艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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木曾の場合(11)

木曾達が証拠品を輸送する途上、日没間近の海上。

 

「ちっ、やるじゃないか」

木曾は小破状態で、スーツケースを吹き飛ばされないよう懸命に匿っていた。

島風1人で来ていたら既に轟沈していただろう。

北上の予測通り、大本営の町明かりが見えた途端に砲弾の雨が降ってきた。

3人とも自らに降りかかる弾薬の雨を避け、懸命に応戦していた。

相当変則的な回避運動を取っても至近弾が次々降ってくる。

大きく逸れた弾着はほとんどない。闇雲に撃ってるわけではなく正確な射撃だ。

しかも相手の砲火が全く見えない。

水柱の太さは様々で、46cmも混ざっている。鎮守府全艦で総攻撃して来てるのか?

弾着方向から発射元を推定しようとするが、複数ある事しか解らない。

余りにも不利な状況だ。

「木曾っち、大井っち、ごめん。30秒だけ砲撃止めて支えてくれる?」

北上を見ると、北上は両手に信号銃を持っている。

「GOサインか?」

「そうだよ。今ここで撃ってくる奴なんて1つしかないもん」

「・・・よし」

水柱をぬって木曾と大井がピタリと北上を支えた。

「良いぞ!」

「・・・あれ?あれれ?」

「どうした北上?」

「・・・信号銃の弾が海水被っちゃった」

「なにっ!?」

「あ、一旦回避しよう」

 

ドドン!

 

「回避指示遅いだろ北上!水中銃じゃないんだから海水被らせんな!」

「夜だから弾見えないし、乾いてる所なんて無いんだよぅ。どうしよっか大井っち」

「まず明かりを覆って夜戦対応しましょう」

「そうだね。木曾っちは・・って、もうしてるね」

「やってなかったのか!?」

「今やったよ。んで、どうしよっか」

3人とも遮光した事で、幾分砲弾の着弾精度が悪化した。

「木曾さん、照明弾は?」

「緑だけある」

大井が笑った。

「あはは、私も緑なんですよ~」

木曾は数秒沈黙したが、

「・・・おい!ダメじゃないか!」

「やっぱり木曾さんとはツーカーの仲にはなりきれないですねー」

「だったら北上は持ってるのかよ!」

「あたし?あたしは赤しか持ってないよー」

「バカやろぉぉぉぉ」

その時。

「大声で騒ぐと的にされますよ」

声の方を振り向くと、雪風が居た。

「大本営の雪風さん?」

「大将直属の雪風です。任務を終えて余裕があります。何か手伝いますか?」

木曾はスーツケースを手渡すと

「これを中将に。ソロルから愛をこめてってな」

「確かに。他には?」

だが、木曾の背中を北上が押した。

「な、なんだ?」

「木曾っち、雪っちと一緒に行きな。ここは二人で良いからさ」

「バカな!無茶だ!」

「正面突破より雪っちと行く方が成功率は高いよ。渡したら証言出来ないじゃん」

「う」

「いーから北上様を信じなさいって。あ、黄色の信号銃か照明弾持ってない?」

「黄色の照明弾ならありますよ」

「よっしドンピシャだね。1個頂戴」

「どうぞ。では木曾さん、こちらへ。北上さん大井さん、御武運を!」

「よろしくねー」

雪風達が充分離れたのを確認すると、砲撃の合間をぬって2人は照明弾を主砲に込めた。

そして肩を寄せ合い、腕を組んだ。

「大井っち、良い?」

「・・良いわよ北上さん!」

「・・・せーの!」

ドン!

黄色と緑の大きな火柱が夜空に舞った。

 

海原を見ていた球磨は2本の火柱を確認した。

「GOサインだクマ。行けるかクマ?」

「行けるにゃ!」

「今だクマ!」

ズズン!

第3鎮守府に繋がる全ての電線が、多摩が斬り倒した電柱と共に千切れた。

多摩が鉤爪を掲げてニヤリと笑う。

鎮守府は多くの照明が消えたものの、司令室を含めた幾つかは明かりがついていた。

無停電電源装置(UPS)が瞬時にバッテリーから給電するよう切り替えたのである。

規定時間が過ぎても電力が復旧しないと判断したUPSは、自家発電装置を起動させた。

その途端。

ドゴン!

