艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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日向の場合(18)

 

提督が基地に視察に訪れた日、通信室。

 

「明日は赤城ですし、代行で問題はありませんが・・」

鎮守府の相手は秘書艦の加賀である。

「今回は初めてのケースだし、ちょっと気がかりな事もあるんだよ」

「・・仕方ありません。明日は部屋でじっとしてます」

その時、提督はピンときた。

秘書艦当番を行った翌日はオフである。

加賀は大抵、オフの日には

「試食してくださいますか?」

「ここが解らないのですけど」

等と言って、手料理やクロスワードパズルを手に提督室に遊びに来る。

勿論提督の仕事がヒマになるよう、秘書艦の日に徹底的に片付けていくのだ。

「かいがいしいですねぇ」

加賀と同室の赤城はそんな加賀の様子をこう表現した。

提督は手帳を見て、ポンと手を叩いた。そうだ。

「加賀、悪いのだが明日も秘書艦を任せたいんだ」

「え?」

「次回赤城が2回になるようにしてさ、オフも2回続けて良いから」

途端に加賀の声が明るくなった。

「解りました。赤城さんに調整しておきます。提督は明後日お休みですよね?」

「お、良く知ってるね。たまには骨休めと思ってね。丁度加賀もオフになるだろ?」

「え、ええ、あ、あの、そうですね」

「ほら、以前美味しいチーズケーキ見つけたって言ってたじゃない」

「は、はい」

「明後日行こうか。今回の礼も兼ねて奢るよ」

「ひょぇっ!?」

「あ、いや、用事があるなら・・」

「ありません!あっても消します!」

「ん。それじゃすまないけど、明日も頼むよ」

「承知しました。それでは!」

提督は頷きながら通信機のスイッチを切った。

加賀なら任せて安心だ。たまにはケーキを奢るのも良いだろう。

 

翌日の日没頃。

「・・・姫様」

「オカエリ」

港で北方棲姫と侍従長、そして提督と日向は往復船を待っていた。

やがて到着した船から降りてきた艦娘の一人の前に、北方棲姫は進み出たのである。

「話ヲ、聞カセテクレル?」

「はい、姫様」

 

