艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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日向の場合(13)

提督が基地にやってきた日の夜。

 

「で、二人とも元気でやってるかい?」

食堂で夕食を食べながら、提督は聞いた。

「そうね、部屋も住み心地は悪くないし」

「うむ。最初の1ヶ月はドタバタしていたが、今は落ち着いてるしな」

「そうか。東雲組のご飯は間宮さんの味付けとは違うけど、これはこれで美味しいね」

「あぁ。洋食メニューが多いな」

「日向は何が好き?」

「んー、ビーフシチュー、かな」

「ほぅ。いいね。伊勢は?」

「あたしはチーズオムライス!」

「へぇ、どっちも鎮守府ではあまり出ないね」

「そういやそうね」

「あ、そういえば日向は3階に住んでるって言ってたよね」

「そうだ。最上階をと言われたが、災害で停電とかした時に降りられないのでな」

「偉いなあ。でも3階じゃ景色は面白くないんじゃない?」

「ほとんど寝る為にしか使わないからな」

「ここなら、最上階から作業場の夜景を見たら綺麗そうだけどね」

「そう思うだろう、提督」

「うん」

「だがこの辺りはな、夜は低い雲が割と出るんだ」

「あぁ、軽く雨が降ったりしてたね」

「だから作業場の夜景はなかなか見られないんだ」

「そうか、雲を見下ろす、か」

提督はナプキンで唇を拭うと、

「二人とも食べ終えたんだったら、最上階の部屋を案内してくれないかな」

「ん?」

「日向が入る筈の部屋は空き部屋なんでしょ?」

「そうだが・・」

「ちょっと見てみようよ」

「まぁ、構わないが」

食堂から出た所、雲どころか雨がポツポツと落ちてきた。

「しまった、傘は持ってないな。提督、タワーまで走れるか?」

「良いよ、まぁ3人でゆっくり走ろうよ」

日向達が低速戦艦で良かったと思う提督であった。

 

「ほぉぉおおぉぉぉおおおおお」

「これは・・」

「凄いわね」

3人は明かりを消した最上階の部屋から、そっと窓越しに外を眺めていた。

超高層ゆえ部屋の窓はすべて嵌め殺しであり、開ける事は出来ない。

だがそれは、窓の仕切りが少ないので、外を見やすいとも言えた。

「眼下は確かに雲がある」

「下から見上げた時は雲は黒くて雨が降ってたけど・・」

「ここから見ると雲が月明かりで黄金色に輝いているな」

「上には星空、下には黄金色の雲海か。良い景色じゃないか」

「・・・そうだな」

「同じ場所でも、高さによってまるで違うね」

「うむ」

提督がしみじみと言った。

「こんな凄い物を建てられる工廠長って凄いなあ」

「そうだな」

「伊勢や日向もそうだけどさ、私は本当に良い部下に恵まれたよ」

「・・・」

提督がそっと日向の肩に手を乗せた。

「日向。長い事一人で奮闘させてすまなかったね」

「い、いや」

「日向や伊勢のおかげで建設当初よりずっと良い形でこの基地は機能しているよ」

「そ、そう、か?」

「だが、それゆえに赴任期間が延びているのは申し訳なく思う」

「いや、営業活動を提案したのは私の方だしな」

「私も定期的に来られないか、長門と相談してみるよ」

伊勢は二人の寄り沿う影に目を細めながら、そっと玄関のドアを閉じた。

たまには二人でデートなさいな。

「伊勢サン?何シテルンデスカ?」

ぎょっとして振り向くと、侍従長がゴミ袋を両手に持って立っていた。

「しーっ!しーーーっ!」

首を傾げる侍従長に、伊勢は手招きをして小声で話す。

「(今ね、提督と日向が中でデート中なのよ)」

侍従長の顔が真っ赤になる。

「(デ、デートデスカ?!)」

「(デートです!)」

「(ジャア、邪魔ハイケマセンネ)」

「(そういう事。あ、手伝ってあげる)」

「(ス、スイマセン。ソレデ、中ハドンナ様子ナンデスカ?)」

「(あれ、意外とこういう話好き?)」

「(割ト)」

伊勢と侍従長はにやりんと笑いながら、ゴミ袋を手にエレベーターで降りて行った。

しかしその後、日向の自室で、

「ただいま。いつここに帰ってたんだ伊勢?」

「あたしの事はどうでも良いじゃない。で、どうだったのよ!」

「なにがだ?」

「良い雰囲気だったじゃないの。提督となんか進展はあった?」

「・・・は?」

「いや、は、じゃなくてさ」

「景色をしばらく見て、今帰ってきたんだが」

「へ?」

「提督はそのままあの部屋で寝てもらった。家具もあったからな」

「・・・日向」

「な、なんだ?」

「お姉ちゃんが折角二人きりにしてあげたんだから、もっとこう、もっとこう!」

「何を怒ってるんだ?」

「あーもうじれったいわね!結婚してるんだからイチャイチャしなさいっての!」

途端に日向の顔が真っ赤になった。

「な、なな、ななな何を言ってるんだ伊勢!」

「ほら、今からもう1回行ってきなさいな!」

「行ける訳無いだろうバカ!もう寝る!」

バタンと自室に入ってしまった日向を見て、伊勢は溜息を吐いた。

ほんとに奥手なんだから。あれじゃチューの1つもしてないわね。

こうして大変健全な、伊勢曰くつまんない夜が終わり・・

 

「今から今日のスケジュール分、しっかり働いてもらいますからね!」

「まぁまぁ赤城さん、そんな厳しい事言わないで。ねっ?」

「長門さんから懐柔策に応じないようにときつく言われてますので!」

「ぐっ、先手を打たれた」

「さぁキリキリ歩いて!頑張りましょう!さぁ行きましょう!」

「はいはい。あ、日向、護衛ありがとね」

「今度からはちゃんと事前に連絡してくれ。ではな」

提督を赤城に引き渡した日向は、鎮守府を見渡した。

ちょこまかと建物が塗り直されていたりと細かい変化はあるが、

「やっぱり、家に帰って来たって気がするな」

日向はゆっくりと島を歩き回った。

基地のある所より赤道に近く、暖かくて居心地が良い。

まだ昼には早かったので売店に寄った後、2つの包みを手に最上達のドックを訪ねた。

営業船で世話になっているので、1度礼を言いたいと思っていたのである。

ドックの中を見ると目がチカチカした。

営業船も勧誘船も派手なピンク色だし、手前に見える往復船は蛍光イエローだ。

「ほ、補色とかそういうレベルを超えてるな」

そこへ、最上が事務所から現れた。

「あれ、日向かい?」

「最上か。営業船と往復船のメンテナンス、いつもありがとう。礼を言うぞ」

「御礼なんて良いよ。こっちもデータが取れて助かってるし」

「あぁ、ええとな、東雲の妖精達がこれを最上にと言っていた」

「へぇ、なんだろ?開けて良い?」

「あぁ」

包みの中から出てきたのはケーブルが複雑に絡む腕のような部品だった。

「・・・わお」

「何だか良く解らないものだな・・なんだこれは」

 


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