艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file34:星ノ光

4月10日夜 ソロル岩礁

 

「ハフハフハフ」

「ラーメンも良いけどカレーはライスよね!」

「響はまた一心不乱に・・ってお代わりか?」

「じゃがいも多めでお願いするよ」

「ハイハイ」

「ヲ級に給仕させるな!お客様なんだぞ!」

「構ワナイ」

小屋では提督特製カレーの夕餉が進んでいた。

「大人数なんだし、たっぷり作るか」

と、小屋に入るなり鍋2つ分も材料を茹で始めた時は皆心配そうな面持ちで見ていた。

しかし、ぐつぐつ煮込んで嵩が減り、スパイスが香り立つ頃になると腹の虫の大合唱となる。

そして提督の読み通り、既に1つ目の鍋は綺麗に無くなっていた。

提督がおやっと思ったのは、ヲ級がイ級達より食べていない事だ。

「なあヲ級さんや」

「ナンダ?」

「カレーは苦手だったか?辛すぎたか?」

「イヤ?美味シク頂イテイルガ?」

「あくまで相対論だが、食べてないかなと思ってな」

「アァ・・ソレハ・・」

ヲ級がスプーンを置くと、言葉を続けた。

「明日ノ事ガ、心配デナ」

「そっか、そっちか」

「ウン」

「どんな事を心配している?」

「マズハ仲間達ダ。一人デモ居ルダロウカ」

「そうか、司令官は戦死したと聞いてるんだよな」

「ウン」

「夕張」

「なーに?」

「明日行く鎮守府の司令官の名前とか艦娘の状況とかは解らんか?」

「ごめんなさい。大本営の異動情報は探したけど、妙なのよ」

「妙?」

「そう。たとえば同一人物らしき司令官が何箇所にも居たりする」

「は?」

「この岩礁が鎮守府扱いになってるのは理由がわかってるけど」

「まぁな」

「そして、鎮守府状況データでもおかしな事がある」

「なんだ?」

「元の鎮守府が正常となってるの。大規模攻撃が全く無かった事にされてる」

「・・・。」

「これも意図は解るけどね」

「まぁ、あれが知られたら」

「司令官のなり手は居なくなる」

「だな」

「つまり、この辺りのデータ精度は全く信用できないのよ」

ヲ級が顔を上げた。

「大規模攻撃ッテ、何ダ?」

「そうか、聞いてないか。私達が元居た鎮守府が、深海棲艦の大規模な攻撃で焼失したんだ」

「エ?」

「兵装や資材、建物等は跡形もなくなってしまったよ」

「・・・。」

「あ、いや、ヲ級達を責める気はないよ」

「・・・ソンナ事ニ、ナッテタノニ、頼ミヲ聞イテクレタノカ?」

「ヲ級とは関係ないからなあ」

「ア、ダカラ、小屋ヲ留守ニシテタリ、他ノ深海棲艦ノ攻撃ヲ気ニシテタンダナ」

「そういう事になる」

「ソウカ。ゴメン」

「なにが?」

「私ハ、翌日カラ、ズット毎日来テイタ」

「小屋にか?」

「ウン。デモ、ズット、留守ダッタカラ、嫌ワレタト思ッテタ」

「それはすまなかった」

「ウウン。解ッタシ、私達ノ誰カガヤッタノナラ、謝ル」

そう言うとヲ級は深く頭を下げた。イ級達も慌てて倣う。

「いや、いいよ。ヲ級、顔を上げて」

「アト、ココニ指定シタDMZハ、解除デキナイ一番強イヤツ。安心シテ」

「ありがとう」

「・・・提督ハ、誰ガヤッタカ、知リタイカ?」

「むしろ会いたいな。」

「首謀者トカ?」

「そう。私が居る鎮守府と解って攻撃したのなら、思い当たるのは1つしかないんだ」

「以前言ッテイタ、沈メテシマッタ仲間ノ事カ?」

「そう。あの子達全員か、その一人かは解らないけれど、そこまで恨んでたんだな、と」

「・・・」

「私の差配ミスのせいで、今も苦しんでるのなら謝りたい」

「・・・」

「そして、怒りが収まらないなら、討たれても良いと思うんだ。他の艦娘が傷つく前に」

「ダメダ!」

「・・ヲ級?」

「ダメダ!提督ハ、討タレタラダメダ!」

「ええと、どうして?」

「提督ガ、スベキ事ハ、ソノ娘ノ怨念ヲ、取ッテアゲルコト。」

「・・・。」

「討ッテモ、怨念ハ消エナイ。ムシロ、好キダッタ頃ノ思念ト板バサミデ余計苦シム」

「じゃあ、その子は今頃・・・」

「モット、苦シンデルハズ」

「・・・・。」

「提督」

「なんだい?」

「大変ダト思ウケド、助ケテアゲテ」

「・・・・・。」

「ソノ子ニ成仏シテ欲シイシ、提督ニモ幸セニナッテホシイ」

「ヲ級・・」

「私ハ提督ノ事、大好キダカラ」

 

