艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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木曾の場合(6)

 

球磨と木曾の説得完了後、鎮守府提督室。

 

「さ、さ、3000体じゃと?!」

「はい」

肩をすくめる提督と呆然とする工廠長。

予想通りだなと日向は溜息を吐いた。

長門に呼ばれ、計画を聞いた日向自身、まだ実感が全然湧かない。

「ま、まさか解ってるとは思うが、この島に超高層ビルは建てられんぞ?」

「そりゃそうでしょうね」

「じゃあ3000体もどこで生活するんじゃ?」

「旧鎮守府、今は慰霊碑がある所です。慰霊する子ももう居ませんし」

「う、うーむ。周辺の山を切り崩して地ならしをすれば行ける、か」

「一応、姫の島事案前に浜辺はやりましたけどね・・」

「その後島が突っ込んだし、高層の建物を建てるなら地盤改良は必要じゃろう」

「なるほど。どれくらいかかりますかね?」

「3000体分の艦娘化と軽い教育が出来るようにとなると、1週間は要るぞい」

「その、艦娘化作業なんですが、東雲組の妖精さん達はどうですか?」

「技術継承は終わってる筈じゃ。東雲睦月の代わりを妖精2名でというのは無理じゃがな」

「どれくらい並行出来ますかね?」

「睦月に聞いてみよう」

 

提督室に呼ばれた睦月は思い出しながら答えた。

「・・ええと、今は1チーム8人でやってもらってます」

「あの時来た128人は、もう全員出来るの?」

「はい。それは大丈夫です。実績もあります」

「すると、16体並行で出来るって事で良い?」

「機材と設備があれば」

「1体辺りの時間は?」

「うーん、東雲ちゃんほど早くはないので、作業20分に休憩10分でしょうか」

「1時間2体と見て良い?」

「はい。ただ24時間ぶっ続けとかは止めてください」

「そこまでしないけど、何時間位ならいける?」

「最初は4時間8体位で、最大12時間24体位までで」

「だとすると、ずっと2交代にすれば良いのかな?」

「といいますと?」

「1設備辺り午前と午後それぞれ4時間ずつ2班交代で使用する」

「はい」

「それで8設備並行で毎日8時間ずつなら、1日128体だよね」

「全然問題ないと思います」

「およそ3000体と聞いているから、週2日休み入れて1ヶ月少々か」

「はい」

「睦月から説明してもらって良いかな?」

「大丈夫ですよ」

「あの子達だけで、旧鎮守府で自律して働けるかな?」

「艦娘化に加えて衣食住、定期船の対応も含めて問題ありません。熟練の方々ですから」

「今回の主役だからね、助かるよ」

「・・・あ、1つだけお願いして良いですか?」

「なんだい?」

「今仰った今回の主役って事を、提督から妖精さん達に伝えてもらっても良いですか?」

「士気高揚の為って事かな?」

「はい」

「じゃあ先に言った方が良いね。連れて来てくれるかな?」

「はい!」

 

「というわけで、今回は3000体もの艦娘化作業です。主役は間違いなく皆様です」

提督の説明に鼻息を荒くする妖精達。

「1ヶ月少々の予定ですが、どうか皆無理せず対処すると約束してください」

提督が妖精達を見回すと、うむうむと頷いていた。

主役と言われてかなり嬉しいようだ。

「ここまでで何か質問は?」

一人がおずおずと手を挙げた。

「何でしょうか?」

妖精は工廠長に訴え、工廠長が提督に言った。

「仕事が終わった後、休みが欲しいそうじゃ」

提督はふむと頷いた後、

「なるほど。骨休めは必要ですね。それなら5日間の休暇で如何でしょう?」

言ってみるもんだという表情でニコニコする妖精達に、提督は

「それでは、詳しい事は睦月から聞いてください」

睦月はにこりと頷くと、

「じゃあ皆さん、工廠長さんと設備の相談をしましょー」

「ではの提督、早速対応を始めるぞい」

そう言うと、工廠長は妖精達や睦月と一緒に提督室を出て行った。

そして入れ替わるように長門が駆け込んで来た。

 

「提督、大本営の大和から報告が来た」

「おぉどうした。何があった?」

「大本営内に、勧誘船が深海棲艦の攻撃を受けて轟沈したという目撃情報が上がってきた」

「中将には我々の報告は伝わってるのかな?」

「あぁ。そして、それを知らせてきた人物がな」

「誰だ?」

「少佐だ」

「・・・そう言う事だったのか」

「妙に都合が良すぎるとは、思っていたのだが・・」

提督と長門が渋い顔になったのは訳がある。

二人が少佐と呼ぶ人物は、第3鎮守府の司令官を務めている。

第1、第2、第3鎮守府。

大本営警護の為に至近距離に置かれた鎮守府で、通称御三家の1つである。

御三家の司令官を務めれば幹部コースまっしぐらだが、かなりの実績が必要である。

ちなみに残り2つの鎮守府は少将級が務めており、次期大将候補と囁かれている。

ここから解る通り、普通は少佐クラスの人間がなれるような役職ではない。

だが、この少佐は就任直後から数々の輝かしい成果を上げており、大抜擢されたのだ。

ただし、長門が言った「都合が良すぎる」という噂もあった。

「たまたま」主力部隊が通りがかった所で深海棲艦が民間船を襲っており、応戦した。

それが少佐の戦績でかなりの割合に上っていたのである。

索敵して深海棲艦と戦った場合に比べ、民間船襲撃中の深海棲艦を倒せば評価は5倍。

それはそれだけ、民間船舶を救う事を優先させたい思惑が大本営にある。

「もし、鎮守府が民間船舶を砲撃し、深海棲艦のせいにして沈めているとしたら・・」

長門は目を細めた。

「その司令官は高く評価されるが、深海棲艦は濡れ衣だとますます恨みを募らせる」

提督は両手を組み、目を瞑りながら答えた。

「本当なら一大事だし、この仮説の証明には動かしようのない証拠が必要だ」

「大本営では大将が外出先から戻り次第、臨時の上層部会を開く事になったらしい」

「いつだ?」

「日没頃だと聞いている」

「証拠があれば中将に進言出来るが・・」

その時、提督室をノックする音がした。

 

 


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