艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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赤城の場合(11)

現在、昼前、提督室。

 

提督はふむと鼻息をつきながら腕を組んだ。

「なるほど、戦果を得たかったんじゃなくて、向こうが羊羹を欲しがったのか」

「お土産にあげたのが悪かったんですかね」

「まぁ、別に良いんじゃない?」

「・・へ?」

「たださ、そうするといつも船魂は新鮮な筈じゃない?なんでしなびてたの?」

「それがですね、あっという間に噂が立っちゃったそうで」

 

 

「ゴメンネー、私達ノ姿ヲ見ルトflagshipリ級トeliteワ級ガ逃ゲチャウノ」

「まぁ何回もこの海域で戦いを仕掛けられるからでしょうね」

「容器ヲクレタラ捕マエテオクケド?」

「じゃあ空容器あげるから、今度お願い出来る?今回はしょうがないから」

「エッ?羊羹クレルノ?」

「信用取引です」

「・・期待ヲ裏切ラナイヨウニ頑張ルヨ」

「よろしくね」

 

 

「あっはっはっは!深海棲艦と信用取引とは面白いなあ」

「面目次第もございません」

「まぁ、ちょっとグレーな所あるけど、戦果には違いないんだよね」

「へ?」

「だって赤城の信用で契約して、報酬を目当てに彼女達は戦闘してるんでしょ」

「そうです」

「なら、結局は我々の為に戦闘を委託契約してるって事じゃない」

「別に彼女達を騙してるわけじゃないですよ」

「そうは言ってないよ。傭兵というかアルバイトみたいなもんだ。見方によってはね」

「まぁ、そうですね」

「ただ、そんなに仲良しなら艦娘に戻せば良いじゃん」

「へ?・・・・あ」

「発想が無かった?」

「そうでした。今は東雲組が居るんですものね」

「うん」

「そうします。なんか、餌で釣ってるような気がしてきたんで」

「ちょっと言い方が悪かったかな。責めてはいないんだよ」

「いえ、解ってます。言われて気付いたって事です」

「うん。じゃあ今度連れてきなよ」

「そうします」

 

「ヘ?」

赤城の申し出に、リ級達はきょとんとした顔になった後、手をぶんぶんと振った。

「マタマタァ、赤城マデ騙ソウッタッテソウハイカナイヨー」

「まで・・って、どういうこと?」

「最近サァ、変ナ船ガ、ウロツイテルノヨ」

「変な船?」

「ナンカサ、艦娘ニ戻リタキャ乗レッテ書イテルンダケドネ」

「・・あ」

「ヤケニ派手ダシ、騒々シイシ、近寄ッテキテ離レナイシ、攻撃ハ避ケルシ」

「・・あー」

「遭遇シタラ全力デ逃ゲ回ッテルンダケド、本当ニシツコイノ!」

「そっか、そういう事になるわね」

「・・ナンカ知ッテルノ?」

「その船、うちの勧誘船」

「・・・・エ?」

赤城は呆然とする深海棲艦達に肩をすくめた。

「本当なのよ。うちは最近戻せるようになったの」

リ級達はしばらく沈黙していたが、

「・・マジ?」

「ええ」

「・・本当ノ本当?」

「本当の本当。間宮羊羹3本賭けても良いわ」

「オオ!赤城ガ甘イ物ヲ賭ケルトイウ事ハ本当ダネ!」

「どういう意味かしら?」

「言葉通リダヨ?」

「今日は羊羹要らないのね」

「アッ、冗談デス赤城様」

「で、どうする?私としては来てほしいんだけど」

「マァ・・本当ナラ、戻リタイヨネ」

 

