励みになります。
感謝の気持ちをこめて各ネタ増刷。結果として3話分増やしました。
だから本日は5回、明日4回配信します。
お楽しみください。
深海棲艦達が説得に応じた午後、鎮守府提督室。
コン、コン。
ドアをノックした後、伊19と伊58が入ってきた。
「提督!伊19、伊58、戻ったのね!」
「おぉ!二人とも無事だったか?怪我はないか?お腹空いてないか?」
「全然問題無いのね!それより面白い事が解ったのね!」
「なんだ?」
「勧誘船を狙撃したのは艦娘、それも駆逐艦娘だったのね」
「ほう」
「その子達を見つけたからオプションを発動して、私達は尾けていったのね」
「うむ」
「その子達は途中で民間の漁港で上陸して、第3鎮守府に帰ったんでち!」
「待て。2つ教えてくれ」
「何なのね?」
「1つは、その駆逐艦は14cm砲を持っていたかい?」
「持ってたのね。これが写真ね」
提督は差し出された写真を見て顔をしかめた。
「どの子も船体が傾いてるじゃないか。これじゃ回避行動も取れまい。可哀想に・・」
「もう1つの疑問は何でち?」
「どうして陸路を追えたんだい?」
「艦娘の靴に発信機をつけたんでち!」
「鎮守府内に居るって証拠もあるかな?」
「超望遠でその子が鎮守府敷地内に居る事も撮影済でち!」
長門が拳を作った。
「やったな伊19!伊58!素晴らしい成果だぞ!」
「伊19、大金星なのね!提督のご褒美、期待しちゃうなのね~」
だが、提督は顔をしかめたままだった。
「二人には褒美を渡すが、あと2つ証拠が要る」
「何でち?」
「勧誘船に着弾したのが14cm砲という証拠、その子達以外撃てなかったという事」
「それは・・」
「ああ、球磨達の帰投を待つしかない。長門、帰投予定は?」
「あと1時間後だが、急ぐよう伝えよう」
「そうしてくれ。あと、そういう証拠が無いか聞いてくれ」
「私達はどうするのね?」
「まずは間宮アイスを食べてきなさい。その後球磨達に説明を頼む」
「はーい!」
「解ったクマ。でも難しいクマ。金剛、まずは速力を全体上限まであげるクマ」
「了解ネー!皆さん!ついて来てくださいネー!」
通信を切り、腕組みをする球磨に、北方棲姫と侍従長が向き直った。
「ドウシタンデスカ?」
「ええと・・2つ探し物があるんだクマ」
「ナンデスカ?」
「1つは、勧誘船に当たった弾を特定出来る物はないかって聞いてきたクマよ」
北方棲姫が侍従長を促すと、侍従長はそっと、ひしゃげた看板を取り出した。
「我々ハコレシカ持ッテナイガ、役ニ立ツカ?」
球磨は目を見開いた。
「こっ!これは砲弾が真ん中を貫通してるクマ!素晴らしい証拠だクマ!」
「モウ1ツハ何デスカ?」
「皆の中でこの穴にぴったりの弾を撃つ兵装を持ってる人は居るクマか?」
「エエト・・5.5インチ?中途半端な口径ダナ」
「うん、ぴったり14cmだクマ。これが中途半端かクマ?」
侍従長は肩をすくめた。
「5インチハ駆逐艦ガ、6インチハ軽巡ガ持ッテルガ、5.5インチナンテ無イ」
「・・所持兵装に無い口径クマか?」
「ソウダ。聞イタ事ガ無イ」
球磨はニヤリと笑って回線を開いた。
「提督、証拠は揃ったクマ」
「・・ほう、14cmは深海棲艦の兵装としてありえないんだな?」
「そうだクマ」
「球磨、良く気付いた。お手柄だぞ。すまないが看板を急いで持って帰って来てくれ」
「解ったクマ!」
球磨との通信を切ると、提督は立ち上がった。
「よし、中将に直接話す。通信棟に行こう!」
長門が頷いた。
「解った。球磨達が帰投したら通信棟に来させよう」
「・・提督、それは確かなのか?」
大本営の通信室で、中将は大和と共に顔を歪めた。
「残念ながら、証拠が揃いつつあります」
「具体的には」
「第3鎮守府に帰投した駆逐艦隊が、14cm単装砲を全員所持しておりました」
「うむ」