自家発電機からもうもうと上がる炎と真っ暗になった鎮守府を見て、球磨は肩をすくめた。

本物の自家発電機を公道のすぐ脇に設置するなんてありえないクマ。

隙があり過ぎてダミートラップかと疑ったけどこっちも本物だったクマ。

発電機には燃料と電源があるんだから、ちょっと弄れば爆弾になるクマ。

これで鎮守府内への給電はどれだけ早くても数時間は無理だクマ。

仕上がりに頷く球磨の隣で、多摩は暗闇の先の海原に目を凝らしていた。

「・・球磨」

「何だクマ?」

「あれ、砲撃の水柱・・かにゃ?」

球磨はじっと目を凝らした後、目を見開き、

「・・・なっ!?あれじゃ突破は無理だクマ!支援に向かうクマ!」

「にゃ!」

 

「・・・雪風、すまない。やっぱりそれを頼む。車を止めてくれ」

雪風と防爆装甲のリムジンで大本営に向かっていた木曾は、防波堤の袂で車を止めさせた。

「北上さん達を助けに行くんですね?」

「ああ。姉貴だからな」

「ならば・・そうですね、これを持っていって下さい」

「なんだ?信号銃じゃないか」

「とても珍しい色なんです。お二人に会えたら真上に撃って下さい」

「・・解った」

「皆様に幸運を」

銃を懐に入れ、防波堤の上を走った木曾は、そのまま最大戦速で海に出ていった。

雪風は木曾を見送るとドアを閉めた。

「運転手さん、鑑識研へ急いでください」

リムジンはキュキュキュッとタイヤを鳴らしながら夜道を猛然と加速していった。

 

その頃。

「北上さんを傷つけるの・・誰?」

大井は破れた服を手で庇いながら呟いた。

北上も自分も中破状態であり、ダメージよりも体力が落ちており、息も切れてきた。

「まぁ、なんていうの。こんなこともあるよねぇ」

「そうですわね、北上さん」

大井は北上に落ち着いて返事したのとは裏腹に、怒りを抑えられなくなりつつあった。

明かりを消し、砲撃を控え、蛇行や転回を繰り返しているのに砲撃は執拗に狙ってくる。

しかも砲撃が複数個所からランダムに来るので特定すら出来ない。まさに袋叩き状態だ。

対策も打てぬまま、あっという間にここまで追い込まれた。

ふっと薄らぐ意識に疲労を感じる。

ここで止まったら終わりという予感を信じて操船を続けていた。

実弾演習とも深海棲艦との戦闘とも違う気味の悪い戦い。

自分達だけ目隠しをされながら、集団で突き飛ばされるような不快さ。

せめて1箇所だけでも特定し、ありったけの魚雷を打ち込んでやりたい。

そうだ、木曾はもう着いただろうか。

ふと、大井は微笑んだ。

北上さんと一緒だから、これが最後のミッションでも良いかな。

ま、ダメコン積んでるから最後って事はないんだけど、さすがにしんどい。

だがその時、大井はありえない声を耳にした。

「仕方ねぇ。出てやるか」

「木曾!?貴方何してるの?」

「姉貴達を見捨てるなんて、ガラじゃねぇんだよ」

「ミッションを達成しなさい!それが私達が受けた命令よ!」

「だから、敵を全部ぶっ倒してから皆で行けばいいだろ?」

大井は木曾をじっと見た。これは話して翻すような決意じゃない。

「そうだ。雪風にこれ貰ったんだ。良い色らしいぜ」

そういうと木曾は真上に向けて信号銃を撃ったのだが、

「あれ?音ばっかりで光んないな」

木曾は銃口を覗いたが、微かな硝煙の匂いが撃ち終わった事を示していた。

なんだこりゃ?後で雪風に文句言ってやる。

肩をすくめて信号銃を投げ捨てた時、水柱の間に微かな砲火が見えた。

木曾は真っ直ぐ睨みながら二人に言った。

「北上!大井!真正面に敵だ!俺が突撃する!」

 




後は明日のお楽しみ。
言い回し一ヶ所訂正しました。
その子らしさを出すってかなり神経使っても難しいものですね…毎度ご指摘感謝です。

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