「というわけで連れてきました!」

提督室に赤城と共に来たのは、意外なメンバーだった。

能代、阿賀野、那珂、秋雲、舞風、若葉だったのである。

「同じ鎮守府の子だったのかい?」

能代が答えた。

「ええ。来た時期は違ったけど仲良しだったわ」

舞風が頷いた。

「大体一緒に出撃とか遠征とかで踊ってたよね~」

提督は頷いた。

「まぁ、これも何かの縁だ。これからも赤城と仲良くしてくれないかな」

「もちろんですよ~」

「バーベキュー同好会とか立ち上げましょう!」

「よっし、次のバーベキューでは那珂ちゃん歌っちゃうよ~」

「おっ、良いじゃん良いじゃん久しぶりに歌ってよ~」

「練習頑張っちゃうんだからね!」

わいわいと楽しそうに話す6人を手で軽く制すると、提督は言った。

「まずは今までの協力に感謝する。どうもありがとう」

「さて、たった今から君達を私の鎮守府に迎え入れるわけだけど」

「間違えずに居て欲しいのは、私は艦娘としてではなく、娘として迎えるという事だ」

能代が首を傾げた。

「え、ええと、軽巡能代として迎えると言う事ではないのですか?」

「そう。君は世界でたった一人の能代として迎えると言う事だ」

「・・・」

「建造して君そっくりの能代が来たとしても、その子は君と違う記憶を持っている」

「そう、ですね」

「君は世界でたった一人の能代なんだ。私が迎えるのは君であって他の誰でもない。そこを忘れないで欲しい」

「・・・」

「だから私は、君達に無理に戦いを強いたりしないし、轟沈させるような無理もさせない」

「・・・」

「戦うなら勝ち戦のみ、遂行が無理と解ったら捨てるのは作戦であって命じゃない」

「・・・」

「あと、別に戦わなくても良い」

「え?」

「この鎮守府を後で回れば解るが、食品工場、宝石工房、研究開発、事務や教育専門の子達も居る」

「・・・」

「つい最近ではパティシエになりたいと言って着任した子も居るよ」

「は?」

「私はそれらを良しとしている。その子がやりたいと思った事を、しっかりやって欲しいと思うからだ」

「・・・」

「やりたいと思ってる事が問題だと思ったら、とことん話し合わせてもらうけどね」

赤城が口を開いた。

「意地を張ると本当にとことん追い詰められますから、最初から大人しく自白する方が良いですよ」

「人聞きの悪い言い方するなあ・・第1印象が悪くなっちゃうじゃないか」

「でも、脅しじゃなくて理論的に追い詰めますよね」

「否定はしないよ。うやむやにはしないって意味だしね」

阿賀野はじっと聞いていたが、

「ん。解った。いいじゃないの~」

と、ニコッと笑った。

「寮の部屋割とか規則の説明は赤城に任せるから、しっかり頼むよ」

「うえー、結構あるんですけどー」

「まぁまぁ赤城さん、話は最後まで聞きなさい」

「なんですかー」

「今日の17時にな、潮と間宮がここに来るんだ」

ぴくり。

「・・・まさか」

「エクレアの試食をして欲しいそうなんだが、後1人くらい居ても良いかなと思うんだよね」

「一航戦赤城、出ます!さぁ皆さん!全力で参りましょう!」

能代達は頷いた。確かに美味しい物があると張り切れる。

そして理解した。赤城の交渉手法の元は提督だと。

どたどたと慌しく出て行った赤城達を見ながら、提督は苦笑していた。

本当に甘いものに目が無いなあ赤城は。

赤城が潮に頼んだ特別仕様のエクレアも持って来るそうだが、どんなもんやら。

 

そして17時になった。

「うーわー」

提督が何故棒読みのような感想を口にしたか。

その理由は潮が持ってきた1本のエクレアであった。

「モカ、チョコ、ダブルクリーム・・全部乗せの特大かぁ・・」

間宮も苦笑していた。

「名付けて赤城スペシャルだそうですよ」

「もはやフランスパンだね」

だが、それを見た秘書艦当番の比叡は言った。

「きっと、これ、売れます!」

提督は比叡に向いて言った。

「これがか!?ちょっとデカ過ぎるだろ?70cmはあるぞ?」

比叡は大真面目だった。

「もう少し長さを短く、幅を太く出来ませんか?」

潮が頷いた。

「その方がオーブンには入れやすいです」

比叡は確信したように頷いた。

「幅1.3倍、長さ9割で!」

その時。

 

コンコンココンコン!