「勧誘船に乗船していた艦娘が14cm砲の飛翔音を聞いた後、勧誘船が爆発しました」
「うむ」
「勧誘船から吹き飛んだ看板に弾の貫通穴が開いており、計測した所14cmでした」
「・・おぉ」
「そして深海棲艦達は14cm口径の兵器を持っておりません」
「なっ、なにっ!?」
「我々で言う所の、12.7cmまたは15.2cm砲しか無いのです」
「・・・完璧だな」
「更に言うと、勧誘船は深海棲艦が攻撃圏内に居れば自動的に回避します」
「うむ」
「しかし回避のそぶりもなく被弾した。艦娘から攻撃されたとしか考えられないのです」
「決定的な証拠は看板だな。どこにある?」
「間もなく鎮守府に到着します」
「提督、事態は一刻を争う。その看板をここまで持ってきてくれ」
提督は数秒間沈黙した。大本営は第3鎮守府の目と鼻の先だ。
もし看板を搬送する意味を知られれば総力を挙げて阻止されるだろう。
提督の沈黙の意味を理解した中将は穏やかに言った。
「少佐がこれから命令を発する事は出来ないから、安心しなさい」
「どうしてです?」
「上層部会に出席するからだ。警備を理由に妨害電波を発し、秘書艦は控室に隔離する」
「そんな警備ありましたか?」
「ある訳ないだろう。先程の連絡を受けて少佐を逮捕する準備をしていたのだ」
提督は頷いた。
「解りました。急ぎ運ばせます」
「頼んだよ。わしらも取り逃がさないようきっちり準備しておく」
スイッチを切った提督に、長門が話しかけた。
「速さなら島風だが・・」
だが、提督は首を振った。
「嫌な予感がする。証人として木曾、その護衛に北上と大井を同行させる」
「そのまま5人を向かわせても良いのではないか?」
提督は首を振った。
「そうしたいが、球磨多摩は疲れ果ててる筈だ。無理はさせたくない」
「や、やっと帰ってきたクマー」
「海上航行はしんどいにゃ。陸を走る方が楽にゃ」
浜で仰向けに倒れて息を切らせる球磨と多摩を、木曾は呆れたような目で見下ろした。
「姉貴、それは艦娘としてどうかと思うぞ・・・」
「だって浮力に余裕が無いんだクマ」
「甲冑着てるからだろ?」
「舵も加減速も重いんだにゃ」
「だから、甲冑着てるからだろ?」
木曾と球磨多摩はじっと見つめ合った後、
「木曾は頭良いクマー」
「さすが私の妹にゃー」
「いーから頭撫でるなっての!」
侍従長は不安げに3人を見ていた。本当に信用して大丈夫なんだろうか?
だが、北方棲姫はにこにこ笑っていた。
「アンナ風ニ仲ノ良イ姉妹ガ、私ニモ居タノヨ」
「姫様・・」
「平和ナ海ナラ、陸ナラ、アアヤッテ笑イアエル筈ダヨネ?」
「・・ソウデスネ、姫様」
「早ク人間ニ戻リマショウネ」
「ハイ」
そこに長門と伊19、伊58が走ってきた。
「木曾!大井!北上!損傷はあるか!?」
「ないよー」
「私もありませんわ」
「俺も無い」
「うむ、では補給をしながら我々の話を聞いてくれ」
説明を聞いた北上は肩をすくめた。
「うひゃー。第3鎮守府が黒幕で、この看板がそんなヤバい証拠とはね」
長門はうなづいた。
「そこで、木曾、北上、大井は次の任務だ」
北上は肩をすくめた。
「大本営にピザの宅配だねー?」
長門は苦笑した。
「そうだ。詳細を詰めるのは通信棟で行う。来てくれ」
球磨ががばりと起きた。
「私と多摩はどうするんだクマ?」
「提督は、二人は疲れ果ててるだろうから外すと言ってるが・・」
一瞬、球磨はうっと詰まったが、長門を睨むと、
「可愛い妹達だけ連続で出すわけにはいかないクマ!一緒に行くクマ!」
「そうにゃ!」
長門は肩をすくめた。
「提督と相談してくれ。提督も心配してるだけだからな」
「解ったクマ」
そして長門は看板を手に取り、ふむと眺めた後インカムをつまみ、
「夕張、輸送用ケースを作って欲しいんだが、今から研究室に行けば良いか?」
と言った。