艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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今回の連休は(出来る限り)6時、12時、15時に公開する予定です。


日向の場合(7)

提督に報告した翌日の午後。

 

「姫、これが我が姉の伊勢だ。これから副室長を務める事になった」

「伊勢です。妹がいつもお世話になってます」

「北方棲姫デス。ヨ、ヨロシクオ願イシマス」

「姫様ノ侍従長ヲ務メテオリマス。コチラコソオ世話ニナッテマス」

伊勢は日向に連れられて、北方棲姫と侍従長に会った。

そして、鎮守府で勧誘船に乗って来た子に対して、艦娘化の後に行っている事を説明。

最初、北方棲姫は緊張した様子を見せていたが、説明を聞くに従って打ち解けて行った。

「ナルホド、艦娘トシテ帰ル前ニ、オサライヲスルンデスネ」

「希望ニ応ジテ、教育内容ヲ変エテイルノデスネ」

「そうなの。内容や時間配分も受講者の意見を反映してるから、評判は悪くないよ!」

「デショウネ」

「コレハ良イデスネ」

「だから、艦娘として異動する前の子から希望を取ってみたらどうかなって」

「賛成デス。トッテモ良イト思イマス!」

「ソレヲ営業活動ニ取リ入レルノモ、良サソウデスネ」

日向はなるほどと思った。

確かに、戻った後上手くやって行けるか心配する子もそれなりに居たのだ。

長い間深海棲艦として過ごしてしまったが為に、記憶が間違っているのが不安だと。

「じゃあ案内を出して、説明会を開いても良いかな?」

「ハイ。ウチノ子達モ営業内容ニ盛リ込ミタイノデ、参加サセマス」

「決まり!説明会はどこでやれるかな、日向」

「食堂の最上階なら使ってないから、準備した物をそのままにしておけるぞ」

「良いわね、じゃあそこ貸して!」

「案内しよう。東雲組の管制官にも改めて副室長だと紹介した方が良いだろう」

「任せるわ!」

伊勢は立ち上がった後、北方棲姫と侍従長に向き直ると、

「そういう事で、妹と二人で頑張りますから、よろしくね!」

「色々迷惑をかけるが、引き続き頼む」

「ハイ!ヨロシクオ願イシマス!」

「出来ル事ガアレバ仰ッテクダサイ。オ手伝イシマス」

こうして4人は笑顔をかわしたのである。

 

「まずは説明会に集まってくれた皆、ありがとね!」

伊勢は説明会場で、参加した艦娘達を見回した。

色々な海域で深海棲艦になり、再び艦娘に戻る事を希望する子達。

それに加えて、営業活動の売り文句を探すべく内容を聞きに来た北方棲姫の部下達。

期待する目、聞き取ろうとする目、半信半疑の目。

そんな中、伊勢が最初に説明したのは、鎮守府でやっている教育であった。

教育と聞いて顔をしかめた子も居たが、内容を聞き終わると

「うん、おさらいなら、ちょっとやっておきたいかも!」

と、ニコニコとして応募用紙を手に取っていた。

次に、睦月と東雲がやっている心身のケアについても説明。

こちらはその場での反応は薄かったが、説明会の後で

「あ、あの、悪夢を見るのもケアを受ければ治るでしょうか・・」

と聞いてくる子が数名居た。

午前と午後の2回を3日間やって、伊勢は結果をまとめながら深く頷いた。

やはり勧誘船に乗って来た子達と傾向は同じだと。

翌日、伊勢は日向に言った。

「状況まとまったし、ちょっと鎮守府に行ってくるわ」

「通信も出来るぞ?」

「身振り手振り出来ないじゃん」

日向は頷いた。伊勢は話す時、大量のボディランゲージを使う。

「いつ戻る?」

「お姉ちゃん居ないと寂しいの?ねぇねぇ」

「そういう意味ではない」

「ちぇ、解ってるわよ。ええとね、明日の夜か明後日の予定」

「今日、営業船を1隻メンテナンスで鎮守府に回送するから乗っていくといい」

「速いんだっけ?」

「島風より速い」

「へぇ、便利ね。じゃあ借りる」

「NO3だ。一番外海に近いところに居る。1000時出航だが、遅らせるか?」

「あと20分か。OKOK、行って来る!あまり遅いと夜になっちゃうからね」

「なら、港で見送ろう」

伊勢がにやりと笑った

「やっぱり寂しいんでしょ。素直じゃないんだからぁ」

「・・伊勢」

「なによ?」

「無理して張り切ってないか?少しずつで良いんだからな?」

伊勢は日向の心配げな顔を見て、ぺろっと舌を出すと

「今回の内容は妙高達からの頼まれ事だから、実はとても楽でした」

日向は頷いた。

「そうか。妙高は心配してたのか?」

「勧誘船に乗ってくる子達が艦娘になる時と同じじゃないかってね」

「経験者が居るってありがたいな」

「そういうわけだから、ちゃっちゃと行ってくるわ!」

「解った」

港で伊勢の乗る営業船を見送りながら、日向は1人呟いた。

「早く、無事で帰って来いよ。たった一人の姉なのだからな」

 

その日の午後、鎮守府提督室。

提督は伊勢の報告を聞き、頷きながら言った。

「そうだね。基地は元々艦娘に戻りたい子は居ないという前提で作ったからね」

「出発前に妙高達から話を聞いたんだけどさ」

「うん」

「おさらい教育、大体一定数の空きが出てるらしいのよ」

「そっか、だいぶ簡略化したんだっけ」

「仮想演習場だけは大鳳組とやりあう子達で満員らしいんだけどね」

「それは主にうちの艦娘達だよね」

「ええ」

「整理すると、妙高達は深海棲艦の教育に慣れてきた」

「うん」

「仮想演習場を除けば、今の体制で余裕がある」

「ええ」

「基地で艦娘になった子達も教育やケアを望んでいる」

「そう」

「・・ただ、基地の子達は結構膨大だろ?どこに泊まらせるかなあ」

「一気に受け入れる必要は無いと思うから、空き枠の範囲で良いと思うけど」

「順番待ちが長いと基地でヒマじゃない?」

「それは無いわね。営業とか事務手続きとかで忙しそうだし」

「そっか、北方棲姫の部下だけじゃなくて皆でやってるのか」

「事務手続きは異動先の鎮守府でもやる筈だって、練習を兼ねてるみたいね」

「ふむ。妙高達はどれくらい余裕があるのかな」

「それは、本人から聞いたほうが確実ね」

提督は秘書艦である赤城に声をかけた。

「ええと、妙高、天龍、睦月、後は最上を呼んでくれ」

 

 


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