ちゃぶ台を囲んでいた、ヲ級を除く全員が一斉にヲ級を見た。

 

「式ニハ呼ンデクダサイ」

「ちょっと待て!お父さんはワシのムコだ!許しません!」

「響、言ってる事が支離滅裂で訳解らないよ?」

「いいわーいいわー、深海棲艦の恋!聞いた事無いデータだわー」

「青葉みたいだぞ夕張」

「やめて。あ、ヲ級ちゃん!」

「ナ、ナンダ?」

「提督のどこが好きなの?」

「!」

「真っ赤になっちゃってぇ!かっわいいんだ~」

「~~~~!!!」

提督は思った。ヲ級がのの字を書いて恥らう姿、ちょっと可愛いかもしれない。

いや、決してうちの子達はタフでそういう姿を見せてくれないから寂しいとか言うんじゃない。

・・・。

ごめん自分に嘘つきました、寂しいです。おしとやかキャラ渇望してます。

「ヲ級」

「ナ、ナンダ?」

「もし、元の艦娘に戻れたら、うちの鎮守府においで」

「イイノカ?」

「多分、何とかなる。来てくれたら嬉しいな」

「ズット、傍カラ離レナイゾ?」

「秘書艦になるか?楽しみにしてるよ」

「・・・。」

 

ぎゅっ。

提督が自分のお腹を見ると、小さい腕が回されている。

響が背後から抱きついていた。

「だぁめ」

提督の肩越しに、響とヲ級の目線が交錯し、火花が散る。

その時、インカムから声がした。

「響さん」

「何?加賀さん」

「ヲ級さんも入会なら、年会費1296コインですとお伝えください」

「あのさ、加賀」

「なんですか提督」

「それ、何の話?」

「響さん、伝えましたよ」

「え?ちょっと?加賀さん?加賀さん?」

響がヲ級に向いて言った。

「まずはクラブに入会する事。年会費1296コインです」

「フム。ナルホド。釣リ銭ハアルカ?」

「あります」

えー、なんか関係ありそうなのに蚊帳の外に置かれてる気が・・・

というかヲ級、随分とレトロな財布だな。ガマ口じゃないか。

仕方なく後片付けを始める提督。

「なんか釈然としないけど、残りのカレーは朝食に・・・あれ?」

鍋が2つとも空っぽだった。

そして、台所の床でイ級が1体倒れている。なんか一回り大きくなってる。

「ヲ級さん・・あの・・・」

「アッ!全部食ベタノカ?」

「キュー」

「ソリャ苦シイニ決マッテル!」

「キュー」

「ソリャ、海底デハ食ベラレナイガ、体ヲ壊シテシマウゾ・・・」

提督と響はヲ級とイ級のやりとりに、赤城と加賀の毎晩の漫才を重ねていた。

介抱するのは決まって加賀である。

「響さんや」

「なんだい父さんや」

「どこにでも食いしん坊は居るんだなあ。」

「うん。でもこれは予想の上だった」

「だな」

「動けないほど食べるなんて、赤城さんの専売特許だと思ってたんだけどな」

 

 

「ヘックシッ!ヘックション!」

「あら赤城さん、風邪ですか?」

「うー、甘酒飲んできます~」

「一斗樽ごと飲んではダメですよ」

「そこまで飲みませんよ!隼鷹じゃあるまいし」

「間宮さんに怒られたの、お忘れですか?」

「あ」

「気をつけて。ちゃんと温めて飲むんですよ」

「はあい」

全く、手のかかる友人です。でも、大切な友です。

そうか、風邪引いたのなら明日は私が行くべきでしょうか?

 

空では満天の星達が、優しく輝いていた。

 

 




ヲ級ちゃんはアイドルです。異議は認めません。

那珂「・・・・・。」

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