木曾が単独突撃した後の海上。
「20射線の酸素魚雷、2回いきますよー」
「北上さん、今日持ってきたのは酸素魚雷じゃないですし、20射線も無いですわ」
「ふふん、口癖って奴よ」
「ああん!ワイルドな北上さんも素敵!」
「まー、もうやっちゃいましょー」
「北上さんがいいって言うなら」
そういうと二人はそれぞれ魚雷を12発ずつ2回、計48発発射した。
木曾が見えない信号弾を撃ってから、一気に砲撃が的外れになり、数も減った。
だから二人は息を整えられた。
その際、敵の群れを視認したので、狙い澄まして魚雷を発射したのである。
射線の先には第3鎮守府の軽巡、軽空母、駆逐艦からなる60隻の連合艦隊が居た。
艦娘達は魚雷を見て、くすっと鼻で笑いながら少しだけ陸から離れた。
確かに48発もの高密度に飛んで来る魚雷は、見た目だけは脅威だ。
だが、所詮は魚雷。
落ち着いて避ければ当たらない。当たらなければ爆発もしない。
そのまま陸に当たって爆発するから陸から離れておけば良い。それがセオリー。
そう思っていた。
しかし、北上達が撃ったのは多弾頭AI魚雷だった。
自ら進行方向を修正し、至近距離で弾頭が10個に分裂する。
そんな魚雷など見た事もなかった艦娘達は目の前で分裂した姿に呆然となり、動けなかった。
結果、ほぼ全ての弾頭が命中し、連合艦隊は一瞬で全滅した。
このたった1回の攻撃で第3鎮守府所属艦娘の6割が轟沈したのである。
北上は大井と盛大な火柱を見ながら頷いた。
「これが重雷装艦の実力って奴・・・あ、あいたたたた」
「北上さん大丈夫!?しっかり!」
「腰がいたーい、早く修理したーい」
大井はくすっと笑った。
頭が良くてしっかり仕事するのに、ちょっと抜けてて決まらない北上さん。
本当に可愛いわ。まだまだ生きないとね!
残る4割の多くは武蔵、古鷹、加古の3人が沈めていた。
生き残ったのは雷が気絶させた戦艦娘1人と、木曾達と戦った10人程度の艦娘達だけ。
戦いが終わってみれば、第3鎮守府の所属艦娘はほぼ壊滅していたのである。
「よって、J島攻略作戦と名付け、これを遂行する事を提案するものであります!」
少佐は演説を終えると無線機のスイッチを入れ、顔をしかめた。
いつまで妨害電波を流してるんだ。これでは戦況が解らないではないか。
少佐の耳元には超小型無線機が仕込んであり、イヤホンを通じて戦況が伝わる筈だった。
しかし会議の直前に大将が妨害電波を発信すると言い、以後は雑音しか聞こえない。
まぁ良い。鎮守府総出の連合艦隊が負ける筈が無い。後で報告を聞くさ。
諦めて無線機の電源を切った時、会議室のドアが開き大和が入ってきた。
少佐は明らかに不愉快な顔になった。
「中将の・・秘書艦殿ですね。現在は秘書艦殿も立ち入り禁止の筈ですが?」
そう。中将から秘書艦も立入禁止と言われて非常に反発したのは少佐自身であった。
秘書艦が居れば戦闘に随時指示を加えられたものを、余計な事をしやがって。
何が機密保持だ。いつもそんな事しないクセに。
だが、大和は構う事無く中将に歩み寄ると、何事かを耳打ちしている。
「中将殿、我々には秘書艦を遠ざけろと言っておいてそれでは示しがつきませんよ?」
しかし、中将は冷たい笑みを返した。
「そろそろ黙れ。ここから先は取調室で喋るんだな」
少佐は眉をひそめた。
「・・どういう事でしょうか?」
「君が勧誘船を襲撃させた事が明らかになったんだよ」
少佐はじっと中将を見て、肩をすくめた。
「どこから出た情報か知りませんが、嫉妬に狂ったガセネタは大概にしてほしいですな」
大将が静かに微笑む傍らで、中将は少佐を睨みながら言葉を継いだ。
「では、証拠を並べるとしよう。入りたまえ!」
すると、スーツケースを持った雪風に案内されて木曾と球磨が入ってきた。
木曾は服のあちこちが焼け焦げていた。
木曾が頭を下げた。
「大将殿、ご無沙汰している。中将殿、こんな恰好で申し訳ない」
「いや、無理を言ったのはこちらだ。よく来てくれた。ありがとう」
その時、大将が雪風が持つスーツケースを指差しつつ言った。
「その、スーツケースは何かな?」
木曾が答える。
「うちの勧誘船の残骸だ。弾がこの通り、真ん中を貫通していたんでな」
ギリッ!
