艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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木曾の場合(14)

上層部会に木曾達が証拠品を献上した後、大本営会議室。

 

少佐はそれまでの落ち着いた態度から豹変し、真っ赤になって戦艦娘に怒鳴った。

「裏切り者め!命令もなしに勝手に行動しおって!」

その言葉に戦艦娘はぽかんとした後、わなわなと震えだした。

目隠しが涙に濡れた。

「そんな・・あ、あんまりです少佐。私は、私は少佐の命令で出撃したのに」

「何を言う!気でも触れたのか!」

「鎮守府の艦娘全てが、少佐の為に、訴え出る者の到着を阻止する為に」

「黙れ!嘘を吐くな!嘘を吐くなああああ!」

戦艦娘はキッと上を向くと、

「ならばなぜ貴方のサインのある出撃命令書がここにあるのですか!」

そう言いながら、胸元から命令書を取り出したのである。

少佐は目を見開いた。

「お、お前、それはシュレッダーで破棄しておけと・・・」

戦艦娘は命令書を握りしめながら言った。

「私は毎回、懐に入れてお守りにしてたんです。少佐殿を、お慕い、してましたから・・」

雷はすすり泣く戦艦娘の手元で命令書を読み、大将にジトっとした視線を送った。

大将は軽く溜息を吐くと、ややあってから頷いた。

するり。

雷は戦艦娘の目隠しを解くと、肩に優しく手を置いて言った。

「もう見えるわね?」

「は、はい。あの、雷様、私は神に誓って本当の事を申しました」

「解ってるわ。貴方を信じるわよ。見てなさい」

にこっと微笑んだ雷は振り向き、真っ直ぐ少佐を見つめながら演壇に向かって歩き出した。

コツ、コツ、コツ。

一歩歩く毎に猛烈な殺気がみなぎっていく。

硬直していた少佐は辛うじて身をよじった。

そして雷が来る反対側に逃げようとしたが、そこには部下を連れた憲兵隊長が居た。

だが憲兵隊長は少佐を取り押さえようとはせず、壇の下で距離を保っていた。

まるで死者を弔うかのような目で。

少佐は凄まじい悪寒に襲われた。足の先からうなじまで鳥肌が立つ。

はっとして振り向くと、雷がすぐ傍の足元に居た。

「・・・えっ?」

次の瞬間。

雷はひょいと飛び上ると、少佐の左頬に渾身の右ストレートを叩きつけた。

「グボアッ!」

綺麗な放物線を描いて憲兵隊長の足元まで吹っ飛んだ少佐はピクピクと痙攣し、白目を剥いていた。

雷はスタンと着地し、両手を腰に当てつつ少佐を見下ろすと、

「女を泣かして嘘つくような男はサイテーよ!成敗!」

と言い、続けてギヌロと会場の面々を見渡し、

「アンタ達はこんな最低男の偽装を延々見抜けなかった事を大いに反省しなさいっ!」

そう言って、バン!と演台を叩いたのである。

雷の声は元々良く通る上、スピーカーを通じて会議室中に大声で響き渡った。

ゆえに参加者はシャキンと起立し、その直立不動のまま

「申し訳ありませんでした!」

と口を揃えたのである。

何故か木曾達まで口を揃えてしまったのは雷の凄まじい眼力ゆえである。

大将は口を開いた。

「少佐を捕縛し、逮捕せよ」

憲兵隊長がビシリと敬礼した。

「ははっ!おい!留置場にぶちこんでおけ!鎮守府を取り調べるぞ!」

そのまま少佐は憲兵隊員に引きずられて退場していった。

大将は視線を木曾に向けると、

「少佐は今後処罰を行うとして・・木曾」

「はっ!はい!」

「まずは今回の活躍に礼を言う。君達のおかげだ」

「・・はい!」

「次に、話を戻して、深海棲艦との交渉はどうだった?戦闘は避けられそうか?」

木曾はすっと息を吸い込むと、

「深海棲艦3000体は全く戦闘を望んでおらず、人間に戻る事を希望しています!」

大将は少しだけ、怪訝な顔をした。

「人間に・・かね?」

「はい!」

大将は少し悲しげな目をすると、

「3000体も艦娘になってくれたら心強かったが、少佐のような者も居るしな・・」

と言い、続けて、

「よし。無理強いは出来ん。解った。ソロル鎮守府で人間まで戻せるかね?」

「旧鎮守府跡を改装し、その準備を進めています!」

「うむ、よろしい。資材等、必要な物は定期船で運ばせる。中将、仔細は任せた」

「ははっ!」

そして大将は雷を見ると、

「雷、これで勘弁してもらえるかな?」

声を掛けられた雷はにこっと笑い、

「さっすが私の旦那様ね!良い差配よ!」

と返した。

大将は苦笑しながら、

「それでは上層部会を閉会とする。皆、この事案は外部にはくれぐれも内密にな」

と、片目を瞑り、唇に人差し指をあてたのである。

 

「いやはや、無茶苦茶な1日だったなあ」

大本営のドックで修復し、明日帰ると球磨から通信を聞いた提督は、長門に言った。

「ああ。大事件がこうも一気に来るとしんどいな」

提督は視線を動かした。

「さしあたり、今後1週間どうやって皆さんを養うかという大問題があるんだけど」

北方棲姫はぽよんぽよんと応接セットの椅子の上で跳ねていたが、提督と目が合うと

「別ニ海底デ待ッテルカラ良イノデス。ゴハンモ何トカシマス!」

「そうは言ってもね・・・でも、それしかないなあ」

侍従長は北方棲姫の隣で微笑みながら言った。

「我々ハ攻撃サレナイト保証シテモラエルダケデ充分デス。ユックリ眠レマス」

だが、北方棲姫は提督を上目遣いに見ると、

「ア、デモ、コノ椅子・・・楽シイデス」

と、再びぽよんぽよんと跳ねていた。

提督は苦笑しながら、

「そんなに気に入ったのなら、差し上げますよ」

「ホント!?」

「長椅子とかソファとか、工廠長に明日辺り作らせましょう」

「ソレ、ポヨポヨ出来マスカ?」

「ぽよぽよ?」

北方棲姫は椅子の上でぽんぽんと跳ねた。

「ポヨポヨ!」

なるほどと提督は頷くと、

「それなら、そういう物を作らせましょう。思い切りぽよぽよ出来るように」

北方棲姫が目を輝かせてコクコク頷いたのは言うまでもない。

こうして深海棲艦との凄まじい共同生活が始まったが、この続きはまた別の機会に。

 

なお、これも秘匿事案となったので、またしても提督は何も評価されなかった。

「階級の1つ!勲章の1つ!せめて賞状の1枚でも出せないのですかっ!」

怒り狂った龍田は大本営まで乗り込んで警備兵をなぎ倒し、大和の部屋に殴り込んだ。

龍田のあまりの迫力と殺気に涙目になりながら大和は雷を呼んだ。

「本当に本当に申し訳無いんだけど、ダメ」

名誉会長にきっぱり言われた龍田は何も言えず、とぼとぼと帰ってきた。

その日の夜、鳳翔の店では

「まぁまぁ、私は気にしてないからさ・・」

そう言いながら提督が龍田に酒を奢るという珍しい光景が見られたのである。

 

 




次は事案後の光景、いよいよ木曾編の最終話。
18時配信予定です。
ええ、まだ固まってないなんて口が裂けても言いませんよ。

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