やっぱり3回はしんどかった・・・
教育開始から半年後、北方棲姫と侍従長の部屋。
営業活動の終了時期について訊ねられた北方棲姫は、ゆっくりと話し出した。
「始メタ時ハ、日向サンヤ提督サンヘノ恩返シノツモリデシタ」
「私の相談を聞いてくれたのがきっかけだったな」
「ハイ。デモ、ソレ以来、皆ノ様子ヲ見テルト楽シソウナンデス」
「楽しそう?」
「ドウヤッテ興味ヲ持ッテモラウカトカ、説得ニ応ジテクレタトカ」
「・・」
「基地デ会議ヲ重ネテ、手法ガ上手ク行ッタト嬉シソウニ報告シテクルンデス」
「なるほど・・」
「デスカラ今ハ、恩返シトイウヨリ、コレガ新タナ仕事ミタイニ思エテマス」
「その、深海棲艦で居るのは痛かったり苦しかったりしないのか?」
「ソウイウノハ無イデスヨ。艦娘ノ頃トソウ変ワリマセン」
「そうか・・」
「タダ、コノ仕事ハ、資源ヲ沢山消費シテイルト思イマス」
「そうだな」
「デスカラ、逆ニオ聞キシタインデス」
「ん?」
「イツマデ、ヤッテモ良イデスカ?」
日向は伊勢と顔を見合わせた。そういう答えになるとは思わなかったのだ。
「よし。提督が次に来たら聞いてみるか」
「オ願イシマス!私達ハ長ク続ケタイデス!」
「そうか。そりゃあ良かった」
基地に視察に来た提督は、管制室で日向から北方棲姫達の反応を聞いて頷いた。
「だが資源消費量は凄まじいぞ。実際、大本営の側は何か言ってきてるのか?」
「それがですね日向さん」
「うむ」
「大体毎日、130体は戻してるでしょ」
「150近い時もあるがな」
「あと、結構LV高い子多いじゃない」
「まぁ、厭戦的になるのは歴戦の猛者が多いからな。Flagship級はザラだ」
「一方で、大本営が取っている統計によるとね」
「うむ」
「高LV深海棲艦を1隻討つ為に使う平均資源量に比べ、我々の方式は低コストだそうだ」
「あ、そういう事か」
「もちろんこの事は例によって秘匿扱いだけどね」
「提督はほんと秘匿扱いばかりだな」
「そうだね。龍田をなだめるのに苦労したよ」
「また怒ったのか」
「うん。いい加減評価しろってカンカンになってな」
「解らなくもないが、評価するのは無理だろう」
「公に深海棲艦で厭戦的な子が居るとか、話し合いが出来るとか言うのは無理だしね」
「応じない者がほとんどだからな」
「という事で、大本営は続けてくださいと、つい昨日言ってきたんだよ」
「随分タイムリーだな」
「そうだね。北方棲姫さん達にはなんて伝えようか」
「そのままで良いんじゃないか」
「じゃあ北方棲姫さんと部下の皆さんが良いならどうぞ、くらいにしておこうか」
「そうだな。あくまで厚意だから、無理強いは出来ないしな」
「うん。じゃあ言いに行くかい?」
「そうだな。提督と行った方が良いだろう」
「・・イ、良インデスカ?」
「ええ。こちらとしてもありがたいのです」
期限無しで、北方棲姫達が止めたいと思う時まで構わないと、提督は伝えた。
侍従長も北方棲姫もさすがに予想外だったようで、しばらくぽかんとしていた。
だが、侍従長は慌てて確認し始めた。
「モ、モシ、例エバ今月デ辞メルッテ言ッテモ・・・」
「その後皆さんを人間に戻すプロセスを再開して、基地を閉鎖します」
あっけらかんと答える提督に、さらに侍従長はぐっと身を乗り出し、
「サ、3年経ッテモ、マダヤルゾーッテ言ッテモ・・」
「基地の修繕とかも含めて対応していきますよ」
北方棲姫は提督の目をじっと見ていた。
この人は本気だ。
本当の事しか言ってないから目が揺れない。
「あぁ、でも」
「ナンデショウ?」
「私が定年を迎える前までが上限ですかね。多分後任者が居ないので」
北方棲姫は目を丸くした。そんなロングスパンでも良いというのか!?
