艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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雷の場合(4)

宴の最中、宿泊部屋の中

 

閉じたドアを見て金剛は涙した。

「うっうっ、敵地の只中で見捨てられマシター」

「あらぁ、金剛ちゃん捨てられたの~」

龍田の言葉に大和がびっくんと反応し、わんわんと泣き出す。

「そうですよ・・中将は・・中将は私を捨てたんですよ~うえぇぇええぇん!」

金剛は青ざめた。大破着底したら一晩中愚痴につき合わされそうな鬱積具合だ。

榛名はすっかり酔っぱらっており、ふよふよと揺れながら大和の背中を撫でた。

「大本営は男の人、他にも居るから良いじゃないですか~」

大和は顔を上げた。

「居れば良いってもんじゃないわよー」

「居なければ話も始まらないですよ~?」

「そ、それはそうだけど・・」

金剛はこの話の流れに閃いた。

大和を中破の内に不発化させるチャンス!

さっさと収束させて温泉に突撃し、霧島をバックドロップで湯に沈めマース!

金剛は爆弾処理班のごとき慎重さで言葉を選んだ。一言でも外してはならない。

「大和は魅力的なのデース!だから今後赴任してくる司令官とLoveLoveするデース!」

「そ、そう、かな・・」

大和の目に生気が戻ってきた!

だが、そこで比叡が

「でも、好きな人の傍に居るとその人ばかり見ちゃいますよね」

と言い放ち、明るくなりかけた大和が途端にどろんとした顔になる。

「そうよ。私は中将が好きだったのに・・好きだったのにいいいぃい!」

金剛は比叡を心から呪った。

だが、比叡を非難しようとした口は龍田が押し込んだ徳利によって塞がれた。

「お待たせー、飲み足りなかったんでしょー?じゃんじゃん飲みなさーい」

「うぼべばぶぼべ!」

金剛は慌てて逃げようとしたが、龍田にヘッドロックされてしまった。

「ほらこぼしちゃだめよー、たんと飲みなさいな~、うふふふふふ」

ついに息が続かなくなり、金剛はごくごくごくと飲んでしまった。

金剛は目を見開いた。なぜなら超の付く下戸だからだ。

紅茶は大好きなのにロシアンティーを嗜まないのは少量のウォッカでも酔うからである。

徳利1/3ほど飲まされてしまった金剛は、途端にぽやんとした目になった。

「・・うー?」

「あはははっ!金剛ちゃんも提督に思ってる事、ぶちまけちゃいなさーい」

金剛はヒックとしゃっくりをしていたが、見る間に顔が真っ赤になった。

そしてぽつりと話し出す。

「・・テートクは・・ハレンチデース」

「ハレンチっていうとー?」

「愛する女の子は1人に絞るべきデース!一人をずっと真剣に愛すべきデース!」

「その一人と言うのは~?」

金剛はむんずと腕に力こぶを作った。

「勿論私デース!」

だが龍田は、自分の左手人差し指に嵌った指輪をくるくる回すと

「まだケッコンカッコカリもしてないし、求婚されてもいないんでしょ~?」

と、強烈な一撃をかました。

「はぐあっ!」

そしてそれはまたしても

「・・そうよ。どうせ私は求婚されてないしケッコンカッコカリもしてないわよぅ」

と、大和にまで着弾してしまった。もう轟沈寸前である。

比叡はようやく、収拾がつかない状況へと突入している事に気が付いた。

な、なにか・・何かフォローしないと。金剛お姉様が大変な事に!

とっさに言い放った言葉は、

「カッ、カッコカリじゃなくて、いきなり結婚というのもアリじゃないでしょうか!」

何か訳解らない事を言ってしまった。しまったと比叡は思った。

しかし、大和はその言葉がいたく気に入ったらしく、目をキラキラさせると

「・・そうよね。仮なんてどうでも良いわよね。婚姻届出しちゃえば勝ちよね!」

「そうです!その意気です大和さん!」

「そうよ。私は世界最大の戦艦よ。カッコカリなんて気にしなければ良かったのよ!」

そして榛名が頷いた。

「全くその通りです!提督と婚姻届を出すのは私です!」

金剛は榛名に反論しようとしたが、既に酔いは強烈な頭痛に変化し始めていた。

「ア、アイタタタ・・・頭痛薬飲みたいデース」

龍田は酔っぱらい特有である、中途半端に聞いた言葉を鵜呑みにした。

「飲みたりない?あらぁ、ごめんなさいねー」

「ちょっ!酒じゃな・・・うぶぼべば!」

金剛は再び酒をごくごく飲まされながら思った。今夜はツイてない。

そしてそのままバタンと倒れてしまった。

 

酒宴只中の頃、雷は中庭を見渡せる露天風呂に浸かっていた。

湯はどうしたらこうなるのかという位にまろやかで柔らかく、森の中のような芳香がした。

「んひょうえー」

発してから変な声だと気付き、慌てて顔半分まで湯に浸かる。

霧島達はまだ体を洗っていて気付かなかったようだ。

良い。

本当に気持ちが良い。溶けそうだ。

何だこの風呂は。

中庭には立派な柳を始めとした木々と草花が丁寧に植えられている。

剪定も見事であり、これを見ながら湯に浸かるとはなんて贅沢なのだろう。

雷は空を見た。

ここではソロル程満天の星空ではないが、幾つかの大きな星は同じように瞬いている。

「電や暁は今夜も遠征かな・・響は残業してるのかな・・」

 

そう。

 

雷が掃除や洗濯を頑張っているのは、それが自分の仕事だと思っているからである。

艦娘達や提督、工廠や食堂の皆が気持ち良く働くには、清潔な職場と装いが不可欠だ。

他の子でも出来るけれど、自分がまとめてやる方が効率が良い。

提督は清掃や洗濯もそれぞれ班当番に入れれば良いと言ったけれど。

ふっと笑う。

きっと自分が教え始めると、細か過ぎるとか厳し過ぎると言われる。

嫌われたくなくて妥協すれば自分がその中で過ごす事が気に入らなくなる。

だから提督の申し出は断って、全部自分でやっている。

正確に言えば、自分と、自分に乗船している妖精達で。

自分の気に入るようにしっかり洗い、しっかり掃除する。

綺麗になった洗濯物や部屋を見ると本当に清々しい気持ちになる。

皆には感謝されているけれど、自分では自分のわがままを通しているだけだと思う。

だから一生懸命働くのだ。わがままを許してくれる皆の為に。

湯船を見る。

きっとこの宿は、提督か龍田が考え出した計らいだろう。

鎮守府から誰か訪ねてくる度にこんな宿に2泊もさせたら大本営が破綻するし、大和自身

「無理です!こんな豪華な御馳走滅多に頂けません!」

と言ったではないか。

・・だからこそ。

湯船から拳を突きだす。

「絶対掃除の極意を掴んで帰るわよっ!」

雷は笑った。滞在中の目標が出来た!

その時、霧島がちゃぷんと湯船に入ってきた。

「んおー・・・良いお湯ってこういう事なんですねー・・うぉー」

「変な声出ちゃうわよね」

「はい。これは出ますね。ところで雷さん」

「なにかしら?」

「雷さんは今でもお掃除の技術とか素晴らしいのに、どうして更に学びたいんです?」

雷はちょっと考えた後、

「いつまでも綺麗な鎮守府であって欲しいじゃない!」

と、ニカッと笑いながら答えた。

 

 




またまた誤字訂正しました。
というか完全に間違えてました。
お恥ずかしい限り。ご指摘感謝ですよ。

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