ガチャ!

「頂きます!」

「まだノックの返事すらしてないよ私は。それから手は洗ったか?うがいは?」

「生殺しですか!」

「いーから手洗いとうがい」

「・・・給湯室でしてきました!」

「はやっ!どんだけ早いんだよ!」

赤城は赤城スペシャルを見つけると、途端に目をキラキラ輝かせながら、

「素敵!素敵過ぎますよ潮さん!」

「あ、あの、赤城さんには相談に乗って頂きましたし、お菓子を作れるようになったお礼を・・」

「あー、潮さん」

「はい?なんでしょうか提督」

「赤城、きっと聞こえてない」

全員が赤城を見ると、口から長く伸びたエクレアを支えながらムッシャムッシャ食べていた。

恐ろしい勢いで咀嚼されていく。

「・・・こわいなー」

「蛇が丸呑みしてるみたいですね」

潮がニコッと笑った。

「でも、嬉しそうで良かったです。一息に召し上がるとは思いませんでしたけど」

「ま、幸せそうだね」

間宮が口を開いた。

「それで、お味の方に注文がなければ、この形で売り出そうかと思うのですが」

「良いじゃないかと私は思うが、比叡はどうだ?」

「先程申し上げた寸法の変更がされれば!」

「よし、赤城はどう思う?」

「こんな美味しいお菓子が売り出されるのは大歓迎です!」

「満場一致だな。間宮さん、潮、エクレア、よろしくな」

「はい!」

 

こうして鎮守府名物「赤城エクレア」が誕生した。

元々は「エクレアの赤城サイズ」だったのだが、皆が赤城エクレアと略すのでそちらが正式名称になってしまった。

ただ、このエクレア、赤城も予想外だった事がある。

まずは赤城以外にも大人気になってしまったと言う事だ。

普通のエクレアの4個分は優にあるのだが、値段は3倍に満たない。

なので2姉妹や4姉妹の子達は切り分けて食べればお得だったのだ。

こうして普通サイズのエクレアは少量の販売に切り替え、メインは赤城エクレアになっていった。

だから夕方から夕食後の売店は壮絶な分捕り合戦になる。

赤城は池を巡回してから立ち寄るのでいつも出遅れるのだが、

「はい赤城さん、ご予約の1本ですよー」

と、潮が奥の冷蔵庫から出してきてくれるのである。

ボーキサイトおやつはそのままのサイズで1袋に制限されてしまったが、今回はしくじりませんでした。

1本は1本です。

赤城はニヤリと笑い、高らかに勝利宣言をしてから赤城エクレアにかぶりつくのである。

だが、毎日そんな大きなエクレアを食べて無事とは行かず、

 

「えいほ、えいほ、えいほらさ~」

「赤城さん、ラップタイムがどんどん悪化しています。もっと走りましょう」

 

ついに艤装が悲鳴を上げてしまい、加賀の監視付きで毎朝ランニングする事を命じられたそうである。

 




赤城編、終了です。

超中途半端な話数になりましたね。
更に申しますと、まだご登場待ちの方も居るんです。
ええ、大体皆様予想通りだと思います。
その方が出ないと終われないでしょ・・・
といって、これで意表をついて提督と作者のだらだらラジオとか延々書いたらブーイングの嵐だろうなあ(滝汗)

という事で、ここで終りではありません。
艦娘リクエストはお待ちしてますが、最近とんと新艦娘と出会えていません。
敵の方もお目にかかった事の無い方も多かったりします。
今回のイベント(AL&MI)も辛うじてAL(E2)までは突破しましたが、そこで力尽きました。
取材費にしたって3万も突っ込む事になるとは思わなかった・・とほほ。
そんな訳で、リクエストに応えられない子も居るんですが、何卒ご容赦くださいませ。

追伸:
文字直しました。ご指摘どうもです。

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