太陽が丁度沈んだ頃。
「やば、少し前に出すぎちゃった」
「加古、大丈夫?・・そう、気をつけてね」
のんびりとした会話だが、状況は凄惨を極めていた。
小さな島と半島の間を抜けようとした加古が、足元に光るセンサーを発見した。
「あ、これ侵入者センサーだ」
加古がそう言った途端、海を挟んで反対の方角から砲弾の雨が降ってきた。
ご丁寧に島の左右側どころか島を通り越した背後までみっしりと着弾。
島の裏の僅かな空間しか安全圏が無くなってしまったのである。
しかも、その島も次々と着弾する弾に木々はなぎ払われ、ついに燃え始めた。
「島が丸裸になるまで撃つ気かなぁ。木が可哀想」
古鷹はのんびりそう言ったが、明らかに二人は絶体絶命の状態だった。
「加古、どうする?」
「んー・・榴弾うるさいなあ。考え事してるんだからさぁ・・・」
古鷹はニコニコして、じっと加古の答えを待っている。
「まぁ良いか。古鷹、合図したら全力でそっち。な?」
そういうと加古は、人の形に似た木を1本手に取った。
そして葉っぱの束を幾つか巻きつけると、島で燃え盛る炎で炙った。
やがて木の全体が燃えたのをしばらく眺め、じゅっと海水につけてちょいと触り、
「ん。人肌の温度。古鷹、良い?」
「良いよー」
古鷹の返事を聞いた加古は示した方向と反対にその木をぽいと放り投げた。
すると砲撃がそっちにずれたのである。
「いくよっ!」
「やったね!」
こうして砲火から逃れた二人は、島の陰になっている半島の森の中に飛び込んだ。
砲撃は木が飛んでいった地点を中心に拡散していたが、古鷹達からは逸れていた。
加古は対岸に目を凝らしつつ、古鷹に尋ねた。
「えっとさ、古鷹。砲門か弾道見える?」
古鷹はしばらくじっと見ていたが、
「探照灯点けないと解んないなあ・・・」
「大体も無理?」
「ええっとねぇ、多分あの岩と岩の間なんだけど・・」
古鷹が指差した所をじっと見ると、一見森に見えたが、2つの岩に挟まれた入り江だった。
加古はその上を見てにやりとした。
「んじゃあさ、ダメ元で、あれ撃ってみようよ」
示された方向を見て古鷹はニコッと笑って頷いた。
「加古スペシャルをくらいやがれー!」
「左舷、砲雷撃戦用意!てー!」
ドドドン!
森の中から古鷹と加古が放った数発の砲弾は、入り江の上にあった大木に命中した。
木が大きく揺すられた事で、木が支えている巨岩がゆらり、ゆらりと揺れた。
「もう一丁!」
「てー!」
ドドドン!
しかし、その砲撃を察知したのか、榴弾が突如加古達の周りに着弾し始めた。
「うわ、気づかれた!逃げろ!」
「加古!こっち!」
古鷹は加古より夜目が利く。先程砲火の在り処を聞かれたのもその為である。
今も古鷹は僅かに残る日の光を頼りに、加古の手を引いて獣道を疾走した。
しばらく走ると、砲火は再び見当違いを砲撃する形になった。
加古は視界が開けたところで古鷹を引き止めた。
「古鷹古鷹、あれ」
「あ、砲火だね。そっか、私達、割と横まで回り込んだんだね」
「砲火が見えないように砲門の前を布で覆ってる?」
「そうだね。だとすれば見つけにくかったのも道理だね」
「なるほど、頭良いなあいつら」
「演習のネタ探しは置いとこうよ」
「あいよぅ。じゃ、終わらせよっか。古鷹は岩の根元の木を撃って崩して」
「はーい」
「アタシは飛び出てきた奴を狙い撃ちするからさ」
「根元を狙って・・・そう。撃てぇー!」
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
規則正しく着弾した数発の砲弾は、ついに木を粉砕し、巨岩がバランスを失った。
ぐらりゆれた巨岩は、音もなく砲火の真上に落ちていったのである。
加古は巨岩が立てた水音の中に、かすかな悲鳴を聞きつけた。
間違いないね。ブッ飛ばすッ!
加古は獰猛な笑みを浮かべると、脱出しようとする艦娘達を狙って横から砲撃。
不意に砲撃されて一発轟沈した艦娘を見て、後続の艦娘達は慌てて戻ろうとした。
だが、戻った艦娘達は古鷹が上から突き刺すように撃った榴弾が直撃した。
出ようとする者、戻ろうとする者で大混乱になり、全く反撃出来ずに壊滅した。
巨岩落石から僅か10分後のことであった。
「へん。いっちょあがり~」
「結構居た感じだね」
「砲弾から考えりゃ重巡クラスかね。ま、どうでも良いけど」
「木曾達、大丈夫かな」
「よっしゃ、また敵を探そう!」
「うん!」
二人が再び獣道を走り出そうとした、その時。
「よぅ」
びくりとして主砲を構えた二人の前に、ぬうっと大きな影が現れた。
「悪くないな。2人で12隻沈めるとは大したものだ」
古鷹は恐る恐る言った。
「どなた、でしょうか・・」
「おおすまない。大本営大将直属の大和型戦艦二番艦、武蔵だ」
古鷹はほっと息をついた。
「ソロル鎮守府の古鷹と加古です。仲間が襲われているんです」
「解ってる。もうすぐ全ての入り江と山頂の暗視写真が集まる。見つけ次第始末する」
「私達を助けてくれるんですか?」
武蔵がニコッと笑った。
「そう依頼を受けてるからな。一緒に来るか?お前達は頼りになりそうだから助かるが」
加古は古鷹と顔を見合わせ、武蔵に頷いた。武蔵の火力は大いに頼りになる。
ここは下手に散るより力を合わせたほうがいい。
「よし、この戦、武蔵に任せてもらおうか!」