艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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日向の場合(3)

基地稼働から8日目の夜。

 

「うん、今まで通り撃ちなさい」

提督がきっぱりと答えた事に、日向は通信室で返事に詰まった。

提督ならば、攻撃する前に確認してみるかとか言うかと思ったのだが。

「・・・」

「あー、ちょっと言葉が足りないか」

「うん」

「私達は、自分が知りえる範囲でしか判断しようがない」

「そうだな」

「例えば目の前の深海棲艦がバンバン砲撃してきたとする」

「あぁ」

「その子が内心、日向を憎んで殺してやると思ってるのか」

「・・」

「怖いから出鱈目に撃ちつつ逃げたいのか、今は見分けが付かない」

「そうだな」

「でも、いずれにせよ撃たれた弾に当たれば日向は傷つき、沈んでしまう」

「あぁ」

「私は、私にとってかけがえの無い、大切な日向を絶対に失いたくない」

「・・あ、その」

「ん?なんだ?」

「そういう・・恥ずかしい事を・・突然言うの・・止めろ・・」

「・・」

「・・」

「ずえったいに失いたくない!」

「繰り返すな!力むな!」

「だから日向、迷わず撃ってくれ」

「それで良いのだろうか・・」

「我々は戦いたくない子達にも手を差し伸べる用意をしている」

「そうだな」

「でも、救えない子が出るのは仕方ないんだ。神じゃないからね」

「・・あぁ」

「不幸な出合い方をして、戦いたくない子と砲火を交えたかもしれない」

「う、うむ」

「でもそれは、狙ってした事じゃない」

「あぁ」

「我々は出撃して戦いつつ、救いの窓を開けておく事しか出来ないんだ」

「・・」

「それでも他の鎮守府に比べれば、助けを求めている子の為になってるんだよ」

「・・」

「深海棲艦の攻撃が日向を傷つけないのなら、考える余地はあるよ」

「・・うむ」

「でも、深海棲艦の攻撃は日向に致命傷を負わせる。死と隣合せの瞬間に迷ったら負けだ」

「・・そうなのだが」

「さっきも言ったけど、私は日向を失いたくない。答の無い事で迷って欲しくない」

「そう、か」

「だから日向は私の命令通り撃ちなさい。忘れるな。私の、命令だからな」

「・・ん?」

「もし審判の日になぜ撃ったと神から問われたら、あいつの命令でやったと私を指差せ」

「・・なに?」

「私が全ての責任を取って地獄に落ちるよ」

「でっ・・出来る訳・・言える訳ないだろ!」

「それが提督っていう仕事だよ」

「仕事でもだ!」

「・・まぁ、今回もそうだけど、ヲ級とか陸奥、整備隊など、迷う出来事があったね」

「あぁ」

「でもな、姫の島みたいなケースがほとんどで、全力で向かっても危ない相手なんだ」

「そうだな」

「見分けられれば良いけど、今の所は解らない。これが事実だよ」

「混ざってるから、難しいよな」

「難しいんじゃなくて本当に解らないんだ。日向のせいじゃなく」

「・・」

「一方で、内情を多く知った事でより良い答には近づいていると思うよ、私達は」

「あぁ」

「だが今は、知っているだけで、それでどうすれば良いという所と結びついていない」

「うむ」

「だから、見分けられる基準を得るまでは、命令通り撃ってくれ」

「・・解った」

「よし」

「提督」

「なんだ?」

「もし提督が地獄に行くなら、私もついて行くからな」

「・・そうか」

「ああ」

「さて、良い子はあまり夜更かししないで寝るように」

「私を幾つの子供だと思ってるんだ」

「幾つでも、悩めば眠り辛く、眠りは浅くなるさ」

「・・いや、提督と話してだいぶ楽になった。ありがとう」

「対象数も多いし、トラブルも多くてしんどいだろう。伊勢も向かわせるか?」

「い・・いや、いい。余計混乱する」

「・・うん。日向だからこそ収められている気はするよ」

「褒め言葉と受け取っておく。そういえば、あいつらは律儀だな」

「ん?」

「北方棲姫も侍従長も、全ての部下が戻った後に戻ると言ってな」

「ビスマルクや陸奥もそんな事言ってたね」

「深海棲艦は皆、部下想いという事か」

「いや、違うね」

「なぜだ?」

「部下想いだから大部隊を率いる事が出来るんだよ。深海棲艦になってもね」

「・・なるほどな」

「だから北方棲姫なり侍従長に聞いてみる事は反対しないよ」

「何をだ?」

「見分け方さ」

日向は提督の言葉を理解するのに数秒かかったが、

「・・お、おぉ!なるほど!提督さすがだな!」

「ん?なんか褒められる事言ったっけ?」

「なるほど、なるほど!なるほどっ!!」

「いーから寝なさい。今から聞きに行ったら迷惑だからね」

「明日が楽しみだ!」

「じゃ、おやすみ、でいいかな?」

「あぁ!おやすみ」

スイッチを切りつつ提督は思った。

きっと夜中まで悶々と考えて寝ないんだろうな。

余計な事言っちゃったかな?

日向なら気付いてるかと思ったんだけど。

 

翌日。

朝食をさっさと済ませた日向は、タワーのエレベーターで最上階に向かっていた。

ピンポーン。

「ハァイ・・ア、日向サン。今開ケマス」

侍従長に通された日向は、窓にべったりと張り付いて外を見る北方棲姫を見つけた。

「ヒ、姫様、日向様ガオ越シデスヨ!」

侍従長が慌てて呼びかけるが、北方棲姫は振り返らない。

「・・なるほど、これは素晴らしい景色だな」

日向は侍従長に頷くと北方棲姫の隣に立ち、外を一緒に眺めた。

窓の外では足元に層状雲が様々な線を描き、上には羊雲が一面に並んでいた。

紺碧色の空をカンバスに、茜色と黄金色の陽の光が雲を彩り、刻々と変わって行く。

まるで天国のような、地球上の光景とは思えない程の美しさだった。

「・・海底デモ、艦娘ノ頃モ、コンナ景色ハ見タ事ガアリマセン」

「私もここに来て初めて見たな」

「日向サンモデスカ?」

「うむ。私は3階に居るからな・・これは良いな、心が洗われるようだ」

「トッテモ、トッテモ良イ景色デス」

北方棲姫は日向の方を向くと、

「本当ニ、今マデ、色々シテ頂イタ事、感謝致シマス」

と、ぺこりと頭を下げた。

「礼なら提督に言って欲しい」

「ソレデ、ゴ用件ハ何デスカ?」

「うむ、ちと相談に乗って欲しい事があるのだ」

 

「ンーーーーーーー」

侍従長は日向の相談を聞くと難しい顔をして考え込んでしまった。

「や、やっぱり見分け方は無いか・・」

日向は昨晩嬉しくてあまり寝てなかったが、良く考えれば答えがあるとは限らない。

深海棲艦の、それも大部隊を率いる幹部でも解らなければ、我々が解る筈も無い。

じっと待つ日向に申し訳なさそうに侍従長が言った。

「深海棲艦ノ想イ、デスカラネ。強サノ見分ケ方ハ簡単ナノデスガ・・」

「LVが高い程青白く光ってるとか、だよな」

「ハイ」

「そうか・・」

やり取りを聞きながら、北方棲姫はじっと外を見ていた。

 

 




ちなみに今回で、累計文字数が100万を超えたそうです。
没にしたのが同じくらいありますから、実際は200万位なんでしょうけど。
や~、達成感ありますね。
皆様のおかげです。ありがとうございます。

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