艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file32:文殊ノ知恵

4月10日昼 ソロル岩礁

 

ラーメンを食べ終えた3人と3体は、それぞれ満足気に腹を撫でていた。

「満腹満腹~」

「ヲ~」

提督がヲ級に振り返った。

「そうだ、ヲ級さんや」

「?」

「夕張が良い知らせを持ってきたぞ」

「!」

夕張が写真を取り出す。

「ねぇ、この3枚の写真の中で、貴方の記憶にある所は無い?」

ヲ級がパッと1枚を手に取る。

「コ!コレ!・・・・コレ!」

「やっぱり!それが一番特徴があってたのよ!」

「ウゥ・・・私ノ家・・・・司令官・・・」

「ヲ級ちゃん?」

「ウゥゥ・・・グスッ・・・ヒック」

泣き出してしまったヲ級をイ級が囲む。

「ヲ級・・ヨカッタネ」

「ヲ級・・・行ッテ来ナヨ。一目見タカッタンダロ?」

ヲ級は嗚咽していた。

おろおろしている様子のイ級達の間をぬって、提督がヲ級の隣に座った。

ヲ級が提督にしがみついて本格的に泣き出す。

「見つけたかった故郷だもんな。大丈夫。連れてってあげるから」

「ウー」

「よしよし。たっぷり泣くといい」

「提督ゥ・・・ウッウッ」

響はヲ級とイ級を見ていた。なんか姉妹みたいだ。

深海棲艦にも絆があるのだろうか?

 

 

4月10日夕刻 ソロル岩礁

 

ヲ級が落ち着くまでしばらくかかったが、ようやく顔を上げたヲ級は

「スマナイケド、連レテ行ッテクレナイカ?一目、コノ目デ見タイ」

と、言った。

提督が夕張の方を向いた。

「夕張、何時ぐらいに出れば日中に帰ってこられる?」

「んー、余裕を見れば日の出と共に出た方が良いわ。それなりに距離があるよ」

「案内は可能だな?」

「もっちろん!」

「だ、そうだ。どうするヲ級。いつなら1日余裕がある?」

「明日、行ク」

「・・・そうだな。一刻も早く行きたいよな」

「ウン」

提督はインカムに話しかけた。

「加賀」

「はい、聞こえています」

「知恵を貸してくれ」

「なんでしょう?」

「この子達と、その鎮守府に行きたいが」

「航路上の安全確保手段はどうする、長門の説得をやってくれ、今夜小屋に泊まりたい、後は何?」

「お主はエスパーかね」

「やり取りを聞いてればそれくらい容易く導き出せます」

「あと、すまないが明日の夕張の当番があれば振り替えを」

「承知しました」

「礼は鳳翔の店の牛ステーキで良いかな?」

「提督。お礼なんて結構です。財布が破綻してしまいますよ」

「私は気持ち的には全艦娘に何か礼をしたい位なんだがなあ」

「もう頂いてますよ」

「何を?」

「ご自分で考えてください」

「えー」

「さて、解決法ですが、航路安全確保は赤城に行ってもらいましょう。」

「うむ。正規空母が居れば先行捜索も出来るしな」

「長門の説得はそれを言えば良いでしょう。赤城への依頼も含めて私が言っておきます」

「頼む。私より上手そうだ」

「でも、小屋は・・・さすがに賛成しかねますね。安全が保障出来ません」

提督はヲ級を振り返った。

「なあヲ級さんや」

「ナンダ?」

「今夜、私達がこの小屋に泊まっても他の深海棲艦から襲われないかな?」

「DMZニ指定スレバ良イ」

「DMZ?」

「De Militarized Zone。非武装地帯。ソコデ、戦闘ヲ、シテハイケナイ場所」

「そんな指定が可能なのか?」

「私ハ一応Flagshipデ艦隊旗艦。指定権限ハ、持ッテル」

「そうなのか」

ヲ級が人差し指を自分の唇に当て、ウィンクした。

「内緒ネ」

「解った。内緒だ」

「ジャア、チョット待ッテ」

ヲ級はコポコポと潜ると、ソロル本島と岩礁近海をぐるっと回りながら何かをしていた。

戻ってきたヲ級は満足気に頷いた。

「DMZ指定ガ終ワッタ」

「どうなるんだ?」

「簡単ニ言ウト、深海棲艦ニダケ、戦闘禁止ノサインガ見エル」

「イ級ちゃん、見える?」

響と遊んでいたイ級がこくこくとうなづく。どうやら本当のようだ。

「コレデ安全。大丈夫」

「だ、そうだ。私はヲ級を信じるが、加賀、どうだろう?」

ふぅと溜息を吐く音がインカム越しに聞こえ、ややあってから

「仕方ないですね。長門には上手く説明しておきます」

と、答えがあった。

「ありがとう、加賀。」

「あ、あの、提督」

「ん?」

「帰ってきたら、あ、頭をなでなでしてください」

「気に入ったか。いいよ、約束だ」

「それでは長門のところに行って来ます」

「頼んだ」

インカムを外すと、提督が言った。

「さぁ皆、狭いが入ってくれ。夕飯を作ろう」

イ級が声を上げた

「カレー!カレー!」

「はっはっは。カレー気に入ったか。よし、じゃあカレーにしよう」

「ワーイ!」

 

ぞろぞろと皆が小屋に入っていった。

程なく、明るく優しい光と、楽しげな声が小屋から漏れ始めた。

 




インドカレー美味しいデス。

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