艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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【番外編】響達の遠征(3)

1度目の挑戦で液の出方に弄ばれ、成功を誓った響だったのだが・・

時に神様はイジワルである。

2度目の挑戦では出方は普通だったが高濃度だったらしく、たった3滴で真っ黒。

3度目は大行列で並ぶ前から無理と断念。

4度目は竹筒の前でバケツを受け取る時にまさかの取り落とし。

5度目は突如竹筒が大噴水と化し、順番を待っていた響のバケツさえ真っ黒になった。

真っ黒になったバケツを見て、響の何かがぽきりと折れてしまったのである。

「ひ、酷いよ・・今日は呪われてるとしか言いようが無いよ・・」

響は5度目の帰り道でついに泣き出してしまった。

「那珂ちゃんも・・さすがに大噴水は見た事無かったよ」

「皆呆然としてたよね」

「何の予兆も無くドバーン!だもんね」

「まぁ、こういう日もあるよ。早く帰ってお風呂入ろ」

響は川内にぎゅっとしがみついた。

悔しい。ここまで失敗続きだと今夜は寝られそうもない。

 

「きょ・・・今日も、ですか?」

白雪は真っ黒なクマを作り、目を血走らせた響と苦笑する川内を前に答えた。

「昨日、あまりにも遠征が酷い結果だったから、リベンジしたいって聞かなくて・・」

「白雪、無理は承知の上だが、このままじゃ悔しくて眠れない。眠れないんだ!」

白雪はちょいちょいと積み上がった書類を数え、カレンダーを見てふうむと言った。

「響さん」

「うん」

「今週はあと3日あります」

「うん」

「その間に、バーゲン会場で確実に成功する方法を見つけ、リポートにまとめてください」

「!?」

「バーゲン会場では私も昔の鎮守府で辛酸を舐めました。ぜひ方法を見つけてください」

「・・・・」

響は眉をひそめた。確実に成功する方法?そんなものがあるのだろうか?

だが、見つけたいのは私も同じだ。あんな悔しい1日を二度と体験したくない!

「・・やるさ」

「解りました。それではこれを任務とし、提督に正式に許可を貰っておきます」

「あ、そうか。そうだね」

「大手を振って行ってきてください!」

「頑張るよ!」

 

こうして響と川内が調査にあたる事になった。

サポートには舞風と若葉が着いた。

この二人も那珂達と行動を共にした元深海棲艦で、遠征の熟練者である。

なお、那珂と能代は80時間の遠征に出発したばかりだった。

「バケツ3個取ってくるから心配しないでって響ちゃんに伝えといてねっ!」

阿賀野からそう聞いた響は涙目で阿賀野に抱きついた。

「あらら」

「ほんとに、迷惑かけてるよね」

「そんな事無いよ、二人とも最近活き活きしてるんだから」

「・・活き活き?」

「元々、艦娘の頃、あの子達は遠征ではちょっとした有名人だったのよ」

「・・」

「でも、深海棲艦になったら艦娘と同じ遠征は無いのよね」

「・・」

「艦娘に戻れて、久しぶりに得意な事が出来て、頼られて嬉しいって」

「・・」

「だから、ほんとに心配しないでね」

響はぐいと腕で涙を拭くと、真っ直ぐ阿賀野を見返した。

「この恩は、必ず返す」

阿賀野はニコッと微笑み返した。

 

その後。

自室に居た舞風は、川内から調査の目的を聞くとジト目で顎に手を置いた。

「バーゲン会場の竹筒はほんっとーに性悪だからねぇ」

若葉は心底納得したという顔で頷いた。

「あれは・・何度やっても、困る。響の悔しい気持ち、解る」

響はがっしりと二人の手を取った。

「どうしても雪辱を果たしたい。力を貸してほしい」

「もっちろん」

「そうだな・・なら、いきなり行くよりも打ち合わせをしないか?」

「打合せ?」

「遠征を始めたら30分で済まさねばならない。落ち着いて話せないだろう?」

「なるほど」

川内が頷いてインカムを離した。

「集会場の会議コーナーを3日間押さえたよ。行こ!」

響は拳を握った。このメンバーなら何となくいけそうな気がする!