「ドウゾ」

「あ、ありがとうございます」

北方棲姫の自室に向かった5人は、向かい合って座った。

侍従長がコーヒーを淹れ、そっと皆の前に出した。

言いかけては俯く艦娘を北方棲姫は見ていたが、侍従長が戻ってきたのを見て、

「マズハ、ゴメンナサイ」

と、頭を下げたのである。

「ええっ!?なっ、なんでですか?あっ、あのっ、頭をあげてください」

艦娘はパタパタと手を振りながら北方棲姫を促した。

北方棲姫はゆっくりと頭をあげつつ、艦娘に聞いた。

「ドノクライ前カラ、悩ンデイタノ?」

「えっと、深海棲艦になってから、ずっとです」

「ドンナ悩ミダッタノ?」

「時折、昔の夢を見るんです。轟沈させられた夜の事を・・」

「辛カッタデショウネ・・」

「いえ、ほんとに、姫様のせいではないですから。ただ・・」

「タダ?」

「営業を始めてから見る頻度が上がって来ちゃって、眠るのが怖くなってたんです」

「・・・」

「そっ、それで、伊勢さんからケアのお話を聞いて、もしかしたら、って」

侍従長が提督を向いて言った。

「ドンピシャデシタネ」

提督は頷くと、艦娘に尋ねた。

「東雲の治療はどうだった?」

「それが、診察台に寝て、うとうとしていたら終わってたんです」

「時間はどれくらい?」

「悩みがあるって妙高さんに言ってから、終わるまで1時間もかかってないです」

北方棲姫は艦娘の目を見つめながら尋ねた。

「治療時間ハ?」

「ええと、多分15分かその位だと思います」

「妙高サンニ言ッタ後、ドウナッタノ?」

「はい。悪夢に悩んでるって言ったら、天龍さんを紹介してもらって」

「ウン」

「天龍さんが夢の内容を覚えてるか、とか幾つか聞かれて」

「ウン」

「それなら東雲さんに相談してみようって言われて、連れて行ってくれました」

「ジャア悪夢ヲモウ1度見ルトカ、怖イ思イハシナカッタノネ?」

「そう言うのは全くないです」

「今ハドウ?気分トカ変ワッタ?」

「その日の夜も夢は見ませんでしたし、なんだかちょっと気が楽になりました」

北方棲姫は納得したという顔で頷いた。

「ソレナラ、良カッタ」

「はい」

「ア、アノネ」

「はい?」

「今モマダ、私達ヲ手伝ッテクレル気ハ、アル?」

艦娘はにこりと笑った。

「もちろんです!お休みを頂いた分、しっかり働きます!」

提督が笑った。

「良かったね、姫様」

北方棲姫は侍従長を見た。

侍従長が笑って頷いたのを見て、ようやく北方棲姫は安堵の溜息を吐いたのである。

 

「え?海底資源は使えるかって?」

提督が帰る日の朝。

北方棲姫と侍従長が管制室を訪ねてきた。

「そういや前もそんな話があったね」

「ナンデソンナ経験ガアルンデスカ?」

「いや、君達の前にも4~500体の子達を戻してるんだよ」

「ハァ」

「その時に戻す為の資源を持ってきます~ってね」

「・・考エル事ハ同ジデスネ」

「え?でも、今戻してるのは姫様の部下じゃないじゃない」

「ソウデスケド、コレハ我々ノ希望デモアリマスシ」

「じゃあ、ええとね、燃料とボーキサイトはそのまま使えるよ」

「ハイ」

「ただ、火薬と鉄鉱石は加工が必要だね」

「ソウデスネ」

「そう。鉄鉱石を鋼材に、火薬を弾薬に出来れば助かるけどね」

日向が頷いた。

「確かに、製鉄所や弾薬工場を運用するだけの余力は、東雲組には無いだろうな」

提督が継いだ。

「だから、ボーキサイトと燃料にアテがあれば、良いんじゃないかな」

北方棲姫が首を傾げた。

「我々モ、海底鉱山デ掘リ出シタ鉄鉱石ハ鋼材ニ変換シテカラ使イマスケド?」

提督は北方棲姫を見た。

「鉄鉱石を鋼材に変換出来るの?」

「ハイ。ソウイウ班ヲ作ッテマスシ」

「んー、でも、営業もやるんだから大変じゃない?」

侍従長が話始めた。

「今、4交代制ニシテ頂イテマスヨネ?」

日向が頷いた。

「そうだな」

「今連レテ帰ッテクル深海棲艦数デ、東雲組ノ方ノ受ケ入レハホボ上限デス」

「そうだね」

「一方デノウハウモ固マッテ来テイルノデ、営業会議ハ減リツツアリマス」

「なるほど」

「ナノデ、4交代制ノ内、2ツ分ヲ資源採掘ニ回シテモ対応出来ソウナンデス」

「でも2交代は辛くないかい?」

「全部デ4交代デス。ツマリ、営業、休ミ、採掘、休ミ」

「ほう。採掘は皆出来るの?」

「出来ナイ子モ居マスガ、出来ル子ト混ゼタ班構成ニナッテマス」

「いつも通り無理にとは言わないけど、やってくれるなら助かるよ」

「解リマシタ。デハ東雲組ノ方ト調整シテモ良イデスカ?」

「もちろんだよ。お、そろそろ出航時刻だね」

「提督、色々アリガトウゴザイマシタ」

「こちらこそ。引き続き、日向や伊勢と仲良くしてやってね」

「アハハ、オ任セクダサイ」

「オ父サン、マタ来テクダサイネ!」

「また来月来るよ」

その時、管制室に伊勢が入ってきた。

「日向、提督知らな・・あ、居た!」

「ああごめん、もう出航か?」

「あと提督だけだよ、もう出るからね!」

「解った解った。じゃあね皆!また来月!」

「ハイ!」

こうして慌ただしく帰って行く提督を、港で日向達は見送ったのである。

 

 




1箇所カナ表記になってなかったので直しました。
ご指摘ありがとうございます。

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