選ばせてやろう。幸せになってくれ蒼龍よ。

しかし、この二人、か。

運命の神様は、時として残酷だ。

提督は涙を見られまいと目線を外し、夕張が見えてぎょっとなった。

目が星になってる。カメラのレンズが4つは見える。どこからガンマイク出した?

凄い根性だな夕張。転属しても良いカメラマンになれるよ。

ここでは絶対青葉と組ませたくないがな。

ふと赤城を見ると、そっと涙ぐんでいた。空腹という事は無いだろう。

響が心配そうに赤城に寄り添っている。

そろそろ艦娘は艦娘の所に、かな。

 

ふと、蒼龍が口を開いた。

「響ちゃん!ヲ級から蒼龍になったけど会員資格は有効だよね!」

「あ、ええと、多分大丈夫」

「提督っ!」

「あ、ああ。なんだ?」

「蒼龍になっちゃったけど、これからも居て良いですか?」

「深海棲艦の頃の記憶もあるのか?」

「みたいです。提督の記憶は特に!」

「それなら飛龍ともども大歓迎しよう」

「嬉しいなあ。ありがとうございますっ!」

飛龍も提督を向いた。

「提督、蒼龍ちゃんを戻してくれてありがとうございます」

「結果的に、だけどな」

「多分、ここでなければ起きなかったと思うんです」

「まぁそうだろうな」

「私も、この小さな鎮守府の為に頑張ります!」

「へ?」

「え?」

「小さな鎮守府って?」

「この小屋、鎮守府じゃないんですか?」

「違います」

「ええっ!」

「そうだな。今日はもう遅いから、明日皆で行こう」

「そんな事言って提督、加賀と長門への言い訳考えてるんでしょ?」

「ソ、ソンナコト、ナイデスヨ?」

「むしろ文月さんかな?」

「文月ハ優シイ子デスヨ?」

「滝のように汗が滴ってますけど?」

「じゃあ上手い理由を考えてくれよ赤城」

「私が加賀さんに勝てる筈がありません!」

「威張るな。じゃあ夕張頑張って」

「あらゆるデータから提督は2発引っぱたかれるという結論になりました」

「そんな解析しなくていい。じゃあ響」

「こんないたいけな美少女に大人の責任を被せるのかい?」

「自分で言うと嘘っぽくなるから止めた方が良いと思うぞ」

「提督っ!」

「なんだ、蒼龍?」

「私、一緒に謝ります!二人で!」

「おぉ、蒼龍は優しいなあ。うっうっ」

ぎゅむっと抱き付いてくる蒼龍の頭を撫でながら、提督は涙ぐんだ。

そうです。

こういう優しいキャラが欲しかったです。

心から歓迎するよ蒼龍さん。

 

ピキッ。

 

場の空気が変わった。むしろ張り詰めた。

「提督、私も一緒に謝ります」

「え?」

「提督っ、私も」

「私も」

「雰囲気的に、皆で謝る流れですよね」

「な、何か解らんが、ありがとう。でもなんで刺々しい空気なんだ?」

蒼龍とイ級を除く全員からキッと睨まれる提督。

「いいから言う通りにするっ!」

「ハイ」

 




幾らググってもケッコンカッコガチの方法が出てきません。
おかしいなあ。

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