「ソ、ソウデスカ・・」
「そうだよなあ。ビスマルク達にも私の定年後どうするって言わないといけないな」
「ソノ人達モ艦娘化作業ヲ?」
「いえ、蒲鉾作ってるんです」
侍従長がついに話について行けずに固まったので、北方棲姫が問い返した。
「蒲鉾ッテ、食品ノ?」
「ええ。白星食品って会社です。食堂で出てると思いますよ」
「大キナ笹カマボコトカ、デスカ?」
「ええ。世界中に輸出してます」
「・・・ソレハ会社デハ?」
「会社ですね」
「・・デモ、先程ビスマルクサント・・」
「ええ、ビスマルクが社長やってますよ」
北方棲姫はついに思考限界を超え、真っ赤になってひっくりかえってしまった。
「ソンナ鎮守府、聞イタ事ガアリマセン」
「まぁ割とユニークだな」
「割トノレベルジャナイデス!」
「まぁまぁ侍従長、落ち着いて落ち着いて」
日向が伊勢を呼び、北方棲姫達をベッドに移して数時間が経った。
提督は
「誤解されると嫌だからさ・・起きたら呼んでよ」
といって、隣接する自室に帰って行った。
(元々日向の部屋だったが、使わないので提督の宿泊部屋として譲ったのである)
1時間ほどして目が覚めた侍従長はぐっすり眠る北方棲姫を見てホッとした。
そして伊勢と日向から経緯を聞いた反応が先のやり取りである。
「食品会社ト言イ、船会社ト言イ、宝石工房ト言イ、ドレモコレモアリエマセン」
「提督だからこそ成り立ってるよねぇ」
「本当ニソウデスヨ」
「だから提督が辞める時は、大騒動になると思うわ」
「エッ?」
侍従長は伊勢を見た。
日向も伊勢を見た。
二人の視線を受けながら、伊勢はぽつりと言った。
「だって、こんな鎮守府の後任が、提督のような人が、再び来ると思う?」
2人は黙ってしまった。
100%無いと言い切れると思ったからだ。
「だから提督が辞める時、あたしも艦娘辞めて人間に戻ろうと思うんだ」
「て、提督と結婚するのか?」
「だーいじょうぶよ。日向の旦那さん取らないから。そうじゃなくて」
「じゃなくて?」
「他の司令官と上手くやってく自信が無いって事よ」
「マァ、優シソウナ人デスヨネ」
「色々な出来事も、私達の事も、貴方達の事も、ちゃんと考えてくれるしね」
「そうだな。艦娘を対等に扱ってくれる司令官は意外と少ないと聞く」
「私達ニ対話ヲ、ナンテイウ司令官ハ皆無デス」
「鎮守府がユニークなのは確かだけど、それ以上に」
「提督の方が得難い、か」
「そういう事。そして私達はその流儀に慣れ過ぎてる」
「確カニ、ココノ待遇ヲ期待シテ他所ノ鎮守府ニ行ケバ1秒デ砲撃サレマス」
「私でさえ容易にそう思うのよ、鎮守府の面々だって、ね」
「だろうな」
「提督ガ辞メル時ハ、本当ニ大騒ギニナリマスネ・・」
「貴方達はその前に人間にしてもらわないとね!」
「ソウデスネ、今ガ楽シイノハ提督ノオカゲデス」
「ふふっ、鎮守府に誰も居なくなりそうね」
「ええ」
「ま、先の事はともかく、とりあえず当面はこのまま仕事出来るわよ」
「ワ、私達ハココニ住ミ続ケテ良インデスカ?」
「なんで?」
「ダッテコンナ良イオ部屋・・」
「建て直す方がよっぽど大変だと思うわよ?」
「ソ、ソレハソウデスガ」
「別に悪い事してるわけじゃないし、良いんじゃない?」
「ンー」
「提督に聞いてみたら?」
「ソウデスネ、一応」
その時、北方棲姫が目を覚ました。