少佐は歯を噛みしめた。今まで1度も弾痕が残る事など無かったのに。
雪風が静かに言った。
「鑑識に回した結果、この弾丸は14cm単装砲の物と解りました」
少佐が声を張り上げた。
「なぜ艦娘の兵装と言うんだ!深海棲艦の兵装に決まってるじゃないか!」
球磨が冷たい目で少佐を見た。
「14cmは5.5インチだクマ。でも深海棲艦達の主砲は5インチか6インチしか無いクマ」
少佐は球磨を指差した。
「先程も報告した通り、発見したのは我が駆逐艦娘だ!14cmは積めない!」
「そうかクマ?うちの潜水艦はこんな写真を撮ってきたクマ」
球磨がそう言うと、スクリーンに14cm砲を抱え持つ駆逐艦娘の写真が大写しにされた。
「ぐっ」
「付け加えると、この子達は第3鎮守府で寮の部屋に入ったクマ」
そう言うと、部屋で14cm砲を机に置きつつ、談笑する艦娘達の写真に切り替わる。
明らかに自室で寛いでいる雰囲気だ。
少佐は真っ赤になっていた。
うちの艦娘が気付かないとは、一体どれだけ遠方から撮影しやがった?!
「ぐぬううう」
中将が木曾に声を掛けた。
「それにしても、勧誘船で被弾してから修理する時間も取れなかったのか。すまなかった」
木曾は眉をひそめた。
「いや、勧誘船では無傷だったが、これを輸送中に、ここの湾のすぐ外で攻撃されたんだ」
その途端、中将の額に幾つも血管が浮かび上がった。
「ソロル鎮守府の艦娘を・・誰が砲撃したというのかな?」
雪風が答えた。
「少佐の所の艦娘達です。赤外線写真に写りました」
「ううっ!」
少佐の目が泳ぎだした。
大将直属の艦娘達は皆、異能者と呼ばれる程の突出した能力を持つ。
雪風は強烈な運の持ち主だ。他所の鎮守府の雪風のそれを数十倍上回る。
彼女がカメラを持てば、うちの艦娘が隠れようと本当に撮影された可能性がある。
雪風の言葉なら間違いないと、会場の面々は少佐へ冷たい視線を投げ始めた。
少佐は拳を握りしめながら言った。
「私は何も指示していない!艦娘達が勝手に!」
だが、その声は良く通る声で塞がれた。
「じゃーん!木曾達を襲撃したご本人に聞いてみましょう!」
入口に現われたのは雷と、泥だらけの戦艦娘を背負う武蔵だった。
その後ろの廊下では、古鷹と加古が北上達との再会を喜び合っていた。
どさりと椅子の上に下ろされた戦艦娘は、ようやく意識を取り戻した。
雷は目隠しはそのまま、手足を縛っていた縄は解いたのである。
しかし、戦艦娘はもはや戦意を喪失しており、ぐったりとしたままだった。
「う、うぅ・・」
「じゃあ歌ってもらおうかしら」
耳元で雷に囁かれた戦艦娘は震えあがった。
「ひっ!」
「さっき言いかけた事、今回は誰の命令だったのかしら?」
その時、少佐が大声で怒鳴った。