 

「・・今日の計画は大体こんな感じかな」

「そうだな。まずは1度目の遠征は現地調査で良いだろう」

「最初から行列に並べば時間稼げるっしょ!」

4人で決めたのは、まずは今日は出来るだけ何回もバーゲン会場に遠征するという事。

ただし、生成は最初から諦め、竹筒の行列にだけ並ぶ。

そして竹筒の周辺を動画で撮影し、液の出方や足場を撮影してこようというのである。

 

「まぁ、初日から正解に辿り着ければ世話無いよね」

4人で夕食のおむすびを頬張りながら、川内は他のメンバーに言った。

勿論場所は集会場の会議コーナーである。

現地での撮影は予想以上に困難を極めた。

まず他の鎮守府の艦娘達がひしめき合っており、全体を一度に写せるチャンスが無い。

さらに都合8回足を運んだが、液の出方に規則性は全く無かったのである。

若葉が溜息を吐いた。

「予想以上に・・撮影に手を焼いたな」

舞風が頷いた。

「他の艦娘達は殺気立っているから、少しどいてとか頼めないしねぇ」

響は尊敬のまなざしで舞風を見た。

「舞風は、あんな物凄い人込みの中で良く撮影出来たね」

舞風はウィンクしながら答えた。

「踊るのは大好きだもん」

若葉が苦笑した。

「もはや曲芸の域だったがな」

そう。

殺気立ってひしめく艦娘達を前に、舞風は

「1回で全体を撮れないから、分割して撮ってくるね!」

というと、汲んでいる子達の隙間からパシャパシャと何枚も撮ってきた。

幾度も液を避けたバケツが目前に迫る事もあったが、舞風は

「あらよっと!ほいさっさー!」

と、器用に体を曲げて躱したのである。

響が言った。

「舞風のおかげで足場を含めた全体像は掴む事が出来たね」

若葉が数十枚の写真を繋ぎ合わせたスケッチを眺めながら言った。

「何というか、記憶以上に酷い場所なんだな・・」

舞風も頷いた。

「こんなデコボコ足場じゃー、バケツ取り落したりしてもしょうがないよねぇ」

「地面は石と泥と固まった液が混ざりあってるって感じだな」

川内は腕を組んで考えていた。

「んー」

「どうしたんだい、川内」

「何で竹筒なんだろう?」

若葉がスケッチを指差した。

「そりゃ、湧き出ている所が崖の結構上の方だからじゃないか?」

「もう1つの液は普通に石枠で水路が組んであるじゃん」

「空気に長い事触れてると固まっちゃうからかなー」

ハッとした顔で響が言った。

「竹筒の中にも空気は入ってる筈なのに、どうして固まらないんだろう?」

舞風はしばらく考えていたが、

「固まってるんじゃ・・ないかな」

「というと?」

「まず、筒の中を液が流れるじゃない」

「あぁ」

「その時、中で空気に触れて少しずつ固まるとするでしょ」

「うん」

「そうすると、竹筒の中が徐々に狭くなる」

「うん」

「それで流れが悪くなって、最後にはポタポタって感じになる」

「・・おぉ」

「でも、元の水流が変わって無かったら、水圧に耐えきれなくなって・・」

「大噴水か!」

「小規模ならどばって奴だよね」

「じゃあ、水流が変わるのは中で固まった液に邪魔されてるって事か」

「予想だけどねぇ」

そこに、若葉がぽつりと呟いた。

「それ、なんか・・・」

若葉に3人が向いた。

「何?」

「・・動脈硬化みたいだな」

「ちょ!喩えが渋い!」

響がおずおずと聞いた。

「じゃ、じゃあ大噴水は・・」

「・・・クモ膜下出血、だな」

「こわっ!こわあっ!」

「ドロドロ血、良くない」

「うわー、もう血管とドロドロ血にしか見えないよー!」

「刻んだ玉ねぎをお供えしたらマシになるかなあ?」

「神棚も作る?」

「えーなにそれー」

「あははははは!」

こうして1日目は大脱線で幕を閉じたのである。

 

 




早速誤字、いや、間違って覚えてた語句を訂正しました。
ご指摘ありがとうございます。

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